目覚め 微睡4
そうこうしている内に店も閉め、一同がテーブルにつくと今の状況と彼女の夢の中に入り、連れ戻すという事の危険性を話し始めた。夢に入ること自体はさほど難しくないが、一度彼女の夢に入った経験から、同調することは可能であるという事。更には本人がいるであろう場所も特定できるとの事だった。ただし連れ戻すという事がいかに難しいか、現実に望みを失い夢の中が唯一生きる事の出来る場所として依存してしまった場合。現実と夢が逆転してしまい、現実に戻りたいという意思が起きない限り眠り続けることになる。そして現実の肉体が維持できなくなった時点で、永遠に戻ることはできなくなる。そう彼女のテリトリーに入り込み説得に失敗した時点で、彼女の夢に取り込まれ戻ることが不可能になるという事だ。その他にも侵入を防ぐ為、様々な防御策が考えられる。何しろその世界は彼女の世界なのだから如何様にも変えることが出来るのだ。それを聞いても日向には勝算があるのか、この会話自体が時間の無駄であるように、店長を急かしていた。
「お前怖くないのかよ。」
「怖いわよ。でも逃げても何も変わらない。いいえむしろ最悪なことになる。」
「だからって行くのかよ。」
「私一人でダメなら君が居るでよ?」
日向は俺を見て笑った。理解できなかったが、俺達には見えないが日向には見えている何かがあるのか。この表情をする日向はいつもその先が見えている。
「俺もかよ?」
「それでダメなら・・・諦めもつくでしょ?」
「どういうことだ?」
日向は店長へと視線を送り夢の同調は俺が行い、俺の夢に日向が同調するという。要は日向が俺の夢を経由し森下を探し出し説得するというのだ。もし失敗しても俺の夢に日向が戻り次第俺が夢から引っ張り出すというわけだ。その提案に店長も初めての経験だが、不可能ではないことを認めた。ただし夢の中で俺と森下が会わない事、夢のつなぎ目は脆くてちょっとしたバランスで崩れてしまう事、少しでも危険と判断した場合すぐに俺の夢に戻る事という条件が付け加えられた。
「ダー!しゃ―ねーな。やるしかねーんだろ。」
「私も充分エゴイストね。」
「最初っから変わんねーよ。」
「そんな風に見られてたんだ。」
そんなやりとりをヒロは不思議そうに見ていた。柳田は日向にすがる思いで、森下に伝えてほしい事とカバンからリストバンドを取り出し日向に渡した。
「これは?」
「森下に渡してほしい。これを見せれば伝わるから。」
「わかったわ。任せて。」
店長は夢占いのスペースを改良し、三人分の睡眠スペースを作ると俺と日向に今回は通常のやり方ではなく、強制的に眠りに入ってもらい俺と日向が眠りに入った後、店長が入り森下の夢へとつなぐ。その先は日向の説得にかかっているので、店長は先に現実に戻り、日向が戻り次第俺を夢から戻す計画となった。
ヒロと柳田には店内で待ってもらい、俺と日向は横になると甘い香りのする薬品のようなものを嗅がされた。目を閉じるとあっという間に眠りに落ちていた。夢が安定するまで時間はかからなかったが、それが夢であることを意識したまま現実世界を想像するのは思ったよりも困難だった。その中に日向が現れるとやっと安定した状態になった。
「何で学校なの?」
「一番想像しやすかったし、わかりやすいだろ?」
「ふーん。で、何で私のスカートはこんなに短いの?」
「…すみません。」
「さて、そんなことより。これが森下さんの夢と繋がった時どうなるのか楽しみね。」
「楽しみって、この空間は絶対に維持するから、ヤバくなったらこの教室までどんなことしてでも戻って来いよ。」
「どんなことしてでもか。それくらいの覚悟はいるわね。」
そんなやりとりの中、店長が現れた。教室内を見渡しながら少し懐かしそうに机を触り、俺達に向きなおした。
「二人とも覚悟はいい?」
「はい。この空間は絶対に維持します。」
「さあ早く森下さんの夢と繋げてちょうだい。」
「繋がったら私はすぐに戻るわ。今は会わない方が安全でしょうから。」
「余計に感情を揺さぶることは避けたいわね。そうしてください。」
すると店長は教室のドアを閉め、その前で森下の夢をイメージした。次の瞬間ドアを開くとその先は何もない真っ白な空間が広がっていた。
「何も考えられないって言ったところかしら。」
日向はどこか楽しんでいるようにその空間の先を見つめていた。
「ここからはあなたたち次第よ。絶対に戻ってきて。」
店長はそういうと日向をぎゅうっと抱きしめ、無事を祈っているようだった。
「必ず全員で戻ります。戻った時は店長さん今度はあなたの番ですからね。」
「そうね。次こそは必ず助けて見せるわ。」
そう笑うとスッと姿が消えていった。
「これから先、どんなことがあっても必ずこの空間は守ってね。」
「当然だろ。任せろ。」
「たとえ私が私じゃなくなっても、さっきみたいに・・・」
日向は言い終わる前に真っ白な空間へとその身を吸い込ませていった。




