引きこもり、高レベル狩場にいく⑤
「……っ! な……!?」
遥か後方から一部始終見ていたミストンは、その光景にあんぐりと口を開けていた。
その横で、テイルズとボナンザも驚いている。
「うおお、なんだあいつら。めっちゃ強えじゃねぇかよ」
「全くだ。人は見かけによらないというか……いやぁ恥ずかしい事をしちまったな。初心者かと思ってついイキがっちまったぜ」
「ははは、参った参った。まぁこれなら二人とも問題なさそうだし、行こうぜミストン」
ボナンザがミストンの肩に手を載せると、ぷるぷると小刻みに震えていた。
羞恥か怒りか、もしくはその両方か……ミストンの顔はゆでだこのように真っ赤になっていた。
唇を震わせながらようやく言葉を絞り出す。
「……チートだ。あいつはチートをやっている!」
「えぇ……」
ドン引きする二人に構わず、ミストンは続ける。
「銃は俺も試したが、錬金術師にはまともな攻撃スキルはない! あんなに威力が出るはずがないッ! チートを使っているに違いないんだッ!」
ミストンの言う通り、スキルツリーのほぼ全てをポーション系で構成されている錬金術師にまともな攻撃スキルは存在しない。
だがそれは合成弾をトリガーとする特殊な攻撃スキルが多数あるからだ。
運営はそれを見越して錬金術師の攻撃スキルを削り、そんなスキルツリーを見たプレイヤーは攻撃スキルはないと思い込んでいた。
ミストンもまた同様に、である。
「まぁチートかどうかは置いといてよ、どうすんだミストン、やり方でも聞くのか?」
「……そんな恥さらしな真似、するわけがないだろう」
「はぁ、面倒ごとは勘弁してくれよ……」
ため息を吐く二人を見ながら、ミストンはにやりと笑う。
それはとても嫌な感じの――――であった。
■■■
「うわーお! すっごい断崖絶壁だねー」
歩きながらエイスは、岩場から眼下を覗き見る。
現在二人が移動中の岩石地帯は、吹き抜けとなっている部分との壁がなく、見下ろせば目がくらむような絶壁であった。
「あまり乗り出すなよ。いわゆる『透明な壁』はないんだからな」
「はいはい、わかってますよー」
透明な壁、誤操作で落ちないように配慮された移動不可セルのことである。
ここでは階下へのショートカットのため、それは設置されていなかった。
しかし低レベル、かつ装備も整っていないプレイヤーが何の対策もなく落ちれば、落下のダメージで死は免れない。
万が一生きていてもそこは高レベルモンスターの闊歩するマップ。
それなりにレベルが高く、かつ即座にリカバリー可能なパーティしか使えないルートなのだ。
「ギチチチチチ……!」
金属を打ち鳴らすような音に、エイスが立ち止まる。
岩石の下から出てきたのは、またもニードルワームであった。
「おっと、おいでなすったわね」
「気をつけて戦えよ」
「わかってるって……ん?」
岩石の隙間から、更にずるり、ずるりと這い寄る黒い影。
その正体は無数のニードルワームであった。
「い、いっぱいきたよっ!?」
「……慌てるな。範囲攻撃で落としていく」
ヴァットは構えた銃から、ポーションバレット・バーストを放つ。
範囲攻撃、かつ攻撃力のある一撃。
着弾地点から放出された爆炎がモンスターを巻き込み、消滅させる。
だがその合間を縫って、新たなニードルワームが迫る。
「まだ来るよ!」
「わかっている。何とかディレイを耐えてくれ」
「くっ、ポーション連打ぁぁぁぁぁぁ!」
エイスはあらかじめヴァットからもらっていたポーションを叩きながら、ニードルワームの猛攻に耐える。
ヴァットはそれを後方から狙い撃つという繰り返し。
長いディレイにヤキモキしながらも、その一撃は確実に群れを一掃するのだった。
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「やはりチート……許せん奴だ」
ぶつぶつと呟きながらミストンは作業に没頭していた。
「いやぁ、男の嫉妬はみっともないねぇ」
「そして恐ろしい。うん」
他の二人も、である。
手にした丸い球を遠くに投げつけるだけの簡単な作業。
そう、彼らはニードルワームの卵をヴァットらの近くに放り投げていた。
ダメージの入った卵はすぐに孵化し、近くにいるプレイヤーを狙う。
すなわちヴァットとエイスを。
「なぁミストンよ、なんでこんなPKまがいのことをするんだよ」
「決まっている。ピンチにならないなら無理やりそれを作り出すまで。そうなったら、今度こそ俺たちの出番だ! 彼らを助け、あの銃の秘密を聞き出すのだ!」
その言葉に二人はドン引きしている。
「うへぇ、キモイ奴だぜ」
「歪んでるなぁ」
「……何か言ったか?」
「いいや別に」
「ふん、無駄口叩いてないで、働け。ポーション作ってやらんぞ!」
揃って首を振る二人に背を向け、ミストンは足元の卵を蹴っ飛ばす。
だが蹴飛ばされた卵は不規則に弾み、狙いとは違う場所へと転がっていく。
暗がりの中へ入ってしばらく、ごつんごつんと岩とぶつかる音が聞こえた。
音が遠くなり、消えてからしばらく、暗がりの中から何かが這い出てくる音が聞こえてきた。
ずしん、ずしん、ずしん……
「お、おい、何の音だ!?」
「穴から何か出てくるぞ!」
ずしん、と一際大きな音が鳴り、土煙が暗がりから吹き出すと共に巨大な岩石が現れた。
メガゴロン、真紅の瞳がミストンらに敵意の視線を向ける。
「ゴルゴルゴル……」
頭にのしかかっているニードルワームを引きちぎり、放り投げ、ミストンらに歩み寄るメガゴロン。
「ひいっ!?」
後ずさりする彼らの足場がパラパラと崩れ落ちる。
後ろは断崖絶壁、逃げ場はない。
さらに一歩、近づくメガゴロンの重さで足元が揺れる。
それが彼らの理性の糸を切る。
「ぎゃああああああーーーっ!!」
ミストンらの悲鳴が、谷底に響き渡った。




