表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/30

引きこもり、異名を持つ

「なぁ、エェやろヴァット!アンタのポーション、欲しがっとる奴らがおるんや!」

「それは攻略組の連中か?」


 ヴァットの問いに花子は頷く。


「せや。攻略組に知り合いがおるねんけど、優秀な回復アイテムを欲しがっとるんよ!どうやらボスエネミーに手こずっとるようで、倒すには軽くてよく回復するポーションが必要らしいんや!な、頼む!」


 両手を合わせ頭を下げる花子を見て、ヴァットは考える。


(ようやくこの話が来たか……しかもこの状況、悪くない)


 攻略組にポーションが必要となるのはわかっていた。

 だがヴァット自分は攻略組に参加するつもりはない。

 何せヴァットは完全なる製薬型。

 VITもAGIも振っていない自分が高レベルパーティに参加するなど、命が幾つあっても足りないからだ。

 となれば第三者を通して売るのが理想的、しかも攻略組と繋がりのある商人の花子は最適と言えた。

 ヴァットは考えをまとめると大きく頷いた。


「わかった。いいだろう」

「ホンマかっ!?」

「あぁ、しかし条件がある。この話は先刻言っていたパーティ以外には他言しないで欲しい」

「それはかまへんけど……なんでや?」

「現状では攻略組の満足いくポーションを作れるのは俺くらいだろう。だが作れる数はそう多くない。一つか二つのパーティに卸すのが限界なんだよ。高性能ポーションの情報が出回れば欲しがるパーティは幾つも出てくるだろうし、そうなれば混乱は必至だ」


 花子は腕組みをして、うーんと考え込む。


「あー……それはありそうやなぁ。ネット民は自分勝手な人間が多いしなぁ。なんで自分らにも売らへんのやーっ!とか言って発狂するのが目に見えるわ」

「さすが商人、分かってるな」

「ふふん、お客様は神様やからな。神様なんちゅーのは、こちらがへり下れば幾らでも付け上がってくるもんや。そしてなるほど。つまりは有象無象には広めずに、一部の信用出来る連中だけに流して欲しいと言うこっちゃな」

「理解が早くて助かるよ」

「そういう事ならオッケーや。ポーション欲しがっとるんはウチの信用がおける連中やからな。あいつらならバラしたりせーへんよ」


 花子はウインクをすると、親指をグッと立てる。

 ヴァットはそれを見て、軽く肩をすくめるのだった。




 街に帰ったヴァットは、早速ポーションを生成し花子に渡す。


「ホワイトポーション。とりあえずこれが今の俺の作れる中で比較的作りやすく、高性能なポーションだ」

「ほほう。ふむふむ、えらい軽いな……ほならちょっと使ってみるかいな」


 そう言うと花子は、ライディングのスキルを使用する。

 ラクダが花子の元に走ってくるが、そのHPバーは真っ赤になっていた。

 ライディングは街中でしか使えず、しかも一度倒された騎乗用の動物はHPが1で召喚されてしまうのだ。


「タロー、ほーらポーションやでー。しっかりお飲みやー」


 花子がホワイトポーションを花子に飲ませると、HPが一気に3割近く回復した。


「おわっ!?な、なんやこの回復量!?」


 店売りポーションの回復量は一番いいものでも1割が限界だ。

 それを3割、加えて重量も1/3である。

 更にぽちぽちとホワイトポーションを叩くと、ラクダのHPは全回復した。


「グァー!」


 元気よく鳴くラクダを撫でながら、花子はヴァットの方を向く。


「とんでもないポーションやな!これなら攻略組も満足する思うで!」

「そりゃよかった。とりあえずどれくらい買う?」

「あるったけ!や!」

「オーケー。交渉成立だ」


 その日、街角では1日中ポーションを生成する音が聞こえていた。


「ひのふのみ……うん、ホワイトポーション300個、間違いなく!」


 翌日、ヴァットは出来上がったポーションを花子に渡す。

 受け取った花子は、ごそごそと鞄をまさぐるとそこからガマ口財布を取り出した。


「ほんなら一個1200ルピアとして、更にちょっぴりおまけして、合計370Kや」

「ありがたい」


 ヴァットは花子に礼を言うと、370000ルピアを受け取った。

 Kというのは1000を表すもので、桁の大きくなりがちなMMOではよく使われる単位だ。

 ちなみにその更に上1000000を表すのはMである。


「えぇってえぇって。そんかわり今後とも末長くご贔屓にさせてーな」

「おう」


 ニカッと笑うと、花子は右手を差し出した。

 ヴァットはその手を取ると、固く握り締めるのだった。




 早速アレフを呼びつけた花子は、ヴァットから買い上げたポーションを渡す。

 それを飲み干したアレフの目が驚きに見開かれた。


「な、なんだこのポーションは!?あり得ないくらい回復したぞ!?しかも軽い!」

「フフン、気に入ったよーやな」

「あぁ!こいつはすごい!ホワイトポーションはNPC売りもしているが、効果は全くの別物だ!」


 興奮気味に話すアレフを見て、花子は得意げに笑った。


「せやろー。しかも一本たったの1200ルピアや。手数料込みで450Kでエェよ」

「しかも随分安いな……いい錬金術師を見つけたのか?」

「んむ。せやけど匿名希望でな。名前はよー言われへんのや。それと他言無用で頼むで。堪忍な」

「……そうか。そうだな。確かにこれだけのポーションだ。攻略組は喉から手が出るほど欲しいだろう。錬金術師君にも迷惑をかけてしまう」

「そういう事や」

「残念ではあるが、そうだな。これからも仕入れは花子にお願いするよ。また買ってきて欲しい」

「任せや。……ほなウチはこれで」


 そう言って立ち去ろうとする花子に、アレフは呼びかける。


「あぁ花子。その錬金術師君……彼の事をなんと呼べばいいだろうか?」

「ふむ、そうやな……」


 花子は考え込むと、振り返り答えた。


「ポーションマスター、てのはどうや?」

「ポーションマスターか。なるほど。いい呼び名だ。では花子、ポーションマスターによろしく」

「おう!」


 花子はアレフに別れを告げ、雑踏に紛れ消えていくのだった。

タイトル回収!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ