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そして僕は旅に出た。  作者: 高天原
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目覚め

今回より次のストーリーになります。

宜しくお願いいたします。

永い眠りから覚めたような、深い眠りにつくような、そんな曖昧な記憶。

何時間経ったのか、それとも一瞬だったのか、それすらも朧げな時間。

現実か夢かも定かではない遠い過去の思い出。

それは夢の中でも現実でも時として突然現れる。

思い出したいことも、そうでないことも。


晩秋も色濃く、雪が降った方が暖かいのではないかと思わせるほど、冷え込んだ朝。

水溜まりは枯葉を道連れに時間を止め、木々は色を失くし長い眠りに入るように静かに身を震わせていた。色褪せた街並みも煙突から立ち上る煙に朝日があたると、街全体が霧に包まれているような幻想的な風景を醸し出していた。

いつまでも布団の中でうずくまっていたい気持に喝を入れ、部屋を出るといつもと変わらぬ食卓に朝食が並べられていた。暖かい部屋でソファーに座りテレビを見ていると、毎日の事ながら早く顔を洗ってご飯を食べるよう叱られる。いつものありふれた朝の風景であった。

いつもより寒い朝にパーカーを内側に着込み、制服を羽織り出かけようとしていると、母親よりマフラーを渡されたが、どこかカッコ悪く感じ、受け取ったままカバンへしまい込んでしまった。しかし一歩外に出ると鼻の奥が痛くなるほどの冷たい空気に、カッコ悪いなど言ってられず、慌ててカバンからマフラーを取り出した。

駅で仲間たちと合流し、通い慣れた通学路を肩を並べて歩く。喫茶店から立ち上る焼き立てのパンの匂い。他愛もない会話。いつも寝ている老犬。どれもが当たり前で、いつまでも続くものと思っていた。

教室へ着くと室内はスチームストーブのおかげで暖かく、体にまとわりついていた冷気が放れていくのを感じた。ほっと一息ついたところで、女子が集まって占いの話で盛り上がっているのが聞こえてきた。

高校三年生にもなり、占いとは子供っぽいと思ったが、最近できたパン屋が女性の間で評判で、そこの店長の占いというのが密かに人気をはくしていた。それでも最近は客足も絶え間なく、占いもほとんど見てもらえないほどの人気となっていた。なので占ってもらえた人は、その内容をメモに残しアドバイスも毎日実践するほど、その占いに心酔しきっていた。

その話を聞いていたヒロは、よく占いなんて信じることが出来るなとぼやいていた。自分の知りもしない他人が、無責任にあなたはこうだとか、こうしなさいとか言われて、素直に従うのは一発で詐欺にあうタイプだと。それならば大学入試の問題でも占ってくれた方がよっぽど信用できると悪態をついていた。それでも仲良くしている女子に星座を聞かれると、真っ先にこたえるヒロに皆無言で白い目を向けていた。

確かにこれから受験を控えている皆には切羽詰まった問題だったが、だからこそ非現実的な占いを息抜きや神頼みのように受け入れているのだろう。そんな何気ないやりとりも残りあと僅か、これから訪れる別れの時を理解はしているものの、思い出さないよう今を精一杯楽しんでいた。

朝のホームルームも終わり、その後の授業は進学組と就職組に分かれているため、クラスの移動が始まった。仲間たちは進学組が多く、中でもヒロなどは成績においてはトップクラスであった。テストの後など学年トップクラスのメンバーがヒロのもとに集まり答え合わせをしている様子は、日頃の学力の高さを伺える。ただ進学の目的は夢のようなキャンパスライフを実現するためなのは耳にタコができるほど聞かされていた。かくいう自分も成績こそ優秀ではないが、部活の部長をしていたこともあり、スポーツ推薦で進学組となっていた。ただし授業には全くついていけないことは言うまでもない。

学校も終わり、話題になっていたパン屋に帰り道寄ることとなった。というのもヒロが今朝の話から女子に誘われたとあっては、放って置くほど皆温厚ではなかった。

その店は帰り道とは反対方向にあった。どのみち学校から真っ直ぐ家に帰るなんてこともない。いつもならシバケンの家でタバコを吸いながら馬鹿話し、日が暮れる頃帰るのが日常なので、多少帰り道から離れようが女子と一緒にいることを選んだのは、この年頃の男として至極当然ともいえる選択であった。

道すがら占いの話がでてきたが、それは星占いやタロットカードのようなものではなく、言葉は聞いたことがあるが、あまりなじみのない夢占いというものだった。

タロットカードやコックリさんなどは中学生の頃流行り、胡散臭さいっぱいであったが、夢占いは自分が見た夢が何を暗示しているかというもので、例えば怖い夢を見たというのであれば、現実世界では良いことが起きる前兆だとか、精神状態やホルモンバランスの影響など、占いというよりはカウンセリングに近いものであった。

そうこうしている内に目的のパン屋が見えてきた。

お店は以前あった店舗をリメイクして作られたのか、小さいながらも古風で、時節柄店内にはクリスマスツリーが飾られていた。客は持ち帰りが大半だが、店内で飲食ができるスペースも確保されており、窓が大きく明るく安心感のある作りであった。また店長をはじめスタッフは女性ばかりで、天然酵母のパンが人気メニューである。しかし大半の目的は店長を一目見ようと今では行列のできる繁盛ぶりを見せていた。

人気のパン屋とは聞いていたが、さすがに何分待つのか不安になるほどの行列で、しかも並んでいる客も全て女性ばかり、この時間は学校帰りの女子生徒が多く、さすがのヒロもこの列に並ぶのは無理と判断し、外で待つことにした。こういう時男は頼りがいがなくなると、女子達はあきれた様子で男達のお使いをする羽目となった。それでも外から店内を見渡しかわいい子を見つけると、あの子可愛くない?とお気に入りの子を物色していた。その中でも焼き立てのパンを運ぶ女性にヒロはくぎ付けになった。そこには働く大人の女性の芯の強さを感じさせつつも、接客の笑顔や仕草の柔らかさを見て、完全にヒロは彼女の虜になってしまった。

暫くして男子の分も余計に買わされつつも、幸せそうにパンの匂いを嗅ぎながら出てきた女子達に、ヒロは真っ先にパンを取りに行った。ちょうど焼き立てのメロンパンが並べられたので、それを買って来てくれたそうだ。紙袋から出すとまだ湯気が立ちバターの香りと甘い匂いに、我慢できずに全員その場でかじりついた。外はサクッと中はフワフワでかじったあとからバターの香りを放つ湯気が立ち上る。みんな感嘆の声をあげ喋る時間ももったいないほどに、二口目を頬張る。本当に美味しいものを食べたときは、幸せを実感するのか、頬や鼻頭を赤く染めながらみんな笑顔で、あっという間にたいらげてしまった。それでも名残惜しそうに指についた砂糖を舐め、まだ口の中に残っているパンの香りの余韻に浸っていると、ヒロが女子を店内の見える窓に連れていき、誰が店長か聞いていた。すると先程ヒロが虜になった女性を見てあの人と教えると、なぜかガッツポーズをとり納得していた。ちょうどその時店長が振り返り笑顔で会釈を返してくれ、慌てて姿勢を正し、深々と礼をしているヒロみて一同大爆笑した。

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