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引きこもり、草を刈る

 最初の街、プロレシア。

 その東隣のマップにて、ヴァットはひたすら草を刈っていた。

 ここはモンスターが非常に少なく、プリンが数匹いるのみである。

 代わりに草が大量に生えており、現状ヴァットのメインソロ狩場であった。


 鳥のさえずりのBGMが時折響く中、さくさくという攻撃音がのんびりしたリズムで鳴っていた。

 さくり、と最後の一撃が加えられ、消滅する草の代わりにホワイトハーブがドロップされた。

 ヴァットはそれを拾うと鞄に入れる。


「やっほーヴァット、相変わらずのヒキコーモリねー」


 次の草を狩ろうとしたヴァットの前に現れたのは、またもエイスだった。

 ニヤニヤしながら近づくエイスを、ヴァットは不満げに睨んだ。


「引きこもってねーだろ。今日はちゃんと外に出てるじゃないか」

「こんな誰もいない森の中で、でしょ? どう見ても引きこもりです。本当にありがとうございましたって感じ」

「うるせーばか。ほっとけ」


 ヴァットはエイスと話しながらも、草に攻撃を続けている。

 草刈りの片手間に相手をされ、エイスは不満げに頬を膨らませる。


「もう、折角美少女JK剣士が話しかけてあげてるんだから、少しは嬉しそうにしなさいよねっ!」

「美少女……」


 乾いた声のヴァットに、エイスは親指でくいくいと自分を指差した。

 自信ありげな顔だった。自分がそうだと言わんばかりの満面の笑みだった。

 それを見てヴァットはやれやれと首を振る。


「……んで、その美少女JK剣士さんが何の用ですかねぇ。言っとくけど今日は狩りに付き合わんぞ。材料集めをしているからな」

「ふふーん。泣いて感謝なさい。草刈りの手伝いに来てあげたのよ。ほら、昨日約束したでしょ」

「あー……そうだっけ」


 ヴァットは先日、そんな話をしたのを思い出す。


「それを律儀に守るとは、意外と義理堅い性格なんだな」

「当たり前よっ! 自慢じゃないけど私、嘘はつかない事にしているんだからねっ!」

「嘘……ねぇ」


 ヴァットは思わずジト目でエイスを見た。


「な、なによ」

「いーや、なんでも。ありがたくって涙が出るね」

「そうでしょ! 感謝する事ねっ! さーて、AGI剣士の攻撃速度を見せてあげるわっ」


 言うが早いかエイスは草に斬りかかる。

 ヴァットの倍近い速度で殴り続け、目についた草を片っ端から切り倒していく。

 それを見ながらヴァットはぽつりと呟いた。


「脳筋……」

「ん? 何か言ったかしら?」

「いや、何も。素直ないい子だなーと思って」

「な……あ、改めて言われると、照れるわね」


 エイスはヴァットの言葉に顔を赤らめる。

 一方ヴァットは冷めた視線を送った。


「それよりどうよこの殲滅速度っ! AGIポーション投げてくれたらもっと早くなりますけどっ!?」

「いや、遠慮しとくわ。草刈りにステポはもったいないし」

「ちぇっ、けちー」


 そんな軽口を叩き合いながら、二人はひたすら草を狩り続ける。

 草は一定時間で生えて(POP)くるので、狩ろうと思えば幾らでも狩ることが可能だ。

 とはいえ人間の集中力には限度がある。

 一時間ほど続けただろうか、エイスは全身を地面に投げ出した。


「ふぃー、もう飽きた。終わり終わりー」

「おう、お疲れ。俺はまだ鞄に空きがあるから、続けるぜ」

「そっかー、頑張るねぇ……と、こ、ろ、でー」


 エイスはにんまりと笑うと、ヴァットの隣に座った。


「さっき拾った草で、ポーション作って貰っていいかなっ!?」


 エイスの言葉にヴァットは大きなため息を吐く。


「……まぁそんなところだと思ったけど。まぁいいよ、採れた材料を渡しな」

「わーい! 持ちつ持たれつ!」


 そう言ってエイスは先刻手に入れた収集品をヴァットの前に差し出した。

 赤、緑、白、色とりどりのハーブと、葉や茎などの収集品がずらりと並ぶ。


「ふむ、赤ハーブが多いな。前作ってやったやつでいいか?」

「うんうん、赤ポーションね。あれよかったよー、丁度いい回復量でさ。使いやすい! 店で買うと高いけど、ヴァットに作って貰えば安く済む!」

「はいはい、嘘のつけない素直ないい子ですこって」


 ぼやきながらヴァットは、手元のコンソールをぽちぽちといじる。

 赤ハーブと水とポーション瓶を選択し、ポーション生成スキルを発動させる。


「ポーション生成っと」


 きらん、と成功音が鳴り、赤ポーションが生成される。

 ヴァットが連続してスキルを使用すると瞬く間にポーションの山が出来ていく。


「おおー! やったね!これでしばらく回復剤には困らないよ! 他の錬金術師のポーション貰って使って見たけど、ヴァットのが一番回復するんだよねー」

「そうなのか? ていうか俺以外にも錬金術師がいたんだな。街では見た事なかったぜ」

「時々攻略組が余ったポーションを売りに来るのよ。引きこもってるヴァットは知らないだろうけどさ。ちょっと前に買って使ってみたけど、NPC売りのと大差ないねー」

「ふむ……恐らくSTRを振った、戦闘型の錬金術師なんだろう」


 RROレヴィレードオンラインではまず錬金術師を選ぶ者は少ない。

 ライトプレイヤーは剣士や魔術師など、わかりやすいジョブを選ぶし、ヘビープレイヤーはこの手の生産職は苦戦すると知っている。


 だから選ばない。

 仮に選んだとしてもキツすぎる序盤を乗り切る為に戦闘型にするものだ。

 普通のゲームですらその傾向は高いのに、これは死んだら終わりのデスゲームである。

 攻略組にも錬金術師は数人いるが、その全てが戦闘型だった。


「そういう連中は製薬ステに振る余裕がないから、ポーションの性能が低いんだ」

「へー、攻略組はレベルが高いからもっといいポーションが出来るのかと思ったけど、そうでもないのね。まぁいいや、ポーションありがとー! じゃあね!」

「おう」


 手を振り、駆けて行くエイスを見送りながら、ヴァットはふと思った。


「そういや攻略組の連中、どこまで進んでるんだろうな」


 ヴァットは空を見上げながら、ぼんやりと呟く。

 青空の彼方には、オブジェクトの鳥がバサバサと飛んでいた。

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