攻略組、重なる
「ギチチチチチチ!!」
巨大なムカデ型モンスター、サウザンドワームが全身を波打たせ、叫び声を上げていた。
その足元を剣士を中心としたパーティが取り囲む。
――――アレフたち攻略組であった。
前衛を剣士であるアレフが務め、後ろから女神官が支援する。
その間に後衛がサウザンドワームへと矢と魔法を雨あられと放ちまくる。
「よぉし、いい感じだぞ!この調子で押していく!」
「おう!」
前回同様、いやそれ以上の連携でサウザンドワームを追い詰めていくアレフたち。
HPバーは青から黄色へ、順調に減っていく。
そして半分を切ろうとしていた。
「もうすぐだ! 構えろみんな!」
アレフの号令に全員が頷き身構える。
「ヴェールオブブレス!」
女神官が杖を振るうと、柔らかな光がパーティ全員を包み込んだ。
ヴェールオブブレス、これは一度だけ受けるダメージを3割カットするという、パーティ全体に効果のあるスキルだ。
SP消費は大きいが全体攻撃に合わせて使えると大きい。
今回の戦いのために、女神官が新たに会得したスキルだ。
「一気に削る!アイシクルゲイル!」
魔術師の持つ本が眩く輝くと、氷嵐がサウザンドワームを中心に吹き荒れる。
アイシクルゲイルは相手を凍結状態にしつつ、氷属性大ダメージを与えるスキルだ。
本来であれば凍結状態になったモンスターには、氷属性魔法であるアイシクルゲイルはダメージが入らない。
しかしボス属性モンスターは凍結状態にはならず、その為、高倍率のダメージが入り続けるのだ。
サウザンドワームのHPバーが半分を切った。
「ギシャアアアアアア!!」
ひときわ大きな雄たけびを上げ、サウザンドワームは全身をくねらせる。
大きく振り上げた尻尾を――――振り下ろす。
無数の鉤爪が画面全体を踊り、斬撃エフェクトが乱れ飛ぶ。
サウザンドワームのHPが半分を切った時に使用される全体攻撃。
以前アレフらを一撃で窮地に追い込んだものである。
ザシュシュ! と痛々しい音が鳴り、アレフらのHPバーを削り取る。
が――――、それはせいぜい半分。
女神官がヒールを飛ばし、拳法家が内気功にて体力の回復を図る。
アレフは構えていたポーションを叩き、HPを回復させた。
「俺のことは後回しでいいっ!全員の回復を優先させてくれ!」
「わかりました!」
女神官に指示を出し、アレフは回復ポーションにてサウザンドワームの攻撃を耐える。
(相変わらずとんでもない回復量だな……前は必死に連打してようやく耐えていたが、今はかなりの余裕がある……!)
サウザンドワームの全体攻撃をも難なく耐えきり、リカバリーもすぐに終えた。
「アレフ!全員回復し終えたわ!」
「よぉし!反撃開始だ!」
アレフの指示で後衛が攻撃を開始する。
HPが半分を切ったボスは各種ステータスが強化され、先刻の薙ぎ払いのような新たなスキルを使用してくる。
だが少々攻撃力が上がったところで、対策をすれば耐えることは可能。
実際アレフらはそれを耐え切り、すぐに戦闘を再開した。
サウザンドワームのHPは順調にといえるペースで減っていく。
「みんな!この調子だ!気を抜かずにいくぞっ!」
「おおおおおお!!」
雄叫びをあげながらスキルを撃ち込み続けるアレフたち。
そんな中、サウザンドワームの瞳が真っ赤に染まっていく。
それに気づく者は誰一人としていなかった。
■■■
「いてててて……」
痛む身体を起こし、立ち上がるヴァット。
すぐに現状を把握して、物陰に身を潜めた。
「……どうやら周りにモンスターはいないようだな」
安堵の息を吐きながらも、ヴァットは鞄から取り出したポーションをがぶ飲みする。
HPが全快になったヴァットは注意深く辺りを探る。
「兎にも角にも、ここから脱出しなくちゃな……ロケテでは確かこっちに出口があったはず……」
モンスターの移動音に注意しつつ、ヴァットは出口に向かって進んでいく。
と、微かに聞こえてくるカサカサという音に気づいたヴァットは咄嗟に岩陰に身を隠した。
「カチカチカチカチ……」
岩陰の向こうを通り過ぎるのはニードルワームより一回り大きな、ソルジャーワーム。
まるで刃物のような鋭い鉤爪、大きな顎は巨大な鋸鋏のようだった。
さらに外殻は鉄板を積み重ねた鎧のようなデザインは、戦士の名にふさわしかった。
(勝てなくはないが……非常に面倒臭い相手だ。ここはアイテム温存の為にスルーだな)
ソルジャーワームが通り過ぎるのを確認したヴァットは、また移動を再開する。
走っては止まり、走っては隠れ、また走り……
そうして出口に向かうヴァットはようやく上の階へ行く階段が見えてきた。
細く長い吊橋を渡りながら、ふとヴァットは橋の下で巨大なムカデ型モンスターと戦闘中のパーティを見つける。
「あれは……サウザンドワームか!?」
ヴァットもまた、ロケテストにて戦った相手である。
その時はあまりの強さに手も足も出ず負けたものだ。
勿論、ソロで勝てるような相手ではない。
「懐かしいなぁ。HPが半分切ってからがヤバいんだっけか」
その戦闘を見ながら懐かしむヴァット。
サウザンドワームが尻尾を振り回し、パーティメンバーはそれに耐える。
「おお、尻尾攻撃にも耐えるか!すごいなあいつら!結構ガチ勢だな」
完全に観戦ムードになっているヴァットだったが、ふとある事に気づいた。
サウザンドワームの瞳が真っ赤に輝いている事に。
「……あの動き、ロケテで俺を何度も倒した……!」
気づけばヴァットは橋を飛び降りていた。
落下しながら鞄からポーションを取り出し、着地ダメージを食らうと同時に叩く。
回復エフェクトがヴァットを包み、HPが回復するとすぐに走り始める。
「ギャオオオオオオ!!」
サウザンドワームが長い、長い首を持ち上げ、咆哮を上げた。




