表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第2章 「ミスリルが眠る地にて」
407/549

若き精鋭の初任務




 各隊四・五名、全七部隊が学生によって構成されている。

 それぞれの部隊は二つに分けられ、護衛付きで任務開始場所まで移動を開始していた。受け取った地図は厚手の紙に描かれていた。データ化するにしても鉱床内部では映像が乱れる可能性が高いためだ。そうでなくとも外界では紙製の地図は多くの場合で用いられる。


 幾度となく詰め込んだ地図に視線を落としたフェリネラは、脳内で構築した地図との整合を図る。


 内部の広さは想像を優に越えてくるだろう。

 この鉱床はそこいらの山々と比べても遜色ないほど標高もある。ただこの鉱床の表層は岩壁という程に嶮しく切り立っていた。

 どこまで行っても端など見えてくる気がしてこず、回り込むだけでも日が暮れてしまいそうだった。まるで隣り合わせに越えることのできない壁が屹立しているようだ。何よりも鉱床周辺の地面は柔らかく、一度掘り返されたかのように土気色が目立つ。


 よくよく見れば不自然に傾いた木々や、倒木の跡も見られた。まるでこの鉱床が突如として地中から生えてきたかのようだ。



 第2魔法学院の部隊含め、数隊が拠点からほど近い入口に到着したのは十分程走った後のことだ。

 これでも拠点近くの入り口から然程離れておらず、現時点では他の侵入経路を確保できていないとのこと。程なくしてやや小ぢんまりした前哨基地も見えてくる。


 周囲の木々を切り開くわけでもなく、寧ろ溶け込むように作られた使い捨てることを前提とした迷彩基地。

 護衛の一人が何事か報告して、立ち寄るでもなくフェリネラ達は入り口に誘導された。


 何段か補強された木組みの階段を上ると、突如として学生達を大穴が出迎える。横たわるようにして見事な半円状にくり抜かれた入り口。五人が横に広がっても通れるくらいには幅広の穴だ。


 掘削作業の跡が顕著に見られ、岩肌からはミスリルが淡い光を放ち内部を奥部まで照らし出していた。幻想めいた光は自然が生み出した物というよりも、いっそ人工的な明かりを思わせる。宝石の輝きとも違い、魔力光的な輝きが満ちていた。

 そしてその光はまるで鉱床内にある全てのミスリルと繋がっているかのように光を伝達しているようだ。同じ光量でずっと奥までを照らしている。


 フェリネラも含めて学生達は全員が不思議な感覚に囚われて、思わず立ち竦んだ。生活の明かりとは違い、それは馴染み難い色なのかもしれない。何故か内部に長く留まれば、気が狂ってしまいそうな予感さえする。


 この鉱床も未知なる世界なのだと、否が応にも突きつけてくるのだ。


 時間を確認した警護の隊長らしき壮年の男が、警護者全員に合図を出すと、いよいよ任務開始のムードが高まる。学生らは臆することも、心の準備を固める時間さえも許されず、無情にも開始の合図が発せられる。


 崖から落とすかのように戻ることを許さない周囲の緊迫感が伝わってくるようだ。


 先陣を切ったのはフェリネラであった。


「第二班、これより内部の探査に向かいます。隊列は決めた通りで……」


 各学院ごとに与えられた1~7までの数字が班の頭にそのまま用いられている。

 フェリネラはまず基本となる陣形を組んで鉱床内部に踏み出した。

 ここにはフェリネラ達の第2魔法学院と、ルサールカの第1魔法学院、イベリスの第4魔法学院がおり、一斉に内部に侵入する。


 外界というものを他の生徒より経験しているため、フェリネラは学院にいるかのような落ち着いた足取りで隊列を率いた。他の部隊もいるようにこちらの入り口は当分一本道で、魔物がすぐに襲ってくるということがないのだ。


 それをわかっているのか、他校の生徒も口々に鉱床内部を照らし出すミスリルの感想を発した。

 それに触発されたわけではないのだろうが、目の色を変えたセニアットが唐突に不謹慎な言葉を口にする。


「この塊を持って帰ったら、お、お金持ちになれるのかしら……」


 腰掛け程度に転がっている岩を指さして呑気にそんな邪な考えを巡らせる彼女に、他の隊員も苦笑を滲ませる。

 無論、貴族であるイルミナは緊張感の欠ける発言に頭を悩ませているようだったが、それがセニアット本来の気質であるのは承知の上だ。


「セニアットさん、私達は盗掘しに来たんじゃないのよ」

「そうは言っても、イルミナさんだってミスリルなんて高級品、早々お目にかかれないんじゃないの?」

「それは……。採掘量が決められているのだし、AWRに用いるだけでも足らないのだから、そりゃーねー」


 少し見ただけでもこれほどの埋蔵量だ。この鉱床にどれほどの価値があるかなど、想像もつかない。

 加えてAWRに用いる材質の中で、ミスリルは最高級品とまで言われている希少鉱物だ。それが前線に立つ魔法師の力となるのだから、この任務の価値は想像以上に高いのかもしれない。


 こんな話ができるだけ身体の緊張が程よく解れていると取ったフェリネラも会話に加わった。

 指を一本立てて肩越しに話題の中心へと目を向ける。それはまるで観光地のガイドのような仕草であった。


「この明かり自体は、ミスリルが魔力によって発光しているのよ。それだけでも魔力の伝導率は高いし、並外れた親和性を持っているということね」


 魔法師が放つ漏洩魔力にすら反応している様子から、ここの伝導率、いわゆる純度の高さを物語っている。


「さすが生き字引との呼び声が高いフェリネラさんね」


 セニアットはフェリネラの評判通りの博識に、感服しましたといった様子で仰々しく称える。事実学内の成績は常に一番の彼女だ、誰もが認める秀才ぶりである。


「褒め言葉なのでしょうけど、ちょっと年配扱いされている気がするのよね。それにAWR関連の講義を取っていれば教わることよ」

「そうだったかしら……」


 基本的とはいえ、講義を取っていない者にとっては知る由もない知識なのかもしれない。が、セニアットは少なくとも成績上位者であり、彼女も講義の場にいたはずなのだ。

 だから……。


「はぁ~、言いたかっただけね」

「……バレましたか」


 同級生ということもあり、セニアットは人懐っこく舌を少し出して冗談めかした。


 かく言うセニアットもこの一年で見違える程、上級生が板についてきた。無論、こんなことを口に出すことはない。同級生から言われれば流石に失礼というものだ。なのでここではこう言い換えても良いのかもしれない。そう、セニアットは課外授業の後から、大人びた余裕を纏い出したのだ、と。


 一つ成長したことは間違いない。甘さが抜けたというのだろうか。


 端的に言えば、外界に出る魔法師と学院の雛と呼ばれる生徒。この決定的な違いは《外界》という場所において、そこに映る現実を受け入れるか否かだろう。

 おそらく人としてというよりも魔法師としての成長に直結するのだ。


 そんな一時の会話は他の部隊にも伝染し……いや、いつしかフェリネラ達の会話に耳を傾けていた。


 それに気付かされたのは、思いもよらない人物が会話に加わってきたためだ。


「専門的なことでいえば、ミスリルは永久機関として最有力候補の鉱物なのよ。突然ごめんなさいね、フェリネラさん」


 挨拶代わりの会釈を向けて来たのは、今回学生のみで構成される部隊で唯一のイレギュラーな存在。カリア・フェラードであった。出自を武芸に秀でた名家とし、フェリネラ同様学生時代には第1魔法学院内でトップの順位を修めていた。


 現在はルサールカ軍の新兵として新人教育の真っ最中である。そんな彼女が今回任務に加わったのは在籍する学生に不安があったから……ではなく、カリア自身の強い要望があったからだ。いずれにせよ便宜を図ったのがシングル魔法師のジャンである。


 ともあれフェリネラにとっても、各隊にとっても頼もしい存在だ。


「――!! カリアさ……失礼しました、フェラード伯」


 フェリネラの礼節に乗っ取った応答に一番驚いたのは当のカリアであった。翡翠色の髪が驚きのあまりふわりと舞い、その後自嘲するかのような笑みを浮かべた。


 とはいえ、場所が場所ならばフェリネラの対応は正しい。

 カリアは卒業と同時にフェラード家当主の座に就いていた。正式な爵位を与えられた当主なのだ。


 もちろん、新人として軍役に就いている身としては箔をつける意味合いが強い。肩書きがあるとないとでは、扱いが違うこともまた事実である。

 それをわかった上でカリアは自嘲気味に笑みを浮かべたのだ。あくまでも本人の意思に反して家督を継がされたのだから。


「うちは貴族とはいっても、正しく言うと、古くは王家の武術指南役を命ぜられただけの家柄なのよ。簡単にいえば【師範】みたいなものなの」


 何代も前の話だ。更にいえばルーツはこの7カ国が集うアーゼシル大陸ですらない。今となっては埃を被った少ない書物に書き記されているだけ。

 確かな血筋と今も伝わる流派だけが証明足り得るのかもしれない。


「そんなわけで新米として扱ってくれる部隊でお世話になっているわ。あまり気を遣わずにお願いできないかしらフェリネラさん」

「わかりました。カリアさんがそうおっしゃられるのであれば……」




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ