表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

引きこもり、落ちる

「……ふぅ、ようやくひと段落ついたわね」


 足元に散らばったニードルワームのドロップアイテムを拾いながら、エイスが呟く。


「あぁ、何だかわからんが、大量に湧いたな」

MHモンスターハウスだったのかもね」

「今ので回復アイテム使い切っただろう。新しいのを渡しておく」


 ヴァットはエイスに、鞄から取り出したポーションを渡す。


「わーい、ありがとー!」

「……肉壁に死なれちゃ困るからな」

「肉壁ってそれ、ひどくない!?」

「いいからほれ」


 文句を言うエイスに押し付けた、その時である。


「ぎゃあああああああああああああッ!!」


 つんざくような悲鳴が辺りに響く。

 二人が振り向くと、遥か後方にてメガゴロンに襲われているミストンらの姿が見えた。


「何やってんだ? あいつら」


 首を傾げるヴァットと裏腹に、エイスは即座に駆けだした。


「モンスターに襲われてるわ! 助けないと」

「おい、エイス! 待てよ、危ないぞ」

「放っておけない!」


 ヴァットの制止も聞かずにエイスはメガゴロンに向っていく。

 しばし、茫然と見送っていたヴァットだったが舌打ちを一つして地面を蹴る。

 それに気づいたエイスは、振り返り満面の笑みを見せた。


「よかった。ついてきてくれなかったらどうしようかと思ってたわっ」

「馬鹿。肉壁がいなくなったら困るだろうが。勝手に飛び出すんじゃねーよ」

「ふふ、ツンデレ乙っていうのかしら? こういうの」

「違う、断じて」

「そーお? ならそういう事にしておいてあげる……行くわよっ!」


 ヴァットの反論を受け流しながら、エイスはメガゴロンに斬りかかる。

 斬撃エフェクトが袈裟斬りに生まれ、そのまま足元を滑り胴体へと続く。

 そして、斬り抜けた。

 火花が舞い散り爆ぜる中、エイスが土煙を上げながらミストンらの前に滑り出る。

 呆然とするミストンらに振り向いて、言った。


「助けに来たわよっ」


 言って直後、エイスは跳ぶ。

 そして乱れ飛ぶ衝撃波とエフェクト音。

 数度かのちに放たれたエイスの攻撃は、メガゴロンの手に止められてしまう。


「んなっ!?」

「ゴルルガァァァ!!」


 そのまま大きく振り回し、繰り出される反撃をエイスは慌てて剣を引き抜き躱した。

 よろけながらも何とか着地したエイスの胸当てには、薄い切れ込みが入っていた。


「あっっぶなー……」


 冷や汗を流すエイスの頭上に水飛沫のエフェクトが舞う。

 続けて高揚するような音が鳴り、エイスのステータスが軒並み上昇した。

 追いついて来たヴァットがポーションを投げたのだ。


「ポーションの効果、切れてたぞ」

「ありがとっ! たすかった!」


 改めて、メガゴロンと斬り結ぶ。

 今度は相手の攻撃をちゃんと躱していた。

 後方からのヴァットの援護射撃もあり、メガゴロンのHPバーは瞬く間に削れていく。

 その光景を、ミストンらはただ呆然と見ていた。


「な、なんだありゃあ……」

「すげぇ……あんなスキル見たことねぇぞ……」


 その間も、戦闘は滞りなく進み――――


「とどめぇぇぇぇぇぇ!!」


 ざん! と頭上から足元へ、一際長い斬撃エフェクトがメガゴロンを貫いた。

 更に背中には銃撃エフェクトも重なっていた。

 その少し後、メガゴロンはガラガラと崩れ落ちながら消滅していく。


「……ふぅ、大丈夫だった? アンタたち」


 エイスの言葉でようやく我に返ったミストンら三人は、何とか言葉を絞り出す。


「あ、あぁ。何とかな。助かったよ」

「本当にありがとう。……それと、さっきはすまなかった」

「いいっていいって、私もよく調子に乗って痛い目を見るしね」


 そう言ってエイスは少し照れ臭そうに笑う。

 テイルズとボナンザはそれを見て顔をにへらと緩ませた。

 だが、ミストンは違う。


「……許せ……ねぇ……」


 その呟きは、誰の耳にも届かない。

 怨嗟の表情は伏せられ、誰の目にも留まらない。

 その心の内の歪みも、当然。


「アンタも大丈夫だった?」


 ぶつぶつと呟くミストンに、エイスは手を差し伸べる。

 弱者に差し伸べられた手、エイスはそう思わずとも、ミストンにはそう見えた。

 虚ろな目でそれを見た後、ミストンは眉間にしわを寄せ、力いっぱいに歯噛みした。

 ぎしり、と歯に亀裂が入らんばかりの軋み音が鳴る。


「どうしたの? 立てるかしら?」


 そう言って目の前に差し出されたエイスの手を前にして、ミストンの怒りは臨界点を超えた。

 プライドをズタズタに傷つけられたミストンはその手を取るはずもなく――――

 ぱぁん、と乾いた音が鳴り響いた。


「……ッ! な、なにするのよっ!?」


 エイスが抗議の声を上げる中、ミストンはゆらりと立ち上がる。

 どこか危うさを感じさせる表情に、エイスは息を飲んだ。

 硬直するエイスへ伸びる、ミストンの手。

 背後には断崖絶壁。突き落とすの動きだった。

 理外の行動にその場の誰も動けない。


「エイスっ!」


 ただ一人、ヴァットを除いて。

 勢いよく二人の間に割って入り、エイスを庇うようにしてその前に立つ。

 直後、代わりに突き飛ばされたヴァットの身体が宙に舞う。


「ヴァットっ!」


 エイスは崖に乗り出し手を伸ばすが、既に落下の最中にいるヴァットには届かない。


「ヴァット! ヴァーーーットォーーーッ!!」


 身を乗り出したまま、ただ声を上げる。


「……ッ!」


 だがすぐに、エイスは階下へと駆け下りていく。

 わき目も降らず真っ直ぐに、ただヴァットを助けるべく。


 小さくなっていくエイスの背を見て、ミストンは自分の犯した過ちにようやく気づいた。

 そしてそれが取り返しのできないことだということも。


「ぁ――――」


 気の抜けた声を吐くミストンに視線が集まる。


「ち、違う……今のは、わざとじゃ……あいつが前に立つから……」


 責められたと思ったのか慌てて取り繕うミストンだが、テイルズもボナンザも呆れを通り越し憐みの目を向けていた。

 冷たい目を向けながら、こそこそと二人は言葉を交わす。


「なぁこいつ、マジでイかれてねーか?」

「おぉ、まともな奴だとは思ってなかったけどよ。ポーション作れるから仕方なくって感じだったんだよな。でももうこいつと組むのやめようぜ」

「だな、やっぱ信頼できるのはリアル友人のお前だけだぜ」


 後ずさりながらもミストンから離れていく二人。

 ミストンはすがるように二人を見るが、目を合わさない。


「じ、じゃあよ、俺らは用事があるから!」

「またな、達者でな!」


 そのまま走り去っていった。


「おい! 待ってくれ! ポーション作ってやるから! もちろん無料だぞ!? おい! テイルズ! ボナンザ! おーーーーーーいっ!!」


 声を上げるも二人は戻ってこない。

 ミストンはがっくりと肩を落とすのみだった。

 彼らがパーティを組むことは、もう二度となかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ