ニューヒロインズ
結成。
いつかの訓練時に、そんな言葉がふと脳裏を過った。
きっと訓練場を使っての通常訓練ならば、血迷った催しなど発生のしようがなかったはずだ。
意気軒昂な女生徒が集まっても、他人や異性の目があればそうそう羽目を外さないもの。
それが理性というもので、常識というもののはずだった。
理性のタガが外れる要因は様々だろう。
取り分け、アルスが教える二+一名は最近の厳しすぎる訓練メニューにテンションの乱高下が激しくなってきていた。
一般的な言い方をすればストレスである。
心の清涼剤が不足しているのだ。間食で紛らわすにしても、各自の発散方法にも限界がきているのだろう。
それに拍車をかけるかのようにアルスたちが使う訓練場の隔壁には、魔法詮索防止のため暗色がついている。自ずと他所の視線を気にすることがない空間ができあがるのだ。
ではアルスは、異性であるアルスは、というと。
日頃の訓練からすでに彼女たちの中では良いのか悪いのか“他人”ではなくなっている、ということなのだろう。
そう前向きに考えるようにしていたアルスは、できるだけ何も考えないように、感じないように無表情の仮面をつけることにした。
待つこと数分。
いつもならば話相手になってくれるロキも今は隣にはいなかった。
まだ二回目だが、この待ち時間がだんだんと嫌になってくる。
訓練場の照明が一旦消えると、センセーショナルな動きでスポットライトが床に円形を映し出した。
床を照らし出す二つ円形はダンスでもするかのように訓練場内を踊り出す。
(こんな機能あったか?)
派手になりつつある演出に辟易しながら付き合うことにする。
ドコドコドコドコ……。
そんなドラムを打ち鳴らすような音を口ずさみながら扉が開く。大量の白煙が区画内に流れ込んできた。
続いてタタタッと軽快に駆けてくる足音。
地面を滑りながらその者達は勢い良く入ってきた。
白煙に紛れながら、薄れる中でシルエットのみが浮かび上がる。
「はぁー、ふぅ」
落ち着かない息遣いが聞こえると、旋風の如き槍捌きが白煙の隙間から浮かび、長物を旋回させて煙を散らす。
他の二名は出番待ちなのか、彼女の隣でじっとポーズを決めている。
金槍が華麗に軌跡を残す様は、演武を見ているようではあった。
要するに刃に魔力が宿っているだけなのだが。
金槍を中段でピタリと構え。
「が、はッ、ひひひひ光の……戦士アアリス!!」
震えながら発した自己紹介にアルスの顔が引き攣る。
その後、反対側にいた少女は抜身の刀を何度か素振りして見せ、最後に半身で鞘へと戻す。
わざとらしく音を鳴らして流し目でこちらを見た。羞恥心の回避方法として彼女は半眼で堪えた。
「冷静沈着、氷の騎士……て、テスフィア!!」
語尾を強く発したのは、吹っ切れたからだろうか。いや、諦めたと言った方が正しそうだ。
(どの口が言うんだ。というか戦士で統一しないんだな)
というアルスの心の指摘は、心の中にだけ留められる。
そして最後とばかりに盛大な閃光がテスフィアとアリスの間に瞬く。
彼女は手を頭上に掲げて雷を放っていた。
仰々しいが、もう今更指摘のしようもない。
「あああ、あく、あくを、悪を裁けと私を呼ぶ、雷帝の遣いとはわたわた、私のこと、ロ、ロキッ!!」
「語呂が悪い」
どうせならば〜のロキなどが来て欲しいところ。
どちらにせよ、ガチガチと歯を鳴らしながら言われたのでは聞き取れないのだが。
それもそうなのだが一点気になるところが。
(これって登場からの決めポーズの流れだったよな。悪とか出てくるってことは正義の味方的な話なのか)
追加される設定に知らず知らずアルスの中で、脳内補整されていく。
ひとまず三人の自己紹介が終わったところでアルスは、やる気のない拍手を送った。それが定番化してしまう要因かもとは考えなかった。
演劇? はアルスの拍手が合図となって終わった。
「フィ、フィアさん流石に寒すぎです」
「だね〜、ちょっと失敗だったね」
登場時の白煙はテスフィアの魔法によるもの。端的に言えば冷気だ。
ロキとアリスは鳥肌を立たせて、腕をさすった。
色々と杜撰なところがあるのはアルスも承知の上。
そんなことよりも案外ロキがノリノリなことの方が衝撃的であった。




