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ユイの一日は、レイを起こすことから始まる。そして、毎日レイを抱きしめ愛していると伝える。これは、亡くなった母親がユイに毎日やっていたことだ。
レイを生んで母はすぐに息を引き取ったため、レイは母の愛を知らない。それどころが、生まれてすぐ父親とも引き離されたため父親の愛も知らない。
しかし、ユイはレイがどれだけ両親に愛されて生まれてきたか知っている。レイが母の腹の中にいる時、両親は毎日手をあてては話しかけ、生まれてくる日を心待ちにしていた。そして、それはユイも一緒だった。
だが、生まれてきたのは黄金の王であった。黄金の王である弟を父親は抱くことができない、抱けば母のように一晩で息を引き取るだろう。唯一、レイに触れることができる自分が両親の分まで愛情を注ぐと、ユイは母が逝ったあの夜に誓っていた。
「レイ、おはよう。今日も愛していますよ。」
まだ、眠そうにしているユイを抱き上げ、毎日の挨拶を伝える。
今日の弟はおねむを決め込むらしい。兄に抱き上げられてもなお、わざとらしく胸の中で寝息を立てている。そんなときは、ユイも無理やり起こさず、しばらく弟を胸に抱いたままじっとしている。
ユイはとことんレイに甘い。ユイは年の離れた実弟が可愛くて仕方なく、叱るといった残念な立ち回りは、ほぼフカに丸投げしていた。
「レイ、朝ごはんを食べましょう。今日はレイの好きなクルミパンですよ」
そういって、レイに声をかけると現金な弟はすぐに目を開ける。もともと寝たふりをしていることなどユイにはお見通しであり、ときおり寝たふりをして甘えてくる弟が可愛いため、たまにはいいかと黙認している。きっと悪い夢でも見たのだろう。
「兄さま、おはよう。僕、今日はレーズンパンがいいな」
我儘で我が強い弟の性格は、誰に似たのだろうとユイは時折不思議に思う。
‐母様も父様も、お優しくて穏やかな人だと思うんだけどな
「レイ、我儘はいけないよ。フカ様がせっかくレイのために作ったのに、きっと拗ねちゃう。」
大の大人のフカが、いちいち子供の我儘にいちいち拗ねることはない。レイの我儘を引っ込ませるための常套句だ。レイはユイが砕けた口調を使ったり、レイを呼び捨てにすることが嬉しく、すぐに上機嫌になる。朝に弱いレイの機嫌をとるため、この時だけは普通の兄弟のようにフランクに接するようになった。