引きこもり、レベル上げをする②
「よし、またレベルが上がったぞ」
消滅していくパペットガンナーを見下ろしながら、ヴァットは手元にコンソールを出現させる。
ステータス画面にはレベルアップにより獲得されたポイントが表示されていた。
それを全て、DEXへと振る。
「攻撃速度が上がるから少しはAGIに振りたいんだがな……いやいや、やめておこう。まずはDEXに振り切らないと」
ステータスを上昇させるのに必要なポイントは、上がれば上がるほど増えていく。
レベルの上限は99だが、2つのステータスをカンストするのが限界なのだ。
その為、ポイントの無駄遣いは出来ない。
「あれーヴァットやん、なにしとるんー?」
ヴァットが破片を拾い鞄に入れていると、背後から声が聞こえてくる。
振り向くとそこにいたのは、ラクダに乗った花子だった。
「花子じゃないか。こんなところで会うとは偶然だな。何してるんだ?」
「パペットガンナーがヘルメットの破片を落とすやん?それで作れる軍隊帽子が欲しかってん。ヴァットはレベル上げか?」
「おう、ここのモンスターはHPの割に経験値が高いからな。効率がいい」
「せやなー。遠距離なんが厄介やけど、対策出来るジョブなら美味いからな。ていうかエイスはどしたん?」
「別に四六時中一緒にいるわけじゃない。この間は偶々だ」
ヴァットの言葉を聞いた花子は、何か悪巧みを思いついたように笑う。
「……へぇ、ならヴァット。よかったらウチと狩りせーへん?」
その言葉に、ヴァットはキョトンと目を丸くする。
「何でだ?レベルが違うからパーティは組めないぞ」
「まぁえーやん。お互い戦闘職なんやから、経験値は入るやろ。てか一人で狩りするのは暇なんよ。気難しく考えんでも、マイペースにゆるーく狩る感じでエェし、ウチが壁になるさかい、ヴァットが後ろから攻撃してエェから」
「それなら構わないが……」
「ほな決まりなー! いこいこー!」
こうしてやや強引とも言える形で、花子とヴァットの狩りが始まった。
「お、パペットガンナーやで。とりあえず突っ込んでタゲ取るけどエェか?」
「お好きにどうぞ」
「ほないくでー!突っ込めタロー!」
「グァー!」
花子が命じると、ラクダがパペットガンナーに向かって突進する。
銃撃にて、それを防ごうとするがラクダはそれを物ともせずにパペットガンナーへとぶち当たり、ダメージを与える。
商人スキルであるチャージアタックはラクダに乗っている時にしか使えないが、ノックバックを無効化しターゲットに接敵しつつダメージを与えるスキルだ。
ディレイは5秒とかなり長いが、遠距離攻撃をしてくるモンスター相手にも戦いやすい。
「うりゃうりゃーーーっ!」
無事接敵を果たした花子は、ラクダに乗ったまま取り出した手斧を振り回す。
「さて、折角壁をして貰っているし遠慮なく攻撃させてもらうか」
ヴァットも銃を構え、射撃を開始する。
一発一発のダメージは花子以上だが、攻撃速度は三分の一以下である。
AGIにも振っている戦闘型商人との秒間ダメージ差は如何ともし難いものがあった。
とはいえ二人分の攻撃を受け、パペットガンナーはあっさりと沈む。
「花子、回復を」
減った花子のHPを回復させるべく、ヴァットが鞄からポーションを取り出した。
だが花子はそれを制し、自前のポーションを飲み始める。
「えぇってえぇって。初心者に回復アイテムは使わされーへんよ。それにウチはよーさんアイテム持っとるんや。商人はどのジョブよりもアイテムを持てるからな」
そう言いながら花子がポーションを叩くと、減っていたHPがゆっくりと回復していく。
「そうか?ならいいが……」
「エェんや。ほな次々いこかー」
花子はそう言うと、狩りを再開するのだった。
何度かの戦闘の後、ヴァットのレベルが上がる。
ソロ狩りを始めて6回目、花子との狩りを始めて2回目であった。
「おめっとー。てかヴァット、またレベルアップしとるやん!どんだけレベル低いんや。そんなんでよぉソロ狩り出来たなー」
「ははは、まぁポーション使ってなんとかだよ」
「ほほー、前に使っとった毒みたいなヤツやな?」
「そんなところだ……あ、また来たぞ」
T字の曲がり角に、パペットガンナーの姿がちらりと見えた。
花子はそれを見るや否や、ラクダに手綱を打ちつけた。
「任しときー!タロー、チャージアタックや!」
「グァー!」
ラクダが鳴き声を上げながら突進し、バキッ!と気持ち良い音を立てパペットガンナーに激突する。
そして追撃を仕掛けるべく、花子が手斧を構えた瞬間である。
パパパパン!破裂音が聞こえ、花子の全身を銃撃エフェクトが貫いた。
視線を向けた先にいたのは3体のパペットガンナーである。
花子は回復を叩きながら殴り続けるが、連続射撃の勢いは強く、HPは徐々に削れていく。
「まっず……ちょっと突っ込みすぎてもーたな……」
確かに商人のアイテム所持量は多く、そして花子は回復アイテムを多数所持している。
だが花子の持つ回復アイテムはあくまでも自然回復の補助。
戦闘時に使えるほどの回復量はない。
このままではマズい。そんな考えが花子の脳裏に浮かぶ。
花子が最後の一撃を振り下ろし、ようやくパペットガンナーを倒した。
「ふぃ、やっと1体か……マズいな。回復アイテムが残り少のうなってきたで」
依然、射撃を受けながらも回復材を叩き続ける花子。
チャージアタックのディレイはあと2秒、前方には3体のパペットガンナー。
通路の奥は見えず、チャージアタックを使いこれ以上突っ込むのも危険だと思われた。
「大丈夫か!? 花子!」
そして、後方からはヴァットが駆けてくるのが見えていた。
「下がりやヴァット! 数が多い!」
巻き込むのを恐れた花子は声を荒げる。
状況を察し立ち止まるヴァットを見て安堵の息を吐いた。
「よし、エェ子や。さてあとはウチが脱出せーへんとな……くっ、しかし中々……抜けれへん……っ!」
もがく花子だが、パペットガンナー3体による連続射撃のノックバックで思うように動けない。
チャージアタックのディレイがようやく切れはしたものの、奥へ突っ込むにはリスクが高すぎる。
ノックバックを無視して移動することが出来るこのスキルだが、ターゲットとなるモンスターがいなければ発動できないのだ。
「無理やり振り切るしかあらへんか……ッ!?」
ふと、後ろを見た花子は先刻のT字路、反対側から出てくるパペットガンナーを見つけた。
「しめた……あいつに突っ込めばここから逃げられるで! タロー!」
「グァー!」
花子は言うが早いか、後方のパペットガンナーへチャージアタックを発動させる。
ノックバックを無視しターゲットに激突すると、花子は即座にそこから離脱すべく元来た道を戻ろうとする。
――――が、それは叶わない。
移動しようとした花子を捉えたのは、反対側の通路から放たれた銃撃だった。
こちらの通路奥にも、パペットガンナーの群れがいたのだ。
「なん……やて……!?」
花子の耳にガチャ、ガチャと耳障りな機械音が聞こえてくる。
先刻逃げてきた通路からもパペットガンナーたちが迫っていた。
そして銃口を花子に向け、
パパパパパパパパパ! パパパパパ!
五月蠅い程の銃撃音が、銃撃エフェクトが、花子を貫いていく。
前から3体、後ろからも3体、計6体のパペットガンナーの群れに、花子は完全に捕まってしまった。
「く……た、タロー……っ!」
ラクダの機動力で無理やり切りぬけようとする花子だったが……
「グァー……」
弱々しい鳴き声を上げ、ラクダは花子を置いて逃げ出してしまった。
ライディングスキルによりプレイヤーが乗っている動物は、ある程度のダメージを受けると逃げ出してしまうのだ。
「まっず……!」
勢いよく減るHP、そして残り少なくなった回復薬。
花子の瞳に絶望の色が浮かんだ。




