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普段、里の者は祈りをささげる大聖堂以外には入らない。そのため、神殿の内部には、ユイと実弟で黄金の王であるレイ、そして白銀の神子であるフカの3人しかいない。まだ霊力をうまく制御できないレイには、白銀の神子であるフカと次代の神子であるユイ以外に触れることができないからである。
黄金の王とは名ばかりの王だ。実際に里を動かしているのは酋長であり、王が里の政治に干渉することはない。王の務めは、女神グルヴェイグに祈りをささげること、里の神事に参加することである。そして、まだ成人していないレイにはその務めさえ許されていない。
白銀の神子とは、黄金の王が不在の時には王の代わりに神事を行う役割をしており、黄金の王が健在の時には王の世話を一手に引き受ける。白銀の神子は10年に一度生まれ、その命は30年と短い。王がいない間は霊力を里の守護にさき、王がいる間は王の霊力に常にさらされるからだ。白銀の神子は黄金の王のために存在しており、その力は脈々と受け継がれてきた。
ユイがレイの手を引いて、書斎に入るとフカは腕組をしてレイを待っていた。フカは霊力の制御の仕方や浄化の方法、国の成り立ちなど、レイを黄金の王にするべく毎日指導しているが、レイが時間通りにフカの書斎を訪れたことはない。毎日、神殿内に隠れているレイをユイが見つけ出しフカの書斎に連れてくるのだ。フカが何度叱っても直ることはないため半分は諦めているが、数回に一回はフカの堪忍袋の緒が切れる。そして、今日はその数回に一回の日のようだ。
「聖者様、黄金の王として自覚が足りないと、いつも申しておりますが、あなたは真剣にそのことについて考えたことはありますか?あなたは里の民を導く存在であらせられるのに、そのように不真面目な態度をとれば里の民は安心して着いて行くことなどできません。」
フカの説教は怒鳴って体罰を与えるというものではない。だがしかし、長い。レイとユイを正座させ、その正面に自分も正座し理屈っぽく滾々と説教する。
「そもそも、唯一の存在であるあなたが木登りをするなど言語道断、あなたの身に何かあれば民の未来はどうなるのですか。もう五つになるのですから、自分の立場をわきまえなさい。」
木登りをしていることはユイが報告したのではない。風の精霊の力を借りれば、すぐにわかることだからだ。ユイも風の精霊の力を使えるが、毎日行われる鬼ごっこにその力を使うことはない。何気にユイもレイとの鬼ごっこを日々楽しんでいる。
それから2時間フカの説教は続き、終わった頃にはユイもレイも足がしびれて立てなくなるのだった。