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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第2章 「ミスリルが眠る地にて」
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問われる選択



 休息も終わった頃、すでに任務開始から三時間が経過していた。フェリネラ達の任務達成率は三十パーセントといったところだった。


 無論、調査対象域に到達するまでに時間が掛かったこともあり、実質的にはここから先が本格的な任務となる。


「進行速度も大凡予定内ね。この先は未探査だからみんな気をつけて」


 協会の事前調査でも細部までは把握できていない。それでも結局は鉱床の広さを超えることはないため、内部の構造を事細かに調査していないのだ。

 ただ……その広さから地図無しでは帰り道がわからなくなってしまう。


 フェリネラは再度注意喚起をして、地図に目を落とす。


「それにしても複雑ね。同じような分かれ道が多い上に、これといった特徴が少ないわ」


 先程休んだ場所さえも外周部ということを念頭に入れているからこそ他に抜け道がないとわかる。だが、移動を始めて早々、先程と同様の部屋ポケットを見つけたのだ。

 行き止まりの横穴がいくつか、フラスコを横にしたような無意味な空間。


 加えて光量が変化するミスリルの存在が余計に思考を混濁させる。地図なしでは自分達がどこに向かっているのかすらわからなくなってしまう。魅惑の宝が放つ輝きは方向感覚をも狂わせるのだ。


 この中では探知系の魔法もどこまで信用して良いのか判断がつかない。

 ぞっと背筋が強ばるのをフェリネラは感じていた。人間を迷わすための迷路としてはそれこそ完璧な作りだ。


 奥へ進む度に、ここまでの道のりの記憶が不安を煽ってくるようだった。まだ道が見えている内に、と後ろ髪を引かれる。それでもこうして臆することなく進むことができるのは、仲間がいるからだろう。

 一人でなど頼まれても行くもんですか、とフェリネラは確固たる決意を宿す。


「これで分岐点はもう十箇所目になりますね」


 差し掛かった岐路で立ち止まり、隊の中心にいるセニアットが眉間に皺を寄せて考え込む。すぐさま頭を振ったが、そうして紡がれた言葉は「もう来た道わからなくなっちゃいました」であった。


「私もそろそろ自信がないわね」

「最初から無理なものに思考を割いても仕方ないわよ」


 隊の前には三つの分かれ道が現れた。

 不安げな声を上げつつフェリネラは地図で再度確認する。

 割り切った相槌はイルミナが発したものだ。彼女はそれぞれの通路に立ち、先を覗き込むように目を凝らしていた。おもむろにミスリルと思しき壁面に手を触れ、魔力を流し込む。


 それぞれが近しい鉱物同士ならば伝導率が高いミスリルが魔力を伝え合い、奥までを照らし出してくれる。

 段々と灯っていく輝き――淡い魔力光が薄闇を払い除けていく。


 イルミナに倣って男子生徒も残った二つの通路に寄った。


「どれが正しい道なんだろうな?」「…………」交わした問いの答えを問われた男子生徒も持ち合わせていない。この部隊でそれに答えられるのは隊長であるフェリネラただ一人だ。


 しかし――。


「なるほどね~」

「どうしたの、フェリ」

「え、えぇ。未探査箇所なんだけど、どうもどこか繋がってるみたいね。さっきみたいな部屋ポケットのような特定の場所に限らないということね」


 それもそのはずである。協会側の調査はいくつかのルートのみに限定されて行われていた。


「じゃあ、この分かれ道がどこに繋がっているのか、はたまた行き止まりの可能性もあるということ?」

「セニアットさん、半分当たりね。これを見て」


 そう言い最も近くにいるセニアットに地図を見せる。

 顔を近づけて、覗き込む彼女にフェリネラは指で現在地を示した。


 何も未探査といっても奥に向かう全てが白紙の状態ではないのだ。虫食いのようにたどり着くまでの道中が書き記されていないだけで、大凡の見当はつく。

 事前探査では別ルートからフェリネラ達が向かうポイントに到達したのだろう。


「直進か右折かね。ここが端側であることを考えると、たぶん右はさっきみたいな部屋ポケットに出るんじゃないかしら?」

「そうですね」


 いったんの会議を挟んだ時、直進ルートを見ていたイルミナが戻った。


「当たりだと思うわよ。見た限りではほぼ一直線だしね」

「とすると問題は両側ね」


 フェリネラが問題たる両側の通路に目を向けてから、意見を求めるようにイルミナとセニアットを交互に見た。

 問題とは、探査の必要性である。フェリネラ達は鉱床に入ってから右側の端を探査している。他の部隊は内部や逆側の端とそれぞれにマッピングルートを与えられている。


 当然事前の予習では発見できないことも多い。

 今回のように未探査の区画に脇道が存在する場合などだ。仮にどこかに繋がっているだけの通路だとしても書き記しておく必要があった。


 他部隊に任せるにしても探査洩らしがあるかもしれない。

 同じくイルミナも地図に目を落として口元を覆い考える。


「確かにこれは、また戻ってくることになるわね。時間は?」

「調整できないこともないけど、どこで時間を取られるかわからないわね。もちろん非常事態を考えて余分な時間もあるにはあるの」

「決めるのはフェリよ。悩んでいても時間を無駄に浪費するだけ」

「そうね。私達はこのまま直進しましょう。右の通路はおそらく行き止まりだから帰りにチェックすれば良いわ。左は他の部隊が探査してくれるかもしれない。たぶん第4魔法学院の部隊が通ると思うの。先には合流できる地点もあるにはあるから運が良ければそこでお互いに確認が取れる」


 フェリネラの提案に異論の声は上がらなかった。男子生徒も含めて全員の頷きが返ってくる。


 左右の通路を確認していた男子生徒によって視認できる範囲に敵影がないことも報告があった。

 一致したところでセニアットが手を勢いよく合わせた。


「満場一致ですね。それでは行きましょう。うん、一番合理的ですし」

「時間の調整もできる。合流して情報交換も必要なことよ」


 セニアットに加えてイルミナからも同意の声が上がった。

 運が良ければ、と言ったが、実際他部隊との合流によってもたらされる情報は必須であるとフェリネラは感じていた。少なくとも他部隊がどういう状況なのか、起こりうる予想外が起こってしまったのか。

 カリアの注意喚起が現実のものとなってしまったのか。


 その確認も任務継続に必要な情報である。

 フェリネラが考えうる最悪の想定は、すでに学生では対処できない程の非常事態が起きていた場合だ。その情報を共有できずに鉱床内部に取り残されることも考えられる。


 離れた位置からでは他部隊との連絡手段がないのだから仕方ないことではあるが。

 このミスリルがいくら魔力の伝導率が高く、魔力に反応して強く発光したとしてもそれが他部隊の戦闘や距離を測るのに役に立つ確証はない。


「それと陣形を少し変えましょうか」


 提案したフェリネラであったが、その理由はすぐに全員が理解した。

 これから通ろうとする通路がこれまで通ってきた道よりも狭いのが原因である。間口こそ広いが、先細るようにして奥に進む程道幅が狭まっている。横幅は二人が通れる程しかなく、高い天井も節くれだった岩肌でところどころ低くなっていた。うかうかしていると頭をぶつけそうな圧迫感もある。


 先頭にイルミナを置き、最後尾にセニアットという配置でフェリネラは主に後ろから二番目。

 一列ではあるが、それぞれの視界を確保できるように左右に少しずれての進行になった。


 歩き始めて、それは間もなくのこと。

 まだ先は続き、見える範囲内には出口らしい広い空間もない。かといってそれらしき分かれ道も見当たらない一本道である。


 セニアットは視界の端にフェリネラを入れ、前が見えづらく時々頭を振った。一応前に人がいるというだけでも一安心なのだが、こうも見通しが悪いと何かあった時にすぐ動けない。

 頭と頭の間から見る限りでは一応大丈夫なようだった。背後も気にしつつ、それでも後衛であり、防御系の魔法を扱うセニアットはいざとなれば、即座に魔法を展開する役目も与えられている。


 だが後ろに何もいないことを確認し、顔を前に戻した直後――突如、カチャカチャと地面を硬いもので叩くような音が鳴り響いた。

 それにセニアットは逸早く気づく。即座に身体が強張り、強制的に神経が研ぎ澄まされていく。


 焦燥感を掻き立てるように徐々に近づく不規則な音。

 カチャカチャカチャカチャカチャカチャ――。

 フェリネラも含めてセニアットより早く気付けた者はおらず、さしものフェリネラでさえ一拍遅れて気づいた。


 足を止める間もなくセニアットは音がする方へ振り返り「えっ」と喉から引き攣った悲鳴を洩らした。前方だと思っていた音の出処は、予想外に背後からだった。

 つい先程まで何もないと確認したはずである。反響しているせいか、それとも前を気にしすぎていたからか。


 いずれにせよ、気づいたと同時に振り返ったセニアットは一瞬にして顔面蒼白となった。

 セニアットは急かされるように振り向いたそれは異形の名に相応しい姿形で、凄まじいスピードで部隊に迫ってきていたのだ。


「ひいぃぃぃ!!!!!」


 


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