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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第6章 「譲れない戦い~確固たる役目~」
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総合順位

 ベッドの上で2年生の試合観戦をしていたロキ、テスフィア、アリスは安心して試合の進行を見守っていた。

 さすがに決勝ともなれば容易くない試合ばかりだと思っていたのだが、フェリネラは他の追随を許さない圧勝。イルミナは善戦したものの惜しくも一歩及ばず敗北。

 彼女に関しては無表情とはいえ、疲労すら表に出さないため勝者のようですらあるが、その頬には今も汗に混じって悔恨が伝っている。

 これでイルミナの相手の実力は測れた。それだけで試合の結果が手に取るように分かると言うものだ。フェリネラとの実力は歴然としている。

 そして3年生の試合が終わった頃に遅れてフェリネラが姿を現し、今後の予定を告げた。

 問題は未だにフィリリックが目を覚まさないことにあるのだと言う。


「大会委員は試合の変更に特例を敷くべきかかなり議論されたらしいけど、今大会にはアルファ国元首、シセルニア・イル・アールゼイト様がお見えになっていて決定権を持っている元首に委ねられることになったわ。第2魔法学院は1年生の部を後回しにすることになりました。先に2年の部を行い総合ポイントに1年の部に影響がなく、フィリリック君が起きなければ同率3位とするようです。決勝に関してはロキさんの負傷により不戦勝となることで一致したようよ」


 個人の優勝があるとはいえ、学院での団体優勝が優先されるのは大会趣旨上必然なのだろう。


「じゃあ、誰が優勝かはわからないということですか?」

「そうね。単純な戦闘力ならロキさんの優勝が相応しいのでしょうけど、怪我もまた自己管理ですし」

「これぐらいは怪我の内に入りません。この二人のどちらかなら問題なく試合できます」


 断固たる決意で宣言するロキにフェリネラは眉間を摘まんでため息を吐く。


「だ~め! これで悪化でもしたら私がアルスさんに怒られてしまうわ。それにリーダーである私の決断に異を唱えないの。これは事前に確認したはずよね?」


 苦い顔をして食い下がることができないと悟る。子供ような我儘は許されないのだろう。ましてやアルスを引き合いにだされればロキに選択の余地はない――少しだけ心にしこりを残したとしても。


「結果が出てからだと私情が入ったと思われそうだから先に組み合わせを言うわね。悪いけど3位決定戦にはアリスさん、決勝でフィアとロキさんだけど表向きは怪我による不戦勝扱いでフィアの優勝というのが第2魔法学院の筋書きです」


 ロキは目を伏せてテスフィアに負けたと思われることの遺憾を内に秘めた。


「わかりました。私が3位決定戦に出るんですね」

「ごめんなさいねアリスさん。満足に戦えないとは思うけどエレメントにはエレメントで対抗するのが定石だから勝算でいうとアリスさんのほうが高いのよ」

「そういうことなら喜んで引き受けます」


 勝てる可能性を考えたといわれればアリスも悪い気がしないどころか、破顔して応えた。


「表向きはフィアの優勝だけど第2魔法学院で記録される成績は同率優勝になるからね。あくまでも大会の上で順位を決めなければならないからこうするだけだからね。勘違いしちゃダメよ」


 上気するほどご満悦なテスフィア。ハッと我に返り。

 

「もちろんです。ロキもそうだし、実際アリスとではどちらが勝ってもおかしくない結果でしたから、優勝よりもここまで勝ち進んで来れたことに驚いているんです」

「そういうことにしておきます」

「本当なのに~」


 フェリネラもそれを聞いて綻ぶ頬に任せた。



 この報は観戦している数万の観客に知らされることとなる。

 テスフィアとアリスの試合、ロキとフィリリックとの試合を見ていた者からは反感の声は一切ない。残念そうな空気は再度見れるたぎる試合に期待してのことだったが。

 死力を尽くした選手たちに健闘を称える拍手が静かに湧いた。


 すぐに2年の部決勝が行われ、圧巻なまでの一方的な試合展開に気が付けば観客席では喉を鳴らす音だけが鳴っている。

 図らずもフェリネラの二つ名、【オルケーシス】を広める結果となった。

 相手が気の毒になるほど、見ている者に畏怖を抱かせる試合に勝者へ送られる喝采はぎこちなく、所々に敬仰が入り交じっている。

 熱を鎮静化させる試合だったと言えた。

 そして再度熱を吹き返したのは第2魔法学院の優勝が決定したからだ。全ての試合が終わった後、表彰式があるのだが、忘れたように喝采が第2魔法学院の選手へと浴びせられた。


 時間は流れ、恙無く表彰式が華やかに執り行われた。未だフィリリックは目覚めず、早々に表彰式の準備が整われる運びとなったのだ。

 ロキは受け取った準優勝の小じんまりとしたトロフィーを訝しげに眺めていた。

 隣では持て余し気味にテスフィアが身の丈ほどのトロフィーを危なげに支えている。


(これは…………汚い)

 

 これが普通だとは思いたくはないが、探るように見つめてアルスにどう報告すれば良いのか思案した。

 そう、ロキのだけでなく優勝トロフィーにもミスリルが使われているのだが……探知によって探って見るとどうにも違和感しかないのだ。


 内部構造を全て把握しているわけではないが、この表層と深部での反応の違いに顔を顰める。つまるところミスリルが使われているのは表面部分だけだ、所謂メッキのようなものだと推察してみる。

 いや、ほぼ確信に近い。使われているミスリルは少量だとわかる。やり方が汚いというのはミスリルは鉄のような重量を持っているのだが、芯に使われている材質が何にせよカモフラージュするように重量を持っているのだ。持っただけでは判断が付かないのだから汚い。


 不可抗力とはいえ、提案したロキは罪悪感のようなものに苛まれ始めるが、諦めるしかないのだろう。ガクリと肩を落とす。トロフィーは優勝を、勝者を称える飾り、証明のような物で融解して別に作り変えるなど想定しているわけではないのだから。


 総合優勝した第2魔法学院、如いてはアルファには様々な特典が付く。

 一部交易の関税免除もその一つだ。

 学院には各国の最新AWRの寄贈。1年のスポンサー契約によって大会終了時から一年間は試作品などを優先的に回される。AWRに限らず魔法に関わる一切が流入するのだ。そのため、他国からも物品の購入を目当てに渡航者が増え国自体が潤う。

 アルファを中心に貿易が盛んになるとも言えるだろう。

 こういった催し物は魔法師の偏見を取り払う目的もある。人類を救う誇り高い職業とはいえ寿命を全うできないことのほうが多い。そんな戦地に両親は笑顔で送り出せるはずもない。貴族の場合はその限りではないが。


 だからこそ魔法大会は必要だと言える。簡単に言えば魔法師の供給量を途絶えさせないための意識改革だ。これから魔法師を目指す若者の意欲を高める宣伝でもある。

 それは大会が盛り上がるほどに顕著に表れる。当然優秀な魔法師を育成する力があると評価され来年以降の第2魔法学院の門を叩く雛が増えるはずだ。

 アルファでは年間300人近くが軍関係各所へと配属される。これが年間の供給量だ。少ない年は200人を切ることもあるが、アルスのおかげで年間死亡率の低下は大きく若者の踏み出す一歩を後押しした。


 閉会式も終わり、厳粛に行われたかのように見えたが、控室に集まった選手たちは改めて手放しで優勝に歓喜した。この時は全員が勝者であり、全員で勝ち取った栄誉だ。


「一致団結したことで第2魔法学院、悲願の優勝を叶えることができました。胸を張って凱旋できますね」


 『ですが、これに慢心せず今大会で各々課題が見えて来たことでしょう。負けてしまった方も更に己を高める努力を怠ること……を』と、フェリネラはそんなことを言おうとしていたが。


(今は無粋かもしれないわね)


 呆れるほどの浮かれっぷりに嘆息ながらも、今この時は口を噤む。

 それに選手たちにはもう一つお楽しみというか将来に関わるイベントがあるのだ。



 毎年7カ国魔法親善大会の後、優勝国の宿泊するホテルにて祝勝会が開かれる。今大会は思いのほか早めに終わったはずなので今大急ぎで準備が行われているはずだ。

 二日間行われるパーティーは、各日とも三次に分かれており、二日目最後が祝勝会に当たる。パーティーであるのだが、大会とは別の緊張が選手たちを待ち受けていると言えた。

 初日の一次は特別であり各国の軍関係者、二次では貴族などの入場が許可されているため、スカウトなど声が掛かることも珍しくはない。フェリネラやテスフィアのような貴族には早々掛からないのだが。

 それ以外の選手にとっては他国だろうと部隊の配属が決まるドラフトのようなものだ。

 以前の第2魔法学院ならばアルファ軍、各隊の隊長などから直接勧誘を受けることもあった。だが、フェリネラは今回に限りは自国に加えて他国の勧誘が活発化すると知っているため、引き抜かれる可能性も考慮している。

 交渉次第では卒業後というのが通例だが、一般人であれば強くは出れないだろう。そうなると顔ぶれが変わることもあるのではないかと危惧しているのだが、彼女では彼らの将来を左右する選択を妨げることはできず、尊重して見守ることを喜ぶべきなのだろうと言い聞かせていた。

 



 初日、この後の一・二次パーティーまでは2時間以上あるため、一度ホテルに引き返す。

 帰りの話題はやはり勧誘に関してがほとんどだった。

 テスフィアやアリスは魔力の回復を待つだけで普通に動いても問題はない。ロキも歩く程度には支障がないほど回復していたが、一応車椅子に乗っている。

 無論自動走行であり、疑似魔力を動力としているため、乗り心地は申し分ない。


「この後もある意味戦場よね」


 そうテスフィアが溢す。貴族の中でも名門のフェーヴェル家では気軽なものだ。部隊配属など満を持してコネの出番なのだから。

 他国からの勧誘はないとしてもアルファの部隊からは声が掛かりそうなものだ。そういった時の対処もお手の物だろう。ネームバリューは伊達ではない。

 しかし、そうでない者はというと。


「試合より緊張するかも……断り方とか何か粗相をしたらと思うと……うぅ」

「アリスは断るつもりなの? どっか良い所から声が掛かるかもしれないわよ。レティ様も見ているはずだし、お誘いが掛かれるかもしれないのよ」

「それはそうだけど、今は先のことなんて考えられないし、今の私じゃ逆にプレッシャーが」

「まぁ、それはそうだけど、レティ様の部隊は誰もが憧れるエリート部隊、それを蹴るのも逆に……」


 テスフィアが不吉なことを言うが。


「それは大丈夫でしょう。レティ様はアルス様と任務に赴かれましたので、誰かが残って代役を立てるかもしれませんが」


 ロキの一言にどう反応していいのかわからないアリスは問いを投げる。


「それを言うならフィアだって声が掛かるかもしれないじゃない。それにお見合いなんてことも、婚約の打診なんて絶対ありそう」

「うっ……聞きたくないっ!! ぜ、全部突っ撥ねるわ! うん、それで解決……だけど、酷かったら助けてぇアリスぅ~」

「えっ! 私なんかじゃ逆に不興を買うかもしれないから、それはちょっと……」

「薄情者~! 後生だからぁ~」


 捨てられた猫のような潤んだ眼を向けられたアリスは肩を竦めて、泣く泣く折れた。


「そっちのほうはわかったけど、本当に隊の勧誘があったらどうしようか」

「たぶん大丈夫。私の場合は勧誘も先にお母様を通さないといけないし、でもレティ様の部隊ならば即答ね」

「え~と、じゃあ私の時はフィアにお願いしてもいい……よね?」

「わかったわ。互助でいきましょ」


 とそんなやり取りを聞いていたロキは細めた眼で嘲笑するように見ていた。


「何よ!」

「殿方から声は掛かるかもしれませんが……」


 ロキは二人、特にアリスの一部分に視線を固定する。女性の特徴の一つ、服の上からでもくっきりとわかる双丘。

 いつの間にか羨ましげに見惚れていたと頭を振り、頭から二つの膨らみを掻き消す。


「レティ様から本当にお声が掛かると思ってるんですか、ちょっと夢を見過ぎです……さすがに1年生では将来性に不安があるでしょうし……それにお二人では……フッ」


 ワザとらしく失笑したロキ。


「良いでしょ! 夢を見るのはタダなんだから!」

「ロキちゃんは軍にいたからいろいろ詳しいんだったね~」

「では現実を教えてあげましょう。レティ様の部隊は個人でも隊長として部隊を率いることのできる猛者ばかりです。二桁は当たり前、三桁でも実際にレティ様の御眼鏡に適った者だけだと聞いたことがあります。ましてや、レティ様の部隊はアルファの最高戦力と謳われるほどの精鋭部隊ですよ。それでもまだ夢を見たいと言うのなら何も言いませんが」

「うっ…………」


 さすがのテスフィアも二桁という常人では到達できない領域の順位に幻想が冷める思いだった。

 十万人を超える魔法師の中で九十人しかなることができない順位。四桁の自分では夢のまた夢なのだ。


「ってそんな戦力がアルと任務って……」

「…………」


 ロキは失言だったことを悟る。


「ロキちゃんアルの任務って……」

「知りません! 私も詳しいことは何も」


 不承不承納得したのだろう。アリスはそれほどの戦力をぶつけなければならない事態に自分が知らないということにロキ同様不安を覚える――それが階位の差だとわかっても。


「アルス様が帰ってきたら訊いてみることですね。教えてはくれないでしょうが」

「だろうね……」


 テスフィアの空笑いの中にはしっかりと不安が居座っていた。



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