7カ国会合 Ⅳ
バルメスの元首はふくよかな体躯をしており、汗を拭うためだろうか、ベールの下へと時折ハンカチを持っていく。
アルスはさっそく聞いた名を上げた。
「彼がダンカルさんでしょうか?」
「い、いや、いえ……私はベベット・イジョイスと申します。最近24位という順位を頂いた未熟者です。シングルの方々と目見えることができ光栄に思います」
震える声でやっと発せられた自己紹介。
見かねて引き継いだのはバルメスの元首だ。
「ダンカル殿は現在任務中にて、彼に代役を務めて貰っているのですよ」
(そう言えばジャンがそんなことを言っていたか。しかし、それならば20位というジリーダを連れてくれば良かったんじゃないか? 元シングルなのだし)
ジリーダも作戦に組み込まれている可能性もあるか。
そんなことを思っても他国の事情に干渉するのは出過ぎた真似、そんなつもりも毛頭ない。とりあえずシングルでないなら覚える必要もないだろう。
だが、萎縮するにもこれは国に泥を塗る醜態のようにも思える。おそらく30代も後半だろうベベットという男が可哀想だ。シセルニアでなく彼の方が粗相をしてしまいそうだ。
バルメスの元首はみっともないというようにため息を溢すが、それだけだった。あまり外聞を気にしないのだろうか。
ファノンの魔力キャンセラーに入れて貰えばよかったのに、まあそれこそ醜態なのだが。
なまじ魔法師としても上位なだけに力量差が明確に理解できてしまったのだろう。
膨大で濃密なガルギニスの魔力量、しかもそんな魔法師に膝を付かせたアルスだ、これ以上ないほど畏まってしまっても責められないか。
「これでよろしいかなアルス殿」
「えぇ、ありがとうございます」
これで仕舞いだが、アルスは目の前に座るシセルニアへと目を向けた。背後から見えるベールの隙間――彼女の口が笑窪を作るほど持ち上がったからだった。
何を考えているのだろうか。今の話にそんな面白いものが含まれていただろうかと思い返すが、そんな言はなかったはずだ。
もちろんアルスとシセルニアでは着眼点が違うのも立場的に必定だろう。
「私たちも忙しい身だ。さっさと済ませてしまおう」
おそらく一番年上だろうハルカプディアの元首が口火を切る。
「まあ、そう急がずとも我々が一同に会するのも数少ないことだ」
「アルス殿もお出で下さったのだからもう少しな」
誰もがイニシアチブを取られまいと口を開く。
その中にリチアの声はない。
ジャンが耳打ちし、黙する。
「みなさん、そう言ったお話はこの場に相応しくないと思うのですが」
シセルニアが満面の笑みで卓上をコツンと小突いた。
さすがに背後にアルスの姿を入れればそれ以上口を開く者はいない。
不躾な視線が向くがその程度。この場で軍配が上がったのはアルファ国だ。
静寂が降りたことで最初にシセルニアが。
「アルファ国は第40回7カ国魔法親善大会の開催を承認します」
元首のみが持つ王印を分厚い羊皮紙に押し、そのまま円卓の上に置く。
シセルニアはそっと回す。内側はスライド式になっているのだ。
異論がある場合は王印を押す前に申し出る。その都度元首が王印を押すまで吟味するという形態を取っている。
つまり、シセルニアには異論はないということだ。
続いてルサールカのリチアと次々に承認印が押されていく。
リチアが王印を押し回す手を躊躇い口を開いた。
「そう言えば今年はアルス殿も出場されるとか」
「――――!!」
声にならない驚愕が元首だけでなく、魔法師にも見て取れる。
それにシセルニアは何か? という顔で答えた。
「アルスも今年学院に入学したのだから、当然の権利ではなくて?」
「誰も出場を取りやめろとは言っていませんのよシセルニアさん。ただやはりシングルの名を冠する魔法師ですから他の生徒に何かあってはと思いまして」
その考えに背筋に冷たい物を伝わせる各国元首。
それに対してはアルスが答えた。
「それでしたら、シングルの名を冠する私を信用してはいただけませんか? 万が一にもそのようなことは起こりません」
「……! いえ、アルス殿の力量を疑ってではないのよ!?」
リチアが慌てて否定する。
アルスは微笑を浮かべ。
「承知してますよ」
その言に他国の元首も胸を撫で下ろした。怒りを買ったかという恐怖からの安堵か、大会で生徒の安全という言質を取ったからのものなのかはわからない。
そんなやり取りがあったからなのか、恙無く紙が回されていく。
しかし、その手が止まったのは丁度バルメス元首の場所だった。
全員が訝しんだ視線を投げる。
そして。
「今年は規制を緩めてはどうだろうか」
バルメスの元首が窺うように問う。それは顔色を窺っている表情だが、恐る恐るという提案を悟られまいと精いっぱい見栄を張っているようにも見える。
これまでも改正案などは上がったがシセルニアが元首になってからは毎年スムーズに事が進んでいた。
「規制といっても具体的には?」
「いや、規制というほどのものではないのだが、生徒への勧誘を解禁してはどうだろうか」
「「「「「――――――!!!」」」」
他国の生徒に勧誘することはあまりよろしくないという暗黙の了解がある。無論個人の意思を尊重するのだが、買収されれば政治的な交渉が裏でなされるのは常だ。
この提案はそれを黙認しろという。
7カ国中で最も危惧されているのがバルメスという国だ。2桁魔法師はいるが、圧倒的な力を誇るシングルがいないことが問題なのだ。だから、優秀な生徒を確保したいというのも理解できる。
できるのだが、それが自国の魔法師ともなれば話は別だ。軍への供給が減る。将来を嘱望される生徒が引き抜かれて良い顔ができるものはいないだろう。
たとえ、人類を守るという立場を考えても。
問題はこれが今思い付いたものなのか、それとも以前から考えての提案なのか。
いや、どちらでも問題はある。特にアルファには。
「許可できないわ」
そう声を上げたのはシセルニアだ。
同時にリチアへと憎々しげな視線を向ける。
アルスもまた生徒という括りになる以上、勧誘の対象なのだ。
これがアルスを引き抜く為の提案だとしたら……考えるだけでもぞっとする。
今日のやり取りでアルスが他国に移る可能性を示唆したためシセルニアが感じる憂慮はより現実味を帯びた。
「しかし、我が国バルメスは魔法師が少ない。このままでは何かあった時に対処できないのだ」
それは自国の不甲斐なさを露呈させるという恥辱だが、他者から見ても事実であり、それを差し引いても獲得したい魔法師がいるとなればかなぐり捨てても惜しくはないだろう。
シセルニアは視線を巡らせる。
(まずいわ)
即答で異論の声が上がらないのだ。思案されているということだ。考えるだけの提案ということ。
提案の議決は欠陥さえなければ、多数決で決められてしまう。
シセルニアは万が一を想定する。アルスが他国へと渡ってしまった場合。決まれば黙認、つまりは最強の魔法師を手放すのはデメリット以外の何ものでもない。アルファが強国として7カ国中最大の戦果を上げているのはほとんどがアルスの功績だとシセルニアは知っている。その叙勲式も自分が執り行ったのだから。
仮に今年の生徒を全て奪われてもアルスが残ればそれだけで十分と言える。
シセルニアもバルメスの状況が芳しくないのは知っているのだから、アルスさえいなければ賛成しても構わなかっただろう。
「では、賛否を問わせていただいてもよろしいかな?」
「ちょっと待って! 国力の低下を他国で補うというのは如何なものかしら、万が一高レートの魔物の侵攻があれば協力を仰ぐこともできるのでは?」
シセルニアは反駁を予想できても、そう言わなければならなかった。事の成り行きを黙するには痛すぎる。下手をすればアルファが最弱国になり果ててもおかしくはないのだ。
7位のレティがいるとは言え、トップを走っていたアルファが下落するのはシセルニアの野望を根底から突き崩す。
「我らは共に手を取って人類を守らねばならないのですよ。一国でも突破されることはバベルの崩壊を意味します。協力を仰いだとしても援軍が到着するまで、魔物は待っていただけるのでしょうか?」
そんな保証はどこにもない。ましてや迅速に部隊編成を終えたとしても国を跨ぐほどの移動距離だ。悠長とは言わないまでも、攻め込まれた段階からでは時間がかかり過ぎる。一時的な出向を国は快く思わない節もあり、警戒態勢に移行した国が事前に他国に部隊の出向を要請する場合もある。
が……やはり軍の内部事情をよそ者に悟られたくないのはどこも同じ。共に戦う仲間とはいえ、視察まがいの受け入れを通常はしない。
「っ…………」
このやり取りをアルスは冷ややかに見ていた。茶番だと。
べリックへの恩を返すまではアルファに残るつもりなのだから。どんな好条件を突き付けられてもアルスにそのつもりはない。戦わなくてよいと言われれば考えるかもしれないが、そんな魔法師を欲しいとは思えない。
当然ながら、そんな考えをシセルニア、他国の元首が察せられるはずはなく、口に出したとしても信用はさせられないだろう。
アルスがシセルニアに大丈夫だと言えば問題は解決するのか、答えは否だ。
万が一という言葉はなんにでもくっ付くということ。
それが起こってしまうことは1%でも潰しておかなければならないだろう。
そんな焦りを嘲笑うように事態は進展していく。
「では、賛否を問いましょう。賛成は手を反対は沈黙を」
結果は賛成5の反対2――しかし、その中にはルサールカのリチアが含まれている。
シセルニアは当然反対。
リチアがあのタイミングでアルスの出場を公にしたのはこの展開までを予期していなかったのだろう。
思い返せば、王印を押した後なのだから、異論はなかったはず。ルサールカとバルメスが策謀を巡らせたということではない。
しかし、結果は決定、シセルニアにしてみれば愚行としか言えなかった。
シセルニアはベールの下で静かに湧きあがる怒りから唇を噛んだ。
「我が国の失態を汲んでいただきありがとう」
鷹揚に王印を押すバルメス元首。そして紙には7つの王印が押される。
「では、これで解散にしますか」
バルメスの元首が先に席を立つと、続々と後に続く。
最後に残ったのはルサールカとアルファだった。
「リチアさん、どうしてくれるのかしら」
「あんなことを言い出すとは思っていなかったのよ」
盛大なため息を溢す二人。
「どうせ、アルス殿を勧誘できるところはないでしょう。ジャンが彼と交友を持ってなかったら賛成してたわ」
「アルスはうちには来ないだろ?」
「今のところな」
ジャンの問いにアルスはぞんざいに答える。
「だろうな、そうなるとリチア様」
「わかってる。今回はうちも優秀な魔法師がいるから抜かれるのは困るのよ」
リチアははぁ~とため息を溢し「ダメ元で釘でも指しておいて」とジャンに告げた。
シセルニアは今の否定の言葉を聞いても鵜呑みにはできない。『今のところ』ほど信用ならないものもないだろう。
シングルが引き抜かれでもしたら前代未聞だが、このアルスに限りは十分考えられるとシセルニアは苦悩する。
何か対策を練らねばならないだろう。帰ったら総督に相談しなければなるまいと予定を立てた。
1位の魔法師の名はだてではない。それだけで大きな影響をもたらすのだ。二桁、三桁はまだ幾分順位の変動が激しいため、順位によって実力の微差は測れない。無論10位と99位には明確な力量差があるのだが、それも一万位と二万位ともなればそれほどの差はない。少なくとも実力以外での違い、たとえば魔力保有量や、行使できる魔法によっても変わる可能性もある。
しかし、一桁――シングルと呼ばれる魔法師の序列はそのまま力量差につながる。
現在9位は低迷しているが、8位以上の魔法師はそのまま強さの順に並んでいると言える。
そのため、1位のアルスは間違いなく魔法師の中で最強と呼べるのだ。
それを裏付けるように8位までの順位の変動はほとんどない。
「アルス、アルファを離れないでよ」
会合前の脅しが効いたのか強制ではなく、お願い。シセルニアはベールの下で懇願するように発した。
リチアなどは多少なりとも驚いているようだ。元首とシングルの関係は各国それぞれだが、階級的には元首が上である。
命令することはできなくとも、保有の権利は有しているのだから、軍事的な要件でなければ命令しても許されるのだ。
それは少なくともシングルが魔法師として人類の救い手という意識があるため従うのだろう。
だからこの場合はアルスという人物がかなり特殊なのだ。
その理由を知るのはアルファのごく一部だろう――アルスの底知れない力を知っているのは、積み上げた偉業をたった一人で成し遂げたことを知っているのは。
「そのつもりはありませんよ」
肩を竦めてはみるが彼女の立場上、よかったと楽観視はできない。それが虚偽だろうと罰せられないのだから。それこそ手放すことを推奨しているようなものだが。
「しかし、バルメスは安定したシングルがいないとはいえ。二桁代の魔法師は多い気がしたんだけどなぁ」
ジャンが小首を傾げながら何の気なしに疑問を放り込む。
「そうだけど、魔法師が他国と比べると少ないのも事実よ。圧倒的な強さを持つシングル不在に魔法師不足は憂慮すべきだとは思うけど。切羽詰まった状況ではないと思ってたのよね。ルサールカでも遠征チームを派遣しようという声はあったのだけれど」
「もう決まってしまったことはしょうがないわ。私はすぐにアルファに戻るけどあなたたちはどうするの?」
「さすがに今回はルサールカでも話し合いの場が持たれるでしょうね。早急にということではないけど、不審を抱かれないように動かないといけませんわね」
事前に阻止する動きが明るみに出れば、国家間で不和が生じるだろう。爪弾きにされかねないのだから、慎重に動かざるを得ない。
それでもシセルニアはどんな手を使ってもアルスを手放すわけにはいかないと考えていた。
「では私はこれで、リチアさん次は魔法大会で」
「えぇ、でもしっかり優勝は頂きますわよ」
不敵な笑みで迎撃するシセルニアは「行きましょうアルス」と言って部屋を出る。険悪な二人が何事もなく滔々と会話するのは呉越同舟といったところか。
廊下には誰もおらず、自然とシセルニアの足取りは速くなっていた。
この後は会食の場が持たれているが、シセルニアはリンネにすぐ帰る旨を伝える。
外は熱気に満ちた昼過ぎ。
すぐに用意された馬車は1台だけではなかった。
リンネは即座に主人の不機嫌を見抜き、アルスに視線で問い掛けてくるが、呆れ混じりに見返し、言外に自分で訊けと返す。
馬車に乗り込んだ二人の背中を見てアルスは扉を閉めようとした。
「何をしているの、早く乗りなさい」
同じ場所に帰るのなら同乗すべきだろう。さすがに元首との同乗は誰でもというわけにはいかないが、シングル魔法師であるアルスならばその心配もない。
が、アルスは首を横に振った。
「いや、俺は少し用がある」
「……!」
明らかに不満気な空気がベールの隙間から洩れでる。
一拍置いて。
「アルス、あなたに命令できないのは理解しているけど、これ以上私を怒らせてあなたに得があるのかしら。それともそういう趣味?」
さすがにこの場に残ると言えば要らない憶測が立つのは承知の上だ。こんな事態ならばなおさらだろう。無論アルスには大したことではないのだが。
「どう取ってもらっても構いませんよ」
アルスとしてはそこまで詮索される筋合いはないのだが、ほっそりとした脚が外に投げ出されては扉も閉められない。
これ以上は逆に時間の浪費に繋がりそうだ、と判断したアルスはざっくりと明かす。
「少し私用でジャンに用があるだけだ。まだいるだろうから今の内に」
「ダメよ! 他国の者と話すなら私の目の届く範囲でしなさい。リチアもすぐに帰ると言っていたのだから長話にはならないでしょ。それまで待ちます。いいわね、リンネ」
「構わないけど、早く帰りたいなら口は挟むなよ」
丁度、リチアがジャンを連れて姿を現す。もう1台用意された馬車はルサールカのものだった。
「ジャン、少しいいか?」
「どうしたアルス」
気さくに応答するが、その顔はシセルニアの乗る馬車が発進しないことからも神妙なものへと変わった。
「リチア様、ジャンを少しお借りしてもよろしいでしょうか」
「ええ、構いませんけど……」
その視線の先はシセルニアがいる。
「どうも買収されると思っているようで」
「ふ~ん、アルス殿も苦労するわね。嫌気がさしたらいつでもルサールカにお出で下さい」
アルスも苦笑いで応えるしかできなかった。
そして、当然だろうな。
ジャンと話す中にシセルニアがいるのなら、リチアが混ざらないということは有り得ない。
結局は4人がシセルニアの馬車に入る。リンネには悪いが探知で近づくものを知らせてもらうため一度外に出て貰っている。十分な広さがあるとは言え、4人乗りのため仕方がない。
「で、なんだアルス」
「手短に済ませる。バルメスの大規模討伐戦はいつ頃からだ?」
「俺も人伝に聞いた話だから詳しくは知らないんだが、1カ月は過ぎるな」
「本当に未だ討伐中なのか?」
「……! あぁ、確かに俺も少し長いとは思うが慎重に動いているのだろう」
バルメスの抱える9位ダンカルが先頭に立っているのだろう。
「ジリーダも加わってるかわかるか?」
「さあな、さすがに24位がいるのには驚いたが、同伴していないならジリーダさんも加わってると見ていいだろうな」
アルスは少しだけ整理し、すぐに口を開いた。何かを言いたそうなシセルニアやそれを黙って聞いているリチア、両元首をこれ以上拘束しておくのはまずいだろうなと思った時――軽く扉が叩かれ。
「アルス様、4名出てきます」
「わかった。ジャン、最後にダンカルという9位の実力はシングルと呼べるほどか? ジリーダとダンカルなら実力的にはどうだ」
アルスはジリーダを資料でしか見たことが無い。ジャンが入れ換わったことを知っているとすれば半年と待たずに明け渡したことになるが。
特にダンカルなる男をアルスは資料ですら見たことが無い。
「悪いなダンカルは俺も名前だけしか知らないんだ。ただジリーダさんは印象的に近い気がした。シングルには今一つ、それこそ8位のガルギニスと比べたら2枚ほど落ちるが、9位に最も近いとは思うぞ」
「そうかありがとう。リチア様も時間を取らせてすみません」
「私は大丈夫ですよ。それよりもう良いんですの?」
「はい、あまり人聞きの良い話ではないのでこの辺りにしておきましょう。お招きいただけるのでしたらルサールカにお邪魔した時にでも、もう少し気の利いた話題を用意しておきます」
喜々とした微笑をベールの下で浮かべたリチアはジャンが外から差し伸べる手を取る。
「大会までは慌しいでしょうから、終わったら改めて招待状を認めさせていただきますわね」
アルスは「心待ちにしてます」と限界に近い偽装の表情を維持した。
二人が出ていき、代わりにリンネが加わると、ほどなくしてカタコトと馬車が動き出す。
「何が私用よ。やっぱり聞いておいてよかったわ」
「私用ですよ。俺は誰に報告するつもりもなかったですし」
「……! だからよ」
怒気にも近い口調だが、その顔は光明を見出した光を帯びていた。もちろんフェイスベールは走りだしてすぐに外してある。
「それにルサールカなんかに本当に行くつもりなの?」
「良い機会ですから。そろそろアルファのAWR技術も低迷してきたし、前から興味はありました」
あながちというかお呼ばれすること自体まんざらでもなかったのだ。その時の表情は取ってつけたようなものだったとしても。
アルスが低迷といっても自身が作るAWRはオンリーワンのものが多いのだが、その技術が上手く転用されるのを今までの経験上理解している。
だから、アルスが何かを製作すればそこから派生して様々な形態へと変化するのだ。
常駐型魔力生成機が街灯――魔力灯――などに用いられたように。
読んでいただきありがとうございます。
7カ国会合、第2章は終わりです。
次話は少しだけ間を開けまて、2・3日後投稿予定です。進行状況次第ですが。