一夜の集い⑥
まだまだ続きます。よろしくお願いします。
職員室は照明はついていたが人の気配はなかった。
恐る恐るドアを開けてみたがやはり無人の状態であった。見回りに出ているののだろうか、そんな詮索も気にせず、日向は職員室に入り込むなり真っ直ぐある先生の机を探し始めた。
「あった!やっぱりそういう事か。」
「あった?そこは村上先生の机。村上が犯人か?」
日向は振り返ると子供のように目を輝かせ、まるで遊園地にでもいるかのようにそわそわし始めた。
「もう少しで真実が見えるよ。」
日向が手にしていたのは、古ぼけた新聞の切れ端だった。
それはその昔この学校で亡くなった栗田美紀という生徒の記事だった。当時科学部に所属していた彼女は、放課後居残りで実験をしていたが、指導の先生が席を外した際に、密かに持ち込んだ薬品を調合し、有毒ガスが発生しそれを吸引し中毒死したとの記事が載っていた。当時も劇薬になる恐れのある薬品は保管庫にて施錠されており、薬品の持ち込みは学校の想定外の事となり、個人的な事故として片付けられていた。当時の指導していた先生と校長は辞任となっている。
「やはり事故だったんだな。」
「真実はこんな事じゃわからないよ。これからが本当の真実。さあ行こう。」
日向は職員室を出ると階段に向かい始めた。
「どこに行くんだ?」
「科学室よ。そこで全てがわかるはず。」
再び足音を忍ばせそれでも逸る気持ちを抑えきれないのか、時折踵が音を響かせると、眉をひそませもどかしそうに靴を脱ぎ裸足で昇り始めた。
4階に着いた時には緊張と疲労でのどが焼けるように熱い。俺は浅い呼吸を繰り返していた。
彼女も両ひざに手をついて息をしているが、小さな体のどこにそんな体力があるのか。
一呼吸いれるとスッと背筋を伸ばし、真っ直ぐに科学室を目指しなめらかに歩き始めた。
科学室の前まで来ると、扉に耳をあて中の様子を確認し始めた。中からは声が聞こえる。ただその声は尋常とは思えない必死に懇願する村上先生の声だ。
日向は目線を俺に向け小さく頷くと、その内容を確認しようと目を細めて聞き入った。
『すまない。すまない。許してくれ。』
村上先生はただひたすら謝罪を繰り返していた。日向は意を決し僅かに扉を開き始めるた。それと同時に何かが破裂したかのように村上先生の手元から煙が噴き出し始めた。その煙は立ち昇るではなく、村上先生を取り込むかのようにまとわり始めた。その光景に唖然としていると、唯一日向は駆け出し、村上先生の服を掴み間一髪煙から引きはがした。
次の瞬間煙はまるで意思を持っているかのように、部屋の中央へと集まり徐々に形を作り始めた。
『許してくれ。すまない・・・。」
嗚咽交じりの懇願にも似た謝罪がつづいていた。
次第に煙は人の形を作り始めた。すると村上先生はその姿に目を見開き涙を流した。
『おぉ、栗田。本当にすまなかった。』
煙か現れたのは、以前この学校で亡くなったという生徒だった。
『あんなことになるとは知らなかったんだ。謝って許されることではないのはわかっている。殺すなり、連れていくなりお前の気の済むようにしてくれ。』
両膝をつき縋り付くように見上げる村上先生は、全てをこの栗田という生徒に委ねる覚悟でいた。するとその生徒は少し困ったように笑みを浮かべ、
『先生。ありがとう。私お母さんに会うことができた。先生には感謝しかないの。お母さんが亡くなってから、家にも学校にもどこにも居場所がなかった。生きる希望もなかった。そんな時先生からこの方法を教えてもらい、お母さんに会うことが出来たの。今はとても幸せです。先生を恨むなんてとんでもない。』
『そんな。お前の未来を奪ってしまったんだ。まだまだこれから・・・。」
『未来なんて最初からなかった。私が望んだ未来があるとしたら、この結果が一番望んだ未来よ。』
『・・・連れて行ってくれ。あの日から一日たりともこの苦しみを、後悔をしない日はなかった。一緒に連れて行ってくれ!』
『先生にはまだこれからも私のような生徒を救ってください。私の事を真剣に考えてくれたのは、先生以外いなかった。私の事で苦しむのはもうやめてください。』
そういうと生徒の形が揺れ出し、徐々に煙へと戻り始めた。
『待ってくれ!本当に許してくれるのか?栗田。』
栗田と呼ばれる生徒は消えゆく姿で、最後に声にはならない、ありがとうの言葉を残して消えていった。
その時また、地面が揺れるような目眩のような感覚に襲われた。それと同時に日向は俺の方に振り向くと、
「さあ戻るわよ。」
背後で崩れ落ちる村上先生のことなど気にも留める様子もなく、さっと科学室を出ようとした。
「どうやって戻るんだ?」
そう言うと同時に日向の後を掛けだしていた。どうやら向かうのは最初にいた5階の廊下らしい。
スポットは薄い透明な幕でも張ってあるかのように、意識してみないとわからないくらい、あまりに頼りなさそうな存在だった。
「これがスポット。同じように見えるが、この向こう側が元の世界なのか?」
「さあ戻りましょう。」
通り抜ける瞬間はあまりにも呆気ないものだった。実感がわかないまま、階段を降りようとすると日向はわざわざ遠い方の階段に向かっていった。渋々付いていくと、背後で先ほど上ってきた階段を駆け上がって来る足音が聞こえてきた。振り返ろうとすると、急に日向に手を引かれ階段へと引っ張られた。
「見てはダメ!」
日向の鬼気迫るような迫力のある言葉に体が凍り付き階段を降りることとなった。
すると下の方から騒がしい声が聞こえてきた。科学室から聞こえてくる。
科学室にはC組の女子が倒れていた。その子を介抱しているE組の男子もいる。その声に捜索隊も集まり出し、慌ただしく動いていた。先生を呼びに行く者や司令部に連絡する者。そうこうしている内に、意識を取り戻した様子で、先生が到着したころにはしっかりとした口調で現状を理解し話し始めた。
その子が言うには、午後11時過ぎ友達と話しながら横になっていると、急に眠気に襲われいつの間にか眠ってしまった。気が付くとここで皆に囲まれていた。ただ夢を見ていた感覚はあり、どんな夢なのか思い出せないが、とても幸せな夢で嬉しくて泣いていたそうだ。
E組の男子はトイレから出たところで、C組の女子がフラフラと階段を昇って行くところを見つけ、不思議に思い後をつけると、電気もつけずに科学室に入っていったのを見ていた。何かにとり憑かれているんではないかと怖くなったが、科学室の中央まで来ると急に倒れてしまった。それで起こそうと介抱していたという事だった。
ともあれ心身ともに異常はないようなので様子を見ることとなり、全員教室に戻ることになった。




