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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第4章 「7カ国親善魔法大会」
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7カ国親善魔法大会

 7カ国魔法親善大会は少しばかり変わった組み合わせ方式を採用している。

 一学年総勢70名の出場者を四ブロックに分け一対一の戦闘を行う。この大会が特殊なのは出場者を直前に決めることができることだろう。事前の抽選で決まるのは各ブロックの枠振り分けと対戦学院だけだ。実戦を想定しているため、系統による組み合わせは考慮しないと言ったが、これは大会運営が関知しないだけであり、実際は作戦の根幹になる。

 つまり、アルファの第2魔法学院1年生は10名、10の保有枠を持っていることになる。現段階で分かっているのは対戦相手の学院だけなのだ。


 四つあるブロックの勝利者が本戦に出場できるため、各学院は選手というよりも多くの保有枠を本戦に運ぶため計略を巡らす。無論負けた者は敗者として参加権がなく、出番は終わってしまう。だから難しく考える必要はなく、単に勝ち進んだ者を他ブロックなどに移動できると思えば良いだろう。そのため、各学院は他国の有力な選手の情報を事前に入手するという対策が行われるのは大会ならではだ。これも諜報という意味では実戦に近い。


 すでに対策としてリーダーのフェリネラが動いているわけなので大会は始まっているといっても過言ではなかった。

 こういう時に貴族というのは知名度が高ければ高いほど適性系統が判明しやすい。


 夕食後、出場者一同は特設された対策本部に集まっていた。


「組み合わせについては、ここに書かれている通りですので、確認しておいてください。それとメモなどは控えるように、この場で覚えていただきます。当日は競技場に第2魔法学院に提供されている控室がありますので、そこを本部とし改めて確認することもできます」


 スクリーンが3つに左から3年生、2年生、1年生と各ブロックが表示され、その中に第2魔法学院の保有枠が示されている。枠には出場者の名前が明記されていた。

 この選択はフェリネラをリーダーにする際に承諾済みである。今更不平不満を漏らすような輩は皆無だ。

 出場者を選択できるとは言え、それは相手も同じため、現段階ではランダムのようなもの。しかし、上に多くが上る程酷な選択を迫られるのは目に見えていた。

 それでも不満を漏らすような選手はいまい。学院の代表であって個人を優先するものはいないだろうから。


 アルスは自分の名前が3ブロックの中ほどにあるのを確認した。おそらく三試合目だろうか。


「初日は全学年の試合が組まれています。開会式の後ですので一試合は行われるはずです」


 そこで1年生だろうか男子生徒が挙手し、フェリネラが発言を許す。


「ポイントの加算はどういった配分になるのでしょうか」

「勝者には5ポイントが入ります。優勝、準優勝、3位、4位と順に累計で100p、75p、50p、35pになっています。そのため、一戦でも多く勝つことが大事になってきます」


 フェリネラはそこで言葉を止めずに続ける。


「会場には選手しか入れませんから、負けてしまった方もそれで終わったわけではありません。事前にも言ってあるように各ブロックに回って情報を収集していただきます。それによって皆さんで第2魔法学院に優勝をもたらしましょう」


 そう、フェリネラでも事前の情報収集では貴族などの選手のみだけだ。実際の情報は大会が始まってからが本番になる。勝ち進めば進むほど選手の数も限られる為、対戦する相手学院によって系統的に有利な選手を選ぶことも戦略のうちだ。


 アルスはなるほどと思いながらジャンに言われたことを思い出した。一人ではどうにもならないとはこのことだったのかと。

 問題は初戦だろう。最初の内にいかに勝ちを拾えるかがポイントを大きく左右する。10人が初戦を超えれば、それだけでも一年の部の優勝者に与えられるポイントの半分を占めるのだ。


「とは言っても当面の脅威は3年連続優勝しているルサールカの第1魔法学院です。情報収集の際は第1魔法学院の生徒を重点的にお願いしますね。それと……皆さんのために当校からユニフォームが届いておりますので受け取ってから退出してくださいね」


 フェリネラは入学時や学期始まりの身体測定時を参考にしているため、サイズは問題ないはずだと付け加えた。それでも合わなければ予備が用意してあるとのことだ。

 アルスも身長が少し伸びた気がするだけなので問題はないはずだ。おそらく女性のある一部分を指しての言葉だと、わかるものにはわかるだろう。


 アルスは真下を向くアリスに用事を伝えた。何を気にしているのかだいたい見当がつくので無視する。


「アリス、後で俺の部屋にこい」

「「――――!!」」


 驚愕に目を見開いたのはアリスと近くにいたテスフィアだけではない。当然のように傍にいたロキもだ。こちらは今にも倒れそうな勢いだが。


「いやなら俺がいくが、AWRの説明はしなきゃまずいだろ」

「えっ! うん、そ、そうだね」

「じゃあ、アルが来なさいよ」


 三人部屋だけあり結構な広さでもあるのだろうか。アルスに異論はなかった。


「わかった。じゃあこのまま向かうか」


 ということで3階にある女性陣の階へと踏み入る。立ち入り禁止とかではないし夜更けでもないなら問題はない。まあ風潮としては思わしくないのだが。

 なんだったか? 規律正しい、清廉な模範的生徒であるべし、とか出発前に生活指導の教員が言っていたか。


「それにしても本当に学院挙げての大会なんだね」

「学院というか、ある意味国の示威が強いな」

「一年は私たちがいるから本戦枠は確保できるんじゃない? 仲間内で気兼ねなく戦えるのなら面白いしね」


 不敵な顔で余裕をひけらかすテスフィアだが、勝負事に実力差は全てじゃない。

 が、確かにアルファに限らずテスフィアとアリスのレベルは大きく抜きん出るだろう。しかし、そうは問屋が卸さないのをアルスは知っていた。


「だといいがな。ルサールカには三桁が一人、1年にいるらしいぞ。それに総督も言っていたように今回も相当な粒が揃ってるらしいからな」

「嘘!! 三桁ってロキ並みってこと!」

「そうなるな、実際の順位はそれより下っぽいが、力はそれぐらいと見て間違いないんじゃないか」

「そんなの勝てるわけないじゃん」


 悲嘆の中に少しばかり鬱憤を含ませてテスフィアが「早い段階であたりませんように」などと祈る。


「でも、ロキちゃんみたいな子が他所にいるなんてねぇ」

「まあ、実力がお前らより上だろうと実戦なんだから戦術次第では一勝を掴むこともできるだろ。ようは戦い方次第ってことだ。その点アリスは対人に関しては有利だからな、本当にやってみんとわからんかもな」


 と発破をかけてみてもジャンが絡んでいるとなれば、力に溺れるような単純な相手でない可能性もあるか。

 どちらにしても少し注意しておいたほうが良いだろう。

 楽に勝ちたいものだが、優勝するにはそうも言ってられないか、ロキならば勝てると思うがその者の戦闘を見たことも顔すらわかっていない現状では何もわからない。


「いつあたってもいいように万全に整えておくにこしたことはないだろう」

「そんなの当たり前だし」


 グッと拳に力が入るテスフィアだが、アルスとしては優勝トロフィーが欲しいだけだ。学院の優勝をもたらすために出場しているとは言え、貰える物は貰っておきたい。


「アルス様の優勝を妨げる者は私が事前に倒しておきます」

「そんなこと言っても当たるかなんてわからないんだから、言っておくが闇討ちはするなよ」


 アリスが呆れがちに頬を掻くが。


「意気込みの問題です。瞬殺で抹殺です!」


 涼しい顔でロキが断言した。当たり前で当然の結果であると疑いもない。

 自分の力を過信しているわけではなさそうだ。それこそ意気込みなのだろう。

 ロキはアルスのためと言ったのだ。ならば敗北は考えられない。少しばかり狂気が薄らと開いた瞳に宿っていた。


「とりあえず、それはフェリネラの役目だ。お前たちは誰が相手でも負けないように準備してればいいだろう。そのためにもAWRの説明は不可欠だな」

「はい!」


 アルスがチラリとアリスに視線を向けたのを機微に感じ取った返事がこの声だ。

 女子の部屋へと着き、さっそく説明に入る。

 再度布に巻かれたままのAWRがアルスの手元に戻り、柄尻のほうだろう止め具を外すとハラハラと布がほどける。

 金槍が鉄色にびいろを含ませて姿を現す。さすがのアルスも金のままでは目立ってしょうがないため、ブドナに言って色調を落として貰ったのだ。くすんでいるわけではないが、光をそのまま反射するような輝きは鳴りを潜めていると言える。

 全容を目にしたテスフィアとアリスは驚くことも忘れて魅入ってしまった。

 アルスはその反応を二度目だからだと思った、魔道車内で二人が隠れるように見ていたことには気付いていた。アリスにあげたものだからとやかく言うつもりもなかったので無視しただけだ。


「やっぱりまだ目立つな」

「そうですね。最初よりはだいぶおさまっていますが」


 放心する二人を他所に何気なくアルスたちが感想を述べた。

 アリスのAWR、表現するなら錫杖に似ているだろうか。しかし、あくまでも槍のため、先端は両刃が付き、逆に柄尻にはブレスレットのような円環が三つ。ジャラジャラと鳴るほどの間隔があるわけではなく重なるようにしっかりと取り付けられていた。


「ほれ、まずは軽く使ってみろ。急だったが使えないということはないはずだ」


 受け取ったらアリスはしみじみとその重厚な重みを感じていた。金属の重みだ。そして夢に見た自分のAWRだとやっと実感が持てた瞬間でもある。

 両の刃は裏と表に同じ魔法式が刻まれている。そして円環にも米粒ほどの小ささだが違った魔法式が刻まれていた。


「その魔法式は既存の光系統と同じだが、基礎部分を少し弄ってある。簡単に言えば上級者用といったところだろう。今の魔力操作ならば十分使えるはずだ」


 弄ったと言われてもアリスには理解の範囲外なのだが、上級者用だと言われれば頬が持ち上がるのは避けられそうにないのだった。


「そうだな、今まで使っていたAWRと比べると段違いに魔力の流動性能が向上しているから魔法に掛かる魔力の消費はかなり抑えられるな。後は……実戦で気付いたほうが面白い」


 人を食ったような笑みを浮かべるアルスだが、抗議の声は上がらない。寧ろ当人のアリスは早く試したくてウズウズすらしていたのだから。


 そんな話を黙って聞いていたテスフィアは別のことを考えていた。実のところアリスとの実力差はほとんどないのだ。戦歴で言うならば少しばかり勝ち越している程度。勝ったり負けたりが常だった。


(もしかして差を付けられた?)


 一抹の不安はより強い物に変わっていた。一般的にはAWRは補助武器としての役目しかなく、結局は扱う魔法師の力量次第、AWRを変えたからと言って段違いに実力が向上するものではない。と世間ではいうが、製作したのがアルスならば常識は容易く覆る。それが普通の魔法師――市販品を求める魔法師――へと向けられた常套句だと想像できる。


 だが、テスフィアが感じたのはそれだけだった。嫉妬は合っても妬みはない。単純に同じ土俵になっただけで、自分だけのAWRを手に入れた親友に対して快然と「よかったね」という本音だけだ。

 心から喜びを共有できる仲である。


「そしてそれにはもう一つ秘密がある。だからわざわざAWRにしようと思ったんだがな」


 なんのことを言っているのかわからないが、期待と興奮は疑問に首を傾げても表情から漏れ出ている。

 アルスが近寄りAWRの柄尻にある円環の留め金を外し、じゃらっと金属質な音を立てた。


「実はこれもAWRだ」

「――――!!」


 魔法式が刻まれている以上飾りでないことはわかっていたが、AWRの一部ではなくAWR単体だという意味までは理解できない。

 当然の疑問を顔に張り付けたのはアリスだけではなく、テスフィア……そしてロキも似たような表情を作る。これはアルスがメテオメタルと呼ぶ由縁でもあるもの。

 他にない性質があるのだ。

 例えばアルスのAWRならば無数の系統魔法式を一つのAWRに刻むという矛盾を解消してくれる。そもそもAWRに刻む魔法式は汎用性を重視して系統の構造基盤となる系統指定の魔法式だ。プロセスを組むのに系統の基盤プロセスを前提に構成される。しかし、同じAWRに複数の系統魔法式を刻むことは互いに干渉しあい相克をきたす。無論構造基盤となる魔法式は単体魔法式にも一部含まれる。

 それを解消したのがアルスのAWRに使われるメテオメタルの持つ性質だ。


 アルスは不敵な笑みを浮かべる。すでに試作というには十分すぎる手の込みようだ。間違いなく傑作であると自負すらしている。

 これを実験と呼ぶのはAWRに使用したメテオメタルの性質に近しい鉱物が存在するためで、普及できる可能性を考慮したからだ。そういう意味でも注目の集まる今大会は広く流布するには都合も良い。

 ただやはりアリスにも言った通り、上級者向けの面が強いのも事実だ。これを大衆化するのはもう少し工夫を凝らさなければならないだろう。



 ♢ ♢ ♢



 7カ国魔法親善大会会場において毎年ドーム型の競技場で行われる。各学院選手たちはその中央部で整然と立ち並んでいた。

 そう開催式である。どこの誰かも知れない選手が宣誓を口にする。背中にⅠと書かれていることから第1魔法学院、つまりは前回優勝国であるルサールカの生徒なのだろう。

 アルスは第2魔法学院の最後尾で退屈のあまり、出もしない欠伸を噛み殺す。

 周囲を見渡せば右から第1~第7という順に整列している。ユニフォームは各学院によって違い、毎年同じという決まりもない。共通していることは服のどこかに学院を示すナンバーが記されていることだろうか。

 第2魔法学院は男女ともゆったりとした裾を持ったダークグレーのスラックスに身体に張り付くような黒のトップス、かなりラフな格好である。その上に着たい場合は薄い生地で伸縮性のジャケットもあるが、制服で来ている学院も考えれば少し浮いているのかもしれない。

 さらに視線を上げれば、観戦席は満員。この距離では顔の識別ができるわけではないが、あそこだけは想像がつく。

 最上階部に前に突き出すように左右の壁面が突出。対魔法強化ガラスだろうか、見るからに厚そうである。その近くの座席は仕切られるように空き、警備の男が数人立っている。

 そんな厳重な部屋が7つほども前後左右にあり、当然中に誰もいないということはない。各国の重鎮ではないだろう、それにしては警備が異様なほど多い。


(あれなんか気付いてくれといってるようなものだ)


 チラッと右を向いたアルスはその観戦部屋から漏れ出る魔力に眉を潜めた。敵意とかではない、自分の場所を知らせる、そんな意図すら感じる。

 部屋内部を見るとアルスは前方へと向き直る。

 顔はわからないが、こちらに手を振り、逆立つような金髪には見覚えがあった。


(やっぱりジャンか)


 あの魔力が自分に気付かせるためだけのものだと知ると面倒くさそうに思考の隅に追いやる。


(となると元首がいるな、ルサールカのとこが来ているとなると…………うちの姫様も来てるのか)


 ご苦労なことだ、仕事熱心な上司に応える気はさらさらないが。


(とりあえず、面倒事が起きなければいいが)


 そんな危惧を抱いても少なからず自身が参加する代償だと知っている。それ以外にも会合の際で問題に上がった勧誘のためだろう。

 ともすれば各国の元首だけでなく、総督クラスが来ているかもしれない。シングル魔法師はさすがに来ていないだろうな。本来易々と他国へと出向ける存在ではないのだから。何かあった時に対処できないのでは何のためのシングルなのか、と自嘲気味にアルスは思ってみた。

 そのため、シングル魔法師を2名抱えているアルファとルサールカならばその点問題は減少する。

 自国に一人いればという保守的な考えだが。


 殺伐とした緊張感を感じ取ったのはアルスに限った話ではないようだ。ひそひそとどこからともなく警備の人間が多くないか? といった声が聞こえてくる。


 厳粛な雰囲気ではあるが、観戦者たちのワクワクとした熱気がここまで届いてくる。偉い人間の訓示ほど退屈なものはないと思うのはアルスに限った話ではないようだ。

 やっとか、と思った頃。第40回7カ国魔法親善大会の開催が高らかに宣言され、拡声器の前から口を離し辞す。

 選手たちが退場を始める背後で巨大なスクリーンが降りてきた。死角のないように四面。

 そこはトーナメント表が映し出され、次に一回戦の組み合わせ校が流れるように拡大する。




 控室兼、対策本部として第2魔法学院に用意された部屋が競技場内にあり、その場には当然選手一同がただならぬ気迫をその顔に湛えていた。

 意気込みというよりも無理矢理奮起させている気もする。中継も含めれば数百万人規模が観戦するのだからわからなくもないが。


「一年生の部から始まりますので、1年生は準備を……2・3年生は偵察をお願いします」


 フェリネラの指示に我に返るように耳を傾ける。圧倒的な強さを誇る先導者あればこその光景のようにアルスには映った。外界の任務を部隊でこなすときもやはりリーダーの存在は欠かせない。何人やられようとも隊長さえ残っていれば立て直しは十分図れるのだ。部隊によっては命をとしても隊長を守るのはそういうわけもあってなのだが、これには少なくないカリスマが隊長に求められるのかもしれない。恐怖による支配では隊が上手く機能しないことも少なくない。そのため、勝ち目のない魔物を相手に我先に敵前逃亡する姿もまた珍しいものではないのだ。

 もちろん露見すれば査問に掛けられるが。


 フェリネラは上に立つ素質があるとアルスは感じた。いずれは隊を率いても十分な功績を上げることができるはずだ。下積みとして部下にしても十分な働きが期待できる優秀な人材である。

 だからこそ、こういう優秀な人材がデクな部隊――頭から肢体が生えているような部隊――に配属され使い潰される可能性は忌避したいものだと思ったが、あの親ならば万が一にも有り得ないなと思考を断ちきる。

 さっそくアルスも支度をしなければならないのだが、その前に一つ忠告する必要があるだろう。無論自分が指導した者たちにだ。

 この場で1年生であるアルスが余計なことを口走ればいらない反感を買うのは目に見えている。ただでさえ、何かと注意を引きやすいのだから。


 テスフィア、アリスにシエルと手招きをする。ロキはすでにアルスの傍らにいるので呼び寄せる必要はない。


「お前ら、わかってるとは思うが考えて戦えよ。上までいくなら4日は掛かるんだからな」

「考えてって? 臨機応変ってこと?」


 この反問はテスフィアで間違いない。魔力量でいえば段違いに多いための考えだ。


「馬鹿か! んなもんは当然だ。じゃなくて格下相手に無駄打ちして消耗しないように気をつけろって意味だ。魔力自体は1日ぐらいで回復するだろうが、魔法は精神を疲労させるからな、中々疲れが抜けきらんから覚えておけ。強敵ならば全力を尽くすのは言うまでもないが雑魚相手なら早く決めるに限る。勘違いするなよ、油断じゃないからな」


 まさに実戦を積んだ者の助言である。

 しかし、彼女たちには雑魚という程の格下がいるとは思えなかった。即座に納得できる言葉ではなかったが、結局異論の声がないのは長期的に考えて正鵠を射ていたからに他ならない。


『第一回戦の選手は試合会場に向かってください』


 アナウンスが入り一気に緊張感が控室内に走るのが伝わる。それは目の前にいる三人も同じことだ。アルスやロキからしてみればこの大会も見世物でしかないが、そんな感性を共有できるとは思っていない。


「では、各員持ち場に向かってください。偵察は試合毎に報告を忘れないように」


 覇気のある声音がフェリネラからもたらされる。それに感化されたのか闘志にも似た顔に変わる選手たち。第2魔法学院の戦いが火蓋を切った。 

 

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