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クラス転移はランチタイムの前に

作者: まならす

ふと思いつきました。ファンタジーもどきです

 高三の秋口、我々3-5は異世界へ転移した。クラスの全員が何故かヨーロッパ風の大広間に飛ばされている。

 俺たちは4限の終わりを告げるチャイムを聞き、喜びの昼食タイムを取るはずだったのだ。

 幸いにも、教室中が光に包まれた時咄嗟に弁当だけは掴んでいた。俺は飯を食いたいからだ。

 皆流石に困惑している。


「皆様、静粛にして下さい」


 どこからか現れたのは王女オブ王女と言いたげな煌びやかな服装の女。


「私はニルワーナ王国第一王女セラムです」


 ほら王女だ。大正解。


「この度は、突然の事に困惑なさっているかと存じますが私の話をお聞き下さい」

「この王国は、魔王により滅ぼされようとしています。そこで私共は異世界から同じ生命構成の人間族を召喚しました」

「異世界人は神によって特別な加護を受けるとあります」

「ですから、その力を以ってして魔王を討伐して頂きたいのです」


 女子はいつも通りにグループに分かれ密談している。その内声のデカい女が王女に物申し始めた。

 男子はうはwwwww魔王とかwwwwwwテンション上がってきたwwwwwwwwww派、受験勉強したい派、そして飯食うか派が一瞬で完成した。

 王女可愛くね?派は王女が可愛くなかったので完成しなかった。



「岡田、どうするよこれ」

「まあなんだ……とりあえず飯でも食うか」

「は?」

「お前も腹減っただろ。俺は聖人だから卵焼きくらい恵んでやらんこともない」

「よっしゃ飯食おうぜ」


 俺は岡田という。俺に話しかけてきたアホ面は梅岡だ。


「おい、安藤も飯食おうぜ」

「ん、ああ。そうだな」

「なんでお前ら平然と飯持ってきてんだよ。羨ましい」

「当然だろ、なあ?」

「当然だな」

「わけわかんねえ」


 安藤はよく分かっている。梅岡はよく分かってない。飯は大切だ。


 程なく、全国二千位の学力を誇る森がブチ切れた。


「あーあ、森ブチ切れてんじゃん」

「受験ガチ勢にしたら当然だろ」

「あいつキレさすとかアホだなあ」


 三人が呑気なのは、浪人に最も近い男達だからだ。


「ほれ、やるよ」

「おーサンキュ、卵焼きうめー!!!」


***


 ニルワーナ王国第一王女セラムは困り果てていた。バッチリ丁寧な口調で対応したのに、転生者達の反応が概ね冷ややかだからだ。

 これだから庶民は、と顔に出そうになるのを抑え、話を進めようとする。


「皆様は魔王を倒せば帰れます。ですから、何とかご助力頂きたく……」

「あの!」


 密談を終えたのか、声のデカい女が話を遮るのに顔を顰めそうになったセラムは、これまた見事に耐えた。


「私達の生活はどうなるんですか!?」

「いえ、ですから魔王を倒せば……」

「そういう問題ではありません。命の保証をあなた方は出来るんですか!」


 そーだそーだと多くの女子、一部の男子から声が上がる。

 一部の男子は飯を食っていた。意味がわからないとセラムは思ったが言葉を飲み込んだ。飯だけに。


「命の保証は出来ません」

「では、その魔王とやらを討伐する事には手を貸せません」


 異世界人はなんて臆病なんだとまたもや顔を顰めそうになるセラム。


「これは我々人族の使命なのです。そして人族はこのままでは勝てません」

「私達の問題ではない!」

「大体、目的を達成したら帰れるというのも体のいい話です!確かに私達は帰りたい。しかし、貴女の言い方は用が済んだらポイと言っているのと同義だ!」

「私達には人権がある!」


 女子は更に加熱していく。

 異世界人は面倒くさい。セラムは大変よく覚えた。


「……魔王討伐にはどのくらい掛かるんですか」


 眼鏡の男が、尋ねる。


「魔王城に着くまで最短で三ヶ月くらいかと」


 眼鏡の男は表情が抜け落ちた。そしてその内、怒りと絶望が入り混じって、普段の静けさを完全に失った。


「ふざけんなあああああ!!!!俺がどんだけ勉強して来たと思ってるんだ!!!!こんな事の為に……あああああ!!!!!!」

「こんな事ですって!?」


 遂にセラムは反駁してしまった。大衆から直に批判される経験が無いセラムには、ここら辺が限界だった。


「こんな事だよ!!!俺にとっては受験は命より大事だ!!!!!」

「そうだそうだ!俺も浪人許されてないんじゃい!」


 一番静かそうなとこからすら批判が溢れてきた。

 命の保証をしろと言ったり、その受験というのは命より大事だと言ったり、訳が分からないとセラムは本当の本当にブチ切れそうになっていた。

 そんな中、


「いやお前ら、常識的に考えろ。冒険とかめっちゃ楽しそうだろ!?」


と言う第三勢力の台頭に、セラムはちょっとだけ安堵し、


「卵焼きうめー!!!」


の一声で完全にブチ切れた。


***


「なんなんですの!?庶民の分際で!!!!どいつもこいつも王権に楯突くというの!?」


 うわあ、ブチ切れちゃったよあの王女。どうすんだこれ。


「王wwwwwww権wwwwwwwwww時代錯誤過ぎんだろwwwww日本はwwwww民主主義でござるwwwwwwwwwwww」


 安藤は爆笑した。梅岡は卵焼きに夢中だ。

 しかし王女、今の一言は完全に失言だろう。クラスの多くが今ので王女を敵と見做したらしい。

 魔王でテンション上がっていた組は、数の暴力で小さくなっていった。どんまい。これも民主主義だ。


「人権を守れ!!」

「暴挙を許すな!!!!」

「センター九割!!!!!」

「断固として行動は拒否する!!!!」


 うおお、敵意が噴き出る噴き出る。

 学生デモこわい。しかし、言い分も尤もだ。ちなみに俺は家の暮らしと、冒険を天秤に掛けて、どちらにも傾かないでいた。だから基本的に見守っている。


「ええもう良いですわ!あなた方のような低知能に頼んだのが私の間違いでしたわ!!!」


 遂に煽り始めた。もうどうにでもなれと言った感じだろう。


「低知能だからこっちの人権考慮しないで俺ら召喚したんじゃないすか?wwwwwwwwwwwwww」


 安藤は近年稀に活き活きとしている。本当に楽しそうだ。梅岡はまだ味わってる。なんだこいつ。


「人権なんか知りませんわ!!!さっさと帰ってくださいまし!!!!!今魔方陣を展開させますので!」


 なんという徒労。武力があるからなまじ強制労働させられないという事か。王女、ドンマイ。




 こうして、俺たち3-5の異世界旅行は終わった。




 その後、ニルワーナ王国とやらどうなったかは知らない。但し、その僅か三日後、今度は3-2が消え、同じように戻ってきた。多分セラムさんは反省してないし、成長もしてなさそうだった。

 頑張れニルワーナ王国。俺は応援してるぞ。

そうだ、厨二病患者召喚しよう

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