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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第2章 「正義の足並み」
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砂の中から砂を



 問題はもう一つ。


「エレイン教諭、メテオメタルの所在について、もう一つの方はどうなっていますか?」

「もちろん抜かりないわ。と言っても、正直裏は取れていないのよ。なんせ、どこの国もトップシークレットですから」

「でしょうね。その辺もわかっているつもりですよ。一応コンタクトが取れれば情報を引き出せますし、俺なら邪険に扱われないでしょう。それに万が一、外界でメテオメタルを発見しても性質的に使えないかもしれません。ですので、その時の取り引き材料にできれば」

「万が一、ってのは聞かなかったことにしておくわ。それはそうと羨ましいことね。一介の研究者なんて相手にもされないわよ。え〜っと、ちょっと待ってなさい」


 そう言うとエレイン女教諭はメモ帳を開いて、該当箇所を探す。なんとも無用心な姿だが、所在がわかったところで手出しできないのも事実だった。

 国を相手取った交渉などまずできないのだから。殆どの者は体のいい理由を盾にメテオメタルを接収されてしまうに違いない。

『国のため、延いては人類のために必要な戦略物資だ』とでも役人の言いそうなことを想像してみる。


「あったわ。私が集めた情報によると、ハルカプディアに一つ、未加工の理由はわからないわね」

「あそこは魔法体系的な問題もあるので、扱える魔法師がいないのかもしれません」

「なるほどね。まあいいわ。ハルカプディアは結構有力よ」


 ビッシリ書き込まれたメモ帳には、多数の証言が詳細に書き込まれていた。


「さすがに特質なんて分かりませんよね」

「無理ね。上層部でさえ知ってるかどうかって代物よ。軍お抱えの研究者、それも最高責任者クラスじゃないと」


 そこまでは無い物ねだりすぎたようだ。


「次はイベリスが最低一つ」

「というと?」

「それは研究者間で一時話題に上がった噂もあってね。加工できる研究者や技術者を探していたようなのよ。研究所がいくつかあってそこに加工依頼をするようね。一斉に号令がかかるみたいで、そんな話がここ数年に二回から四回」


 メテオメタルと断定するには早計だと思われたが、そこもちゃんと調べているらしい。


「可能性が高いという意味では……バナリス」

「…………」


 アルスは刹那的に沈黙した。バナリスの事情は今や軍部でも有名だ。

 メテオメタルを所有していても、バナリスは数年シングルに見合う魔法師を排出できていない。普通に隠し持っていてもおかしくはないだろう。未加工である理由も頷ける。

 宝の持ち腐れとは言うものの、どこも下手を打てないのだろう。国力の象徴たるシングル魔法師に持たせてこそ、真価を発揮するとまで言われる希少鉱物が故だ。


「クレビディートにもそんな話が出たこともあったわね。情報筋的にこちらは私としても自信がないところね。軍の方針として旧文明の名残りなんか、色々と調査はしているみたいなのよ」

「遺跡とかでしょうか」


 ロキの質問にエレイン女教諭は「多分」と曖昧に返す。


「分かりやすい功績として過去名の通った建造物なんかを調査するのは意義のあることではあるのよ。そこからわかることも多いのよ、ロキさん」


 無知を指摘されたようで、ロキは敬意を払いつつ目を伏せた。

 すると今度は、


「えっと、それって国内向けの宣伝ってことですか?」


 ようやく話の内容がわかってきたのか、アリスも話に加わる。

 質問の筋が良かったのか、エレイン女教諭は身体ごとアリスへと向けて教壇に立つようにして正答に続いた。


「国外もね。寧ろ国外の方にこそ重きが置かれていたようね。でも、元首はクローフ様よ」

「シングル魔法師を起用していると」


 言われてみれば、クレビディートのシングル魔法師ファノン・トルーパーの手綱は彼が握っているように見えた。振り回されているようにも見えたが。


「それもあるのだけれど、クローフ様は外界の地勢に詳しくて、文化財にも興味があるという話よ」

「ともかく、メテオメタルを探している可能性は高いってことですね」

「そ、そうね。ごめんなさい、ちょっと脱線してしまったわ」

「いえ、それよりも先生の方こそ、軍人以上に各国に精通しておられますね」

「まあね。それだけ探し回ったってことよ。肩書きだけでも他国の研究者間で情報収集はそれなりにできるの、ちょっと悲しいけど」


 研究者なのに、情報収集活動に専念していた頃を思い出して、ショックを受けていた。

 こそこそと研究者に話を聞きに行くというのは彼女なりに精神的ダメージがあったらしい。当然のことながら、普通なら極秘案件だが、そこは上手く探りを入れていったのだろう。


「それでは結構顔が広いのでは」

「悲しいことに、顔だけは広いのよ」


 肩を落としたエレイン女教諭は、ハァ〜と情けなさから顔を落とした。

 だが、この絶好の機会を逃すまじと、ようやく研究に着手することができるとあって意気込みが悲哀の籠もった顔から伝わってくる。


「他にはないんですか?」

「アルス君」


 一喝を入れるような声の張り具合は、先ほど生徒を叱咤するものに似ていた。

 エレイン女教諭はスッと杭を打ったような立ち姿で向き直った。


「お互いに協力関係にありますが、私とあなたは教員と生徒です。そこを履き違えてもらっては困るわ」


 エレイン女教諭の厳かな態度に、アルスは思い直すことにする。イニシアチブを握っているのはアルスの方だが、それと立場は別。この場はシングル魔法師としてではなく、あくまでも一生徒である。


 ロキも一瞬怪訝な顔を向けるが、それをさせずにアルスはエレイン女教諭に向き直った。


「確かに仰る通り。では、話を滞りなく進めるために、どうぞ」

「——!! はぁ、アルス君、それは嫌われると分かっていての態度かしら」

「エレイン教諭ほどの聡明な方ならば、無駄話を省ける良い塩梅の態度では?」

「わかりました。ですが、余人の目がある場では、職員室に呼び出させてもらうことになるわ」

「了解しました」

「さて、他の情報ね、挙げればキリがないわ。さすがにこれだけってことはないはず。ルサールカはかなり市場が活発で、AWR研究が民間で盛んに行われているわ。そのせいもあって、ブラックマーケットに流出するものもあるのだとか」

「なるほど……え!」


 思わずアルスは声を裏返す。

 確かに本来考えられないが、メテオメタルを全て軍が引き取るわけではない。矛盾するが、かといって抜け道がないわけではなかった。他国はどうか知らないが、通常は手放す方が気が楽で、報酬も出るため発見者が持ち帰ることはまずないのだ。もっとも、シングル魔法師や、二桁魔法師ならばその限りではないのかもしれないが。

 なんだかんだ言って、最終的には軍の懐に入るようになっているし、圧力もあるだろう。


 皆が皆、報告するとも考えてはいない。内地へと見つからずに持ち帰ることも不可能ではないだろう。


 いずれにせよ、アリスのAWRはメテオメタルで作っており、その材料を調達したのはブドナの工房だ。ブドナからは入手経路を聞かなかったが——さすがに教えてはくれないだろう。まだまだ頑固になれるだけに耄碌していない。


 それに名工とはいえども、流れてきたと一言漏らすだけで相当な危険を呼び込みかねないのだ。職業倫理以前に、ブドナは職人だ、出所を保証するのは難しい。

 アルスもここは黙っておこうとした矢先。


「そういえば、私が使っているAWRもメテオメタルだったよね。やっぱり返した方が良いかな?」

「え——!!」


 目を剥く教諭を他所に、アルスは溜息を吐き出す。


「あれはお前にやったものだが、そうホイホイ人に言わない方が身のためだぞ。早速先生が目を光らせていらっしゃる。それに今更返されても再利用できないんだが」


 見ればエレイン女教諭は、飢えた獣のように鋭い目つきをアリスに注いでいる。この場にAWRを持ってきていないのが幸いしたのか、すぐに彼女は教師としての体裁を整えるべく居住まいを正した。

 その準備はまさにこれから交渉に入ろうとする者の面構え。


「先生、それはさすがに欲張りすぎでは? データだけでしたら、俺が管理していますのでアリスの許可があれば開示するのも吝かではありませんが、ひとまず後にしませんか」

「もちろん。ちょっと驚いただけよ。シングル魔法師ともなると、伝説級の超希少鉱物も形なしね」

「それを探すのに、苦労しているんですけど」


 目下の課題は妄想を掴むところからだ。徐々に現実に手の届きそうな位置にまで降りてきている。

 けれど、外界の異常現象の要因が魔物以外に、メテオメタルの影響もあるのだとすれば、もっと発見されていてもおかしくはない。つまり、メテオメタルと呼ばれるに足る鉱物は、見落とされがちな場合もあるのではないか。


 ミスリルのように特定の状況下で発光するような主張がない限り、発見は困難だろう。

 アルスの内心をロキが代弁してくれる。


「問題は区別できるかですね。種々様々であると思われるメテオメタルですけど、素人目でもわかるものなのでしょうか」


 最大の課題だ。

 でなければ、外界の異常現象もまた原因不明であり続けるのだろう。エレイン女教諭の説が立証されるのか、そもそも信用に足るのか。


 今更言っても始まらないな、とアルスは思考を戻す。一度は探しに出ることを決めたのだ。

 アリスとテスフィアの訓練も兼ねているだけでなく、エレイン女教諭の推測通りならば、大きな発見だ。


 魔法師の能力如何では、メテオメタルで作られるAWRが更なる能力向上に繋がるかもしれない。飛躍的とまではいかずとも、特性にあった使い手であれば十分過ぎる働きが期待できる。


(そんな簡単に進めば、誰も苦労はしないんだがな。今頃、クーベント辺りまで壁を築けていたかもしれない)


 珍しく崩れ去った希望を吐露した。


「ロキさん、目の付け所が違うわね。判別方法だけど、もちろん考えてあるわ」


 そう言うや、エレイン女教諭は室内の奥の方へと向かって、隣の部屋に入っていったのだった。

物騒な物音が立て続けに響き、一瞬床がぐらつくほどの振動に全員がヒヤリとさせられる。


 次にエレイン女教諭が姿を見せたとき、彼女は服を叩きながらファイルを持ってきた。



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