引きこもり、高レベル狩場に行く④
「ったく、しつこい奴らだったわね。何が言いたかったのかしら」
「知識マウント取りたかったんだろ。ゲームオタクにはよくある事だ」
「いやーねー、私オタクってホント嫌いだわっ!」
ブツブツ言いながら石ころを蹴っ飛ばすエイス。
ヴァットはそれを複雑そうな目で見ていた。
「俺もお前もオタクって意味では大差ないと思うんだが……」
「何か言った?」
「いーえ、なんにも」
「?」
不思議そうに首を傾げるエイスに、ヴァットはついていく。
石の階段を下りていくと、霧が深くなってきた。
「この階層を抜ければ中間の街だ。ここには中ボスがいるからな。警戒しながら行くぞ」
「オッケー……ところでその中ボスってどんな奴?」
「大岩みたいなやつだな。メガゴロンってモンスターで、岩に擬態しているから注意だぞ。妙に丸い岩があったら注視してみろ。頭上に名前が表示されたらそれだ」
「あー、ただの岩ならエネミーネームは表示されないもんねぇ」
「そういうこと」
辺りは岩の迷路のようであり、エイスは岩に注意を払いながら進んでいく。
もちろん他の魔物も出現し、それも倒しながらである。
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「……はぁ、はぁ、やっと見つけたぜ」
ヴァットらを追っていたミストンらが、ようやくその姿を見つけた。
息を荒げ肩で息をしているのは、先刻遭遇したばかりのニードルワームが原因だった。
他の二人、テイルズとボナンザは呆れた様子である。
「なぁ、なんでついていくんだよ」
「そうだぜ。ほっとけばいいじゃねぇか」
「馬鹿野郎! あの二人がボコられるのを見た……じゃなくて、放っておいて死んだら寝覚めが悪いだろうが! 先輩として見守らねばならないだろう!」
「なるほど。二人がピンチなところを颯爽と助けて、俺つえーしたいってことね」
「えぇいうるさいぞ、お前ら! 文句があるならポーションは作ってやらねぇぞ!」
「あ」
声を荒げるミストンの後ろを、ボナンザが指さす。
岩石の壁の隙間から、ニードルワームが出てくるところだった。
「ちぃっ! トライアングルアタック行くぞ!」
「いや、ただ取り囲んで殴るだけだろ……」
「まぁまぁいいじゃねーか。それでやる気が出るんならよ」
「何をやってるお前ら! 速く来ないと倒せないだろうが!」
「へーへー」
二人はため息を吐きながら、トライアングルアタックに参加するのだった。
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「……なんか後ろが騒がしいな」
ちらりと後方を振り返りながら、ヴァット呟く。
「何してんの、早くいくわよー!」
「おう」
すでに先へ進んでいたエイスが手招きをしており、ヴァットは小走りで追いつく。
「どうしたの?」
「さぁ、狩りをしている連中がいるようだ」
「……さっきの奴らじゃないでしょうね」
「さてな。それよりそろそろ街の入り口だぞ」
ヴァットが指差した先、眼下には幾つもの灯りが広がっていた。
「へー、ちっちゃい街ねぇ」
「プロレシアと比べるなよ。タイポイと比べればでっかいだろう」
「まぁ確かにー……おや?」
エイスがふと後ろを見やると、ヴァットもそれに釣られて振り向いた。
はるか後方、岩壁の中に不自然な模様が見えた。
ヴァットが注視すると、頭上にはメガゴロンと表示されていた。
「エイス」
「わかってる。確認済み」
言うが早いか、エイスは腰に下げていた剣を抜き放つ。
続いてヴァットも銃と、カバンから取り出したポーションを構えた。
それとほぼ同時に、岩壁が土煙を上げて崩れていく。
巨大な岩石がぼこりと音を叩て落ちてきた。
それは両手両足を生やしたかと思うと、ゆっくり回転をし始めた。
反対側を向いた岩石の中央には、目と大きな口が張り付いていた。
らんらんと輝く赤い目で、ヴァットとエイスを睨みつける。
「ゴルゴルゴルゴル……」
唸り声を上げながら近寄ってくるメガゴロン、相対するエイスにヴァットはポーションをいくつか投げつけた。
複数のエフェクトが重なり、虹色のヴェールがエイスを包む。
「各種ステータスポーションに加えて、スピードポーションを投げておいた。前衛は任せるぞ」
「オッケー! 後衛も任せるよー!」
言うが早いかエイスはメガゴロンに向かっていく。
「ゴォォォォォォ!!」
両腕を振り回し迎撃を計るメガゴロンだが、エイスはそれをあっさり躱して肉薄する。
そして斬撃。
エフェクト一閃、後にエイスはメガゴロンの背後へと着地した。
「ふふん、私の速さについてこれるかしら?」
「ステータスが上がっているから避けられてるだけだぞ! 調子に乗るなよエイス」
「あぁもうわかってるって。せっかくのいい気分が台無しじゃない」
そう言いながら、エイスはメガゴロンに斬撃の雨を降らせていく。
だが表示されるダメージ値は20前後、メガゴロンのHPバーは微動だにしていない。
「硬った!何こいつ!?」
「こいつのDEFは相当高い!ただの物理ではまともなダメージは入らんぞ!」
「はぁ!?ならどうすんのよっ!」
「安心しろ。手は講じてある」
そう言ってヴァットはメガゴロンに向け、銃を構える。
込められたのは硫酸ポーションとの合成弾、ポーションバレット・アシッド。
がぁん! と鳴り響く銃声と共に、衝撃エフェクトがメガゴロンを貫く。
表示されたダメージ値は――――24564、であった。
「なにーーーっ!?」
戦闘中にもかかわらず、エイスは驚き声を上げる。
「おお、結構出たな。流石高DEF」
驚いたのはヴァットも同じだった。
尤もその驚きようはエイスのものと比べ幾分か大人しいものだったが。
「ちょっと何なの今のダメージっ!? 私の100倍あったんだけどっ!?」
「鯖読みすぎだろ。1000倍だ。……これはまぁDEFが高い相手に効果が高い弾丸だからだよ」
「はいチート! はいずるいっ!」
「いいから前を向け。まだ終わってないぞ」
ヴァットの指差す先、メガゴロンは身体をよろめかせながらも倒れない。
「ゴォォォォォォ……」
苦しそうなうめき声を上げるメガゴロンの銃創からは、溶け出す硫酸で全身から白い煙が上がっていた。
それでも戦意を失うことなく、一歩、一歩とエイスに近寄る。
振り下ろされる両腕の攻撃をすんでのところで躱す。
「……なんかこいつ、遅くなってない?」
「こいつを当てるとAGIとDEFに大きくデバフがかかるんだ。攻撃してみろエイス!」
エイスが回避の姿勢から一転、刃を翻し攻撃を仕掛ける。
斬撃エフェクトと共に表示されるダメージ値は354、普段のエイスの攻撃ダメージだった。
「あれだけダメージ与えて、しかもDEFまで下げるなんてやっぱりチートじゃないのーっ!」
「俺としてはDEFが下がりすぎるから微妙なんだけどな……」
ポーションバレット・アシッドは高DEFに大ダメージが与えられるのだが、運営側がその対策としてDEF低下のデバフ効果を追加したのだ。
これによりDEFの下がったモンスターにはポーションバレット・アシッドはあまりダメージが入らないのだ。
「ひきこもってないでパーティプレイをしろってことでしょ」
「かもな」
そう言ってヴァットは合成弾を抜き、通常弾に戻す。
軽口を叩き合いながらメガゴロンへ攻撃を繰り返し……ようやく倒したのだった。




