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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第3章 「破滅と抵抗の助長」
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意地の抵抗力



 ムジェルは前身が凍えるような寒さに前のめりに倒れ込んだ。極限状態に近いほどの魔力の枯渇。それに加えて今も構成が脳内を無限ループしていた。繰り返され、引き継がれる構成。

 今、気を失うことはできない。


 是が非でもムジェルは真っ白な顔色で目を見開く。まるで凍死に近い状態にあった。いや、底冷えするという意味では凍死とはほど遠いのだろう。この寒さは芯から来る体温の低下というよりも明らかな生命の源とも、生命力とも言われる魔力を一気に使い果たしたことによるものだからだ。


 事前に設置しておいた【荒野の死期(ウィル・ダネス)】によって侵食させた箇所はムジェルが放った布石でもある。枯れ、死した地は魔法の干渉下にあり、それはこの後放つ魔法を相手に気づかせないためのものだった。


 サジークの手元で瞼の裏からでも眩む白色の雷光を至近距離で受ければ、数分は視力が回復しないだろう。これすらも希望的観測にすぎない。相手はシングル魔法師、それもアルスが1位の座に就く前までは魔法師の頂点に君臨していたのだから。


 数秒、いや、瞬きほどの時間だけでも十分だった。その隙に合わせる自信がムジェルにはあったのだ。


 ほぼ誤差なくヴァジェットが腕で目を覆うより早くムジェルの【無限迷宮ラビュリントス】は発動した。地面から吹き上げるようなドス黒い霧が一気に天を駆け昇る。


 その中でヴァジェットは見たはずだ、地形が変形し、霧に包まれた幾つもの壁が遥か上空に昇っていくのを。その高さは測ることすらできないほどに今も登り続けているだろう。見上げる先には微かな天の光すら覗かせまい。


 そしていつの間にかあれだけの光を発していたサジークの姿すら見失っているはずだ。名前の通り【無限迷宮ラビュリントス】を受けた者は否応なく出口のない迷宮に誘われる。

 ただし、ムジェルにも相応のリスクがともなっていた。元々彼は魔力の性質を変化させるのに特化しているだけで、実際の魔法に関しては並の魔法師と大差ない。


 そのため、レティの片腕となるにあたって彼は最高位の魔法を会得するために相当苦労したのだ。到底いくつも保有できるだけの魔力量もなければ、才能もない。

 だからこそ、系統として比較的影響の少ない魔法を選ばざるを得なかった。無論、それが功を奏したのだが。


 【無限迷宮ラビュリントス】は霧を発生させることからも水系統に属する魔法と思いがちだが、実際はほとんどが魔法ではなく魔力による性質変化である。

 故にこれだけの霧と見紛うほどの魔力を散布したのだ。無論、情報劣化もあるためムジェルは常に脳内で構成を繰り返す必要がある。それは脳への負担があまりにも大きいものだった。


 震えながらも鼻血が流れるのを止める手立てはない。


 そしてここからがレティ率いるアルファ最精鋭部隊の本領であった。


 距離を取ったサジークは一人離れた場所に立つ。今にも破裂しそうな雷光を押し留めるのもそろそろ限界に近い……がそれは彼らがこの場に生えさせて支柱があることによって雷光はその力を発揮する。



 ヴァジェットは最高位の幻覚魔法に囚われたまま不気味に真っ直ぐ見つめている。それは誰に対して視点を合わせているのかわからないものだった。かつて魔物に使用した時は出口を探して永劫彷徨い姿を見せたものだが、予想通りというのだろうか、不気味に立ち尽くしたままだった。つまるところ脳では動いているつもりでも現実はそうではないということ。


 思考するが故の夢幻。


 が、この状況を打開する術は相手にない。ムジェルの幻覚魔法に囚われた時点で、その絡繰りに気づかなければ脱出は不可能なのだ。

 幻覚が魔法による作用と魔力による作用。この両方に着目しなければならない。ただの幻覚魔法ならば自力で解消する術もなくはないだろう。


 それもやはり瞬時に破れる類のものではないのだ。それこそ一瞬でどうこうなるようなものではない。

 無論、その猶予を与えるほど即席の連携ではなかった。




 額の汗を蒸発させるようにサジークの両腕に筋が浮き上がる。リンネはもう離脱しただろうか、という思いが一瞬彼の脳内を過ぎったが、すぐにそんなものは関係ないと厳しく口元を引き締めた。


 そう、すでに離脱していようと関係はない。自分は稼げるだけ時間を稼ぐだけなのだから。

 吐き出すように飛沫を上げてサジークは発した。


「【狂想白雷オロチ】」


 まるで落雷でもあったかの如く、雷光から無数に放電の髭を走らせた。荒れ狂う電撃を雑然と並ぶ支柱が

上手く受け止める。

 そのための支柱であった。魔法を魔法のまま受け止める。そして荒れ狂うだけの電撃を今度は隊員たちが指向を与えていく。

 そのために今も彼らは支柱における構成を終えてはいないのだ。


 そもそも【狂想白雷オロチ】は空中に固定し、動く者を標的に殲滅する広範囲殲滅魔法である。この厄介なところは仲間であろうと関係なく襲うことだ。限界まで圧縮した雷を留めるだけで構成を完成させてしまう。


 それを解消したのが避雷針の役割を担う支柱を構築することで迸る雷を呼び込み、新たな指向を組み込み、誘導させるというものだ。


 五感を奪われたヴァジェットは格好の的だった。


 合図するでもなく、一斉に雷が閃く。


 「見事」たった一言が空気を裂き、轟雷を引き裂いた。


「なっ!!」


 驚愕の声は誰が上げたものか、いや、この場の全員が共通した表情を貼り付け視線を釘付けにしていた。


「切っただと! くっそ!?」


 ムジェルはぼやける視界の隅で微かな燐光を見てそう苦々しく口をつく。頭痛が解消されたのは彼の魔法が完全に解かれたからだった。


 その疑問をサジークは問う。


「何をしやがったんだ【無限迷宮ラビュリントス】はどうなった!!」

「くっそ、最悪だ。ヴァジェット・オラゴラムは光系統だ」


 顔を顰めるサジーク同様にムジェルも万事休すとばかりに白煙が晴れるのを待つしかない。幻覚系などの魔法は本来エレメントに適性がある。そのためエレメントには比較的これらの魔法は耐性的に効力が弱い。


 が、晴れるのを待つまでもなく事態は最悪の方向に動き出した。

 鼓膜を震わす耳慣れない音が天から降り注ぐのをムジェルもサジークも感じる。だが、それは感じた直後に目の前の現象としては、それは唐突に舞い降りた。


 天からチカチカと何かが振ってくる。すると視線を切るように光は無数に降り注ぐ。豪雨の如く支柱を粉砕し、地面の形式を一瞬にして変化させた。下草を撫でるように光の粒子が波紋を拡げる。そよ風が吹いた、そんな優しい光の風は同時に一帯を神々しく息衝かせる。


 まるで戦争の後を思わせるほどの光輝く剣が地面に突き刺さっていた。


 幸いにも隊員らに命中はしなかったが、それでもこちらの手札をいともたやすく打ち砕いてみせたのだ。


「【歴戦の聖域(サンクチュアリ)】!!」


 光系統の中でも圧倒的に事象改変を破る魔法として効力が高い。さら光系統を神聖視する魔法師はその中でも既存の魔法概念から外れた最高位魔法をこぞってこう呼ぶ【神聖魔法】と。

 神の如き神剣は天から降り注ぎ、地を浄化する。


 そう謳われるようにムジェルの魔法は神の如き剣によって空間を正常に戻された。


「がはっ!!!」


 そんな一刀のもと伏された隊員の声が連続する。未だ降り続く光剣に気を取られた隙にヴァジェットは地面に突き刺さった剣を引き抜き確実に隊員たちを斬り伏せていく。一撃振る度に光剣は刀身を砕けさせるが、これだけの量が地に突き刺さっているのだ。


 ヴァジェットは目にも留まらぬ速度で次々に剣を換えていく。


 上もそうだが、下にも気を配らねばならない。それはあまりにも困難であった。接近戦でサジークをおいてまともに善戦できる者などいないのだから。


 直後、上空で凄まじい爆発が連続する。

 振り返るまでもなくレティによるものだ。降り注ぐ光剣を一瞬にして粉砕していく、その爆轟は止むことなく連鎖的に天へと昇り詰めていった。


「そこまでッす!!」


 あの腕で魔法が練れる精神力も然ることながらその力強い発声は水を打った。

 しかし、サジークの目の前で長身を屈めたヴァジェットは両手に光剣を持ち冷徹な視線が問答無用に光剣を振り上げるモーションに移る。


「しまっ!!」


 【狂想白雷オロチ】を使ったために【フォース】を解いたため、その速度に反応することができなかったのだ。

 が、刹那――サジークの眼前に影が割り込む。



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