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引きこもり、狩りに出る②

 フィールドへ出たエイスとヴァットは、森の方へと歩き始める。

 足元にはわらび餅のようなモンスター、プリンがのんびりと昼寝したり飛び跳ねたりしていた。

 プリンはこちらが攻撃しなければ無害なモンスターである。

 戦闘力も低く、ゲームスタート直後はこのフィールドも沢山のプレイヤーがプリンを探して溢れていたものだ。


 だがそれも、これがデスゲームと発覚するまでの間まで。

 無害なプリンではあるが、周りのモンスターとリンクしてプレイヤーを攻撃する性質があり、油断して殺されたプレイヤーも少なくない。

 エイスとヴァットはプリンに触れないよう、先を急ぐ。

 が、その歩幅には大きく差があり、エイスの方が大分早かった。


「おーい、遅いわよー!」

「仕方ないだろ。こっちはでっかいアイテムストレージ背負ってるんだからよ」


 錬金術師など生産系のジョブは、大きな鞄を背負うことが出来る。

 これは移動速度にペナルティがかかる反面、大量のアイテムを保持出来るというものだ。

 AGIを上げればそのペナルティは軽減できるがヴァットのAGIは初期値のままである。

 AGIに極振りしているエイスと比べると、ヴァットの移動速度は半分程度であった。


「ったく、今度レベルが上がったらAGI上げておきなさいよねー」

「それは無理だ。まずはINTとDEXを振らないとな。ポーション生成の確率と効果にモロ影響するんだ」

「ぶー、このポーションマニアー。早く来ないと置いていくわよ!」

「別に待ってくれなくても構わんのだが……先に行ってもいいぞ?」

「そこまで薄情でもないわよっ! 見失って死なれたら寝覚めが悪いしね。待っててあげるからはぐれちゃだめよー」

「こっちのセリフだ。……てかどこに行くんだ?」

「森でカブトムシ狩ろうと思ってるわ。お、森の入り口はっけーん。早速入ろうー」


 言うが早いかマップ内に飛び込むエイス。

 ヴァットもそれに続いた。

 森のフィールドに入ると、鬱蒼とした木々が二人を迎える。


「じゃあパーティを作るぜ」

「おっけー」


 ヴァットは手元のコンソールを操作し、パーティを作成しエイスを招く。

 パーティはレベル±5までのプレイヤーしか組む事が出来ないが、誰が倒しても経験値は全員に分配される仕組みになっている。

 パーティ名はカブト狩り。二人の頭上、名前欄の下にそう表示された。

 それを見たエイスがあからさまなため息を吐いた。


「相変わらずセンスないわねー。てか、簡素! もっと可愛い名前にすればいいのに」

「パーティ名なんてなんでもいいだろ。文句があるなら作り直せよ」

「まーいいや、めんどいしー。さて、狩ろう狩ろうー。ヴァット、支援よろしくぅー」

「はいよ」


 そう言ってヴァットはポーションを取り出し、エイスに投げつけた。

 ポーションが割れ、液体が弾けるエフェクトと共にぴろんと心地よい音が鳴る。

 エイスのステータス、DEX値が大幅に上昇した。


「サンキュー! ありがとー!」

「どういたしまして……っと、タイミングよく敵さんも来たみたいだぜ」


 ヴァイトが指さした先、木の陰で巨大な黒い甲虫がうずくまっていた。

 頭には立派なツノが生えており、見た目はカブトムシそっくりである。

 頭上にはビードルと表示されていた。


「周りに敵がいないか、確認して攻撃しろよ」

「わかってるわよ。リンクされたら厄介だしね」


 ビードルもいわゆるリンクモンスターで、こちらが手を出すまでは何もしてこない。

 おもむろに近づくエイスに気付きながらも、草をむしゃむしゃと食べている。


「さーて、倒しちゃうぞー」


 腰元の剣を引き抜くと、エイスはビードルに躍りかかった。

 がすっ! と鋭い音を立て斬撃エフェクトがビードルの身体に刻まれる。


「ギシシィ!?」


 ビードルは悲鳴を上げながらも、鋭い鉤爪で反撃を試みた。

 だがエイスはそれをひらりと躱す。

 斬撃エフェクトとダメージ表示が乱れ飛ぶ中、エイスは楽しげに剣を振るう。


「てりゃてりゃてりゃーーーっ!」


 がす! がす! がす! がす! と心地よい音が鳴り響く。

 一方的な攻撃を繰り出すエイス。一方ビードルの反撃は全く当たらない。

 ビードルはタフではあるがその分命中率を低めに設定されており、AGIの高いエイスには攻撃が当たらないのだ。


「たーのしー! テンション上がるぅー! やっぱり持つべきものはDEXポーションよねー!」

「そりゃようござんした」

「ひゃーっほーーーっ!」


 テンション全開なエイスを横目で見ながら、ヴァットは近くに生えている草に目を向ける。


「さて、俺は草でも刈るか」


 手にした短剣を草に向け、おもむろに斬りつける。

 そのたび、1ダメージが表示された。

 これはフィールドに点在する非反撃型オブジェクト。

 植物系の姿をしていることが多い事から通称「草」と呼ばれており、攻撃しても反撃はしてこず、その代わり経験値もない。

 防御力が最大値に設定されており固定で1ダメージしか入らないが、HPは低く、すぐに倒すことが可能だ。

 この草もヴァットが10回ほど攻撃するとぱさりと音を立てて消えた。

 消えた草の代わりに地面に落ちたのは、緑色のハーブだった。


「よし、グリーンハーブゲット」


 ヴァットはそう呟いて、鞄の中にグリーンハーブを突っ込んだ。

 草はまだまだ生えており、ヴァットは手当たり次第に草へ斬りつけていく。

 そうしていると、離れていたエイスが戻ってきて声をかけてきた。


「わ、出た草刈り。暇ねーアンタも」

「別にいいだろ。草刈りが一番ポーションの材料を手に入れるのに一番手っ取り早いんだよ」

「まーお好きにって感じですけど。それよりそろそろ効果時間終わるから、もっかいDEXポーションよろしくー」

「はいはい」


 ヴァットがエイスにポーションを投げると、またエフェクト音が鳴りステータスが上昇した。


「もうひどいよねぇこのポーション。効果は高いけど時間はたったの10分しか持たないし、その上錬金術師がスキルとして使わないと効果が発揮しないなんてさー」

「だってそうでもしねぇと錬金術師がパーティに参加出来ないじゃないか」

「それはそうだけどー」


 ぶーぶー言いながらもエイスはビードルを狩りに戻った。

 ヴァットもまた草刈りに戻る。


「お、あれはキノコ。あっちには木の実が生ってるな」


 見つけるたび、ヴァットは草木を斬り倒し、手に入れたポーション材料をカートに放り込んでいく。

 時折戻って来るエイスに支援をしながら。

 どれくらい経っただろうか、ヴァットの鞄にはかなりの種類の材料が貯まっていた。


「ふー、大分狩ったな。……それにしてもエイスの奴どこ行ったんだ? はぐれるなって言ったのによ」


 ヴァットが見渡すと、やや離れた所で騒がしい音が聞こえてくる。


「ひぃぃぃぃ……いやぁぁぁぁ……」


 遠くに聞こえる声はエイスのものだった。

 ドドドドドドドと土煙を上げながら突進してくるのはエイスと――――5匹ほどのビードルである。


「たすけてーーーっ!」


 悲鳴を上げるエイスに、ヴァットは白い目を向ける。


「何やってんだお前」

「説明してる暇なんかないわよーっ!」

「はぁ、どうせDEXポーションが切れたのに気づかず調子に乗って殴ってたら他のビードルがリンクしてきて囲まれそうになり慌てて逃げた……とかそんなとこだろ」


 高い回避率を誇るAGI剣士だが、囲まれれば回避率は一気に下がる。

 5体に囲まれれば避けることなど出来ず、タコなぐりにされてすぐに倒されてしまうのだ。


「悔しいけどご明察だわーっ!」

「ったく」


 そう言うとヴァントはエイスに向かって手招きをした。


「こっちこいエイス。何とかしてやる」

「わかったーーーっ!」


 エイスはビードルを引き連れたまま、ヴァントへと突進するのだった。



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