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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第9章 「歩み」
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統一的発足




 フェリネラが去り、残された上級生たちなどによって瞬く間に訓練場は普段通りのがらんどうな空間へと戻されていった。

 数刻もしない内に全校生徒がぞろぞろ観客席に集まってくる。その中にはかなり大掛かりな機材なんかも運ばれれば、生徒ではない外部の者まで多くの人々が埋め尽くす。


 しばらく後、頭上からは四面体の大型スクリーンが降りてくる。テスフィアやアリスが入学してからというもの全校集会でさえこれほど大掛かりなものはない。

 というより殆どが校内に設置されているモニターで告知を済ませてしまうためだ。外界に出て実戦訓練を積んだ【課外授業】でさえ全校生徒を集めることはなかった。


 テスフィアとアリスは二階部でクラスメイトたちと固まって着席している。


 さすがに実力試験後とはいえ疲労はほとんどなかったが、新入生たちにとって長話は中々に酷だろう。


 そうこうしている間に徐々に照明が落とされ、暗転していく。

 まず最初にスクリーンに投影されたのは理事長の姿だった。


 諸連絡など集める必要があるようには思えない内容は残念ながら退屈と言わざるをえないものだ。しかし、その直後、システィの声音が変化し、全ての学生が背筋を伸ばした。


『それでは次の報告について、これは皆さんには直接的に関係していることではありませんが、魔法師を目指す上で知らなければなりません。まず、魔法の形態において近年その項目が新たに改定されました。現代に至るまで魔法は進歩し続け、魔物の侵攻を食い止めてきた我々の武器であり力そのもの』


 そう前置きを踏まえ、システィは滔々と紡ぎ出す。定形っぽい口調ではあるが、その意味するところは変革の兆しだ。

 それを感じ取れない者はこの場にいなかった。魔法師は魔法を扱えるからこそ、一般人との違いが生まれる。


『魔法の分類においておよそ五十年の間、四つの分類は変わりませんでしたが、近年急速な魔法の開発に伴い、この度最上位級の上に【極致級】の分類が加わりました』


 この反応は様々だが、誰しもが共通して感じ取ったものは……魔法の可能性だ。


 詳細な内容については後々全国で正式に発表されるだろう。

 現段階でも最上位級魔法として分類されていたいくつかの魔法が極致級魔法に格上げされている。ただし、極致級魔法の開示・使用は軍の庇護が及ぶ範囲であり、その決定権は軍が保有している。


 端的に言ってしまえば、相応の責任と順位ある者でなければ使用は禁じられることになる。正しくは習得のために必要な魔法式の開示がなされないということだ。その権限は最低でも三桁魔法師とされており、この度のテロ再発を防止するための細やかな施策だった。


 無論、外界では己の命、はたまた人命を優先させるやむを得ない場合はこの限りではないとされている。


 この解釈については今まで大した変更はなく、明確化するのが目的であるのは明白だ。



 しかし、そんなことは露ほども知らない学生の間では動揺が広がり、それは身震いするような高揚へと変化していった。


「確かにねぇ、これだけ魔法が多種多様になってきたのに、旧式のままじゃ分類できなくなったってことよね」


 高鳴り出す鼓動を抑えつつ、平静を装うテスフィアに決まり文句のような相槌を返すアリス。

 正直アリスもそうだが、ここにいる生徒の全ては実感もなく広がる夢に歓喜しているに過ぎない。その背景にある事態を想像できないのだ。


 この分類の背景には魔物の進化、その脅威度に比例していることに気付けたのは現場に出る魔法師だけだろう。従来の魔法では今の魔物に対抗できなくなっていることも事実として挙げられる。

 そういえば大袈裟に聞こえてしまうが、これは低レートではなく高レートの魔物が手に負えなくなりつつあることを示していた。


 その一方で内紛などテロが起きた場合の被害も甚大になってしまうという懸念も孕んでいる。無論、上げればきりがないわけで、全てにおいて完璧な施策などありはしないのだろう。

 それでも人類、延いては軍が掲げる目標は領土の奪還である。



 今回の魔法分類における改定、その【極致】という項目においての詳細な分類方法は既存評価基準とは明らかな違いがある。

 それは魔力量、出力、範囲、強度、改変割合、これらの項目においてSレート級の魔物を倒しうると判断された物が分類される。評価基準にはこれ以外にも人間に向けられた場合の被害規模も含まれているが、それが公表されることはないだろう。


 現状では数種が【極致級魔法】としての分類に含まれ、それ以外については現在慎重な議論が交わされている最中だ。

 代表的な物として【空置型誘爆爆轟デトネーション】【迦具土カグツチ】、雷霆の八角位では【黒雷クロイカヅチ】が含まれた。



 理事長による説明がなされ十分ほどが過ぎ、話の終わりが見えてきたところ、今回集められた理由を生徒たちは知ることとなった。


 リアルタイムである画面の向こうで理事長から簡単な紹介を受け、一人の少女が姿を現した。画面の向こうだというのにシスティが隣に立っているせいで比較できてしまう。まるで幼女……しかし、その姿を見たものはハッと気づいたように目を見開いた。


 彼女は【学園祭】で最強であるところのアルスと対等に渡り合った魔法師。そのことはすでに学内で知らぬ者がいないほどには広まっている。


 画面の向こうでは『私の隣に立つな魔女』などと理事長に向かって悪態を吐く始末だ。教卓に隠れてしまって足元までは見えないが、それでも恐らく立ってはいるのだろう。残念ながら理事長の豊満な胸にさえ届かないほど小柄だ。隣に立つだけで比較対象にすらならず、寧ろ背の低さを強調するような光景になっている。


 余所余所しく画面からはけるシスティを学生たちは不満げに見つめていた。


『やぁ、魔法師を目指す諸君』


 第一声からして透明感のある声は見た目通りの幼さを認識させるものだった。声変わりを微塵も感じさせない可愛らしい声音。

 だが、その紡ぎ出す言葉が妙な違和感を聞く者に与えた。


 首を少しもたげたテスフィアとアリスは揃って声を上げた。何を隠そう二人がコテンパンにやられたのだから見間違うはずがない。

 殺されかけた、それだけでも二人の視線に敵意が宿る。画面の向こうではまるでこちらを見透かしているように視線が交わるが。


 画面の向こうの幼女は当然、二人に対してコメントするではなく、琥珀色の瞳で覗くように見開いた。その目はまるで水面を照り返すような光で揺れている。

 神妙な表情ではなく、どこかこちらの好奇心を掻き立てるように少女の顔は不敵な笑みを作った。


『まずは朗報だ若人諸君!! この度、私は各国における魔法師諸君に第三の選択肢を与える者だ。呼びたい奴は会長とでも呼べ。では私が何をするのか……』


 イリイスは笑みを崩さず、先導するように指を立てる。


『【7カ国魔法師協会】を設立した。各国との提携はもちろん、国家間の垣根を越え、中立の魔法師派遣業務とする』


 その業務内容は、個人から各国に至るまで依頼を請け負い、それを所属する魔法師に振り分けるというものだ。

 もちろん、外界の哨戒任務、魔物の討伐、それ以外にも治安維持の警備や要人警護など多岐に渡り、協会側は仲介料を頂く。当然、討伐任務が含まれているため命を落とす可能性も無視できない、その場合は誓約書の記載を求められる。

 

『協会の本部をバベル近辺に配置し、すでに各国に支部を置いている。我らが所属魔法師に紹介する仕事は基本的に軍の任務の代替と思ってくれて構わない』


 軍に所属していようとも協会に加入することはできる。協会は依頼を求める者に仕事を与えるだけで協会から強制的な依頼は基本的にない。当然、協会所属魔法師という括りにはなるため、入るためには厳正な審査が必要にはなる。とはいえこれは学生であればハードルは低い。



『安心せぃ、単独任務は基本的に高位魔法師のみとしている。学生諸君は最大5人までを依頼受領の制限としている。こちらでもその辺は考慮した任務を紹介するつもりだ』



 学生は基本的にライセンスや協会から発注される依頼書を確認し、規定条件を満たす場合にのみ依頼を受ける形を取っている。

 任務の難易度によっては規定人数に満たない場合や総合的な評価として順位などが参照される。その上で条件を満たさなければならない。討伐任務や哨戒任務に至っては軍同様一個小隊として協会で編成し、隊長には現役魔法師が就くことになっている。


 万全の体制を敷いているというわけだ。異論を挟む余地などないのだろう。この世界情勢において協会の発足は必要とされている。

 バルメス然り、ルサールカに至っては急ピッチで復興が進んでいるが、それでも人手不足は否めない。


 この中継は全世界に流れている。その上でイリイスはアルスが計画したこの協会の最大の狙いについて触れた。


『無論これは学生に限ったことではない。所属魔法師然り…………魔法師としての素質がある者全てに適用される。協会では魔法師を育成する準備も進めている。魔力さえあれば能力向上の手助けをしよう。貴様らに見合った仕事を与えることを約束するぞ』


 魔力さえあれば、その言葉は人間全てに当てはまるものだ。そもそも魔法学院は一定値の魔力量、魔法的素質を初位級魔法の構成を判断基準においている。そのためふるいに掛けられ、落とされた者の中にも芽は確実にあるのだ。


 もちろん外界での任務という意味では軍とは目標としている質には到達しないだろう。それでも魔法師というだけでも優位に仕事を得ることはできるのだ。



 各国協会支部はそれこそ僅か一、二ヶ月で建設を終えている。そして協会の構想自体は長い間、アルスが温めてきたものだ。

 この協会のもう一つの肝は各国が協力せざるを得ないというところにある。自国の魔法師を派兵すればその分防衛任務だけでも人事に支障を来す。かといって圧倒的に魔法師の数が少ないバルメスなどに派兵しないわけにはいかなかった。


 持続的な安寧を求めるのであれば自国だけでなく各国にも目を向けなければならない。その点でいえば軍は兵を束縛しすぎているのだ。

 円滑に魔法師を活用するために協会の発足はなくてはならない。実際に必要だと思ってもその費用負担や懸念から一国ではシステムの構築はできない。



 綻び以前に疑念が蔓延るからだ。アルスが最大の難所として会長の座を誰に据えるかで悩んでいたのはこういった理由からだ。中立という点において厳守できるかというのは所属国の匙加減でいかようにも干渉を許してしまう。

 だからこそ設立に関して7カ国で平等な資金提供がなされている。


 実際問題、アルスの懐から出ている部分が半分を占めているのだが。



 学生の反応などお構いなしに――とはいっても画面の向こうで窺い見ることはできないのだが――イリイスは始動の第一段階に移行する。

 人を集めるのは依頼だけの成功報酬では難しい。人類の救世主的な思想を掲げている軍という存在に関わらせることで内側の意識を高めなければならない。アルスがこれから行うことを考えれば急ぐ必要があるだろう。


 イリイスは教卓の上にダンッと両手を突いた。軽い音を拾い上げるも、凄みに欠ける。


『まずはモデルとして各学院から部隊を編成し、協会の下依頼をこなしてもらう』


 そういって袂深くを探り、イリイスは依頼書を取り出した。


『あくまで今回は初期モデルとしての試運転だ。なので今回の依頼は協会からということになる。依頼内容はバルメス外界、鉱床の探索となる。これを7カ国、7部隊で調査、選別されたメンバーには学業の合間にこちらで設定した訓練を積んでもらう。依頼時期は訓練過程を修了次第となる。難易度は星三つといったところか』


 難易度を協会では星で表示している。現状では最大六星と設定していた。


『これに関しては学院で編成を頼んでいる。もちろん、全学院に同一の依頼だ……おっと言い忘れていた』


 一瞬背を向けたイリイスは顔だけ向け、まるで静まり返った学生たちに対して、水面に石を投げ入れ、荒立たせた。


『協会からの依頼は全て順位に反映される』


 たった一言でこれほどわかりやすく歓喜が湧くのだから、この中継を見ているであろう各国は似た様相に違いない。





・「最強魔法師の隠遁計画」書籍化のお知らせ

・タイトルは「最強魔法師の隠遁計画 1」

・出版社はホビージャパン、HJ文庫より、2017年3月1日(水)発売予定

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[一言] 異世界ものの冒険者みたいなん感じにすんのかな?|ω' )
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