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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第3章 「選ばれる者」
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何事も唐突に


 7カ国魔法親善大会。

 毎年開催される魔法大会は魔法師に限らず、非魔法師にも人気の高い催しでもある。

 開催場所は東に位置するイベリス、最も広大な面積を誇るため会場に選ばれ7カ国共同で建設した一大観光地でもある。余していた広大な平野に最大5万人を収容できる競技場があり、近くには商業地やホテルが点在している。

 大会では出場者・関係者のために一棟まるごと貸し切りとなるホテルに宿泊。そのためだけのホテルだったりするため、大会期間中は一般客は受け入れていない。

 アルファの出場選手は毎年開催一日前に到着するスケジュールになっている。そのため選手たちは朝早くから学院の正門前に集まっていた。

 それにしてはかなりの人数が押し掛けていたが。応援なのだろうな、横断幕のようなものまで用意している始末だし。

 休日を挟むとはいえ今日までは授業も平常通りのため、同行する生徒はいない。見送りの先頭には理事長の姿もあった。


 アルスとロキが姿を現したのは一通りの見送りが終わった後のことだ。

 移動するための大型魔道車が2台、すでに選手たちは乗り込んでいた。


「遅い!」


 窓を開けたテスフィアが早朝から張りのある声を魔道車内から投げ掛ける。

 アルスはそれに欠伸で応えた。無論不可抗力だ。

 誤解のないように言えば、集合時間には間にあっている――ギリギリではあるが――。


「やっぱり起こしにいけばよかったね」


 隣に座っているのだろうアリスが奥から顔を覗かせた。


「いいから二人とも早く乗りなさい」


 理事長が子供を窘めるような口調で急かす。

 いや、走ったほうが早いから先行ってればいいものを、とは口に出来ない。 

 大きい荷物は事前に転送して送っているため、ほとんど荷物はないのだが。

 選手たちの中にAWRを抱えている者がいるのは意気込みからだろうか。

 まあ、魔法師である以上常に身に付けておいても不自然ではないのだが。さすがにアリスが学院から借り受けている薙刀は大きい。

 が、アルスも人のことは言えない。


「あら、それは何?」


 魔道車に乗り込む直前でシスティが疑問を投下した。集まった生徒たちも似たような興味を示している。

 アルスを待つために代表のリーダーであるフェリネラも外で待っていたため、微笑の表情も気になると告げていた。

 視線が一点に集中している先には長い棒のようなものがある。この疑問も白い布がぐるぐるに巻かれているからだ。


「秘密です。これのせいで遅くなったのですが。すぐにわかりますよ」


 理事長は学院に残るとは言え、大会の様子をライブで見ているのだろうから。

 学院の生徒も休んで見に来る者も少なくないだろう。しかし、学院の生徒だけでは関係者とはならないため、一般で入場しなければならない。


 大型魔道車に乗り込んだアルスは通路の最後尾を見ると5人掛けの席にテスフィアとアリスが腰掛けて、バシバシと椅子を叩いている。辺りを見れば満席というわけではないので、5人掛けに二人で座っていても文句を言う者はいないだろう。これに順位が関係しているとは思いたくないが。

 テスフィアは席を取っときましたよ、とでも言いたげな恩着せがましい顔だ。

 釈然としないながらもアルスとロキは向かった。無論後ろは嫌いではない。

 通路の奥、窓際からアルス、ロキ、アリス、反対窓側テスフィアの順だ。シエルは乗物酔いするらしく一番前の席、フェリネラの横で不安な顔色を浮かべていた。


「何それ?」


 不躾にもほどがある。しかし、話をスムーズに進めるためには答えるのが一番だろう。


「アリスのAWRだ」

「「――――!!」」


 ロキは事前に知っていたので驚愕の色はない――無表情ながら面白くないとは感じているが――。


「え! え、いや、でも……」


 手をわなわなさせているアリスは嬉しさ以上に受け取ることができなかった。以前にも述べたとおりAWRは高価なものだ。アリスが未だ自分のAWRを所持していないのも金銭的な問題からでもある。この中にも当然学院から借り受けているものも少なくない。


「いらないなら構わないが、これはお前しか使えんぞ」

「私そんなお金ないし」

「金はいらん、実験も兼ねてるしな」


 そうは言ってもアルスの金銭感覚から察すればなおさら受け取りづらいというものだ。余談だが、このAWRに掛かった総費用は3400万デルドという驚愕の数字だったりする。

 どうしたものかとアルスは考えた。

 正直面倒くさかったというのもある。


「いつかのお詫び? …………ならアリスの誕生日プレゼントなら問題ないだろ」

「え、私6月で過ぎてるけど」

「過ぎてるなら問題はないな」


 アルスはうんうんと理由をこじつけた。


「とは言っても本当にアリスにしか使えないから受け取ってもらえないと無駄になるんだよこれ」

「本当にいいの?」

「まあ、先行投資だと思ってくれ」


 アリスだけでなく隣で聞いていたテスフィアも思い出してから顔を引き攣らせた。


 そう、これはアルスが将来的に楽をするため。


「ありがとうアル」


 ポンと渡された布で包まれた棒状のものをアリスは受け取った。構図的にはロキから端のテスフィアまで膝の上に乗っかっているのだが。

 

「礼ならブドナのじいさんにも言ってやれ」

「うん!」


 喜色満面、感謝の笑みは一つ飛ばしてアルスへと真っ直ぐ注がれていた。


「まあ、大会に間にあって良かった。説明もあるから一先ず開けずに置いておけ」


 アルスは最後尾の更に後ろを指差した。そこには少しだけ物が置けるスペースがある。既にテスフィアの刀とアリスの薙刀が置かれていた。当然だが薙刀の刃は鞘のようなカバーに収まっている。


 アルスはどんよりと目元にできた隈が誘う睡魔に委ねたい気持ちだった。一仕事を終えた者の疲労だ。

 ロキもいく分か付き合っていただけに眠気が襲う。


「少し派手ですからね」

「少しか?」


 ロキの意見にアルスは閉じかけた眼を片方だけ開き問い返した。


「神々しくはありますね」

「まあ……な」


 アルスはウトウトした相槌を打ち、窓際に寄りかかった。魔道車での移動は4時間ほど、途中から転移門を経由し、また魔道車に乗り換える。寝るには十分だろう。

 揺れというものがほとんどないため、眠れないという心配もない。

 だというのに妨げの要因は人為的なものだった。


「私の誕生日は10月……よ?!」


 風の便りのような弱々しい声音がアルスの睡眠を妨げる。

 声の距離からして――――というか声で誰かは判断がつく。


「催促する奴があるか」

「ちょっ! 失礼ね催促なんてしないわよ。私は困らないように事前に教えて上げたの!」

「だから催促なんだろ? ならお前には教本をプレゼントしてやる。さぞ嬉しいのだろうな、泣きながら勉強する姿が目に浮かぶ」

「へっ!? …………そ、そうよ、あんたの心の籠った送り物なら喜ぶ努力はするわ」

「努力って……」


 強がってはいても声には落胆が濃い。

 それでもアリスから向けられるのは苦笑混じりの白い目だ。


 隣のロキは膝の上で拳を作っていた。当然、教本でも自分ならば感極まってしまうだろうと思いながら。

 しかし、比較せずにはいられない。

 相反する思いはいつもロキの中で渦巻いていた。期待してはいけない、これ以上は贅沢過ぎる。もう十分過ぎる幸せを味わっているのだからと思いながらもテスフィアの気持ちが少しだけ理解できてしまうのだった。



「ロキはいつだったか?」

「わ、私ですか……その……私も10月です、が」

「え! いついつ?」

「20日です」

「ロキちゃん、フィアと近いんだね」

「私は16日~」


 と聞いてもロキの顔に喜色はない。寧ろ舌打ちすら聞こえてきそうな心情。


 だが、意外にもそんな思考すら塗り替える質問が飛ぶ。それがテスフィアからだというのだからロキは嫌な予感を抱いたが、結局その答えに浅ましくも興味を全開にして耳を傾けていた。


「アルの誕生日はいつなの?」

「何かくれるのか?」

「それ、ぐらいはね。それに生まれた日を祝うのはこの出会いに感謝する意味でも、生まれたことを実感する意味でも素晴らしいことじゃない」

「……誰かの受け売りか?」

「怒るわよ」


 水を差されたテスフィアは微笑んでいるような表情で淡々と怒気だけを強めた。


 今までのことを抜きにしてもテスフィアは日頃の感謝を告げる機会が一日ぐらいあってもいいのだろうと感じていた。というよりそんな時ぐらいしか中々言えないのが彼女なわけなのだが。

 こういうイベントは結構好きなのだ。貴族間での誕生日会はあったが、中々に退屈なものだった。その点、二人とは言えアリスとささやかではあるが、祝う誕生日会は貴族としての重責から解放される意味でも本心から祝う事が出来る。もちろんアリスだからでもあるのだが。


 しかし、アルスは口を紡ぎ、逡巡する。

 教える必要もないが、教えない理由もあまりない。研究の時間が取れないとはいえ、軍にいた頃も勝手にだが祝ってもらったこともある。だからアルスにとって誕生日とは時間を取られる取られないという問題ではなく。そういうものとして割かなければならないものとしての認識が強い。つまり、必要なことなのだと。


 珍しく空気を察知する。ロキは薄々気付いているはずだが、その表情は爛々と待ち焦がれている。

 アルス自身は気にしないが相手に気を遣わせる類のことだと知っていた。


 「一応、4月2日――になっているな――」と余計な一言は胸の内で告げる。


 ゴクリと生唾を呑み込んだロキは脳に直接書き込むようにメモをしているのだろう。


 テスフィアは「うん、わかったわ。盛大にかましましょう」と無邪気な笑みで答える。


「じゃあ、来年になるけどみんなでお祝いしましょうね」


 などとテスフィアの言葉に女性陣の間で事後承諾のような賛成の声が一致した。


 そんなこともあるだろう。アルスとしては学院に入った時点で恒例行事が途絶えた程度に思っていたが、自然復活を果たしたようだ。

 たとえ、これで彼女らにプレゼントをすることになったとしても、それほど億劫な感じはしなかった。

 だからこそ。


「少し考えておく」


 それを最後にアルスは完全に瞼を閉ざした。結果を聞いた彼女たちの表情までを知ることはない。

 ロキは華やいだ表情、ダメだとわかっていても頬が熱を帯びながら緩むのを止めることができない。まだまだ先のことだとしても期待は膨らむ一方だ。

 自分の誕生日以上にアルスの誕生日を祝うことができるなど棚から牡丹餅的なイベントの追加にロキは少しだけテスフィアを見直すのである。


 もう一人の赤毛の少女も似たようなものだが、こちらは「考える」という言葉を噛み締めるように朗らかな微笑を湛えている。金額や実用性とかを抜きに自分を考えて選ぶということが不思議と嬉しくさせる。

 だからこそ、テスフィアも今からアルスの望む物を調査する意味でもどこか心が弾む。


 奇しくもアルスは女心の一端に触れたということだろうか、無論自覚してのことではないのだが。




 そんな会話が周囲に聞こえていないはずもなく、2年生だろうか、前席の女生徒は頭を混乱させていた。

(AWRをプレゼントって……えぇ!?)

 後半の誕生日云々は完全に馬耳東風。

 背後の女性徒の内一人は貴族、割って問うことは躊躇われた。仲が良ければ少しは訊けたかもしれないが、それも無い物ねだりだろうか。

 貴族だけでなく三桁魔法師もいるとなればなおさらだ。

 それよりも貰ったというAWRがどんなものなのかが気になってしょうがない。


 これで中古のとかなら、ギリギリ許容範囲内だろう。安い物はあるし、新品とか新作でないならありえる。

 それでも貴族とか裕福でもない限りは早々ある話ではないのだが。

 女生徒は今の話を誰かと共有したい気持ちで周囲を窺う。それは誰か答えをくださいという救援信号のようでもあった。

 反対側に座る男子生徒と眼が合う。それは背後を気にしているようでもあり、同じようにAWRが気になりますと顔に書いてあった。


 彼のことは同じクラスだけあり、知っていたが答えは持ち合わせていないようだ。

 AWRはやはりいつも注目の的だ。たとえ他人のだろうと購入したというだけでも話題になる。上級生ともなれば自分のマイAWRを購入することが節目でもあるため、教室には最新のAWRカタログが置かれてる。オーダーメイドとなると価格が跳ね上がり二桁魔法師以上の稼ぎがあって、ようやく手に入れられるほど高価なものになる。そのため一般的な学生が購入するのは流通した市販品だ。

 テスフィアのように名刀のAWRは大いに話題の的となったのは記憶に新しい。


 参考までにとは言わないまでも興味をそそられてしまうのは購入を意識した学年だからでもなく、魔法師としての性だろうか。

 向かいの男へと顔を振る。

 そうだろうとも、下級生のAWRに上級生ががっつくのはみっともないし、野暮ったい。

 女生徒は機会があれば見せて貰おうと一端諦めをもって深く椅子に座り直し、顔にハンカチを被せてずずっと滑るように浅い位置に動く。


(寝ましょうかね)


 眠気は無かったが、思考をリセットするために強引に目を瞑った。




 2時間程が経過しただろうか。

 アリスは走行中の魔道車内でテスフィアと少しばかり小声で会話にしけこんでいた。

 体調は万全、昨晩は緊張で眠れないかもと懸念していたが無用の心配だったようだ。

 二人はいつ寝てしまったのかすら覚えていないほど連日の訓練で疲れてしまっていたのか。今日も早く寝ようと決意するものの、アリスに限っては今の心境的に難しそうだ。


 二人が小声で話ているのも隣に座る二人がぐっすりと眠っているからだ。

 アルスは少し斜めになって丁度座席と窓の角に収まるように腕を組んで眠っていた。傍から見れば身体が痛くなりそうな体勢である。

 そして隣の銀髪の少女はそんなアルスに凭れかかるように眠っている。丁度肩の辺りにロキの頭が寄り掛かっていた。


 微かに聞こえる可愛らし寝息に耳を傾けたアリスは声のトーンをもう一段下げる。

 そんな二人はまるで夜を想起させた。アルスの黒い髪の中で月光のように幻想的なロキの銀髪が映えて見えたのだ。

 と、こんな審美的な見方をするのはテスフィアとの会話が途切れたからだ。

 別に話題がないということはない。単に背後に置いた物が気になってしょうがないだけである。


「少し気になるわね」


 なんて言っても少しでない興味はテスフィアだけではないのをアリス自身気付いている。まさに恋焦がれるという感情に近いだろうか。


「そうだね」


 二人はまるでお預けを食らった子供のようだ。ましてこんな手の届く場所にあるのだから一目でも見てみたいと思っても仕方のないこと。


「ねぇ、少しだけ見てみない?」

「そうだね、少しなら……」


 と言って一層小声になる二人は後ろめたさを感じつつアルスを窺い見た。

 心なし動きまでも慎重になる。音を立てないように椅子の上に膝を付き反転したテスフィアとアリスは布でぐるぐるに巻かれた棒を見て意識せず喉を鳴らす。

 言い出したのはテスフィアだが、アリスが貰ったため、率先して手を伸ばした。


「いい? 開けるよ」


 心の準備はと大仰に問うのもやはり多少の罪悪感からだろうか。それとも共犯を意識してか。

 赤毛の少女はコクリと一つ頷く。

 それを確認したアリスは布が重なる隙間に指を差し込み、ずらすように開けた。


「「――――!!」」


 咄嗟にアリスが開いた手を戻し閉ざす。それは驚いたことへの反射。

 今度は慎重にゆっくりと開いてく。

 見た目だけでも槍というのはすぐにわかった。開いた場所は中心だ。布の隙間から覗かせる重厚な光、それは金を思わせる輝き――目が眩むというやつだ。

 柄の部分、胴体部は握りやすいように網目状に彫られている。つい目を細めてしまう。

 ロキが言ったように目立つという言葉の意味を覚った瞬間でもある。さすがにこれ以上開けることはできず、一息吐いて戻した。

 二人が言葉を交わしたのは席に座り直してからだ。


「た、高そうね?」

「そ、そうだね」


 嬉しさはあるが、受け取りづらさは未だにアリスの中にある。


「まさかとは思うけど、あれってフォールンで買ったインゴットだったりして」


 アリスはその時の値段を思い出し、頬を引き攣らせる。


「まさかぁ~…………」


 冗談めかした口調で否定するがひどく弱々しいものになっていた。あれは金ではなくAWRにも使える金属だといっていたのだから。


「そ、そうよね…………だとしても完全オーダーメイド、よねこれ」

「たぶん」


 その時点でアホみたいに高価なものになる。これ以上考えてはいろいろと押し潰れそうだった。

 まだ貸すといってくれたほうが楽だ、なんてことを思っても確かに高揚する気持ちも内在している。もうどうして良いのからわかなくなったアリスは自分に「実験、実験だから仕方がない」と金額のことは考えないようにするのだった。


 そんな不安に苛まれている隣でテスフィアは間近に迫る自分の誕生日に期待を膨らませる。いや、本人は良くないことだとわかってはいるが、あれを見てしまえば高価なとは言わないまでも、貴族間の誕生会とは違い宝石の類を送りつけるようなことはないだろう。それとて嬉しいものに違いないのだが、その何処に祝いたいと心が籠っているのかわからないのだ。

 着飾るだけが女性の魅力ではない。だからプレゼントを貰う度に愛想笑いの内で(高ければ喜ぶと?)なんてことを常々思っていた。やっつけ仕事……フェーヴェル家に取り入るためのおためごかしでしかないのだ。



 それから国境付近を通り、クレビディートに入る。途中から道路が舗装されておらず、整備も行き届いていない為、魔道車での走行は大きく迂回することになる。そのため転移門をいくつか経由。イベリスからはまた魔道車で向かう。

 そうして到着したのは昼を大きく回った夕方間近。

 ホテルの駐車場には何台かの魔道車が停車している。この時期一般客は受け入れていないはずなので関係者だと推測するのは容易だ。

 こうして見るとアルスと言えど圧巻である。6階建のホテルが競技場の周辺に7棟あり、各国が被らないようにしてある。これらのホテルには生徒が大会期間中宿泊するだけでなく、最上階には各国の重鎮が泊るための作りになっている。

 同じホテルでない理由として、選手同士でのいざこざを避けるためであり、作戦などのスパイ行動を防ぐためだ。

 というのも作戦を立てる必要性がある試合の組み合わせになっているからだろう。以前、系統による考慮がないと言ったがこれは大会運営側は関知しないという意味である。

 そのため、大会対策として他国の有力な魔法師について調べるのは定石だ。その点今回はフェリネラが動いてくれたはず。


 アルスは割り当てられた部屋に向かった。背後にはしっかりとロキが付いてきている。


「ロキの部屋は俺と一緒じゃないはずだぞ」

「えっ!!」


 まさか、という顔で固まったロキ。

 今までは学院の研究室でその家主であるアルスに決定権があったが、ここはホテル、学院の行事として来ているので男女別でなければ非難囂囂ひなんごうごうだ。あくまで教育機関である体裁は守らねばなるまい。


「ほら、ロキちゃんは私たちと同じ部屋だから3階だよ」


 振り向きもしないロキの手をアリスが満面の笑みで強引に引き寄せた。


「大浴場もあるみたいだから一緒に行きましょ」


 ずりずりと引きずられるようにアリスに続いてテスフィアも加わったことで両脇を固められてしまったロキは。


「アルス様~」


 助けを求めるような声と捨てられた子犬のような目を向けてくる。


「良い機会だ。楽しんで来い」


 とは微塵も思っていないが、本来いるべき所に収まったというところだろうか。これを機に少しでも打ち解ければ儲けものだ。特段仲良くなる必要はないが、一々ロキが腹を立てるのは精神衛生上よくない。


 アルスはそのままカードキーに記されてある番号と一致する部屋へと入る。気を利かせてくれたのか一人部屋だ。他の生徒は基本3人部屋、テスフィアとアリスは寮同様に同じ部屋で、それにロキを加えた3人部屋になっている。

 部屋の中はシングルベッドに小じんまりとしたテーブルと椅子が一組、20平米ぐらいだろうか。モダンテイストの部屋の隅には先に送っておいた荷物が置かれていた。

 黒く染まったアタッシュケース、アルスも当然AWRを持参している。他のシングル魔法師ならばランクを下げるべきなのだろう。

 しかし、アルスの場合は出力が超え、正しく魔法を発動できないため、手加減するにしても自前のAWRを使うのは仕方のないことだった。

 ベッドの上に腰かけるとこの後の予定を思い出す。

 確か夕食の時間までは自由時間になっていた。夕食後は作戦会議だったはず、とは言っても対策はリーダーであるフェリネラが引き受けているため、方針を聞く程度だろう。

 


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