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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第7章 「絶滅級」
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討伐前哨

 ♢ ♢ ♢



 時間は数時間前に戻り。

 バルメス基地にて日の出とともに出立の準備に取り掛かる一団の姿があった。いや、準備という面では何時間も前からなのですでに黒衣の外套を纏って今かと出立を待っているのだ。

 数はレティの部隊から12名が加わりこれにアルス、レティ、リンネの計15人での討伐任務である。


「一々見送りはいらないんだけど、それになんで総督が来てるんです?」

「それはこっちのセリフだ。なんでまだ出立していないんだ」


 アルスは誰のせいだとジト目で睨むが、惚けたように反応を示さない。


「クラマの存在が厄介だということですよ」

「それはこちらに任せろ。今のところ動きはないようだが……いや、すでに動いている可能性もあるがな」

「だからだ。そうなったら全てこっちで請け負わなければならなくなります。シングルが着いたら警戒に当たらせてくださいよ」

「無論そのつもりだ」


 はぁ~とため息を吐き出したアルスにべリックはにやりと頬を上げた。

 これから大仕事に向かう者に対しては不謹慎なのかもしれない――何も心配していないとも取れるが。


「そう言えばアルス、お前の所の教え子は本戦に出るんだろ? 見んでいいのか?」

「それをあんたが言うか。総督もアリスの試合は見たかったんじゃないんですか?」


 そこでべリックは一層皺を深くしてニタリと笑んだ。


「抜かりは無い。すでに第2魔法学院の全試合は録画しておる。それも最高画質でな。部下に厳命しておいたから全角度からの撮影だぞ。この時のためにアルファの技術を結集させた機器を集めたのだから魔力の流動もくっきりだ。アリス君の試合は特に力を入れておる、運営が撮る物よりも遥かに上等だぞ。ハッハッハ」

 


 アルスも訓練の成果を見ておく必要がある。この際職権乱用は二の次だ。やはりいつもの試合よりも遥かに真剣味の増した大会でこそ真価が見られるというものだ。


「それはこっちにも回してくれるんでしょうね? 良い歳こいて大人げないことはしないでしょ?」

「儂も鬼ではない。どうしても見たいと言うのであればな」


 このクソジジイと思ったが口には出さない。べリックには子供がいないため、アリスを孫のように思っているのかもしれない。そうでなくともべリックはアリスにとって足長おじさんのようなものだ。彼女の学院入学にも一枚噛んでいるらしい。

 孫の晴れ舞台に息を吹き返したように奮闘する姿はどこにでもいる爺さんのようでもある。やり方は半端ないが。


 べリックは神妙な顔つきに変わり。


「無事に帰った時には前向きに検討しよう」


 それでも検討なのかと落胆する。もう呆れて何も言えない。


「さて、そろそろ行くか」

「任せたぞ」

「こっちは請け負いますが……」

「わかっておる。他国の奴らには介入させんさ」


 「まあ、それまでには終わらせるが」と言って日の出を背に一団は駆けた。すぐにバベルの防護壁を抜ける。

 目の前に広がる絶景にアルスは嘆息した。


(こんな任務でもなきゃ出ることもない……か)


 壁の中のご都合な天候とは違う外界の天気だが、今日は清々しく瑞々しい。


「行きますか鬼退治っすね」

「鬼とは限らんぞ」


 アルスの脳内には鬼、所謂オーガなど外見が酷似していることもあり、二足歩行など人間に近い種を一般にはオーガ種と呼んだり、単純に鬼と言ったりする。


「アルくんはもう少し教養を学ぶべきっすね……たとえっすよ、喩え」

「…………返り打ちに会わなきゃ良いけどな」

「おっ! 言うっすね。でも返り打ちなら隊を率いるアルくんも同じってことっすよ」

「それは……ないな」

「ないっすね」


 そんな二人に気負っていたリンネが呆れるように肩を竦めた。


「お二人は随分余裕があるのですね」

「当然だ。今の所討伐に苦労したことはないからな」

「……そういうことっす。アルくん、終わったらバナリスっすよ」

「わかってる……そうだった、出発前に言っておくことがあった」


 隊員が顔を引き締めて視線を向ける。

 だが、すぐに喜びが湧き、やる気を見るからに漲らせることになるとは知らず。


「今回討伐に成功した場合の報酬はお前たちで分けて構わんぞ」

「――――!! いいっすか? 推定でもSレートの討伐報酬は馬鹿にならないっすよ。まして他国も関与してるとなれば、かなりの……」

「だろうな。俺もただ働きするつもりはない。金よりも良い物を貰うつもりだ」


 アルスが企むような含んだ笑みを浮かべるが、配分で言えば隊長が占める割合が多いのは当然であり、それを放棄するということはその分隊員一人の報酬が跳ね上がる。

 無論彼らとて魔法師として国のために尽くす所存なのだろうが、生活する上でも必要な金銭、装備を整える費用を考えれば素直に嬉しいのは人の世の性なのかもしれない。

 アルスの金よりも良い物という言葉に反応を示すが、声に出して何か問い掛ける者はいなかった。

 サジークなんかは涎を垂らしそうな勢いであるのだから。今から使い道でも考えているのだろうか。

 彼らにとっても一世一代の大仕事と言っても過言ではないのを忘れないで欲しいものだ。


「さぁ、行くか。狩りの時間だ」


 アルスの言葉に獰猛な笑みを浮かべた隊員たち。

 黒衣の一団は濃い原生林の中へと姿を消して行った。



 隊列は菱形に戦力を置き、先頭にアルス。中心に隊の要としてのリンネを置いてレティは傍で護衛も兼ねる。


「やはり、大規模で魔物を掃討したようだな」


 結構走ったにも関わらず遭遇した魔物はおらず、気配すら感じない。

 リンネの反応もないことからも広範囲に渡って異形が消え失せたということだろう。


「だが……」

「おかしいっすね。さすがにここまでいないとなると」


 耳から通信機を通して伝わるレティの声に頷く。


「おそらく、本能的に魔物が遠ざかっているんだろうな。食われると思ったのか、それとも本当に食われたのか。どちらにしてもAレートにはない光景だな」


 Aレートに限らず低レートの魔物を従え、一帯を支配する傾向にあるが、明らかにAレート以上の魔物であるにも関わらず他を遠ざけるような習性は聞き慣れない。


 半分まで来ただろうかといった辺りでリンネが反応した。それをアルスは機敏に感じとり通信機から伝わる前に隊員に停止の合図を出す。

 そのまま菱形の隊列を維持したまま、周囲に睨みを利かせる隊員にさすがだと脱帽する思いでリンネに歩み寄った。さすがに近過ぎるとハウリングが生じるためでもある。


「北500mほどに人影を確認しました。数は周囲に5人、生存者でしょうか?」


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