覚醒 夢への入り口
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音もなく降り積もる雪は、見えるもの全て真っ白に覆い隠してしまう。
確かにそこにあったものも全て。
今、深くなった雪の上を歩いている。目的の場所に近づいているのか、遠のいているのか、もしくは同じ場所から動いていないのではないかという錯覚にとらわれる。自分の吐く息遣いと鼓動だけが耳の奥でこだましている。
いつの間にか友達と計画していたクリスマスも正月も冬休み自体も、時間は俺達をおいて先に進んで行った。何事もなかったように学校は始まり、センター試験も終了し高校生活を惜しむように最後の時間はゆっくりと過ぎていった。チャイムの音、廊下を走る足音、笑い声、吹奏楽部の練習の音、体育館から響く掛け声、そのどれもが色を失くし遠い過去の思い出として記憶の奥に閉じ込められていく。
彼女といた期間は決して長くはない。むしろ何故これまで出会わなかったのか不思議な程であった。そしてそれほど仲がいいわけでもない。むしろ近寄りがたい存在だった。それでも彼女と出会い数々の不思議な経験をするうちに、出会うべくして出会い、引き寄せあうべくして引き寄せあったのだと確信している。今その彼女の家に向かっている。そう短い期間だったが、一生分の一の存在なのだ。その一の存在があったからこそ、今この瞬間にも俺は生きていると実感できる。
見上げるほども高くない山の麓に彼女の家はある。訪れることを伝えてもいないのに、いつものようにお祖母さんは出迎えてくれる。
「わざわざ来てくださったのかい。さあ寒かっただろうに中にお入り。」
居間に通され上着を脱ぐと、ストーブの上のやかんが蒸気を吹き出しながら出迎えてくれた。今日は彼女の父親も仕事が休みらしく家の中でくつろいでいた。
「来てくれたんだね。学校は大丈夫なのかい?」
「はい。卒業生はもう授業はないものですから。」
「そうか。もうそんな時期なんだね。」
日向も学校に通っていたのなら、今頃家でくつろいでいるのだろう。いや、また違うトラブルに首を突っ込み、俺の訪問を嫌そうに二階から降りてきている事だろう。
というのも彼女はもういない。厳密に言うなら彼女の体は存在しているが、植物状態のままある施設にて隔離されている。
日向の家は土地守というこの集落を守る神様を祀っている。しかし女系の継承となっているため、父親は普通にスーパーで働いている。しかしその特殊な家系から土地守の関係団体に保護され日向は目覚めの時を待っている。いや目覚めないよう隔離されているというのが正解だ。
その日向がいない家に来たのには理由がある。今日はあの出来事の真相を家族に伝えるためやって来たのだ。今更という気持ちもあるが、自分自身やっと鮮明に事の次第が整理できたところだったのだ。少し息を吐き全てを伝えようと集中すると、お祖母さんはそれを理解してくれたのか、お茶を淹れ無言で向かいに座った。
あの時、俺達は後輩を夢の中から救うため、日向と一緒に後輩の夢の中に入り連れ戻すという計画を実行していた。もし万が一危険があっても逃げ出せる準備もしていた。ただ予定と違っていたのは、日向は自分が危険になっても後輩を見捨てないという事だった。そんな事冷静に考えれば想像できたのに、その時の俺はその計画と日向を信用してしまった。
真っ白な空間に入んだ日向は夢の中を利用し、空高く舞い上がると森下のいる場所を特定しようとした。見渡す限り真っ白な空間。昇っているのか落ちているのかわからなくなるような世界だった。ただ地面がある事から無限の空間ではなく一定の法則があるのかもしれないと思い、空からの捜索は断念し、一度地面に降り立った。無機質な真っ白いコンクリートをどこまでも平坦に敷いているかのようだった。何の手がかりも得られないまま、ただ見えもしない地平線を凝視していたが、背後では自分の影がいびつな空間を作り出していた。影の中から手のようなものが伸び、足首を掴まれ地面へと引きずり込んでいった。
地面の下は暗く、暑いのか寒いのかもわからない異様な空間が広がっていた。大地の裂け目からマグマのようなドロドロとしたものが噴出してると思えば、上からは氷柱のようなものが落ちてくる。川が流れているがその先を辿ると滝が逆になったように空へと舞い上がっていた。周りには木々が生えていてそのどれもが血のような樹液をたらし、その血のような樹液をぬいぐるみが貪っている。そんな光景を眺めながら進むと光の差し込む場所が出てきた。その光はシルクの幕に覆われ、その向こうには草花は咲き誇り、甘い香りを漂わせていた。地面ギリギリを雲が流れ、ウサギや子犬が飛び跳ね、テレビやテーマパークで見るようなキャラクターが歌いながらパレードをしていた。そのパレードの向かう先に見覚えのあるお城も見える。
「どっちが本当の森下さんなんだろうね。」
日向は辿ってきた世界の真逆さに、森下の心の奥に潜む本質に一抹の不安を感じていた。
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その頃俺は、夢の中の教室の机に座り、日向が入っていった入り口を眺めていた。森下の夢との境界。このドアの向こうは森下の夢が広がっており、振り返ると窓からはいつもの見慣れた風景が広がっていた。これが明晰夢でこっち側の世界は自分の意思で思い通り変えることができるというのであれば。そう考え目を閉じ教室から今度は体育館を想像してみた。森下との境界は体育館の入り口に繋ぎ止め、世界全体を変化させることができるか試してみたのだ。すると目を開いた時には体育館の中にいた。
「できる、できたぞ。」
次は入り口近くに行き、森下の夢を繋ぎながら自分の夢をその中に広げることができるか試してみた。真っ白い世界の中、廊下を想像し少しづつ伸ばしていく。トンネルを作るように窓の外には森下の世界が見えるように。
「いける。これなら待っていなくても、近くまで行くことは可能だ。」
森下と俺は会わないこれが絶対条件だ。ただ近くまで行っても会わなければ問題ないという事でもある。慎重に少しづつ森下の世界を壊さないように、自分の世界を伸ばしていく。
それは想像するより困難でどこまでも続く廊下をひたすら想像することや、目標のない真っ白な世界にどこへ向かえばいいのかわからなくなってくる。窓の外には風景はどこまでも続く真っ白な世界。地平線と空の境界もわからないほど白一色。このままあてもなく廊下を伸ばしていくのは無意味と判断し、一度体育館へ引き返すこととにした。
今度はモニターとカメラを想像し、小型カメラをドローンの要領で飛ばし、どこぞの指令室のようにモニターを並べ、森下の夢の中を映像で確認することにした。やはり飛ばしたカメラはどこも白一色しか映し出さない。すると地上付近を飛ばしていたカメラの映像が突然途絶えた。そのカメラを意識しても全く反応がない。そこで上空を飛ばしていたカメラを消えたあたりに移動したが、映し出す映像はやはり白一色だけであった。という事はこの地下にまだ世界が広がっていて、そこにカメラは取り込まれてしまった事により、俺の夢から切り離され森下の夢に吸収されてしまったのだろう。とすると日向はこの地下の世界に取り込まれている可能性が高い。この夢は二重構造にいなっている。繋がっているのは上層部分でその先があったのだ。




