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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第7章 「同化一体」
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会議の資格



 カタッと椅子を鳴らして立ち上がるイリイスは、更なる魔力の放出を以て戦う意思を表明した。

 傍で固唾を呑んだロキにしてみれば堪ったものではない。やっと苦境の中から帰ってきた矢先に、馬鹿みたいな量の魔力に当てられては尚更だ。


 そしてイリイスが何故会長の座にいるのか、その意味を他の者が知るにはまたとない機会でもあった。

 彼女の実力——本当の力を知っているのはごく僅か。もっと言えば、魔法師として純粋な力量を測る機会などなかったのだ。


 だから一度外界の拠点、【ウィクトル】で立ち会ったことのあるファノンでさえ、驚愕に目を剥いた。 


「……!!」

「こっちは不完全燃焼なんだ。火遊びするなら気をつけな坊や。手遅れにならない内に考えるといい。私は、消火はお手の物だぞ」


 イリイスの瞳は魔法で覆った偽装の膜——虹彩の縁に薄らと青い光が張っていた。

 威嚇にしては大人気なく、何より彼女の魔力が明確に見る者に敵意を抱いている。


「病院の予約は入れたか? あぁ、フリンは今手一杯だったな。さしもの治癒魔法師も馬鹿につける薬は持ち合わせていないはずだ」


 コキッと一つ、首を鳴らしたイリイスは弱肉強食の理の中で、ガルギニスを諌めようとしていた。もっとも腕っぷしに自信のある輩に言い聞かせる術を彼女は心得ている。

 腕か、足か、それとも喋れなくするためには、喉か……。


 シングル魔法師は確かに人類にとって貴重すぎる戦力だ。そのことはイリイスとて重々理解している。

 だから殺すまでの選択肢は入っていなかった。


 犯罪者集団にいたせいか、荒っぽい方法に抵抗はなかった。


 しかし、そんなおり、うんざり気味にさっきまでケーキを突いていた——突いていたのはエクセレスだが——ファノンが仲裁に入った。


「こんなところでドンぱち始めるつもり? 居て良いのは大人な話し合いができる者だけよ。依頼の、泥臭い部分はとうに終わった。やりたきゃ、全部が終わってから勝手にど〜ぞっ」


 どこ吹く風とばかりにファノンはすでに泰然自若とため息を吐いた。いや、彼女はイリイスの本当の力に対する驚愕を包み隠したのだ。

 協会の会長、その肩書きはシングル魔法師にも引けを取らない、という事実を。

 それとなくエクセレスへと目配せをするファノンの意図は容易に察せられる。端的にいえば、戦闘が始まる前に勝敗は決してしまっていた、ということ。エクセレスも頷き返し、ファノンの予想を裏付けた。


 ガルギニスでは手も足も出ない。それどころか、純粋な殺し合いになればファノンでさえも……。そんな称賛と畏怖が計算で弾き出された。無論、これは二人の率直な感想に他ならない。


 問題はガルギニスの介入によって、聞くべき話を有耶無耶にされてしまうことだった。

 イリイスの依頼は今後の各国間の垣根を取り除くが、その他にも有用な情報は自国に持ち帰りたいという心理は自ずと働く。さほど愛国心はないが、それでもファノンにとってそこそこには楽しく暮らせてはいるのだ。

 得られる情報を使って、総督を強請るネタにもなる。


 などと不謹慎なことを考えているだろうな、とエクセレスはその愛らしい横顔に疲れた目を向けていた。


 各国と協会が一堂に会して、策謀が飛び交わないはずがないのだ。

 そんな博愛者は最初からお呼びじゃない。


「はいはい、つまらない言い争いはやめましょう。ガルギニス様もその負傷では何もできませんよ。もっとも、国際問題に発展しかねません。そうなればハルカプディアには6カ国での制裁も考えられます。そうなったら協会も、なんですがね」


 ずっと先までを予想し、最悪な結末を描いたエクセレスはそんな不毛なことを、と止めの言葉を口にした。


「ガルギニス様の部隊からも戦死者が出たこと、大変お悔やみ申し上げます」


 それを聞いてガルギニスは微かに眉根を反応させた。

 厳密には怒りの矛先がエクセレスに移ったというべきなのかもしれない。


「それは俺を馬鹿にしているのか」

「滅相も」


 そう目を伏せるエクセレスは仰々しい言葉をそこで切らずに、続けた。


「ならば、今あなたがしていることは私共を馬鹿にしていることにはならないのですか? 少なくともシングル魔法師を貶めるような行為は慎むべきかと」

「……ふんっ、最初はなからそのつもりはない。少々気が昂っていた。すまん」


 魔力を抑え、ガルギニスはその巨体に宿る武力を象徴する一切を削いだ。

 部下の死について、今更何も思わない。彼等は望んで死地へと赴いているのだから、覚悟のできた者に対して選ぶべき言葉などない。そうガルギニスは常々思っている。



 イリイスも倣って、何事もなかったかのように椅子へと腰を落ち着ける。

 この時点で、本気の区別は実際に結果を見なければわからないほどの変化であった。


 ようやく話し合いの場が整いそうな時——。


「今、アルス様は救出されたフェリネラさんの治療に協力されています。そのこと、ご留意していただきたいです」


 一瞬、ロキの存在など忘れていたかのように、ファノンもガルギニスも目を向けた。

 小さくか細い訴え、そしてその身体に刻まれた負傷は彼女も共に戦った仲間であることを告げているかのようだった。


 治療はそもそも繊細な魔力操作が求められる。実際に戦闘の一つでも始まれば治療に支障をきたすのは目に見えている。


「……そうだな。すまなかった」


 一拍ほど間を置いたガルギニス。彼はこの救出作戦が成功したことをようやく知ることができた。

 何より、戦い抜いた者の言葉は彼に一考の余地を与えていた。

 殊勝にもガルギニスはロキに対して、頭を下げた。


「その辺も考慮しているつもりだったんだがな」


 などとこの幕舎内で魔法を使わず完結させるつもりだったと、イリイスは吐露するがそんなことは関係ない。

 じろりとロキからキツめの視線を受けてイリイスは、ぎこちない笑みを浮かべて、しゅんと項垂れた。


「脱線したが、さっさと話を始めよう」


 切り替えの早さは長生き故か。

 いずれにせよ、イリイスは余計なちゃちゃが入る前に、話題の舵を本題に戻した。


 その合図にガルギニスは手近な椅子に着くが、彼の巨体には小さかったようだ。

 少々不格好な形ではあるが、今救出任務についての話が始まる。


 逐一情報はイリイスの元に集まることになっているので、この拠点内では彼女だけが詳細を把握していた。


「一応、依頼した身としては二人に感謝しなければならんな」


 無論、報酬その他は別の話で、イリイス……もとい協会会長として礼節を尽くす。

 先ほどまでの緊迫した空気がなければ、と思わなくもないが。

 つまらないプライドは積み重ねた歳のだいぶ下の方に置いてきたのがイリイスだ。そこの区別はできて当然。


「目標の救出は達成したと見て良いだろう。レアメア姉妹はフリンの報告では快復に向かっているとのことだ。そしてフェリネラについては、今現在アルスとフリンが治療に当たっている。こちらは結果待ちだが、心配はしていない。で、だ……そっちの話を聞く前に言っておくか」


 「先に言わなかったのはアルスや私の判断というより、一般的に伝えるに値しない段階(・・)の情報だからだ」と前置きを入れておく。


 憶測の話は通常、出立直前の部隊に伝えない。余計な混乱を招く恐れがあり、可能性の話をしだしたらキリがないためだ。それほどまでに薄い精度の情報。

 これをアルスが言えば、もっと棘のある言葉を選んだだろう。

 「言っても言わなくても変わらないから伝えなかった」と。


 ここから先が、ファノンやガルギニスが聞きたかった話であり、それ以外は正直然程気にしていなかったほどだ。


 ロキもその一人。後々アルスから聞くこともできるが、フェリネラの容態がどう転ぶかわからない上に、代役として来ている以上何一つ聞き逃すつもりはなかった。





 


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