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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第2章 「繋がり、負の終着点」
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思わぬ暗躍

 闇夜に紛れてアルスは誰にも気付かれず疾走する。まさに風のようにと形容するほどに。

 身軽さ重視のため、持ち物は何もない。

 すでに地図は頭の中に入っているし、今回の下見は整合を取るためのものである。

 総督の資料を信用していないわけではないが、直に見ることで得られる情報は多い。完璧に仕事をこなすためにはやはり自分以上の適任はいないからでもある。もちろん毎度のことだ。


 市民街と呼ばれる中層区域に入るとまだ明かりはチラホラと見える。人の影も全くないというわけではなかった。アルファ国内でも最も人口密集率の高い街なのだから当然と言えば当然だ。


「突っ切るか」


 瞬間的にスピードを上げて、屋根上を飛ぶように駆けるアルスを捉えられる者はいない。

 ここに暮らす市民ほとんどと言ってよいほど非魔法師だ。いや、魔法を扱える点では魔法師なのだが、極めるための訓練を積んでいないという意味でいえば非戦闘員と数えられる。


 屋根に跳び移っても足音すらさせずに辺りを睥睨する。アルスの戦果。魔物を屠り続けて得た一時の平和がそこにあった。


「呑気なものだな」


 呆れたようなとも、嬉しそうなとも取れる表情と声だった。

 軒先で酒を浴びるように呑み明かす輩がほとんどだ。メインストリートと思しき大通り付近ではまだ人がふらふらと闊歩している。魔物を見たことすらないのかと言いたくなるほどだ。彼らは魔物との戦闘の対価として税を納めているのだから、その限りではないのだが、それでも呑気なものだ。

 そこから離れた路地裏、さらに暗がりが濃くなった通路で物騒な一団を目撃したのは本当に偶然と言えた。


 魔法師というわけではないだろう。人の少ない通りに大の大人が五人で一人を押しやっている光景を目の当たりにすれば物騒以外の何ものでもない。小物感はこの際頭の片隅に追いやるとして。

 連れて来られた人物が女性かの判別は付かない。それもアルスと似たようなローブに深々とフードを被っているのだから見下ろす位置では顔がわからない。


 それでも男共より貧相な体付きなのはローブの上からでもわかった。


 酔っているからだけではないだろう。男達は下卑た目を向けていた。

 この手の輩は治安部隊にでも任せれば良いのだが、深夜ともなれば行き届かないこともある。寧ろ、こういった犯罪紛いな行いは根絶するのが難しい。

 アルスは構っている暇はないとその場を去ろうとしたとき――。


「ここでいいだろう。もう我慢の限界だぜ姉ちゃん」


 先頭の男が持っていた酒瓶を放り、そのままズボンへと手を掛けた。

 背後で残りの男達も触発されたように野卑やひな笑い声を上げる。


「おい! お前は女房がいるだろ」

「おいおいそりゃないぜ。せっかくのお誘いに水を差すんじゃねぇ~、ヒッ」

「こんな美人はこの辺じゃお目に掛かれね~んだ。くだらねぇことで時間を無駄にすんじゃねぇよ」

「そうだ。お前は偉い。んで、何かあった時は酒の力で俺の記憶はぽ~んだ」

「たく女を待たすのはもういいだろ。さぁ~そんな色気のねぇのは脱ごうぜ」


 男がローブを引ん剥こうと手を伸ばした。


「――――!! んあ!?」


 男は一歩踏み出した辺りで一瞬よろける。それが酔いからのものでないのは明らかだった。足がもつれるというよりも身体のバランスがおかしくなったような感じだった。二歩目で体勢を立て直し、ようやく再度ローブの届く距離まで近づく。

 しかし手を伸ばしているのに掴めず、やきもきした男が自分の手を振り返った。

 差し込んだ月明かりが男の手を映し出す。しかし、白色の明りは手首から先を照らすことはなく、目的の五指の付いた手は足元で糸が切れたように転がっていた。


「ぎゃぁぁぁあああぁぁ!! 俺の手がぁあああっ」


 悲鳴とともに血が噴き上がり、一面に赤い雨を降らせる。


 ローブの隙間から銀光が瞬いたのをアルスは見ていた。そして頭痛を覚えるように呟く。


「やり過ぎだ」


 一般市民にしては腕が良すぎるのが、更に悩みの種だ。女性が身の危険を感じての抵抗ならばまだよかったのかもしれない。ヒーロー気取りではないが世間では褒められるべき行いのはずだろう。

 それもどうやら適いそうもない。

 何にしても男達の話から誘ったのは姉ちゃんと呼ばれた女性のはずだ。


 さすがにこの事件までアルスに回っては来ないだろうと思いたいが、回ってきた場合は二度手間だ。

 大事になる前に割って入るのが最良だろうとマスクを被り直す。


「なんだ何が起きたんだ」「腕を切り落とされた!」


 恐怖が伝播し、刃が月光を反射した。酔いの回った男達はその場に転ぶことだけで、まともに逃げられるものはいなかった。それもお互いに赤い飛沫を被ったからだ。


 ローブの女性が隙間からナイフを構えると男達に向かって襲いかかる。


「――――!!」


 その間に割って入った黒い影はアルスのものだ。

 振り被られたナイフを腕ごと掴む。


「その辺にしておけ」

「…………」


 視線を逸らさず。


「お前達もさっさと行け。ついでのそこの手も持って帰れよ、まだ繋がるかもしれん」


(まさか男共のほうを助けることになるとはな)


「わ、わかった」

 

 這いずるように落ちている手を掴むと礼も忘れて一目散に逃げていく。二人は腕を切り落とされた男を両側から支えているので駆けることまでは出来ないようだ。


「治安部隊が来る前にお前もさっさとどっか行け」


 手を突き放して距離を取らせる。このまま逃げるのであればそれでもよかった。


「じゃ……邪魔を……す、るな」


 フードの下で噛み千切った唇から血が滴る。

 その眼は獰猛にアルスを見据えていた。


 するとアルスの後ろからさらに二人のローブを羽織った男女が外套のはためくとともに降り立った。


「三人とも見逃してやろうっていうのにわざわざ出てくるのか」


 一顧だにせず、見返す。


 後ろの二人も話ができそうにないほど目が血走り、剣とクナイのような暗器を取り出して殺意を漲らせた。


(ここでやるには人目が付くな)


 三人が同時にアルスに向かって刃を煌めかせる。


 それよりも速くアルスは屋上へと一気に跳躍して舞い戻った。


 三人組みは壁を交互に蹴って屋上まで跳ぶとすぐ後を追ってくる。屋根の上にアルスを取り囲むように配置された三人。


「お前等魔法師だな」

「…………」


 返って来る言葉はない。魔法師というのはAWRからの推察だ。位置取りも悪くない、ただの魔法師よりも動きが良いのは癪だが。


「邪魔者……消す」


 一斉に包囲が縮まり、三方向から刃が襲う。

 アルスは両手にナイフほどの魔力刀を形成して迎え撃った。


(速いな、だが――)


 全ての攻撃をなし、ナイフを魔力刀で受け止める代わりに蹴りを見舞う。

 攻撃の手が止まったことでアルスはそのまま屋根を跳び移りながら駆けた。

 追い縋ってくるのは見るまでもなく、知覚出来ている。


 AWRを纏う魔力は中々のものだ。実力を計り切ることはできないが、見ただけで三桁ぐらいはあるだろう。


 程よく開けた場所に降り立つ。

 広場だろうか、ベンチや噴水があり、暗闇を跳ねのける街灯が等間隔に置かれている。多少目に付くがこれ以上離れるとしびれを切らして魔法を放ちかねない。


 アルスが降り立ってすぐに三人が並ぶように着地した。


 息の乱れはなし。


「俺も暇じゃないんだ。しつこい奴は早死にするぞ」


 フードから影が下りる瞬間、四本のクナイが飛来し、上空に高々と跳び上がり剣を振り被る男。

 愚策のようで本命は……その隙に背後で隠れるようにAWRの魔法式を発光させた当事者の女性だ。


 示し合わした連携ではない。訓練を積んだ動きである。


 アルスは飛んでくる無数のクナイには目も向けずに一直線になった二人を見ていた。


 そのまま片腕を引き、何もない場所――真正面に掌打を放つ。

 目に見えない壁がクナイを吹き飛ばし、二人をまとめて吹き飛ばす。当然少なからずダメージを負った術者の魔法式はキャンセルされ発光が止む。続いて上空から襲いかかる剣を半歩ずれて躱す。

 男の剣は地面を破壊して破片を飛ばしただけに終わる。威力はあるがそんな単調な太刀筋では意識を割くまでもない。

 その停滞をアルスは見逃さず脇腹に容赦ない蹴りを放った。

 ミシミシと深く食い込む蹴りは大柄な男の体を軽々と吹き飛ばし、満足に動けないだろう深手を与えたはずだ。


 武器がないとは言え、アルスが手を妬くほどの相手ではなかった。三桁というのは単純な魔力の流動からの判断だが、対人戦闘はいうほどではない。

 というよりも圧倒的に経験不足だと言える。威力、速度と申し分ないのだが、攻撃にバリエーションがないのだ。


「邪魔邪魔邪魔邪魔…………」


 まとめて吹き飛ばされた女がぶつぶつ体を起こしながら呟く。


 遠くでは治安部隊が警報を鳴らしながら近づいてくるが、位置からしてすぐに駆け付けることはできないだろう。


 高らかに鳴り響く音にハッと三人が振り返ると、


「帰る帰る帰る」


 アルスのことを忘れたように明後日の方向を見て、一斉に四方に散らばって逃げ出した。


「さてどうするか」


 全員を捕まえる時間はない。分散されれば捕まえられて二人が限界だろうし、労力が見合わない気がした。

 すでに予定よりだいぶ時間をロスしているため、先を急ぐべきだと判断する。

 治安部隊に報告するにもライセンスを持っていないアルスでは時間を取られることは間違いない。





 アルスが自室へと戻ったのは陽が昇る直前のことだった。来た時同様に窓から入る。


「どちらに行かれてたのですか」


 入った直後、目の前には腕を組んで仁王立ちのロキが詮索の言を付きつけた。


「任務の下見だ。起こすのは悪いと思ったんだ。それに俺一人でも十分だったしな」

「そんなことを言ったら私はいらないじゃないですか」

「そうは言っていない。今回は本当に蛇足程度のことに疲れているお前を連れていくのが忍びなかったんだ」


 っと適当にうそぶく。


「はぁ~」


 この溜息が納得したのかは判断しかねる。


「わかりました」


 一応はわかってもらえたようだ。しかし、ロキはしっかりと内容を聞くためにテーブルへと促してくる。ポットに注がれた紅茶は湯気が立ち昇り、アルスは長くなりそうだと頬を掻く。


「それで具体的・・・に何をされてきたんですか」

「……」


 小姑のようだとアルスは思ったが口に出せば火に油だろう。感情が表面化しない分、口は達者なのがこのパートナーだ。


「総督からもらった資料の確認だ。実際に目で見た方が確かだからな」

「私はこの手の任務をしたことがないのでわかりませんが、そういうものなのですか?」


 それもそうだろう。裏の仕事なんぞほとんどアルス一人でやっているようなものだ。


「そうだな、魔物の討伐とは全然違うな。知らないに越したことはないが」

「そうはいきません。パートナーとなった以上は私も……」


 アルスは瞬時に遮った。


「ロキ、パートナーは魔物相手の任務の時だけだ。これは俺に回ってきた仕事だ。お前が付き合う義理はないんだぞ」


 ロキに人間を殺す罪を背負わせないための言葉だった。

 しかし、ロキは一瞬の間も置かずに反発した。


「嫌です! アルス様の罪は私の罪でもあります。二人で背負うことはできないのですか……それに義理ならば十分……あ、あります」


 この瞳だ。最後は尻すぼみ小声になったために聞き取れなかったが、聞き返さない方がよさそうだと一旦置いておく。

 ロキをパートナーにする模擬戦でも同じ目だった。絶対に振り返らず、譲らない確固たる意志を宿した目。


「何も連れていかないとは言っていない」


 ロキにも任務の概要を聞かせたのはそのためでもある。


「連れていくが、罪を背負うのは俺だけだ。お前はバックアップだけでいい」

「私もそれぐらいの覚悟はあります」


 バンっとテーブルを叩いて勢いよく立ち上がった。胸に手を添えて主張するロキの瞳は確かに罪を理解して受け止める強さを持っていた……いるのかもしれない。

 肩をガクンと落として諸手を上げる。

 何を言ってもどうせ引かないだろう。


「わかった」


 諸手の降参。

 アルスの矛盾も理解していたのだ。


 連れて行くこと自体、人間を殺めるリスクがある。寧ろその覚悟がなくては自分の身すら危険に晒す。


 それでも不安はある。アルス自身人を殺めることは魔物の脅威よりも強いものだと思っている。それによって魔法が使えなくなる可能性は十分考えられた。

 大丈夫だろうとは思うが、それでも貴重な戦力を無駄にしてしまうリスクを負うべきなのかと自問してしまうのだ。

 

 それを決めるのはロキであってアルスではない……こともちゃんと理解しなければならないだろう。



「情報の共有は済ませておくか、とはいっても概ね資料通りだな。ただどういう形にしろ研究が実ったのであれば不自然な点は多々ある。因子を分離させる計画には人体実験は欠かせない。つまり大がかりな研究が必要だ。後ろ盾がいるはずだ」

「その情報はありませんでしたね」

「総督も掴めていないのかもしれないな。さて何が釣れるか」


 この手の任務では芋づる式に一網打尽にしないと後を絶たないのが厄介な点なのだ。


 おそらく指定された日時が四日後なのはその辺りの調査期間なのだろう。

 逃亡させないことが前提の任務だ。感付かれては元も子もない。


「総督がヘマをしないことを願うか」

「そうですね……」


 ロキは何か伝えたそうに口を開きかけるが、言葉が詰まる。


「その……アリスさんには」


 今回のターゲットはアリスの人生をめちゃくちゃにした張本人グドマ・バーホングなのだ。


「言わないほうがいいだろう。言ったところでどうすることもできない。連れていくわけにもいかんだろ」

「そうです……よね」


 珍しく心配するロキ。

 彼女は二人を嫌いだと言い切ったが、アリスの過去を知った身としては乗り越えるチャンスなのだと勘違いしたのだろう。

 アルスはそれを間違いだとは思わない。

 だが、面と向かえばきっとアリスは憎悪に身を委ねるだろう。そうなれば結果は目に見えている。


 魔法師は常に冷静であれ……とは魔法の行使は感情をコントロールしうる自制心が必要だからだ。それが未成熟な今のアリスでは憎しみの感情に呑まれる可能性は高い。

 アリスの復讐は成し遂げてめでたしとはいかないかもしれないのだ。魔法はそのために進化を続けたわけではないのだから。

 復讐の後に残るのは何か、復讐のために人を殺めて何が残るのか……アルスにはわからない。それでも決してハッピーエンドでないことだけは予見できた――殺めることを繰り返し続けたアルスだからこそわかっていることもある。


 アリスが望むのならばそれでもいいのだろう。だが、そこまでの道のりはアリス自身で到達しなければ意味がない。手を貸した復讐ならば最初から知らないのと一緒だ。

 後から死んだ報を知れば時間が解決してくれると信じている。アリスは一人ではないのだから。


「この話はお終いだ」

「はい」

「俺は昼まで寝るからアリスが来たら訓練を見てやってくれ」

「わかりました」


 どこかホッとしたような顔でロキは承諾した。それは主がアリスのことを慮ったからだと解釈したからだ。


 寝室の戸を開けるとすでに布団が敷いてあった。

 アルスはふぅと頬を上げる。気のきくパートナーに頭が上がらず、そのまま手早く着替えて布団に入る。いつになく気を使った時間だったと思うのは気のせいではないだろう。


 わざわざ礼を述べるのは野暮なのだろうと思うのだった。それこそ気を遣って、気を遣わせる。

 瞼を閉じ、ふと襲撃されたことを伝えていないなと思ったが任務とは関係なさそうだったので今度でも良いかと疲労回復のために瞼を閉じる。



 アリスが研究室に来たのはそれから数時間後、11時頃だった。これと言って指定しているわけでもないのだが、夏休みに突入してからというもの午前中に顔を出すのが習慣になっている。


「静かにお願いします」

「うん」


 口の前で指を立てたロキを微笑ましげに見つめ返したアリスは内容も聞かずに頷いた。


「アルス様はお休みですので」

「なるほど」

「アルス様の代役は私が務めさせていただきます」

「うん。よろしくねロキちゃん」


 

 アリスも訓練棒を毎回持ち帰っているため、手荷物は棒一本だけと何とも不審な様相だ。

 普段着にしては色香に欠けるのも訓練のために来ているからで、学校があれば制服でも問題なかったのだが、休みの間毎日制服というのも味気がないとアリスが思った結果だ。

 本音は一々格式ばった制服を着るのが面倒だっただけなのだが、それは内に秘めておく。


 そして静かに訓練が始まった。

 残念ながらテスフィア然り、アリスも今回の訓練に相当手こずっているのは言うまでもない。


 まったく成果がないわけではないのだが、著しい成長とは言い難かった。


「少し貸していただけますか?」

「良いよ」


 ロキも魔力を押さえつけるという奇怪な訓練は初めてだ。軍で教わるのは魔力を意識的に移動させる訓練がほとんどだ。実際のメニューはやはり実戦形式のものが多かった。


 受け取った瞬間、眉根が寄る。


「確かに握っているだけでも多少の反発はありますね」

「そうそう」


 これは微力ながらに魔力が洩れているためだ。(アルスならば意識的に止めることも可能なのだろう)

 握るというだけで、力が加わるのだからそれに伴って魔力が無意識下で集中するせいでもある。


 意識を棒に集中させて、魔力を放出。

 ロキの手から先端に向かって魔力が伝った。


「これは……」


 緩慢ながらもアリスとは違い確実に先端へと到達すると弾かれないように波を打つ魔力。


 徐々に魔力と棒の隙間が密を増して波が治まる。


「さすがぁ!」


 間延びしたような感嘆を上げた。


 アルスとの驚き具合に差があるが、それもパートナーであり命を捧げた(勝手にだが)主ならば当然だと思うと、同時に誇らしくもある。


 ロキはふぅ~と息を吐きながら静かに魔力を解く。弱まり薄く外に引っ張られると決河の勢いで弾け飛ぶ。


「アルス様ならば完璧に付与させます」

「あ、うん……前に見せてもらったよ」


 自分のことのように自慢するロキに既知であると相槌を返すアリス。


「と、ともあれだいたいわかりました。アリスさん……」

「はいっ!」


 この時ばかりはロキちゃんではなく先生の立場であるロキの助言に耳を傾けるのだが、少し頬が緩んでしまうのは仕方のないことだろう。


「魔力を抑え込む加減を把握してみてはどうでしょうか。私の考えなのでアルス様程の助言はできませんが」

「しっかりアルを立てるんだね。確かに……いつもは力尽きて弾かれちゃうから」


 微笑を浮かべてアリスは納得顔で棒を受け取るとさっそく試す。


 ロキもアルスを起こす時間が迫っているのをチラと確認する。少し待ち遠しく思っていた。

 が、その必要はなく――。


「最悪の寝起きだ」


 寝癖を付けながら戸が開かれた。


 最悪の原因をロキも遅れながらに気が付く。



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