引きこもり、高レベル狩場にいく②
「おー!ここがヅェネーブ山脈!でっかいねー!」
緩やかな坂道を登りながら、エイスは山を仰ぎ見る。
その眼前には、巨大な山脈が長々と連なっていた。
すぐ後ろに続くヴァットがため息を吐く。
「言っとくがまだ着いてないからな」
「えー!?そうなの!?」
「そうなの。ついでに言うと攻略組がいるのはもっともっと下だ」
二人がいるのはヅェネーブ山脈へ続く道中。
モンスターは少なくマップも狭い、所謂移動用マップだ。
ヅェネーブ山脈はプロレシアと港町を繋いでいる巨大マップで、上層から下層へ向かって大きく深く広がっている。
中には街もあり、そこには現在攻略組たちが留まっている。
留まっている理由はそこに巣食うボスエネミー、サウザンドワームだ。
尤も、それをヴァットたちが知る由はない。
「おっ!なんか動いたよ!」
エイスが声を上げ、剣を抜いた。
木陰の中から現れたのは、小さなムカデである。
「ギチチチチ……!」
無数の脚を蠢かせながらエイスを見上げるムカデの頭上には、ニードルワームと表示されていた。
「ニードルワームだ。DEXがかなり高いから避け難いぞ」
「ふふん、任せときなって。レベルアップの成果を見せてあげるわっ!」
「そうかい」
エイスはヴァットの注意に親指を立てて返すと、剣を構えニードルワームに向かって行く。
「でぇぇぇーーーい!」
エイスは剣を振りかぶり、斬撃を繰り出す。
ニードルワームはそれを受けながらも、身体をうねらせ反撃する。
無数の鋭い爪による斬撃をエイスはあっさりと躱した。
「当たらないわよっ!」
攻撃の間隙を縫うようにして繰り出される、エイスの斬撃は以前とは比べ物にならぬ程の冴えを見せていた。
乱れ飛ぶ斬撃エフェクトとダメージ表示により、のたうちまわるニードルワーム。そして――――
「ギチチ……チ……」
断末魔を上げ、ニードルワームは倒れ伏し、消えていく。
エイスは勝ち誇るようにして、ヴァットを見て笑った。
「ふふーん、どうよ!この攻撃速度、回避力、速さこそパワー!」
「うん、見事なもんだ」
レベルアップと装備による補正で、エイスの攻撃速度と回避率はかなり上昇していた。
とはいえSTRには全く振っていない為、ダメージ自体は大して変わっていないのだが。
だが銃で支援すれば問題はないとヴァットは考える。
「これならある程度下層へも行けそうだな」
「でしょう!私すごーい!」
「……お、おぅ」
両手を腰に当て胸を張るエイスに、ヴァットはなんとか相槌を返すのだった。
緩やかな坂道を登っていくと、次第に雲行きが怪しくなってくる。
マップが切り替わったのだ。
緑は少なくなっていき、ゴツゴツとした岩が辺りに散らばり始めてくる。
「……なんか不気味な雰囲気ねー」
「ようやくヅェネーブ山脈の中に入ったな。まだ上層部だがモンスターの数が多くなって来るから、注意しながら進むぞ」
「あいあいさー」
ヴァットの言葉の直後、カサカサと這いずり回るような音が聞こえてくる。
エイス目掛けて3体のニードルワームが飛びかかってきた。
「って言ってるそばから出てきたよー!?」
慌てて剣を振り回すエイス。
RROでは囲まれれば囲まれるほど回避率は下がり、防御ステに振っていないAGI型は一瞬で沈んでしまうのだ。
「ひぃーーーっ!?」
3体のニードルワームからの攻撃に、たまらずエイスは被弾し始めHPバーが削れていく。
「ヴァット!ポーションを!」
「オーライ」
返事をするヴァットが構えたのは、銃だった。
ギョッとするエイスに向け、構えて弾丸が放たれる。
「ぎゃーーーっ!?何すんのよーーーっ!?」
鳴り響く発砲音と銃撃音、エイスはたまらず目を瞑った……が、何も起こらない。
恐る恐る目を開けると、ニードルワームたちが倒れ伏していた。
「な、何……?何が起こったの!?」
狼狽えるエイスの傍、ヴァットはニードルワームに歩み寄り、落ちていたかぎ爪の破片を拾い鞄に突っ込んだ。
「ポーションバレット・バースト……範囲攻撃ってやつさ」
投げると爆発する爆裂ポーションとの合成弾、これは周囲3セルを巻き込み高倍率のダメージスキルである。
だがポーションのままでは威力は出ない為、合成弾にして初めて真価を発揮するのだ。
ディレイが長く連射は効かないが、初期ジョブでは数少ない優秀な範囲攻撃スキルである。
なおRROではPK禁止の為、範囲攻撃はプレイヤーを巻き込む事はない非常に強力なスキルとなっている。
「とはいえ、範囲攻撃を生かす為に調子に乗ってモンスターをかき集めるのは愚の骨頂……デスゲームでなければ有効だがな。ペナルティが大きすぎる」
「ずるい!チートじゃん!」
「それに媒体も結構高価なんだよ。剣士もジョブチェンジすれば、範囲攻撃を覚えるから頑張るんだな」
「むぅ……」
頬を膨らませるエイスをヴァットは諭す。
それでもむすっとしていたエイスだったが、ふと何かに気づいたようにヴァットに尋ねる。
「……ていうか何でヴァットがそんな事知ってるの?」
「それは秘密」
「あーーー!もうこの秘密主義者!だからずるいって言ってるのよーっ!」
ヴァットは声を上げるエイスを無視し、スタスタと先へ進むのだった。




