大会対策
「前から思ってたけどなんで他系統を自在に使えるのよ。しかも上位級魔法」
「凡才と一緒にするな。エレメントは別としてだ、実際適性などといっても魔法式さえ理解していればまったく使えないということはない。アホみたいに燃費が悪いけどな」
とは言え、アルスが見せた魔法は氷系統に比重を置いた魔法師でさえ同威力の魔法を行使することは難しいだろう。
膨大な魔力量、それに見合った魔力操作。これらの要素が最高水準に使いこなせているからこそ高出力な魔法が行使できる。
などと言えば少々大袈裟だろうか。逆に考えた場合、例えば今の魔法、【凍獄】を氷系統に適性を持つ魔法師が同等のことをするのに消費する魔力。アルスではおおよそ、2倍以上の魔力を過剰消費していることになる、だからこそ完成された魔法を適性系統者並みに使いこなせるのだ――使えるというには強引な気もするが――。
では最上位と呼ばれる魔法はどうだろうか。これにはさすがのアルスも直接魔法式をAWRに書き込むという手段を講じなければならない。最上位に位置する強力な魔法は魔力量で補える域を超えているというのが上げられる。正しくは本来の系統適性でなければいくつものプロセスを突破できないことが原因だ。
「お前らだってアローならばどの系統でも使えるだろ」
これには大いに不満の声が上がった。
「それだって、威力は半分以下よ。中位級魔法なんて他系統で使えないわよ。そもそも使っている魔法師だって見たことないもの」
隣でうんうんと頷くアリス。この場ではロキも含めて疑問を残した。
「だから、言ってるだろ。魔力操作だって。魔法師が最も習得すべきは魔法の数ではなく、魔力操作だと思っているからな俺は。もちろんそれだけで他系統を使いこなすことはできない」
アルスはシエルがいないことを、これ幸いと教鞭を執る。
「適性は魔力の性質が偏った状態を示している。つまり、お前の場合は魔力が氷系統の魔法に適応していることになるな。氷系統の魔法を使うのに最適化されていると言って良い状態になっているということだ」
アルスの言葉を脳内で反芻しながら記憶に転写しているのだろうか。
アリスはないはずのペンとメモ用紙を探すように手をワナワナと開閉させていた。
無論、メモを許さないアルスは無視して続ける。そもそも初歩的な内容でもある。
「これは俺だから出来るのかもしれないから、知っている程度でいいと思うぞ。誰にでも適性があるが俺の場合は無系統だからな。お前らが他系統の魔法を使えないというのは氷系統に適した魔力で炎系統を使おうとするからだ。用は魔力の性質をコントロールすることができれば全ての系統に精通することになる」
まさに「おぉ~」という声が上がるのに相応しい場が整ったが彼女たちが感嘆の声を漏らすことはなかった。というのもその域に到達するのがどれぐらい先なのか、人の身では為し得ない領域のように思えたからだった。
無論、ロキからは羨望の眼差しが浴びせられている状況だ。
「俺の場合は魔力操作の次段階として性質操作の訓練をしたから。お前たちが絶対に出来ないとは言い切れないかもしれないがな」
アルスはこの訓練によって他系統の魔法を行使することができるようになったが、実例は自身のみ。断言するには乏しいのだ。
とは言え、断言しても彼女たちが到達できる領域かは判断ができなかった。魔力操作はある意味で一生の課題であるからだ。
アルスはまったく不毛な教授だったかなと思いながら思考を切り替える。
どこかへと行ったシエルの行き先を聞こうかと口を開きかけたその時、駆け込むように当人が戻った。
頬は赤く紅潮し、その顔は嬉しさからか、活力に満ち溢れているように口の端が持ち上がっていた。まさにウキウキしてますといった具合だ。
全員の視線を浴びながらシエルは口を開く。
「理事長から許可貰ったからアルス君、指導お願い」
「……!」
さすがのアルスも「えっ!」という声は上げなかったが、硬直してしまったのは仕方のないことだ。言い出したのは自身だが当然打算あってのこと、そもそもテスフィアとアリスが知り得たのもアルスとのいざこざが発端だったりする。そのことについては多少なりとも――本当に極僅かだが――責任が無いとはいえない。
だからこれ以上、秘密に繋がるリスクを負う真似はしないと確信していたのだ。
それだけにシエルの弁が立ったのか、はたまた、大会優勝を優先したのか。
実際の所理事長は即答だった。もちろん条件付きでだが。
訓練の内容、特にアルスに関する詮索と他言しないこと。もちろんシエルに考える時間はなかった、間を置かずに頷いたのだ。
期間は大会まで、それでもシエルをこの上なく上機嫌にさせた。
「本当に行ったんだ」
テスフィアが肝を冷やしたというよりも呆れたという顔で呟き、アルスは諦めの境地として黙することにする。
こうなることは半ば予期していたのだからしょうがない。リストの見えざる手は理事長で間違いなかったということだろう。そんな裏付けはゴミ箱にでも捨てたいが既に遅い。最初からこの学院にいる間、ゴミ箱は理事長室にしかないように思われた。
同じ区画で訓練していれば、アルスが助言なりの助けを求められるのは目に見えていた。現に実践訓練までの個人訓練は反復練習と行き詰ってる感満載だったのだから。
実際の所シエルを選手に推したのはアルスなのだし、同じ区画で訓練している以上は避けられないことだろう。
それに指導者が板に付いたのか、シエルの訓練や魔法を見ていると何をさせるべきなのかがすでに脳内で組み立てられていたのだ。
突然指示を仰がれてもすぐに答えられる準備が出来ていた。
(まあいいか)
「さっそく私は何をすればいいかな?」
目を輝かせるシエルにアルスは息を吐いて念を押す。
「シエルさん、最初にも言ったけど理事長の条件は守ってくれよ」
「もちろん、そこまで私も馬鹿じゃないよ。それと私のことはシエルで構わないからね。教えて貰うのに余所余所しいのもあれだし」
「じゃあ、俺のことも……」
と口を開きかけた所でシエルに遮られる。
「いや、そこは上下関係をはっきりさせないとダメだよ。君付けが嫌なら先生って呼ぶよ」
「それはやめてくれ」
同年代に先生と呼ばれるほど気恥かしいものもないだろう。
シエルもわかっていたかのようにクスリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「じゃ、アルス君で決まりだね」
終始シエルペースだったが、テスフィア相手じゃあるまいし、イニシアチブには拘らない。
「わかった。それで構わない」
背後で面白くなさそうな空気を漂わせるロキ。無表情の下で銀髪の少女は(予定が狂ってしまったけど、これはこれでアルス様の偉大さをわからせられるというもの)などと言い聞かせていた。
不穏な圧迫感を感じつつアルスは思い当たる問いを口にする。
「シエルは攻性魔法が少ないように感じるんだけど、習得しているのは初位級魔法だけ?」
「うん、さすがに中位級魔法は無理だけど、土系統の初位級はだいたい使えるよ。ただ攻性魔法は少ないから」
土系統という呼び名が一般的だが、学説的な呼称は様々で地系統など生命を司る系統として周知されている。
というのも樹木さえにも干渉できるためだ。
最もメジャーな魔法分類を上げれば土系統は召喚魔法が優れている系統でもある。マッド・ハンドのように土塊人形を使役することができる。つまり、攻性よりも捕縛や囮そういった方面では優れた系統なのだ。
が、召喚魔法――霊獣・使い魔・使役魔法とも言う――も中位級からと難易度は高く、一朝一夕で身に付くものではない。
「だったら、【穿つ棘】を習得したほうがいいだろうな」
想像としては地面から岩の棘が生えるイメージだろうか。そもそも【アイス・ピアーズ】は【ソーン・ピアーズ】の派生系だ。
シエルは浮かれ顔をしゅんと暗いものへと変えた。
「それ中位級だよ。さすがに今の私じゃ使えないし、今から習得したんじゃ大会に間に合わないよ」
アルスは説明のめんどくささを省きたい気持ちでいっぱいだったが、それも現代魔法の落ち度なのだから彼女を知識不足と責めることはできない。
「完成型は中位級だが、難易度は落とせるから心配するな。そもそもソーン・ピアーズはどういう魔法かわかってるのか?」
という疑問にシエルが当然です、と起伏の激しい胸部を前に突き出したように感じた。
「こう地面からズバババア~ンって尖ったのが出るやつでしょ」
「は?」
アルスは思わず頓狂な声を上げて目を見開いてしまった。テスフィア以上に感覚派なシエルに口で言って伝わるのだろうかという不安は意識せず表情にでている。
テスフィアとアリスはすでに答えを予期していたのだろう。苦笑を浮かべるだけで狼狽するほどではない。
ロキは誰に気付かれることもなくアルスの背中に隠れるようにして苦笑していた。
「え! 違った?」
「いや、概ね間違っていない……と思う」
ズバババア~ンの辺りが無数に飛び出す岩の棘ならば問題ない。
アルスは今の一幕を脳内の隅に追いやって話を進めた。
「まあいい。【ソーン・ピアーズ】と言えば無数に飛び出すイメージがあるが、実際に無数である必要はない」
もちろん、棘が走るように生えてこその【ソーン・ピアーズ】が大全に収録されている定義だ。
これが出来て中位級。
「あれは余計な魔力と構成が複雑化しているから中位級なんだ。つまり、ピンポイントで敵の真下から放つことができれば問題ない。寧ろ対人ならばその方が効果的だろう」
魔法の習得は行使した事象結果をイメージする必要がある。無論、大全の条件をクリアしなければ中位級を習得したとは言えないのだが。
このイメージが固定観念とも言えるのだ。無数に生やすのが完成型だとするならば未完成な魔法ではある。
しかし、最初から完成型のイメージを持ってしまえば前段階を飛ばすことになるのだから習得にも時間が掛かる上に魔法の応用に気付きにくい。
「そんなことできるの?」
疑わしげな視線をアルスは当然だと言わんばかりに涼しく返した。
「なんで出来ないと思う」
♢ ♢ ♢
魔法師が魔法を使う時、事象結果をイメージするというのは周知の事実……いや、学院でさえ推奨し、そう教え込んでいる。
イメージのメリットは大きい。正確にイメージすることができればいくつかのプロセスを簡略化することができるのだ。
デメリットとして上げるのであれば調整ができないということだろう。せいぜいが消費する魔力を抑えて規模を縮小するぐらい。
どちらかと言えば、イメージとの差異により発現しないことがほとんどだろう。というのもイメージをすることで無意識下にある魔力の流動・消費を調節するためでもある。つまり、程度の差こそあるものの多少なりとも魔力操作が出来ていれば強度や干渉力、高出力といった加減ができる。
では、イメージすれば何でもできるのかというと、そういうわけでもない。当然自身の技量や適性、魔力量、魔力操作など能力以上のことをしようとすれば不発に終わるか不完全な魔法として発現するだけだ。
だからこそ、魔法式を正確になぞり、一つ一つプロセスをクリアしていくことが重要になる。
だというのに、今の教育ではイメージに依存し過ぎているせいで魔法式の構成段階を踏まない。
シエルに関しても同様、それに加え、理論的な思考回路を持ち合わせていないという曲者だった。
一から教えても栗色ショートボブの頭を傾けるだけ。
頭を悩ませたアルスは一応手本として、【アイス・ピラーズ】で実践して見せたところ、シエルは手をポンッと叩く勢いで納得した。
現に訓練を始めて3日ほどで形になりつつあった。
理論畑のアルスには到底理解できない感覚だろう。これを見てしまうとイメージというのもあながち否定できないなと同時に指導者としての立場が危ぶまれる感覚に襲われる。
(本来なら俺が正しいんだよな?)
これを教訓とするならば個人によって教育方法が違うということだろうか。
アルスにとってのセオリーが通じない相手ということだ。
指導者を引き受けたアルスだが、毎日のように付き合うということができなかった。というのも研究のほうが佳境に差し掛かったためである。
ブドナのじいさんの所へ通う頻度も多くなり、朝帰りが増えたためだ。
この調子なら授業が始まってもろくに登校できない可能性があるが、べリックとの契約に多少単位取得を融通してくれるらしいので期待しておこう。
訓練に付き合えないときはロキに代行を頼んである。さすがにフェリネラに次ぐ順位が指導者ならば文句を言う連中はいまい。寧ろ現状のほうが反感を買いそうだ。外見からはロキが指導していると勘違いしているだろうしな。幸いにもアルスが手取り足取り教える段階は終わっているので後は個人訓練で習熟に努めるだけだろう。
余談だが、シエルのAWRは両親が使っていたものだと聞いた。アルスが見た時は随分年季の入ったAWRだと思っていただけに納得である。日々進化するAWR技術なのだから古い物は往々として劣等品扱いになるのは仕方のないことだろう。それでもいくつかカスタマイズされているようだ。少なくとも学院貸出しAWRよりはシエル自身に合っている。
そうなるとこの中でAWRを所有していないのはアリスだけということになるが、これも抜かりはない。
そもそもAWR自体高価な物だ。安い物でも学生の小遣いで買える額を遥かに超える。
一つのAWRを現役の間愛用するのも珍しい話ではない。外界に出る魔法師という例外はあるのだが、任務の度に命がかかっているとあれば常に最先端の技術、ベストの装備を揃えるのは当然だ。もちろんこれは各個人の傾向故であり、強制するものではない。
とまあ、こんな感じで訓練が軌道に乗ったわけだ、シエルが増えたことで要らない手間が増えたようだが、実際に割く時間は僅かで手間というほど迷惑な話でもなかった。
手間というならやはりこっちのほうだろう。知らない仲じゃないだけに無碍にも出来ず、寧ろ借りがある。
「今日もお願いできますかアルスさん」
訓練場の解放時間ギリギリになって度々顔を出す。申し訳なさそうな表情と少し嬉しそうな表情が混ざった顔だ。割合で言えば嬉しさ7割といったところだろうか。
口が微笑を湛えていた。
「フェリか、こんな時間まで御苦労なことだ」
「せっかく私を頼ってくださるのですから、見てあげたいじゃないですか」
「そうは思わないけどな」
アルスは気付かれないように眼だけをチラと動かした。
フェリネラが最初来た時はさぼっていないかなどのチェックだと思ったのか、テスフィア、アリス、シエルは緊張した面持ちでワザとらしく熱心さをアピールしていたのだ。
そんなのは杞憂でしかなく、フェリネラは自分の訓練をアルスに見て欲しいとの要件で来たのだ。
そのため、訓練場が締まる30分前にやってきては実践訓練を積む。
そしてシエルは知ることとなるのだ。現学院最強であるフェリネラが魔法を駆使して戦闘を行ってもアルスは涼しい顔で戦いながら教授のための口を開く。
(アルス君って本当に何者?)
と脳が詮索の思索を始めた辺りでシエルは頭を振った。
(危ない、余計なことを考えない、考えない)
興味を無理矢理追い出し戦闘を凝視することにする。滅多に見られないだろう戦闘のはずなのだから、得られるものは吸収するに限ると。
「フェリ先輩、次私もお願いできますか? いろいろな相手を想定したいんです」
「じゃ、私もお願いします」
テスフィアに続いてアリスが追随し。
「フェリネラ先輩……よかったら、私も……」
若干おっかなびっくりにシエルが挙手する。唯一ロキだけが反応を示さず、眺めていた。
「えっと……」
そうフェリネラは流し目にアルスを見やる。自分よりも圧倒的な実力を持つアルス差し置いてという後ろめたさを感じたからだ。
しかし、返ってきたのは頷きの一つ。
フェリネラは許可を得たことで三人を視界に収めた。
「わかったわ」
「フェリも訓練しに来ているんだから一人ずつ日分けにしたほうがいいだろ?」
「はい! それでお願いします」
これは三人がフェリネラにお願いした声ではなく、フェリネラがアルスへと満面の笑みで述べた礼だ。
下級生を前に見せる無邪気な表情に一同は瞠目してしまうのだった。
その理由を知るのはアルスだけであり、苦笑で答えたつもりだったが見事に失敗したような顔になっている。
何はともあれ、大会が実戦を想定してと謳っているものの、実際は対人形式。
これも実際に魔物をバベルの防護壁内に入れることができないため仕方のないことだが。
要は可能な限り全ての系統との戦いはやっておきたいとアルスも考えていた。自分ではレベルに沿えないためだ。
この大会は実戦を想定している部分がある。それは系統による組み合わせを考慮しないということだ。系統には優劣が存在する。水、氷系統ならば雷系統に不利なように、逆に火系統には優位性を持つ。
そのため、系統の優劣に左右されないような戦略の組み立て方が必要になるのだ。
だからこのフェリネラの提案はアルスにとっても願ってもないことだった。
♢ ♢ ♢
アルスが訓練場に顔を出せない時、時折姿を見せることがある――狙ってではない――理事長ことシスティが放課後早々と姿を現していた。
毎度歓声にも似た熱気が緊張とともに訓練場内を満たす。教員たちのほうがよほど弁えた態度を取っている――その中にはシスティの偉業をしっているための畏怖が込められているのだが――。
その日は最後まで居れるということで一層だ。10区画のうち8つまでを解放しほとんどの出場選手が個別に練習を始める。
これは理事長一人で見れない為、一人ずつ回って行くためだ。
実践訓練をする者、魔法の反復練習を行う者、様々だがその誰もに共通しているのは緊張だろう。正直他の生徒に自慢できるレベルを遥かに超えていた。
システィの顔は厳しさよりも魔法の修練に励む生徒を労る優しいものだ。一人ずつ丁寧に道標を示す、そうしていくうちに気になる生徒の顔を見つける。
「あら、あなたたちも? アルス君は?」
「今日は私用でいません。といってもあいつ……アルがいなくてもできる訓練ですし、ロキにも見て貰えるので」
テスフィアは言い直し、理事長に見て貰える期待に胸を膨らませていた(無論比喩的な意味でだ。実際に膨らむ胸もないのだから泣ける話ではあるが)。
「アルには一度見て貰えとも言われてます」
アリスがシスティの懸念を解消する。
これでシスティが何か言おうものならアルスの不興を買うかもしれない。彼の指導者としての立場を考えなければと思っていたのだが杞憂のようだ。
そして以前にシスティに指導をアルスに頼みたいと申し出た栗色の髪をした少女の姿もある。
(確かシエルさんといったわね)
「あなたも?」
「――! ひゃい!」
直立不動のシエルは顔を紅潮させて固まっている。
「わかったわ。何を見ればいいのかしら」
シエルの未完成の【ソーン・ピアーズ】が披露され、システィは感心させられた。
(なるほどね。1年生に中位級魔法は難易度が高いけどこれなら……)
盲点だったというよりもさすがという称賛が湧く。この歳になってもまだ学び足らないと言われているような気さえして嬉しくもあった。
(これを教えられる教員がどれぐらいいるかしら……いないでしょうね)
口惜しい気持ちを追いやり、アドバイスをする。一度見れば大凡の見当は付くのだ。
シエルの番が終わり続いて、システィにとっては予期せぬお楽しみといった所だろう二人へと向く。
「模擬試合を見ていただけないでしょうか」
テスフィアは慇懃に申し出る。
この場にはテスフィアとアリスの他にもロキの姿もあった。
システィはロキも? と質問を投げるが。
「私は結構ですので二人を見てあげて下さい」
「えっ! ロキちゃんやらないの?」
首肯するロキとは反対にどうしようかと目を合わせるテスフィアとアリス。
「じゃ、久々にやる? アリス」
「いいよぉ」
ということで話が纏り、暗幕の掛かっていない区画に入る。気が付けば上級生に関わらず出場選手の視線が集まっていた。美少女であり、1年生でも上位の二人。
しかも今まで暗幕の引かれた区画での訓練をしていたため、その実力は未知数だった。
近くに寄れないのは理事長がいるからだろうか。
システィはさてさてアルスが教えている二人の成長や如何にといった具合だ。
がそんな期待は大きく振りきられる。
「嘘!」
システィはテスフィアとアルスの決闘を見ていたからわかる。あの頃とは比べ物にもならないほど強くなっていたのだ。
実践向き、戦い慣れている者の動きである。拙いながらも洗練されようと努力が垣間見える魔法。
しかも上位級魔法であるアイシクル・ソードを維持しつつ、戦闘をこなす。魔力操作の賜物だろう、魔力の消費も抑えられ入学時の時のように魔力切れの兆候はない。寧ろ余裕すら感じさせる。
対するアリスの光の斬撃。
システィが見たことのない魔法だった。風系統のカマイタチに似ているが、その威力は似て非なるものだ。
彼女たちの実力は学院内でも上から数えたほうが早いだろう。
既に魔力操作は群を抜いていた。
システィは内から湧き上がる高揚する気持ちを確かに感じた。これほど嬉しいことはないだろうと。彼女たちの成長がアルスの成長でもあるように思うのだ。
いつしかシスティはしみじみと昔を思い出しながら呟く。
「あの跳ねっ返りがねぇ~」
差し向けておいてなんだが、システィは二人をアルスに付けて正解だったと微笑を浮かべた。