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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
7部 第1章 「一介の存在」
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召喚魔法の使い方




 ただの数字とはいえ、この順位が持つ意味はやはり大きい。

 協会発行のライセンスということもあり、旧ライセンスとは違いアルスも知らない項目がいくつかあった。


 そもそもアルスが順位を返上したのは、その後釜にイリイスを組み込むためだ。協会は7カ国の均衡を保つ存在でなければならない。

 恒久的な平和とは7カ国の存在だけではなし得ない。それに気づいたのは大侵攻の時だっただろうか。いつしか、7つの歯車が空回りしていることに気づくようになった。


 正しくは噛み合うことがない、ということに。

 大国が強引に歯車を回し、それに他国の歯車が強制的に影響を受ける。国という縛りが招いた決定的綻びだ。

 経済を円滑化するための7分割は人の営みに欠かせないものでもある。そして元首と総督という頭領の二体制は良くも悪くも外敵脅威の認識を二分してしまっていた。

 

 故に綻びに気づかない。

 その点でいえばイベリス元首である、ハオルグはこの欠陥に気づいていただろう。バルメスと親しい関係作りをしていたのもそのためだ、とアルスは見ている。

 しかし、7カ国の7元首という世界のトップ。これらが持つ権力と象徴は大きい。戦力の分配は7カ国という体制が存続する限り未来永劫不可能と言えた。


 だからこそアルスは欠陥の修正案として協会の設立。いや、当初の計画では7カ国に代わる第8の戦力という構想を抱いていた。

 しかし、バルメスでの一件以来、それは大きく軌道修正するはめとなった。いうならば一国に相当する戦力でなければならなくなったのだ。


 中立の立場を守るには、協会自体が魔法師を抱え、他国同様にシングルに足る魔法師を協会が抱えることが必要だった。だからこそアルスはイリイスという最後のピースを嵌め、自分の代わりとしたのだ。


 だが、良くも悪くもイリイスはやはり優秀過ぎた。おそらくアルスの思惑を読んだ上でライセンスの発行に踏み切ったのだ。ともすれば各国元首が裏で糸を引いているのかもしれない。


 アルスはライセンスに見落としがないか、他にも良からぬことはないかと念入りにチェックする。


 一先ず、順位に関しては仕方がない。協会が力を持ちすぎるのは良くないが、アルスが所属したところで、実質的には名前を貸しているようなものだ。


「…………いろいろ整理されているな。ライセンス同士の通話履歴……っと魔物のレート判別もか」


 魔物のレート判別については基本的には知識や内包魔力によって算出される。今までは戦闘後による順位の変動、そうした加算部分は全てライセンスが読み取り算出するのだ。だが、旧式のライセンスではその情報を開示することはなかった。当然、ライセンス以外にも戦闘を読み込む類の機器は存在する。


 つまり、レートを判別する機能自体は登録された魔物の種族・形状などから推測される。またライセンス自体魔力を通して使用するため、対象物に対する魔力感知を可能にしているのだ。もちろん、この薄っぺらいカードにどこまで機能を付けられるかという技術的な面で旧式の物は所有者には順位のみしか確認できなかったのだ。


 だが、これは即座に魔力を感知し、膨大なデータベースから推定レートの算出を可能にしている。果たして遭遇時にいちいち確認する馬鹿はいないとは思うが、技術的な進歩はこんなところにも反映されていた。



 そしてアルスは次に預金残高、正しくは所持金の確認をする。一応自分に関する情報の確認だ。

 予想していたように仮想液晶に映し出される金額はゼロ。

 金に執着しないとはいえ、無限とも思えるゼロの数は見る影もない。


「…………ん!」


 ふと、とある項目、アイコンのようなものに目がいく。それは通知のようなものなのだろう。手紙のようなマークをアルスはタップし、追加で仮想液晶が立ち上がる。

 送り主はイリイス。そこに書かれていることは実にシンプルだ――腹立たしいほどに。


『働け』


 直後、仮想液晶に無数のノイズが走った。その原因はアルスの手の中、拉げつつあるライセンスのせいだ。後数度角度を落とせばパキッと音がしそうな状況である。


 しかし、そんな刹那的怒りを知って知らずか、ロキはアルスの袖を引いて自分のライセンスが投影した仮想液晶を見せてきた。


「アル、アル……」


 彼女が見ていたのは自分自身の順位だ。そしてアルスは気を逸らされたようにロキの順位を視界に収めた。

 彼女の順位は191位という驚異的な数字。その上げ幅はアルスでさえ驚かされるものだ。以前の500位台から測定期間が空いたとはいえ、地道に魔物を狩って上がるような順位ではない。

 おそらくだが【伏雷】の習得や外界での魔物討伐によるところが大きいだろう。とはいえ、実際アルスから見ればロキの順位は二桁としても通用するレベルのため当然といえば当然なのだ。


 問題は探位のほうだ。この順位は任務の完遂率やその難易度、当然それだけでは順位は測定されない。だからこれらは軍で正式に探位を測定する必要がある。

 あまり順位に拘るのはらしくないが、ロキの表情に込められた期待の色を見て。


「まぁ、ロキも以前とは比べ物にならないくらい力をつけたしな」

「ありがとうございます」


 頬を染めて微笑むロキ。見たまんまの声音である。

 しかし、この場には似たような言葉を待っている人物が他に二人いた。


 実のところテスフィアとアリスは両者揃って2000位台。これには討伐での加算がないため、仕方がないことだ。また二人が習得していた高位魔法においては正式な魔法大全に収録されている要件を満たしていない。そのため、順位に大きく影響しなかったのだろう。


 どうにも彼女らの待機中の雰囲気が釈然としない。

 居心地の悪い沈黙。先に動いたほうが負けると言わんばかりの受け身の彼女たちにアルスは項を撫でた。


 彼自身二人の成長は認めている。予想より遥かに。

 しかし、せがむような顔は逆に腹が立つ。そこでアルスはふと思い出す。


「そうだ、お前……」

「何かしら」


 赤毛の居丈高な口調にこめかみが痺れ始める。心の準備はできていますよ、という浮ついた雰囲気。テストの答え合わせで全問正解している者がわかりきった結果を待っている心持ち。


 天邪鬼なアルスは褒めるのは後回しにして。


「お前、召喚魔法なんか習得していたんだな」

「えっへん。どうかしら、少しは見直したんじゃない?」


 鼻息を荒くテスフィアは褒めてもらえるその瞬間を待つ。

 が、予想に反し。


「あれを召喚魔法と呼べるんだから大したものだ。俺は正直宴会芸かと思ったぞ。そういう意味では見直した。転身は早いほうがいいからな」

「なわけないでしょ!」

「ほぉ~この脳みそには複雑な術式を読み解くだけの物が入っていたとは」


 おでこを小突いたアルスは「はぁ~」と盛大なため息を吐いた。


「敵前で武装放棄……いや腕ごと放棄か。なんで召喚した剣が重たくて持ち上げられないんだよ、笑い死にを狙っているなら俺の負けだ」

「だって……だって、誰も教えてくれないんだもん!!」

「いや、お前には向かないだけだ」

「そ、それは……何となくわかってたけ、ど」


 気まずそうに逸らされた視線で口だけが本心を溢した「なんかカッコイイし」と。


 魔法師の資質とも言える性質の問題。もちろん、単純に勉強ができるから召喚魔法に向いているというわけではない。

 テスフィアの造形美は確かに目を見張る物がある。しかし、それは外見に留まり、動かすためのプログラムが甘ければ必然的にただの木偶だ。


 テスフィアほど魔法の方向性が定まっている魔法師というのは、これはこれで珍しいものだが。


 確かに努力次第では可能性はある。

 そのためには。


「そうだなこれぐらいはできないと話にならんぞ」


 と言ってアルスは腰に差しっぱなしたAWRに魔力を流し込む。見よう見まねだが、冷気が溢れ出し、空きスペースに巨漢の氷騎士が現れた。確かにテスフィアほど造形的に凝ってはいないが、この辺りはセンスの差だろうか。


 気風でいえばテスフィアが召喚した氷騎士のほうが強そうではある。


「それぐらいできるわよ」


 何故か張り合おうとするが、問題はその先だ。

 氷騎士は四人の前で人間のような柔らかい動き見せながらキッチンへと入っていく。ケトルの持ち手に大きい指を二本差し込み、水を入れて火に掛ける。

 ロキが買い置きしていた茶葉を取り出し、紅茶を淹れるために必要な道具を手際よく揃えた。


 普段アルスが見ている物に関しては知識としてはある。もちろん、淹れるだけならばアルスでもできるというだけで、実際に美味しいかは別だ。


 氷騎士は湯が沸くのを仁王立ちしてじっと待つ。腕組みして指が硬い腕の上をカチカチと叩いている。

 まるで家政婦のような光景にテスフィアとアリスは呆然と立ちすくむ。


 本当に中に人が入っているような気さえしてくるほどだ。


 だが、ロキは……氷騎士に近づき、意思を持たない騎士の前で見上げる。どこか穏やか雰囲気を纏いつつ、鋭くバイザーの奥を睨みつけた。

 二つの視線? らしきものが交差し火花が散る。


 動き出した氷騎士の行く手を阻むようにロキが先に割り込む。


「させません!」


 ケトルに向かって差し伸べられる腕をロキは掻い潜り、腰からナイフを取り出した。刹那、バイザーの下に刃先を突きつけた。


「それは私の仕事です!」

「…………」


 しかし、氷騎士は与えられた命令に従うべく動きを止めない。


「ちょ、放してください。それは私の役目なんです。奪わないでください」


 腕をポコポコと叩いているが、まるで氷騎士には影響を与えない。

 召喚魔法相手に何をやっているのかと呆れながら見ていると、黙々と作業をこなす氷騎士にしがみついたまま、アルスへと容赦ない視線が向けられた。


「アル、止めさせてください!! ダメです、こんなことを召喚魔法にやらせるなんて、断固として抗議しますッ!」


 必死の懇願は目元にまで訴え掛けていた。そしてナイフに電撃が纏わり、さすがにアルスも悲惨な事態になる手前でテーブルにケトルを置かせてから解除する。


 消失した氷騎士から綺麗に着地して何事もなかったように居住まいを正し、同じ場所に戻ると。


「アル、次は私も守るための戦いを敢行しますので」

「あぁ……悪かった」

「そ、そうよ。そんな使い方なんて誰も想定していないわよ」


 実際に召喚魔法の使い方を教授したわけではなく、これぐらいの情報を組み込むということなのだが、この少女といい、やはりどこかおかしい。




・「最強魔法師の隠遁計画」書籍化のお知らせ

・タイトルは「最強魔法師の隠遁計画 1」

・出版社はホビージャパン、HJ文庫より、2017年3月1日(水)発売予定

・HJ文庫様の公式サイト「読める!HJ文庫」で外伝を掲載させてもらっております。

(http://yomeru-hj.net/novel/saikyomahoushi/)

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