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そして僕は旅に出た。  作者: 高天原
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目覚め 微睡

昨夜から吹き始めた風は朝になっても休むことを知らず、低くなった空には鉛色の雲の群れが足早に行進していた。身を切るような冷たい風が幾重にも身体の周りを旋回し、服の隙間から入り込もうとその手足を伸ばしてくるようだった。

やっとの思いで学校に着くと、朝だというのに蛍光灯の灯りがまぶしく感じるほど、教室内は明るく暖かかった。テレビでは今週末から雪になるっという予報で、誰もが冬支度に身を包み、これから訪れる高校生活最後の冬ともう来ることのない春に、複雑な思いを巡らせていた。

そんな中進学組は正念場を迎えていた。あとひと月もすると自分の将来が決定づけられるセンター試験を迎えることとなる。志望校への願書や試験への追い込み準備に追われており、今年ばかりは冬休みやクリスマスもさらには正月ですら邪魔なイベントのように、その単語に耳をふさいでいた。俺は進学組に席を置いているが、三年間真面目に部活動に励んだ結果、推薦入学の枠を得て既に大学への進学は決まっていた。というのもこの小さな田舎町から出たいという願望だけで、受け入れ大学があればどこでもよかったというのが実際の話である。なので進学に対して緊張感もなければ必死さもなかった。むしろ最後の冬休みをどう楽しもうか就職組と密かに考えていた。

進学組は放課後も試験対策の追加講習が組まれることになり、試験まで冬休みも自主参加の講習が行われることが発表となった。ヒロももちろん進学組は必然的に講習に参加することとなったり、俺含め就職組は暇を持て余すこととなりそうだ。

そんな折、後輩から暇ならたまには部活に顔をだしてくださいとの誘いがあった。部活で推薦入学をもらってはいるが、実績があるほどの活躍はしておらず、顧問の先生も大会以外は顔を出すこともないゆるい部活であった。たまには鈍った体を動かすのもいいかと体育館へ向かっていると、男子は活動していたが、女子はただ集まって話をしているように見えた。以前は男子より女子の方が率先して活動しており、男子はほぼ遊んでいるのが日常だったが、世代交代により変わったのかと不思議そうに見ていたが、そこに後輩より女子部のキャプテンが来ないことがしばしばあり、キャプテンが居ないとほぼ毎日話をして帰って行くだけだという。元々そんなにやる気のある部活ではないし、顧問も見に来ないような放任された部活だけあって、遊び感覚になることはよくある事だったが、女子のキャプテンとは昨日会ったばかりなので、キャプテン不在というのがどうにも腑に落ちなかった。それでも俺が来たことが分かったからなのか、ようやく動き始めそれなりに練習を始めだした。引退した俺が口をはさむことでもないし、現役時代も遊んでいた俺に指導する資格もなかった。むしろ女子部の前キャプテンにこの話をすることすら部外者に感じていた。ただこの様子を見て前キャプテンは悔しがるだろうことは容易に想像できた。現役時代に遊んでいる俺をよく怒って、男子部員を女子部員と一緒に練習させていた面倒見の良い彼女を思い出した。こうやって男子部員が今も練習しているのを考えれば、彼女の指導は正しかったのだろう。恩返しのわけではないが現状を伝えるのも悪くはないかと、翌日前キャプテンの柳田に話をすることにした。

柳田も進学組で放課後の追加講習に参加しており、部活同様そのまじめな性格から進学組の中でも中心的な存在だった。文武両道とは彼女のためにあるような言葉だ。それに対局するように存在するのが俺の存在なわけだが、信念もなければ何かに秀でているわけでもない。普通、凡人、中の中を選んできた。そんな俺が前キャプテンの彼女に話しかけるというのは、村人が上級モンスターに挑むような、レベルの違いを感じずにはいられなかった。彼女は隠し事や陰口の類とは無縁で用件があれば、誰が居ようとかまわず本題を口にするタイプであったが、あまり他人に知られるのも本末転倒になると思い、何とか教室から呼び出すことにした。


「何?内緒の話?」


「お前さ、引退してから部活見に行ったことあるか?」


「初めの頃は何回か行ったけど、あまり口を出すのも為にならないかなって、最近は全然行ってないな。何かあったの?」


「森下部活あまり来てないみたいだぞ。それで全然まとまりがなくなってる。」


「え?森下にはこの前会ったばかりだけど、そんな話一切言ってなかった。」


「実は俺も一昨日パン屋で偶然会ったけど、変わった風には、いや少し元気ないくらいだったかな。でも制服着てたし学校にはきてるみたいだったぞ。」


「そうあの子ったらこの忙しい時に何してるのよ。」


「俺が口をはさむ話でもないし、お前は知っておくべきかなって思ったけど。余計だったか?」


「いいえ、ありがとう。今日にでもすぐ行くね。」


やはり面倒くさそうな口ぶりでも、根が真面目で面倒見がいいのは変わっていない。ただ彼女が行くことで男子部員も一緒に説教されることは目に見えていたが、これも連帯責任という事にして後輩には黙っておいた。

しかし事態は思わぬ方向へ動き出していた。


柳田は約束通りその日のうちに部活に顔を出し、森下が来ていないことを確認すると、全員を集めて説教を始めた。しかし森下は部活どころか学校にも来ていないというのだ。俺と会ったときも、数日前柳田が会ったという時も制服を着ていたという。しかもその前より不登校になっているというのだ。森下の同期に何か変わったことがなかったか問いただしたが、不登校になる理由が見当たらないという。強いて言うなら不登校になる前までがとても調子がよく、全て思い通りに動けると、部活でもいつも以上に張り切っていたし、毎日が楽しいと言っていた。その直後なだけにみんな何で?て感じで、家に行っても会ってすらもらえない状態になっていて、親が目を離した隙に制服を着て出ていくという。それで部活どころじゃないって話になり、交代で森下の様子を見に行ったり、情報交換していたというのだ。これまでの動きを考えると病気の可能性は低い。イジメもあり得ないという。精神的ダメージを考えても、親の目を盗んで出歩くと考えると違う気もする。彼氏が何かしら影響しているとしても不登校になる理由がない。八方ふさがりの状況だった。そう言って柳田は報告がてら、事の次第を説明してくれた。


「柳田は森下と会ったとき何の話をしてたんだ?」


「別に普通よ。部活の話や最近の話。」


「どんな話だった?詳しく。」


「調子がいいというのは聞いていたけど、最近睡眠不足で疲れが取れないって。責任感が出てきた証だと褒めたんだけど。」


「睡眠不足。それどこで話した?」


「塾の帰りで、たまたまそこの交差点で立ち話したのよ。」


「森下の家ってどっちだ?」


「そういえば反対方向ね。」


「俺はこの先のあのパン屋で会った。それも閉店時間に合わせてやって来た。」


「閉店時間に?何で?」


「占いだよ。閉店してから見てるらしい。」


「じゃあその占いが原因てこと?」


「・・・いやちょっと待ってくれ。」


そうだあのタイミングであの店にいたのは、俺達と会う為じゃない。森下が来ることを知っていたんだ。だからあの女は。


「少し時間をくれ。調べたい事がある。絶対に一人で行動しないでくれ。」


「何かわかるの?」


「いや、ただ安直に動いて本質を見落としたのでは何も解決しないと思って。」


「わかったわ。その代わり必ず森下を助けると約束して。」


「ああ絶対に助ける。」


そう今動いて表面に見えている部分を取り除いても、本質が隠れてしまえば解決にはならない。俺が考えている事が正しければ、夢占いが森下に対して何かしらの影響を与えている。その夢占いを止めさせただけでは、何の解決にもならない。ましてや止めたからといって森下が元に戻る保証もなければ、逆に更なる悲劇を招く事にでもなれば、森下はもちろんあの店にかかわる全ての人達に影響してくるだろう。そうヒロもその中に入って来る。その結末が正しいのかわからないが、少なくとも俺が考えているよりあの女、日向巴はその先が見えているはずだ。

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