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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第6章 「譲れない戦い~確固たる役目~」
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真剣勝負の行き着く先

 アリスはじっと相対するテスフィアを見詰めていた。

 そして発動待機していた残りの円環を前に出すが、そこから斬撃が放たれることはなかった。次第に光が弱まり、円環の中は奥の景色を映す。

 無駄な魔力の消費を控えたために発動を思い止まったのだ。



 ♢ ♢ ♢



 この状況に一番驚いているのはテスフィア本人である。維持するだけで相当魔力を消費しているのか顔を引き攣らせていた。咄嗟のこととは言え、まさか投擲するだけの魔法が実際の武器のように振るわれたのだから呆然と頭の中を整理するものの、結局は混乱するばかりだった。

 それでもこうして維持できているのはやはりアルスの訓練のおかげだ。防げたのは紛れもない偶然だが。

 単にアイシクル・ソードほどの上位級魔法でないと対抗できないと判断したからだった。たとえ本体ほどの威力がないとはいえ、斬撃が二つも直撃すればただではすまない。頭の中では二つの斬撃を斬れるほどの魔力密度を持った魔法ならば、程度の考えしかなかったのだ。


 無論、そのためにアイシクル・ソードを使い発現した所までは覚えている。しかし、当然のように間に合わないことも悟っていた。だからこそ理解に苦しむ。

 そして自分が生み出した氷の剣を一瞥して苦笑を洩らす。

 間に合った対価として随分不細工なアイシクル・ソードもあったものだと。刃にはおよそ斬れるほどの鋭さはない。それでも武器としては十分な威力を持っているのだろう。


 今でこそ座標を変数で意識的に組み替えられるが、それだけでも難儀だ。とても戦える状態ではない。

 咄嗟にテスフィアは思考を止め、身体の感覚を鋭敏にして今の状態を身体に覚え込ませる。自分がちまちま頭で思考を巡らせるよりも身体に覚え込ませるほうが得意なのだから。斬撃を防いだ時はそれこそ腕で顔を庇ったが、すると連動するように剣が振るわれたの思い出す。


(だったら……)


 相対位置を動かさず固定し、一方で腕の振りに合わせて動かす。頭では手を動かす感じだ。

 するとイメージした通りに剣が少し傾く。


(これなら使える!)


 僅かなタイムラグもなくすんなりと言うことを聞く氷の剣に力強く頷き、手に力が籠もる。

 気を抜けばすぐにでも崩れ去ってしまいそうな程、不安定な感覚だが今はそれでいい。使いものになるだけ得難い力だ。そして咄嗟のこととはいえ、すぐに同じ魔法を発現できる確証はなかった。


 この剣のことをテスフィアは知識としてあるものの、自分がどのようにして魔法を構成したのかは定かではない。

 左腕で身体を抱くように回すと、剣もまたテスフィアの前で反対にゆっくりと回り込む。

 使えるモノは何でも使う。ニッと口角を釣り上げ。


「やってくれたわね」


 勢い良く腕を払うように開く。

 連動した氷の剣が煙を切り裂きながら横薙ぎに払われた。重さからなのだろうか、身体を引っ張られながらもなんとか耐える。もっと常時座標を変数で組み替えていけば振り回されることもないのだろうが、今の彼女には難しいということだろう。

 少しよろめきながらもしっかりと踏ん張る。腕を振るうように動くとはいえ、維持するだけで魔力が減り続ける。感覚に頼っているが最低限の座標を常時投射しなければ今にも霧散してしまいそうなほどだった。


(長時間は無理ね)


 アイシクル・ソードは魔力を媒体に魔法というプロセスを踏み、顕現させている実体ある物質だ。しかし、その構成要素が魔力である以上、いつまでも実体を維持させておくには魔力の供給が必要になる。すでに魔力量は馬鹿にならないほど減少していた。


「今度はこっちの番ね」


 不敵な笑みを浮かべてテスフィアは全力で駆けた。

 アリスもシャイルレイスが防がれたことで接近戦しかないと思い、動き出す。

 剣戟が鳴り響く。

 同じことの繰り返しがテスフィアを徐々に追い詰め、頬を穂先が掠めた。だが、その後はいつもと違う光景である。

 掠めた槍を引き切る前にアリス目掛けて真横から氷の剣が空気を押し退けながら迫りくる。

 咄嗟に身を屈めてやり過ごすが、その代わりにテスフィアの蹴り上げた足がアリスの腹部を捉えた。槍の腹で直撃は避けれたものの大きく飛ばされる。


 芳しくない戦況にアリスは嬉しそうに歯噛みした。あの巨大な剣一振りでひっくり返されたといっても過言ではない。

 当然、一撃でも受ければそれだけで勝負は決してしまうだろう。仮に防げたとしてもあの威力では自分の身体など軽々と宙を舞うに違いない。

 地面に摩擦痕を残しながら止まると、追い縋ってきたテスフィアがAWRを上段から勢い良く降ろすと連動した氷の剣が縦長の影を濃くする。


 ドンッ! 地響きがその威力を物語り、地面を易々と砕く。

 間一髪でかわせたからよかったようなものをあんなモノを受けたら心的ダメージに変換されるとはいえ、無事で済む気がしない。生々しい破壊音を聞けば背筋が一層凍りつく。

 そして陥没した跡を一瞥すると、土煙に混じって確かな冷気が蔓延している。底は凍っているようだった。


(これだけの魔法……)


 アリスはテスフィアを見て得心する。

 相当堪えているのだろう。表情には余裕がなく、神経を研ぎ澄ましているかのように鋭い眼差しでチラリと氷の剣を見ている。

 呼吸も荒い、無論それは自分自身にも言えることだ。


(フィアもかなり無理をしてる)


 つまり、短期決戦に変わったことを意味していた。

 お互いに魔力の残量もそう多くは無い。今ではアリスのほうがまだ余裕があるのだろう。しかし、あのアイシクル・ソードを打破するためには彼女も相応のリスクを負う必要がある。

 唯一の方法、一応アルスにレクチャーされたが、訓練もなく、また今の自分程度の技量では到底扱えないだろうと言われた。今にして聞いておいてよかったと微笑を溢す。


(何もできないで終わるよりは試すほうに賭ける)


 一か八かになってしまうのはアリスの性分ではなかったが、そんなこともいっていられない。最低でもギリギリの勝負まで運ばなければ避けられてしまうかもしれなかった。

 今のテスフィアを相手に自分では時間を稼げるかすら疑問なのだから、難しいことも理解している。それでも戦っているのは自分で一人しかいないのだから、戦況を良くも悪くも整えるのは自分次第だと決心を固めた。


 円環を固定させていることで魔力も少なからず減少している。やはり猶予はない。だが、これがあることによって常にテスフィアの意識を向けさせることにも成功しているためまったくの無駄ではない。それにこれはのちに使うことにもなるのだからと真上に固定する。


 アリスは無謀だと知りながらも再度テスフィアと刃を交える。単純な斬り合いでは分があるとはいえ、深追いして一発貰えばそれで終わりだ。攻め切れないがそれでよかった。

 赤い髪を額に張り付けたテスフィアの剣を交わし身体に少しずつダメージを蓄積させる。理想は心的ダメージに変換されたことで意識が鈍痛により散漫になり魔法が解けることだが、アリスの知る親友はここぞとばかりに限界を超えた力を発揮する。

 彼女を知るアリスにとってそれは希望的観測でしかない。そうなればいいなどと言うのはこの場では不要……アリス自身そんな決着は望んでいなかった。


 荒い息は無視されたように互いに視線を逸らさない。一瞬の油断が命取りとなることを両者の身体は理解しているのだから。

 テスフィアもまた、一撃当てればと安直に大きく踏み出せない理由はアリスの槍が隙あらば深く刃を肢体に這わせてくるだろうと慎重に動いているからだ。すでにアイシクル・ソードを維持しているのも限界に近い。じわじわと身体を斬り付ける痛みが鈍痛へと変換されるため、集中力が途切れそうになるのを必死に手繰り寄せている状態なのだ。

 

 アリスも一発も喰らうことが許されない紙一重の攻防を繰り返していた。張り詰めた糸がいつ切れてもおかしくない綱渡りな交戦である。



 観戦席では息を呑み、その攻防がいつまでも続くことを願うように釘付けになっていた。華麗な槍捌き、刀捌きは武芸のように人々を魅了する。綱渡りのような光景は喉を詰まらせるような緊張感をもたらすのだ。

 手に汗握る。瞬きすら惜しいと一進一退の攻防を目を皿のようにして見届けた。 

 そして、泡立つような気配を本能的に感じ取った直後――。


「きゃっ!!」


 そんな女子らしい悲痛な声だけが聞こえた。


 凄い勢いで壁に一直線に激突したアリスは肺から息を漏らし、呼吸が乱れた苦痛と頭痛に顔を歪めた。浮いていた円環も金属質な音を立てて地面に力無く落下する。

 僅かに深く入ったがためにテスフィアに少しばかり深い傷を付けることに成功したが、それまでの蓄積した疲労がほんの少しだけ、その脚を地面に張り付けた。そのため、アイシクル・ソードの激烈な洗礼を受けたのだ。辛うじて今も意識を保つことが出来たのは偏にAWRを割り込ませたからだった。

 壁に背を預けたままずるりと地面に落ちるが手中のAWRは離さない。


 視界が霞む中でアリスは膝に手を付けて同じく荒い呼吸をしているテスフィアを視界に収めた。

 すぐに追撃できないほどにテスフィアにもダメージを与えられたということだろう。何もしなくてもその内力尽きそうな二人だが、次第にその瞳に力強い光が宿りお互いに視線を交わらせる。


「ハアハアハア、フィアももう限界なんでしょ」

「ハア、ハアァ、ま、まだ行けるわよ」


 辛そうに片目を瞑ったテスフィアは誰が見ても強がりのそれだった。

 満身創痍ながらにアリスも槍を杖代わりに立ち上るとよろよろと距離を詰める。

 テスフィアも察したように身体を起こす。

 大きく深呼吸をしたのは同時。

 キリッと顎を引き、ゆっくりと歩き出し、徐々に交差する足の間隔が速くなる。


(これで……決める)


 アリスは空いた手を前方に突き出す。すると円環の一つが目の前で一定の距離を保ちながら固定された。ただのシャイルレイスはそもそも中位級魔法に分類されると聞いている。今のアリスでは氷の剣に対抗する術はない。だが、一つだけ方法はある。

 それがこのAWRの円環が持つもう一つの性能【増幅】だ。

 これまではAWR本体から放たれた魔法を複写し、円環から放たれたが、今使うのは円環を通して魔法を発動する。

 そうすることで円環を通した魔法は本体から放たれた魔法を倍増させる。アルスは自慢するように言い放った。最大で3つの円環を通せば単純計算で8倍の威力を発揮することができると。

 しかし、それはとてつもない精密な技術を要するとも。

 だからこそ、アルスは円環もまたAWRだといったのだ。つまり、一人で二つ以上のAWRを使用し尚且つ別々の魔法を同時発動しなければならないという荒唐無稽な話だったが、今はそれがありがたかった。

 いきなり3つ全てはさすがに無理だろう。できる可能性を考慮すれば1つの円環、つまり倍に挑戦するしかないのだ。何をどうすれば倍になるか、そもそも【増幅】は魔法に分類されるのだろうか。

 頭で考えても答えなどでるはずもない。結局はやるしかないのだ。なんとなくだが、今までのアルスの訓練が関係していそうな予感を覚える。

 意識を集中させると円環の縁に刻まれた小さい魔法式が弱々しい光を浮かばせ、輪が僅かにぐぐっと拡大し、内部を温かみのある光の膜が張る。それは疑似太陽では再現できない天然の陽光のようですらあった。


 テスフィアも斜め下段に氷の剣を引く、今度は両手で構える。刀と連動したのだろうか。

 そして全ての魔力を注ぎ込む。アイシクル・ソードが圧縮されたようにその身を堅く鋭く、形状は紛れもない剣へと完成された。水晶の如く透き通る幻想的な剣が一回り小さくなるが、紛れもなく濃縮された魔力は先ほどの剣を高めた結果に過ぎない。


 二人の距離が縮まり――互いに限界まで引かれた槍が、刀が弾かれたように相手に刃を振り下ろす。


「シャイルレイス・倍化ダブル

氷界氷凍刃ゼペル


 シャイルレイスが円環に放たれ、膜を突き破ろうと斬撃が威力を増すように押し上げる。

 長大と化した氷の剣が膨大な冷気を吐き出し、空気をパキパキと凍らせ始めた。


 二つが衝突すると音が先に消し飛び、冷気が続いて腹の底に響くような衝撃音とともに地面を伝って二人を中心に吹き飛ばされる。そして一瞬で冷気が輪を作るように広がったと思ったら、一気に中心に吸い寄せられた。

 選手を包むような眩い光に誰もが瞼を反射的に閉じ、遅れて来た爆発音に慌てて耳を塞ぐ。


 そして10秒ののちに観客席の誰かが唖然と口を開けたまま、乾いた声で「あっ……」喉を鳴らした。

 指差すように観戦していた者たちが、吸い寄せられた視線の先には今まで戦っていた少女2人が仰向けに倒れていた。

 二人を収めるように陥没した地面がその威力を物語っている。

 凄惨な状況を予期し、誰もが二人の安否を心配しても仕方のない状況だ。ピクリとも動かずに倒れているのだから。

 だが、二人の安否はすぐに判明した。まさに集まる視線の中心にいる二人の少女が突然琴線に触れたように笑い出したのだ。


「大丈夫だったアリス?」

「うん、身体は動かないけどね。フィアは?」

「私も…………それと頭が痛い」


 天井に向けられた目でも二人は二人して、病に罹ったような頭痛にも関わらず、どうにもそれがひどく可笑しなことのように「プッ」と吹き出した。

 しかし、すぐに「いたたたた……」と言って顔を顰める。

 それすら可笑しいのか痛みを耐えながら唇を軽く噛んで堪えた。


「はあ~、でもこういう場合ってどうなるのかな」


 テスフィアは勝者がどちらかということについての疑問を投げる。

 しかし――。


「そんなのどうでもいいよ。どっちが勝っても負けても私は全力で戦えたからそれだけで満足……満足しちゃった」

「…………うん、私も」


 「あぁ~疲れたぁ~」とテスフィアが大の字に四肢を拡げ、満足気な笑みで「それにしても勝てると思ったんだけどなぁ~途中からだけど」


「私は最初から勝つつもりだったよ」


 悪戯っぽい笑みでさらっと言うアリスにテスフィアは「始まる前はあんなにガクガクだったくせして」と返した。


「でも、フィアが土壇場で新しい魔法を使うなんて思わなかったよ」

「私も……」


 シッシッシとしたり顔を傾けたテスフィア。


「とは言ってもあれは一度お母様に見せて貰ったことがあるから思い付いたんだけどね。ほとんど無意識よ。情けないことにね」

「そんなことないよ。寧ろそうだったとしてもあの土壇場で使えることが凄いよ」

「う~ん。そうかな? …………凄いと言えばアリスこそ何よ最後のあれ、あんな隠し玉があったなんて聞いてないぞぉ」

「ハハッ、あれもアルに教えて貰ったんだけど、お前には早いなんて言われたようなものだったんだ。でも、あれしか手がなかったからね」


 えっへんと照れたように頬を少し染めたアリスは「楽しかったぁ」と総括して感想を述べた。

 それが嘘偽りないのは表情を見れば一目瞭然だ。満足して遣り切ったと感じたのはテスフィアも同じである。


 そして忘れた頃に試合終了のブザーが鳴り響くと。


「「…………!!」」


 顎を引いて真上に降りて来たスクリーンを注視し。


「あははははっ!!!」

「ふふっ……イタッ!! こんなこともあるんだね」

「でも…………こんなこともあっていいかもね」

「うん」



 スクリーンには【引き分け】の文字が表示されていた。

 そして、くぐもっていた歓声がドッと堰を切ったように空気を振るわせる。

 圧巻なまでの試合を繰り広げた二人に対して惜しみない称賛が込められた拍手喝采。きっと彼女たちの名は今大会を機に広く知れ渡る事だろう。

 拍手、歓声は二人が担架で運ばれた後も続き、次の試合が始まるまでその余韻に浸るように尾を引く。

 同じ学院の生徒同士の試合はまさに友として互いに高め合い。その確認であるかのように清涼感を伴い見た者の心に深く刻まれた。

 


 担架に運ばれたテスフィアとアリスはそのまま医務室へと連れて行かれた。

 すぐにフェリネラを筆頭に第2魔法学院の選手らが押し掛け、惜しみない称賛を浴びせている。


「本当に素晴らしい試合だったわ二人とも。結果はどうあれ第2魔法学院に恥じない戦いをしたのだから誇らしいわ」


 引き分けというのは実は珍しいことではない。しかし、規則としてその場合は状況によって異なる。予選の場合はあえて引き分けを作らないようにしているし、誰もが引き分けと判断した場合――この場合は大会委員の中にある審査員である――には日を改めて再戦することもあるという。

 本戦の場合、しかも同校の選手同士だった場合に引き分けた時は、勝敗を決めず所属する学院に委ねるという方策を取るのだ。つまり、第2魔法学院の枠事態は決勝に進むが、どちらの選手を上げるかの選択を委ねるということになる。


「はい、私たちも満足してます」


 「ねっ」というアリスの同意を求める声にテスフィアも毅然とベッドの上で頷く。

 二人は早々にベッドの上で点滴を受けている。無論、頭痛のせいであるが、それよりも魔力の枯渇は深刻なようだ。こればかりは自然に回復するのを待つかしかないのだが。

 極度の疲労と大差ない状態なので安静にしていれば問題はない。


 あれほどの試合を見せられたのだから彼女らを見る目も変わっていた。上級生たちは下級生だからと見下すことはないだろう。それどころか憧憬の眼差しが含まれている。

 ならば当然同級生たちはというと自分のことのように喜々として褒め殺しの言を浴びせた。その中にはシエルの姿もあり、訓練時では見せなかった友人の真剣な試合に心打たれたように手を取って「お疲れ様」と労う。


「さて、二人に良い所を持って行かれたようだし、私たちも頑張らないとね」


 フェリネラは隣で一歩引いて佇むイルミナの背中を叩いて押し出す。


「下級生にばかり活躍されたのでは、上級生として結果を出さないわけにはいかないわ。ねっ、イルミナ」

「お二人の場合は頭一つでていますからね。でも、善処しましょう」


 イルミナは気まじめそうな表情を崩さず、笑みの一切を消し去った顔で言う。

 もちろん不機嫌でないのはここ数週間の間で、少しでもイルミナという人と成りを見ているため驚きはしない。


「そう言えば、ロキはいないんですか? フェリ先輩」

「何言ってるの、ロキさんはもう試合会場に向かったわよ」


 テスフィアの疑問を可笑しなことを言うと言った具合に教えると、スクリーンへと向き直った。

 医務室にも小さめではあるが試合会場を映した液晶が備え付けられているのだ。

 まだ試合は始まってはいないようだが、試合開始時間は5分を切っている。


「あなたたちはゆっくり休みながら観戦してなさい。私たちは戻るけどふらふらしないようにね」


 指の腹を見せるように一本突き立てると姉のような口調でベッドを交互に見た。


「わかりました。どの道動けないですし」


 アリスは片目を瞑って嘆息をもらす。


「あとは任せなさい」


 そう言ってフェリネラたちは医務室を後にした。

 試合の進行が本戦になると変わるため、少なくともすぐに試合の準備をすることはない。

 準決勝を1年から3年まで行い。最後に決勝戦が学年別に組まれる運びだ。

 だから、二人には少なくとも後5試合分の休息ができることになる。


「ん? シエルはいいの?」


 誰もいなくなるはずの医務室に残っているシエルにテスフィアは視線を向ける。

 すると、椅子を持ってきて丁度二人のベッドの間に置くと。


「せっかくだし、三人で見ようよ」

「いいけど、生で見た方がいいんじゃない?」

「いいの、いいの。画面を通しても直に見てもわからないものはわからないしね」


 シエルは恥ずかしそうに苦笑を洩らし、頬を掻く。

 アリスはすぐに解説が欲しいのかと悟ったが。


「私たちもロキちゃんの全部を知っているわけじゃないから期待しないでね」

「了解ッ!!」

「ほら、始まるわよ」


 テスフィアの一喝によって三人の視線は画面に吸い寄せられるように向かった。



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