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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第9章 「歩み」
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二年目のスタート


 ◇ ◇ ◇



 第2魔法学院も新たな新入生を迎え、早一ヶ月が経とうとしていた。

 アルスの指名手配が誤りであることを全世界に発信された時は一時騒然となったものだが、今となっては過去のこととして過ぎさりつつある。


 しかし、研究棟の最上階は未だ家主を欠いていた。

 軍によって一時押収された荷物は戻ってきたものの、当時を思い起こさせるものではなく、ただ積み重ねられるか、室内の空いたスペースに押し込まれているだけだ。


 それでも埃が積もらないように定期的な掃除をテスフィアとアリスは心がけていた――いつ戻ってきてもいいように。


 さすがに荷解きをして、勝手に配置を決めてしまえば、あの憎たらしい小言が跳んで来るであろう。

 とはいえ、本人がいないがらんどうな部屋には物悲しさしかない。とうに帰ってきてよいはずなのだ。


 容疑は晴れ、ルサールカ襲撃の首謀者をアルスが迎え撃ったという報告は全世界を激震させたのはほんの昨日のことのように思い出せる一方で、時間的な経過でいえば随分と前の話。



 二年生となったテスフィアとアリスは学年でも総合成績1位、2位を収めて進級した。


 二人は自分のことだけを高める訓練をしていれば良い立場ではなくなってしまったこともまた、一つの成長なのだろう。

 学院における二年生とは積極的に行事の参加は然り、昨年のように新入生には入学早々実力試験が待ち構えている。無論、テスフィアやアリスには本来関係のないことだ。

 しかし、当時の試験官を学内における上位が受け持ったようにテスフィアとアリスに白羽の矢が立つのは至極当たり前のことだった。


 現在の二人の順位はテスフィアが三千位台、アリスは四千位台と外界に出ない生徒にとっては大きく順位を上げる結果になっている。

 しかし、そんな二人も着実にアルスが残した訓練メニューをクリアしていった。単純な魔力の総量に関しては短期間で増やすことができない。ましてや高難度の魔法会得は自力ではやはり効率が悪い。


 単純にイメージから出力する習得方法を取れば二人でもおそらく形にはなるだろう。しかし、アルスの教え通りに会得するならば魔法に含まれる構成を正しく理解する必要があった。

 これは基本的に学院でも教えない類の方法、故に二人は悪戦苦闘していたのだ。


 戻って来た時に、驚かせてやろうという魂胆だが、他の訓練も疎かにできない。分厚いマニュアルには原則のような注意書きが残されているのだ。

 基礎もできない奴は魔法も有効に使うことはできない、意訳すればこんな感じだ。もう少し辛辣だった気もしなくもないが。



 それがページの最初に入っているのだから嫌でも目につく。

 身体も鍛える必要があるし、魔力操作も日課として怠るわけにはいかない。アルスがいない分、課される課題は山のように積もっている。


 それでもやり遂げるだけの意欲はあるのだが、頭から煙がでそうになっているのが現状だ。


 そんなわけもあって息抜き程度に実力試験の対戦相手を快諾するしたのだ。とはいっても昨年、二人が経験したようにやることといえば、順位の正確な測定のために各項目を新入生に達成させるように相手を務める程度だ。


 それには少なくとも新入生よりも順位以上に実力で上回っていなければならない。無論、この相手役にはフェリネラも例年通り参加することになっていた。

 もっといえば彼女からの打診がなければ二人は見送ったに違いない。



「じゃ、二人共よろしくね。くれぐれも新入生をヘコませないようにね」


 そう柔和な笑みを浮かべるのはフェリネラである。彼女はマニュアルに載っていないであろう留意すべき点を伝えた。今年は昨年と比べて予想を遥かに下回るほど新入生の数を減らしていた。

 本来ならば7カ国親善魔法大会を経て多くの魔法師志願者が押し寄せてくるはずだったのだ。もちろん、アルスの一件に原因がある。何より疑いが晴れたタイミングが悪かったこともあった。


 志望校を決め、それに動き出した志望生たちは第2魔法学院を避けて、他校を志願したのだ。締め切り間近になってアルスの容疑が晴れたのだから、やはり間が悪いとしか言いようがなかった。


 しかし、そんな懸念を学院長は気にした素振りを微塵も見せなかった。寧ろ、今後編入手続きが殺到するのではないかとさえ言っていたほどだ。



 テスフィアはフェリネラに以前ではありえなかったであろう対抗心を燃やしていた。いや、本人にもそれがどういう物なのか理解できていない節がある。

 対抗心と言ってしまうのは少々大げさなのかもしれない。テスフィアは単にフェリネラを手の届く目標として据えていたのだ――魔法師としても、一人の女性としても。


 外見的特徴については然う然う追いつけないのだが。


 それでもテスフィアは一回り大人びた雰囲気を纏っていた。背も少し伸びてきているし、振る舞いにも気を遣うようにしている。

 ただどうしても隣に立つ親友の著しい成長を見ると、女の子らしさとは何なのかわからなくなってしまう。


 学院の制服を新調したのはアリスだけだった。


 忌々しい視線だけをアリスの一部に突き刺して、テスフィアは「はぁ~い」と脱力した返事をした。

 アリスはできるだけテスフィアの視線に気づかないフリをするので精一杯だった。なんといっても最近あった身体測定では昨年との比較がこれほど顕著だと、テスフィアに変な気を遣ってしまう。


 それとこの話はすでに連日続いているのだ。

 だから、話を逸しつつアリスはぎこちなく口を開いた。


「ホラ、フィアも気合いれないと足元を掬われちゃうよ」

「アリスは新入生にも存分に力を発揮させなきゃダメよ。男ならどうせ呆けそうだし」

「もう、気にしすぎッ!? アルが帰ってきたら聞いてみる?」

「そんなこと聞けるわけないじゃない!」


 空笑いを浮かべたアリスはすぐさまテスフィアの頭をポカリと軽く握った拳で小突いた。さすがにお遊びで参加したわけではない。


「でも、手を抜く必要はないんですよね」


 鋭くアリスがフェリネラに問う。去年、実力試験の時、アリスの相手を務めたのは何を隠そうフェリネラだ。


「えぇ、もちろんよ。でも極力攻性魔法は控えてちょうだいね。あくまでも正確な順位を計るのが意義ですから」

「フェリ先輩、一ついいですか?」

「何? フィア」

「測定の項目をクリアした後に関しては?」

「それで終わってもらって構わないけど……」


 フェリネラはテスフィアの瞳に宿る余計なお節介を見た気がした。あまり良くない傾向な気もするのだが。


 ――アルスさんの影響ね。


「はぁ~、軽く揉んで上げるくらいはいいけど、変な通例を残さないように」


 などとフェリネラが言ってしまうのも、すでに通過儀礼としての様相が一部あるのも確かなためだ。昨年もいたのだが、変にプライドの高い、思い上がった新入生は往々としている。それが貴族に多いのは悩ましい限りだが。


 要はフェリネラのように大貴族の令嬢ならば知名度からそんな失礼なことはないのだが、そうでもない上級生が教官として当たる場合、不遜な態度を取る新入生は必ずいる。

 さすがにソカレント家に並び立つ、フェーヴェル家相手にそこまで横行な態度を取れる貴族はいないだろう。


 それに今回は新入生の数も少ないため、あえて忠告しなかったのだが。

 見ればテスフィアに限らず、教官として集められた生徒にも同意する声が聞こえてくる。


 ある意味ではこれも新入生のためになると思うことで黙認するしかないのだろう。




 訓練場内は十の区画に分けられて試験が始まる。

 テスフィアとアリスは二手に分かれてそれぞれ担当する区画に移動した。一先ず、五人から十人を相手したら交代するローテーションを組んでいる。


 ふいにアリスは目ざとくテスフィアの腰に差さる小太刀を見て。


「フィア、それを持ってくのはまずくない?」

「さすがに使わないわよ」


 アルスから貰ったこのAWR【雪姫】は持ち主の構成プログラムを先行して開始してしまうため当初は不良品だと嘆きもしたものだ。

 しかし、何故そのような事態になるのか、それがわかってしまえば実に彼らしい手の込んだ悪戯……いや、テスフィアはこれを期待と受け取ることにした。


 そう【雪姫】は独自に構成プログラムを読み込む、その速度は術者であるテスフィアの構成速度を上回るのだ。そのため、構成途中で魔法がプロセスを維持できなくなってしまう。


 何よりこの【雪姫】を腰に下げているだけで微量だが魔力を吸収し、蓄積させる。


 端的にいえば、このAWRは複雑な構成を辿る上位級並の魔法を得手としている作りなのだ。そういう魔法式を組んでいるのだろう。

 であるからこそ、魔力を常に氷系統に変換して鞘内に留めることをしている。


 だから、アリスは言外に上位級の魔法を新入生に使うつもりなのかと聞いたのだ。




・「最強魔法師の隠遁計画」書籍化のお知らせ

・タイトルは「最強魔法師の隠遁計画 1」

・出版社はホビージャパン、HJ文庫より、2017年3月1日(水)発売予定

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― 新着の感想 ―
[一言] おっと?ツンデレは自覚して、それを受け入れると、良い女になるからなぁ… 果たしてフィアたんはアルくんと会った時にどうなっているか…( -∀-)
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