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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第5章 「戦慄再来」
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見返りと打算

 早朝、第2魔法学院の泊るホテルは慌しく動き出した。

 これほどの事態に時間は緩慢と針を進め、外では偽物の太陽が全貌を現す。5時を回った辺りで会議室の中は閑散と空虚だけが居残っていた。

 あれほどの論争があったが今は誰一人姿が見えない。そう既にこの場にいた者たちは各々動き始めていた。ここで聞いた話を自国へと急いで持ち帰るために。

 真っ先にしたことは連絡を取る。各国の高位魔法師を臨戦態勢で隊を編成。バルメスに向け出立を整える指示が下された。

 だが、シングル魔法師が外界任務中ということも考えられるため、すぐに準備が出来るとは考えづらい。

 それでも最高戦力を集結させたのは過去の大災厄に匹敵する脅威を聞かされたからだろう。

 アルスはまずレティと供に隊員を一か所に集め、彼女から聞いた各員の系統や得意魔法などを脳内で情報欄に明記する。


「レティ、今回は戦力はいらない。それよりも探知や障壁、行動阻害系の魔法師を10名ほど集めてくれ。それとレティの部隊ということを考えて隊の纏めは任せたほうがいいな、俺の指示をレティに経由してもらったほうがスムーズなはずだ」


 アルスはレティと共に空き部屋で大まかに指示を出していた。

 隊員が泊る5階の一室であり、一応かなり広い作りだ。少しむさ苦しいが我慢するしかあるまい。


「了解っす隊長殿! 全隊員万全っすよ。こうなることがわかってったんすね総督は……」


 会議では見せなかった外連味のある笑みで冗談めかす。まだ何か言いたいようだったが続く言葉はなかった。


「アルス様、私は前線を離れてからだいぶ経つのですが……」


 この場にはメイド服を着用したリンネもいる。今作戦に彼女も組み込まれているからだ。


「リンネさんには探知魔法師としてついて来てもらいます。実際の戦闘には加わらないでください。死なれたら研究できないですから」

「は……はい」


 尻すぼみに弱くなる口調は魔物に対する不安ではなく研究の被験体になる危惧だろうか。


 隣に不安げな声を聞き、アルスは一度だけ後悔するように逡巡した。軍に籍など置いておかなければよかったというものだ。アルファのみならず他国のどでかい尻を持つことになろうとは思いもしなかった。


「斥候ということだが……」

「間違いなく討伐っすね。今回の一件は完全にアルファが引き受ける形にしたみたいっすからね」

「だな。そうなると時間を掛けられるものじゃない。他国の介入がある前に片を付けなきゃいけないのか」


 集められたレティ率いる部隊の中でトップの実力を誇る、サジークとムジェルが代表して当然の疑問を上げた。


「アルス様、今回の討伐目標を御聞かせていただいてもよろしいでしょうか? 今回は少数精鋭ということですが……」

「アルス様と戦火を共に潜れるのは光栄なのですが、魔法師最強のアルス様が御出になる必要があるのか疑問が残りますね」


 という声にアルスは頷き、説明のために口を開いた。もちろんあまり時間もかけらないということもあり、手短に話す。


「こっちも魔物の詳細な情報まではない。というより誰も知らないと言った方が正しいな。わかっていることはSSレートに匹敵するだろうということ。おまけに悪食ときたものだ」

「――――!!」

「それは50年前の大災厄の再来ということですか?」


 ムジェルが顔に似合わず狼狽して訊き返す。歴戦の猛者でもこの衝撃は容易く受け流すことができなかったようだ。

 市井には討伐と公表しているらしいが、実際は多くの被害を出して瀕死まで追いつめたSSレート【クロノス】と呼称された魔物を取り逃がしたのだ。それは単に逃げる背を静観していたのではなく、止めをさせる者が残っていなかったのだ。片腕を斬り飛ばされた魔物は宙を飛翔し天空に消え去った。

 魔法師の強化育成に各国が躍起になったのは再襲来に備えたからだ。非人道的な研究がなされたのもこの時期であり、それから10年ほど姿を見せなかったことでほとぼりが冷めた人類は正気を取り戻し、それらの研究は忌避されるべき所業として廃止。加わった者は処罰の対象となった。


「それは考えづらいな。魔物のデータベースに載っているクロノス、あれほどデカければすぐに判明したはずだ」


 魔物は吸収することで体形にも変化が出る。それはレートを上げることで巨大になるか逆に凝縮するように小柄へと変わる傾向にある。その場合、外見が何かの組み合わせのように異形ではなく、生物としての完成されたフォルムを取る傾向にある。


「すぐにバルメスに向かう。全員準備に取り掛かれ、30分後には出立する」


 規則正しい敬礼が床を振るわせたと思ったら、物音すらさせずに扉から出ていく。

 長話をする時間はない。寧ろ何か質問があれば移動中で十分だ。

 最後尾にアルスたちが続く。


「大会はどうするんすか?」

「当然欠場だな。だが、これだけ準備してきたんだ。優勝も貰うさ」


 不敵な笑みを浮かべたアルスにレティも似たような笑みを返した。


「行きがけの駄賃とは言え、この際いただけるものは全部貰うだけだ……それとリンネさん、まだ何か報告しなければならないことがあるんじゃないですか?」

「……!!」


 あの性悪女がここまでしたからにはまだ何かあるはずなのだ。それをリンネが知っているはずだと思ったのは、これらの情報を彼女が集めたと推測したからだ。

 リンネは少し気まずそうに口を引き結ぶ。


「この期に及んで隠しても仕方のないことっすよ。それともシセルニア様から口止めされているっすか?」

「……すみません」

「では、リンネさん。それは討伐に一切影響を及ぼさないことですか?」


 一瞬視線が逸れたのをアルスは見逃さなかった。


「はぁ~わかりました。後で俺が総督に訊いておきます」

 

 シセルニアが舵を取っているとはいえ、彼女は国……人の上に立つ人間だ。その視界には人間しか映っていなくとも仕方のないことだが、外界で任務を遂行するためにはあらゆる情報は開示するのが最低限の礼節だ。そうでなければ魔法師は口減らしのために死ぬようなものだ。無論食糧問題はある程度改善され、飢餓になることはまずない。つまりは、命令を下した者が帰還を願っていないと思われるのだ。

 無論、一介の魔法師に全てを話すことができないこともあるが、それとなく含ませた警告を発することが常だ。命を賭ける者に対しての謝罪も含めて……それが指示を出す者の責任である。

 これだけの国が関わる問題だ。いずれ明らかになるとはいえ、現在命を張るのはアルスたちだ。


「困ったものっすね。うちの隊をなんだと思ってるんすかね」


 平然と述べるが、その声音には確かに煮えたぎるような怒りの感情が湧いている。

 レティの怒りも当然だろう。部下を信頼する彼女ならば一層かもしれない。


「もしかすると総督が見計らって情報を漏らす算段だったのかもな。どちらにしろ早めに気付けてよかった」


 階段に差し掛かった辺りで、3人は別れる。アルスにも準備があるのだ。階下で止まったのは女子が泊る階だからだ。

 まず、アルスはフェリネラの部屋を訪れた。

 寝ているかもと思ったが、彼女の性格を思い出せばチャイムを鳴らすのに迷いはなかった。予想した通り、眠気を完全に取り去ったフェリネラが出迎えた。部屋着だがどこか上品さを感じる。早朝は少し冷えるからなのだろうか薄手のケープを羽織っている。

 どうやらルームメイトは熟睡中のようだ。


「アルスさん……」と嫌な予感が的中したような翳りの落ちた表情へと変わった。

 フェリネラにはもしもの場合のことを昨日話したばかりだ。


「意外に早かった。任務だ。後は任せる、予定通りロキを充ててくれ。今回はロキを連れていかないからな」

「わかりました。くれぐれもお気を付けてください。こちらは必ず優勝の報告を持ち帰りますので……」

「心配はしてないさ。その報告は学院に戻ってから聞かせてもらうよ」


 アルスの返答に微妙な間を空けてフェリネラは微笑を浮かべて「はい!」と返した。一端区切られたことで言葉を遮ったかもと思ったが、杞憂のようだと判断する。

 続いて向かうのはロキたちの部屋だ。無論、用があるのはロキにだが。


「――――!!」


 アルスがチャイムを鳴らすよりも早くドアが開いた。さすがにもう一つの視覚によって見るのは憚れたため、素直に驚いたのだ。


「気付いていたのか」

「当然です。アルス様の行動は常に把握しておりますので」


 それはそれで素直に喜べないアルスは頬を少し引き攣らせた。どこから把握していたのか、わからないが。


「急用の任務が入った」

「では、すぐに支度を……」


 扉の前でする話ではないのだが、まだテスフィアとアリスは寝ているのだろう。姿を見せないため入るべきか悩む。以前もズカズカと女子寮にある二人の部屋に入っていったらいろいろ言われたことを思い出したからだ。

 しかし、優先順位で言えば寝顔ぐらいでとやかく言われる事態を大きく超えていた。

 長話をする時間はないが立ち話だけでロキが納得するとは思えなかった。大声でも出されては大事だ。


「ここではあれだ。一先ず入るぞ」


 頷き、一歩ずれたロキに促されるように入室する。

 中はさっそくとばかりに散らかっていた。その全てはテスフィアのモノだろう。

 三つのベッドで二人は気づかずに寝息を立てていた。アリスは顔を横に向けて半分を枕に埋めている。髪が掛かっていて表情まではわからない。

 そしてテスフィアはやはり期待を裏切らなかった。薄い掛け布団を足で払いのけて腰の辺りに申し訳程度に掛かっているだけだ。あられもない姿というわけではないが、寝相は良くないようだ。真紅の髪がクモの巣のように纏まりなく散らばっている。

 まあ、いびきがないだけマシなのだろうが、貴族としては不合格に違いない姿だ。

 アルスは意識せず足音に気を付けながら椅子へと腰掛けた。


「今回は予想以上に厄介な任務だが、レティもいるから問題はない。つまり、だな。ロキ……お前は欠場する俺の代わりに大会に出て貰いたい」

「…………」


 返答は時間を要した。堅く引き結ばれた形の良い唇の奥から歯の擦れる音が鳴った。


(また任務、任務、任務)


 ロキはこの大会で真価を見て貰えると期待していた。しかし、今となってはそんなことはどうでもいいことだ。こんな時ですら任務を平然と下す連中にどうしようもない憤りが内から溢れてくるのを感じていた。

 それに追い打ちをかけるようにまた同行できない不甲斐なさが苛め始める。


「また……ですか?」


 僅かに開いた口からぽつりと呟かれる弱々しい口調。

 ロキの言わんとしていることも理解できる。外界の任務に連れていかないのではパートナーとしての意義はないのだから。


「今回は役割分担だ。任務と優勝、どちらも完遂させるには分かれるしかない。それに任務は予想以上に難易度が高い。お前では荷が重いのも事実だ」


 辛辣な言葉はロキに力不足を自覚させるには十分すぎる威力を持っていた。

 ロキの中では言い返すだけの言葉は山とあったがどれも感情を吐き出すだけの一方的なもので理に適っていない。


(だと、しても壁ぐらいならばなれる。この身を犠牲にしても……)

「――――!!」


 只ならぬ気配を滲ませたロキにアルスは不安から何を考えているのかわからなかったが、一端思考を中断させるべきだと、脳天にチョップを軽く叩きこんだ。

 

「ロキの努力は認めるが、今回の魔物は相手が悪い…………だが、そうだな。探知範囲も徐々に伸びてきているようだし……大会で優勝、この任務を達成できたなら、今後同行のことで俺はとやかく言わないと約束する」

「――――! ほ、本当ですか!!」


 何か……大輪を付けた蕾が一瞬で開花した。目を見開いたロキがずいっとアルスへと顔を近寄せる。瞳の奥の真実を暴くかのように互いの視線が合わさる。

 彼女の長い睫毛の下で強く光を放つ眼光にアルスは射竦められる思いを抱きながら見返した。


「嘘じゃないですよね。後でやっぱり、とかはなしですよ」

「あ、あぁ。わかってる二言はない」

「絶対の絶対ですよ」

「誓って嘘は付かないし、適当な言い訳もしない。だが、楽じゃないぞ。第1魔法学院のフィリリックだったか、あいつもそこそこやりそうだしな」

「承知しています。楽じゃないことも……ですが、私に負けはありえません」


 無表情で何の感情も宿していないが、そこには確かな勝利を幻視しているようだ。いや、覚悟のなのかもしれないが。


「わかったが、一線は越えるなよ」


 アルスの忠告は以前のように禁忌に手を出すなよ。というものだが、ロキは機嫌を損ねたように顔を背けた。


「あの時とは状況が違います。それに……禁忌なんかに頼る必要はもうありません」


 含ませるような不敵な発言にアルスは追及せずに頬を緩める。

 その時、いつの間にか声量を気にしていなかったがために「何?」という声がベッドのほうから聞こえた。

 それはちょうどテスフィアが目を擦りながら起き上ろうとし、アリスも隣の反応から起きたのか目を瞬かせて欠伸を噛み殺している。


「なら心配はないな。俺も時間がないからそろそろ行く」

「はい! 御気を付けください。万が一にもないとは思いますが必ず帰ってきてくださいね」

「万が一にもないな。早くても3日は掛かるはずだ。そっちは頼んだぞ」

「お任せ下さい。何の心配もございません」


 アルスを扉の前まで見送ったロキは拳を胸の前で作り反転した。

 これからまた寝るという選択はない。ナイフを研いでおこうか、それとも作戦でも立てるべきなのだろうか。そんなことを考えながらベッドにぽふっと座ると両方ともすべきだと決断する。


「ロキ、なんでアルがいるのよ。しかも寝ている間にぃ、せめて起こしなさいよ」

「失念していました。それもそうですね。あんな涎を垂れ流していては目の毒でした」

「えっ! 嘘!」


 ごしごしと袖で擦るテスフィア。

 アリスはそんなやり取りをぼんやりと眺めていた。まだ夢現といった具合だろう。頭が右へ左へとふらふらしている。


「ロキちゃん。アルはなんでこんな早く来たのぉ?」

「急な任務が入ったということで大会を欠場するから後は任せたと……当然私ですが」

「あいつも大変ね。こんなときまで任務なんて……でも頼まれたのなら仕方がないから私が一肌脱ぐとしましょうか」

「頼まれた……の……は、私だけ・・です」


 テスフィアは聞こえていないのか、勢いを付けてベッドの上に立ち上る。


「だったら、朝練でもして準備しておきますか!」

「私も手伝おうか?」

「お願いアリス」

「恐らくですが、アルス様が欠場されたのでその枠にアリスさんが入るかと……つまり初戦の相手はお二人です」

「へっ!?」


 人の悪い笑みでロキはそう告げた。


 ♢ ♢ ♢


 ホテルの裏手、そこに40名弱の黒ずくめの外套を着た一団が整列していた。

 それは異様な緊迫感を抱かせる光景であるが、当の黒ずくめの集団の顔はそれほど緊張していない様子だ。それどころか気の抜けた顔で身体を軽く解す。

 足首を回したり手首を回したりと様々だ。

 しかし、そこにこの隊の隊長が姿を現し、本来のリーダーも見えたことで乱れない敬礼が披露された。


「アルくんのっす」とレティに手渡された外套をアルスは受け取る。

 外套とは言っても雨風を凌ぐ用途はこの場合二の次だ。強化繊維など様々な効果をもたらす外套は対魔法用の防具として用いられる。

 これは各国によって様々であり、外套など動き易さを重点に置くのはアルファ特有だろうか。ハルカプディアなどは騎士のような甲冑を着込んだりもするので国柄が出る。バルメスなどの金銭的な劣位に置かれる国は各自で防具などを揃えるということもあり、魔法師の質にも差があるのだ。

 よって、バルメスの魔法師数が全体の割合でいうと少ないのはこういった身を守る防具を揃えられないからだとも言われている。つまり、魔法師の供給もさることながら外界任務での魔法師死亡率が高いのだ。


「わざわざ見送りに来るということは、何か聞けるのか?」


 アルスは見送りにきたシセルニアとべリックに問う。

 べリックはしかめっ面で顎を擦った。


「アルス、向こうにヴィザイストがいるので着いたらそちらで作戦や情報を受け取ってくれ」

「それと、これはホルタル殿から一時的な指揮権の委譲が明記されたものです」


 梱包された艶やかな塗料が施された箱に入っているのだろう書簡をアルスは受け取り、懐に忍ばせる。


「リンネのことも頼むわね」

「もちろんわかっています」


 引き受けたアルスだが、だったらという思いはある。

 大きくため息を気付かれないように吐き出すと、べリックが手を添えて聞こえないように小声で告げた。


「すまんな。魔物の近くに鉱床があるらしい」

「――――――!! なんのだ」

「恐らくだが、ミスリルと聞いている」


 アルスはなるほどと唸る。

 離れたべリックに訝しげなシセルニアの視線が浴びせられるが当人は年の功からか涼しい顔でやり過ごす。が、年の功でもアルスの含み笑いには嫌な予感しかしないのだった。


「では、そろそろ向かいます。こちらの仕事は任せてください。それより総督、忘れていないとは思いますが古書と単位免除もお忘れないように。それと当分この手の任務は勘弁してくださいよ」

「分かっている。お前も気をつけろよ」


 この話を聞いていた部隊員は単位というセリフに学生だったと認識を改めるのだった。

 シングルとしてアルスの功績に舌を巻き、畏敬の念を抱く者が多い中で意外感は隠しきれない。あれで学生というのだから反則だと思いがちだが、どれほど過酷な任務に就いているのかを知っている彼らは楽観視することはできない。だからこそ1位という順位が持つ意味は大きい。

 彼らが命を託せるにたる人物はレティとアルス以外にはありえないだろう。足が竦むほどの魔物の群れに取り残されてさえ、揺らがない自信があった。


 軽く目を伏せアルスは整列する隊員へと向き直る。

 そしてアルスはゆっくりと片手を上げ「行け」と声を上げた。

 決して大きく覇気のある声ではなかったが、聞き逃す者はおらず蜘蛛の子を散らすように隊員は疾風の如くバルメスに向けて走り去る。

 姿を消したように見えたのはそれほどの強者の集いだからだ。

 アルスは手に持った外套を羽織り首元で止めると、はためかせる間もなく姿を消した。


「本当に走って行くのですね」


 呆れ顔のシセルニアにリンネが補足する。


「彼らほどの魔法師ならばいくつもの転移門を潜るより速いでしょう」

「ここはバルメスに近いイベリスですから、到着は正午といったところでしょうか。アルスのことだから明日には討伐のために出立することでしょうな」


 べリックは予想を立てながら、これから忙しくなると切り替える。


(まずはクラマか)


 バルメス総督であるガガリードの言でクラマへの要請を検討しているという情報があった。確証は得られていないが最悪の事態を想定すればアルスたちとかち合う可能性はある、早々に排除しなければならないだろう。


「こっちもすぐにバルメスへと向かう」


 叫ぶように警護していた魔法師に命令を下す。

 シセルニアは自分がいったところで役に立てないことを知っているため、後は残ったバルメス元首と一方的な交渉の続きに胸躍らせていた。

 そして、「ん?」と声を上げ。


「リンネ、あなたはこんな所で油を売っていていいの?」

「あっ! すみません。すぐに――」


 瞬きほどのお辞儀の後、外套を羽織ったリンネも猛スピードで追いかけた。

 身の丈ほどもあるリンネのAWRは弓矢。腰に下げた矢筒を抑えながら走るには不格好だが、それも杞憂なのだろう。この従者もまた高位探知魔法師なのだから。

 戦闘能力はそれほど高くない彼女だが、外界で鍛えられた身体能力は常人を凌駕する。


 静寂が降りた早朝、アルファの誇る最高戦力がバルメス郊外、外界に出現した魔物討伐の任に出立した。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] やっぱりロキって言動が自分本位なんだよなぁ アルスのためになりたいって言いつつ自分の意に反することを命じられると反抗するの恩知らずで草
[気になる点] 予想はしてたけど、結局こうなるのな。 どうしても主人公を目立たせなくないんか作者は。
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