二人の右京
「あ……?」
―――朝起きると、そこは全く見覚えのない場所。
白い天井、白い壁。まるで病院だと思っていたら、白衣を着た男がやってきた。
やはりここは病院か。
周りには心配そうな顔をしている人間たちが並んでいる。
「兄さん……っ」
俺を『兄さん』と呼んだ男が泣いている。みっともねぇなと思いながらも俺は自分の顔に手を当てて愕然とした。
自分も泣いていた跡があるからだ。
誰が泣いていたんだと思っても全く記憶がない。
困惑している俺を見て、医者は非情な言葉を紡いだ。
「あなたは大坂さんです。しかし、あなたの体を動かしているのは大坂さんではない」
何言ってんだ、こいつは。
でも……そうだな。俺は大坂姓こそ名乗っては居るが、大坂右京ではない。
右京は精神的ストレスから長い眠りに落ちたと、別の人間から聞いていた。
これから体を動かしていくのはこの俺、左京だ。
俺は乱暴にベッドから起き上がると、自分が右京ではないことを伝えて―――。
そして、東京の街へと繰り出していった。
右京の足跡を辿る旅へ。