覚醒 夢の中へ
不定期掲載となりすみません。
ぜひとも評価もお願いいたします。
日向はお城に向け歩き出した。遠くに見えるお城以外に建造物は見当たらないのを考えると、必然的に森下はあのお城の中にいるのだろう。このままメルヘンチックな世界が続けばいいが、現実世界から逃避するほどの精神ストレスは、少しの事でこの平和な世界を崩壊させる危険を孕んでいるだろう。先ほど通ってきたおぞましい混沌の世界と、今いるメルヘンの世界は同じ人間が作り出しているのだ。この夢の中を現実として選んだのであれば、明晰夢のように潜在意識の拒否も期待できないであろう。つまり傷つけることも殺すことも、自ら死を選ぶことも現実として認めてしまえば可能であるという事だ。更に殺す選択をした場合、この世界全体が標的を追い詰めることになる。そしてその選択をすることは火を見るより明らかだろう。現実世界に居場所を失くし唯一の安住の地とも呼べる、自分の為だけの世界に他人が入り込んでくるのだから。どのように接しても恐怖の対象でしかない。それでも無理やりにでも引っ張り出さなければ、森下は現実世界でいずれ死んでしまう。そんなやりきれない思いに足取りを重くしながらお城に到着した。
お城の門前には整然と衛兵が並び、槍を向け侵入を拒んできた。想定通りの反応で、むしろいきなり殺されなかっただけまだ余裕があるのではと期待してしまう。
「森下さんに会わせてほしいの。」
「今はどなたにも会いたくないと仰せです。」
「大切なものを届けに来たのよ。」
そう言ってポケットからリストバンドを取り出し衛兵に見せた。衛兵はそれを見てうろたえているのが分かる。どうやらこの世界の住人は全て森下と意志を共有しているようだ。すると衛兵の後方の城へと続く階段に明らかに周りの衛兵とは別格の男が現れた。
「お前たち何を騒いでおる。」
アニメから出てきたような非の打ちどころのないイケメン。風になびく髪は金髪で、目は透き通った青い瞳にくっきりとした二重まぶた。磨き上げられた白い鎧にたなびく真紅のマント。キャラ設定するのであれば騎士団長あたりか。
「団長。この者が姫に面会を求めております。」
衛兵が男を見上げてそう答えた。ビンゴだった。あまりにもベタ過ぎて生死の駆け引きをしていることを忘れそうになった。すると衛兵は両側に分かれて整列し、団長は階段を降りてきた。
「何者であるか。」
「森下さんに届けものをしに来た使い者よ。」
先ほど見せたリストバンドを団長に突き出した。団長はそれを確認するとおもむろに受けとった。
「残念だが、主はどなたともお会いにならない。ましてやそなたのような面識のないものを通すわけにはいかぬ。主が判断されるまで牢獄に監禁せよ。」
そう衛兵に指示を出すと、再び階段を昇って行ってしまった。衛兵は指示通り槍を構え手錠をかけると、牢屋へ連行していった。牢屋は中世ヨーロッパをイメージしたのか、床も壁も石造りで鉄格子は黒鉄で鍵も大きく、門番の腰につるされていた。牢屋に入れられると手錠は外され、ベッドだけの簡素な間取りとなっている。
「森下さんの判断を待っていられるほど、悠長なことは言ってられないんだよね。」
すると日向は自分の体に結界の術式を書き、姿を見えなくして無人のように偽装した。そしてベッドに火を点け門番をおびき出し、入ってきたところ鍵を盗み門番を閉じ込め拘束した。そして自分に変化の呪印を張り門番へと姿を変えた。これでしばらくは行動が可能になった。
城の中を探し回っているとある事に気が付いた。可愛らしいキャラクターはここのイメージから見た目だけの無害な存在で、先程の衛兵や団長は守護の設定があり、その他にも魔法使いやメイドのような恰好をしたキャラクターがいることが分かった。もしかすると番人的な特殊な能力を使うキャラクターも存在する可能性はあるが、今の森下の精神状態ではそれほど多彩なキャラクターを設定できるほど安定していないと判断した。今は衛兵などの守護のキャラクターだけに注意して、森下を探すことに集中することにした。
先程のリストバンドにこっそりと位置を特定できる印を付けておいたので、森下の手に渡っていれば辿っていくことができる。まだ団長の手にあるのであれば、後をつけて森下のいる場所までつけていけばいい、そう考え印の反応を探った。反応は上の階からしていた。階段を進み上の階へと昇ると大広間があり、舞踏会や式典を目的とした部屋が広がっていた。誰も立ち入ることのできない世界にこの部屋は必要なのかと苦笑したが、案外女の子というものはこういうものに憧れを抱くのだろうと、例えば天蓋のついたベッドや無駄に長い食事部屋のテーブルなど、多分探せばそういうのは山ほど出てくるだろうことを想像し、気を取り直し印の反応を探った。
さらに上の階へと印は反応していた。印の反応を追いかけ階段を昇ると、通路を挟み多くの部屋が並んでいた。客室や衣装室など様々な部屋が並んでおり、廊下を抜けるとさらに上の階へと続く階段があった。印の反応は強くなってきており、とりあえずリストバンドのある場所は特定できたが、後は誰がそれを持っているかという事だ。
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俺は再度カメラを飛ばした。今度は地上のカメラを上空のカメラが映し出す。どのように下の世界に吸収されていくのかを確認するためだ。しばらく地上のカメラを待機させていると、上空のカメラはその異変を捉えていた。地上のカメラの周りに最初は影と思っていたものが波うちはじめ、その影から手のようなものが伸びてきて影の中に引きずり込んでいくのが見えた。慌てて上空のカメラをその影に突っ込ませたが間に合わなかった。それでも理屈はわかった。影が下の世界への入り口なのだ。だが入り口を開いたままにするには、影を作り閉じさせないように永遠何かを取り込ませなければならない。不可能に思えたが、悪戯のような作戦を思いついた。やじろべいのように空中に支点を置き両端を地面に設置させ、影の引き寄せる力が均衡しているなら引き合い、いつまでも綱引きのような状態にならないだろうかと考えた。ものは試しと巨大なやじろべいを想像し両端を地面に着くように置いてみた。すると影から手のようなものが伸びてきて、重りのついた両端を引きずり込んでいった。やじろべいは右へ左へ揺れながら、その内ピタリと止まった。お互いの引き込む力が均衡したのだ。成功したのだ。
「マジか。こんな子供だましのような手に引っかかるとは。」
これで下の世界への入り口は確保された。今度はカメラではなく自分自身の分身を作り、影の中へと滑り込ませた。下の世界は暗く澱んでおり、おぞましい光景が広がっていた。見上げると入り口からわずかに上の光が漏れている。もし万が一俺の分身が戻れなくなっても、日向が気付けば窓れるように、トーチを作り目印とした。そして暗く澱む道を進んで行くと、木々の間から光が見えてきた。その光の方へ進み日向が行ったであろうお城のある空間へとたどり着いた。ここから先は見つかるわけにはいかないので、日向が無事に出てくるのを待つしかなかった。




