引きこもり、新スキルを試す②
「……くそ!逃げやがったなあの野郎!」
弓使いの一人が悔しそうに声を上げる。
ヴァットにしつこくダイレクトメッセージを送っていた弓使いの手元のコンソールには、「メッセージが拒否されています」と表示されていた。
「こっちもだ。どうやらブロックされたらしい」
「ふん、反論出来なくなったらこれだ。厨房のやりそうな事だぜ」
弓使いたちは憤慨しながら、未だに文句を言っていた。
「……しかしどうするよ。あいつがいたら砂漠トカゲが孵って、マップに徘徊するようになっちまうぜ」
「そうなったらヤバいな。いくら俺たちでも、いきなり砂漠トカゲに突っ込んで来られたら、死んでしまうかもしれねぇ。早くどうにかして追い出さないと……」
考え込む弓使いたち。
しばし考えた後、一人が顔を上げた。
「……そうだ!いい事を考えたぜ」
男はニヤリと笑うと、砂漠トカゲの卵を見やるのだった。
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歩き回る事しばし、ヴァットは画面端に映る楕円状の球体に気づく。
砂漠の保護色となって分かりにくいが、砂漠トカゲの卵だ。
「よし、早速試し撃ちといくか」
銃を構えたヴァットが鞄から取り出したのは合成弾、ポーションバレット・インベナムである。
合成弾をケミカルガンに装填すると、ヴァットの手元にスキルウインドウが開いた。
「インベナムショット……なるほど、専用スキルが使えるわけだな」
RROでは特殊な武器やアクセサリーを装備する事で、それ専用のスキルを使用可能である。
インベナムショットのSP消費は0、恐らくただ弾丸を飛ばし、毒を付与するだけのスキルだと思われた。
「悪くはないが、こいつ相手に使うのは微妙だな」
すぐに孵化する砂漠トカゲの卵に、半端な攻撃は危険である。
それにこのスキル、ディレイや詠唱の有無すらわからない。
手間取っていると孵化されて仕舞う危険がある。
如何にヴァットと言えど砂漠トカゲには負けないが、結構ダメージを受けてしまうので出来れば戦いたくはなかった。
「別のを試すか」
ヴァットは銃から合成弾を取り出すと、新しいものを込める。
ポーションバレット・スタンピィ。
これはダメージを与えつつ相手を数秒間怯ませる効果を持つスタンプポーションと、通常弾であるアイアンバレットとの合成弾。
新たに開いたスキルウインドウには、スタンピィシュートと表示されていた。
その詳細を見たヴァットは驚いた。
「消費SP……50だと!?」
ヴァットの最大SPの3割近い消費量である。
これだけ消費して、ただ怯ませるだけとも思えなかった。
「こいつは期待出来そうだぜ」
ヴァットは狙いを定め、引き金を引く。
すると詠唱バーが一瞬出現し、それが終わると凄まじい破裂音と共に衝撃波エフェクトが砂漠トカゲの卵を貫いた。
頭上に表示されるダメージ値は7586、砂漠トカゲの卵のHPを二回削り切って有り余る程のダメージであった。
あまりのダメージに、ヴァットは目を丸くする。
「……なんちゅう威力だよ」
ヴァットの通常攻撃は700から800程度、つまり10倍を超えるダメージを叩き出した事になる。
他のジョブのスキル倍率は1.5倍から4.8倍。
アイテムを消費するとはいえ、この威力はまさしく破格であった。
「詠唱時間は0.5秒、倍率は10倍……ってところか。ディレイはかなり長いな。恐らく5秒くらいだな。ともあれ、かなり強力なスキルだな。これは試し甲斐があるってもんだ。……よし、次はこれを試してみよう」
ヴァットは新たな合成弾を取り出し、また獲物を探す。
「お、フレイムポーションとの合成弾も結構ダメージ出るんだな」
それからヴァットは合成弾を試しまくっていた。
何となく見つけた法則としては、状態異常を付与するポーションの合成弾は詠唱もディレイもないが、ダメージも通常攻撃と変わらない。
単純に射程が長く、同時に通常攻撃程のダメージを与えるくらいだ。
しかしダメージを与えるタイプのポーションとの合成弾は、かなり強力なダメージを与える傾向にある。
「ダメージポーションは何に使うのかと思っていたが……合成弾として使えっていう事か」
所謂ダメージポーションと言うものは、ダメージを与えるのと同時に微妙な状態異常をもたらすというものだ。
ダメージはそこそこあるものの、やや長めの詠唱時間とディレイ、加えて射程の狭さから、ヴァットは使いにくさを感じていた。
だが合成弾にすれば、長距離からの圧倒的攻撃力は非常に優秀。
「これならもっと強いモンスター相手でも、一確狩りで使えそうだな」
そう思ったヴァットは、ここでの試し撃ちを終える事にした。
経験値の少ない砂漠トカゲの卵より、もっと美味い狩場が近くにあるのだ。
移動しようとしたヴァットの進行方向から、砂を踏む音が聞こえてくる。
遠かったその音はだんだん近づき、ヴァットがそちらを見ると土煙が上がっていた。
土煙の先頭にいるのは、砂漠トカゲを引き連れた弓使いたちだった。
「……なにやってんだ?あいつら」
どうやら二人は追われているように見えた。
一瞬、助けようとしたヴァットだったが、銃を担いでいただけであれだけ文句を言ってきた二人だ。
ここで倒せば横殴りだのなんだのと文句をつけてくるのは想像に難くない。
ヴァットは少し考え込んだ後、鞄からポーションを一本取り出し飲み干した。
するとヴァットの姿がゆっくり透明になっていく。
これはクローキングポーション。
使用すると一定時間姿を消し、モンスターの視認を阻害する事が出来る。
攻撃を受けたり攻撃をしたら解除されてしまうので一方的に有利な状況を作れるわけではない。
しかも隠れるのに多少の時間がかかる為、緊急避難に使うにはやや難ありだ。
だがこれだけ距離が離れていれば、余裕で隠れることは可能。
「お、おい!あいつどこ行きやがった!?」
「しらねぇよ!さっきまでここにいたのに!」
「くそっ!や、やべぇ!兎に角こいつらから逃げないと!」
弓使いたちはヴァットが隠れているのに気づくこともなく、砂漠トカゲに追われて逃げて行った。
二人が立ち去ったのを確認したヴァットは、透明化を解除する。
「……なんだかわからんが、大変そうだな」
そう独りごちながら、ヴァットは砂漠マップを去るのだった。




