表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/30

引きこもり、小綺麗になる

街の中をヴァットとエイスが歩いていた。

ヴァットの目的は買い物、エイスは暇つぶしの付き合いである。


「あーーーっ!」


突然、エイスがヴァットの腕を掴まえ声を上げる。


「見て見てヴァット、あれ可愛くないー?」


エイスが指さすのは、パンダの顔をかたどった帽子である。

この街には帽子屋さんというNPCがおり、ここではドロップアイテムを集めてくる事で、目当ての頭装備と交換出来るのだ。

他にも猫耳帽子やうさ耳帽子など、可愛らしいものが並んでいた。

エイスは引き寄せられるようにNPCの前に行くと、そこに引っかけられたパンダ帽を見て目をキラキラさせていた。


「わー、いいなーこれ! 笹の葉500個で交換かぁ……でもいいよねぇ、欲しいなぁ……」

「ふーん……」


だが、ヴァットは冷めた顔だった。

エイスはつまらなそうにヴァットを睨む。


「もう、興味なさそうな顔ねぇ! これだからデフォアバター使いは! たまにはオシャレくらいしなさいよ!」


RROレヴィレードオンラインでは、装備によって外見も変化する。

プレイヤーたちは性能以外にも、可愛いさやかっこよさで装備を選ぶのだ。

それだけではなく髪型を変えたり、装備の色を変えたり、自分に似合ったファッションを楽しむのである。

勿論、そういったオシャレに興味がない者もいる。

そういったプレイヤーはデフォルト仕様のアバターという意味で、デフォアバターなどと揶揄されていた。


「……別にいいだろ。デフォでもステータスは変わらんし」

「でもさ、気分的に全然違うって。ちょっといじればヴァットもカッコよくなるかもよ? あ! じゃあさ、アンタの買い物終わったらちょっと行きましょう!」

「えー、別にいいよ……」

「決まりねっ!」


気乗りしない顔のヴァットに、エイスは上機嫌で微笑む。

目当ての店に着いたヴァットはポーションの空瓶やらなんやらを購入した。

鞄一杯に買い込んだヴァットが店から出てくる。


「終わったかしら? じゃあ行きましょうか!」

「別にいいけどさ。あんまり金持ってないぞ俺」

「大丈夫大丈夫、そんなに高いところじゃないしさ!ね、いこっ!」


エイスは有無を言わさず、ヴァットの手を引いていく。

街の中央から一本外れた通り、どことなくオシャレな建物が並ぶ場所に辿り着いた。


「へぇ、こんなところがあるんだな」

「ここで髪型とか服の色とかを変えれるのよ。うん、まずはそのだっさい服を変えましょうか。真っ黒でモロオタクって感じだし。どうせデフォパターンの黒ベースをそのまま使ったんでしょう? 衣服のグラフィックは大きくは変えられないけど、一部だけなら染色する事が出来るからさ、それだけでも全然違うわよ!」

「へー、そんなもんか」

「そうそう! そんなもんよ!……ほら、あのおばちゃんのNPCに頼んでみましょうか」


エイスの勢いに押され、ヴァットは染色NPCの前に連れて行かれた。

主婦のようなおばさんの外見をしたNPCが、壺の中に布を洗っていた。

二人に気づいた染色NPCは手を拭き、にっこりと向き直る。


「こんにちわ。服を染めるなら承るわよ」


そう言うと染色NPCの前に、透明なコンソールが出現した。

画面にはヴァットの姿が忠実に再現されていた。

エイスがそれを指で触ると、画面内のヴァットがクルクルと回転した。


「これに染色したい箇所をクリックし、右のパレットから色を選ぶの。簡単でしょ?」

「へぇ、なるほどなぁ」

「ベースは黒のままでいいとして、ワンポイントでは明るい色を使いたいところね。上半身もちょっと明るくして……」


エイスがぽちぽちとコンソールを叩き始めると、画面内のヴァットの配色が目まぐるしく変わっていく。


「……出来たー! どうよこれ! いいでしょー!」


コンソールに表示されたヴァットの衣服は先刻と同じ黒ベースであるが、細かな部分でいじられており、ファッションに疎いヴァットにも垢抜けて見えていた。


「おおー! ……よくわからんが、かなりいいんじゃないか?」

「でしょう? あとは顔面がもうちょいイケてたら完璧だったんだけどねー。こればっかりはいじりようがないからなぁ」

「……てめぇ」

「あはは! ごめんごめん! まぁ私は嫌いじゃないよ。あまり一般ウケする顔じゃないかもだけどー」


エイスは大笑いしながら、ヴァットの背中をバシバシと叩く。


「さて、今度は髪型よ! これも細かく調整カット出来るから、似合う感じにしてあげるわね!」

「はいはい、もう好きにしてくれ」


諦めたようにヴァットはため息を吐くのだった。

次に連れて行かれたのは、赤と白の模様が螺旋を描く看板の前。

そこには散髪鋏を持ったNPCがいた。

散髪NPCが爽やかに笑うと、白い歯がきらんと輝く。


「いらっしゃい。レディ。美しくなりにきたのかな?」

「今日は私じゃないわ。こっちをよろしく」


エイスがヴァットを差し出すと、散髪NPCは顎に手を当てふむと頷く。

そしてヴァットを頭からつま先まで、ジロジロと見た後で、透明なコンソールを出現させた。


「ふむ、いいだろう。では要望を教えてくれたまえ」


コンソールには染色NPCと同じようにヴァットの全身が映し出されていた。

エイスはそれを見て、画面内でヴァットの髪型をいじり始める。


「えーと……こーやって、あーやって……ねぇこれ、どうよ!」


エイスがドヤ顔で見せてきたのは、アフロ化したヴァットだった。

ヴァットが睨むと、エイスは笑いを堪えていた。


「ぷ……うぷぷ……」

「……で?」

「ごめんごめん! 真面目にやるからさ!」

「どうせ今度はスキンヘッドにするつもりなんだろ」

「なにー!? エスパーですかー!?」

「エイスの考える事くらい、大体わかるっての」

「あはは、仕方ないなー。じゃあ今度こそ真面目に……っと」


エイスは今度こそと真面目な顔で、コンソールをいじり始める。

画面内のヴァットの頭を拡大し、髪型を細かく切ったり細かく増やしたりしながら調整していく。

ひとしきりやり終えた後、エイスは遠くで見たり近づいて見たり、じーっと観察した。


「……うん、いい感じ。どうよ」


そう言ってエイスはコンソールをくるりと回しヴァットの方に向ける。

そこには見事に垢抜けたヴァットの姿があった。


「おお、すごいな! 俺じゃないみたいだ」

「でっしょー! ヴァットじゃないみたいでしょー! んじゃこれでいいよね。ぽちっとな」


エイスが決定を押すと、ヴァットの髪型がコンソールに表示されていたものに変化した。

自分の頭を触るヴァットに、エイスは取り出した手鏡を渡した。


「どう?」

「……うん、いいな。ちょっと落ち着かないが。ありがとう、エイス」

「いえいえどういたしまして。いつもポーション作ってもらってるからねぇ」


エイスはにこにこしながら、ヴァットが喜ぶ様子を眺めていた。

そしてぽつりと呟く。


「それでナンパとかをしたらダメだからね?」


囁くような小さな声。だが少し真面目な声だった。

よく聞こえなかったヴァットは聞き返す。


「ん? 何か言ったか?」

「いーえ、なんにもー」

「?」


口笛を吹くエリスを見て、ヴァットは首を傾げるのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ