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最強魔法師の隠遁計画  作者: イズシロ
第2章 「亡国事変」
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新たなAWR

 決意を新たにした数日後、アルスとロキは早朝から周辺の魔物狩りに出掛けていた。朝食はもちろん現地調達だ。

 外界での生活が長かったこともあり、この手のサバイバル術はお手のものだった。もちろん、季節的にも得られる食料は限られているが、それでも何とかなるのが外界の良いところだろう。


 昨夜、急ごしらえの露天風呂を作る際、小川で魚が確保できることも調査済みだ。


 そんなこともあり、ロキが腕を振るうには簡素過ぎる朝食。魚と食用の樹の実。劣悪な環境下で進化の末、年中実を付ける木も少なくない。

 ただやはり全体的に数は少なく限り有る実を冬ごもりの準備に取り掛かる動物と取り合いになるのだ。ただ季節的にはすでに遅れを取っているのだが。


 それでも僅かな量を確保することができた。ビタミンなど栄養に関しては申し分ないのだが、味のほうはいまいちなのが難点だ。背に腹は代えられない。他に食べる物があるのならば間違っても取らないだろう酸味だ。

 朝の寝起きには効果覿面として新人魔法師に噛ませる慣習すらある。要は外界において起きてすぐ行動できるように習慣付けるために行われる。



 現在アルスとロキは洞穴から北に少し離れた場所にいた。すでに分離されたように円形の荒野となった景観であるのが少々気がかりではあるが、これも考えあってのものだ。

 

 ここら一帯を泣く泣く吹き飛ばし、禿げた円形の平地でロキの訓練に充てていた。

 クラマが今後どういった戦いを仕掛けて来るにしてもアルスには壁が立ちはだかっている。どんなルートであろうと衝突は避けられまい。


 おそらくベリックのことだ、アルスが嵌められたことに気づいているだろう。だとするならば何もしないというのは今までの経験上考えづらい。

 それでも急な対処は不可能だろうとも考えていた。7カ国を納得させられるだけの材料はないに等しい。特にルサールカの感情はアルスを捕らえるまで収まることはないはずだ。


 どちらに転ぶにしろ戦いしか残されていない。クラマかシングル魔法師か。

 二択に迫られたとしてもやることは変わらない。


 シングル相手だろうとすでにアルスは死んでやれなくなってしまったのだから。


(守るものができた、のか?)


 そういってアルスはロキとの戦闘中にも関わらず物思いに耽った。ロキも覚悟の上で、できることは少ない。どちらに転んでも対峙するのはシングル魔法師級。

 それもこちらは二人だ。戦闘中、分散されない状況はこちらにとって望ましいが故に安易な期待である。


 そんなロキへの対策の一つが彼女が握りしめるAWRだ。一応誕生日プレゼントということになっているが、受け取った時のロキの反応はそれこそ大粒の涙を流して寝る時も離さず抱えていたため、後々散々礼を述べられたことについては割愛する他ないのだろう。


 ブドナに特注で作らせたオリジナルナイフ。

 最高純度のミスリルと静電気の発生から蓄電凝縮できるように工夫されたナイフはサバイバルナイフのように鞘に収納するタイプである。全長は40cmを超え、刀身には電界を構築できるように筋のような隙間ができていた。中腹に薄い二枚の刃が擦れることで摩擦を起こす。

 これは刀身の脆さにも繋がるが魔力で強化できる魔法師にとって大きな問題ではない。


 ましてやこれは斬り合いを想定して作られてはいない。


 高純度のミスリルによって作られた刀身は白銀。柄は対魔法強化繊維で編み込まれたコードで作られている。

 ブドナをもってしても唸らせる出来に名匠は名前を付けるべきだろうと言っていた。

 これを受けてロキはアルスに名前を付けて欲しいと言ったが、すでに名前は考えていた。というよりもこのAWRを見た時に思い浮かんだというのが正しいのだろう。


 新たに加わったロキのAWRを【月華】と命名した。


 現在は二タイプのAWRを使い分けるための訓練も兼ねているのだが、元々探知魔法師のロキは魔力操作もレベルが高くそれほど苦労しないだろうと予測していた。もはや慣れの問題なのだろう。

 どちらとも系統式としては雷系統の魔法式が刻まれているため要領は似ている。



 さすがにロキの呑み込みも早く、アルスは一旦思考を切り替えた。

 すぐ目の前で全力で振るわれるAWR。刃を受け止め、次の瞬間ロキは背後へと回り込んでいた。轟く雷鳴が迸る。


(さすがにフォースには慣れてきたな)


 会話を挟む間もない瞬刻の攻防。すでにフォース使用時のロキは瞬く時間すらない。

 背後からの一撃をアルスは見ずにナイフを割り込ませた。


 本来雷系統相手に防ぐというのは愚行に近い。アルスのように圧倒的な干渉力を持ってしても感電を全て防ぐことはできないのだ。もちろん対処としては防ぐ魔力を倍増させることである程度は緩和できる。


 言ってしまえば雷系統の【雷刃】と性質が似ている。こちらの場合は魔法ではなく魔力の変換を自動で行っているようなものなので雷系統の使い手には最適化されている。


 が、アルスのAWRは対魔法障壁で覆われていた。それによって薄い空気膜が張られ、弾かれたように行き場をなくした雷が放電しながら地を穿つ。


 無論、確実に虚を突き、防がれたとしてもロキに停滞は微塵もない。すでに次の行動に移り始めていた。

 それをアルスは視界の端ともう一つの視覚で察知する。


 持続時間的には短くともフォースは人間の域を強制的に超える諸刃の剣。しかし、使い処さえ間違わなければ確実に相手を置き去りにする。

 速度で自信のあるアルスを上回った。


 そのためアルスも訓練とはいえ一切手を抜くことができないほど集中しなければならない。もちろん魔法を使う場合の加減は必要だが。


 ロキも感覚として探知魔法師になる前の戦闘力を大きく超えたはずだ。新しく習得した魔法を考えれば当時よりもレベルアップしているのは確かだろう。魔物の討伐によって順位の向上は大きくない。現段階で100以内といったくらいか。実力は十分なはずだ。大凡5・60位台の実力は有しているはずだ。元々のポテンシャルは高く、アルスとしては成長の一助になっているのか怪しく思ってしまう時がある。


 確かな手応えを感じて上空に浮かぶ5本のナイフをアルスは知覚した。


 【月華】を主として今まで使っていたナイフに電流を通して互いに磁場を形成しているのだ。ある意味でアリスの使うAWRに似た性質を系統によって再現したことになる。金槍は材質の特異な性質故なのだが。


(今までならこれが陽動かどうかも判断できたんだけどな)


 そう新AWR【月華】のおかげでナイフを振る度に摩擦による静電気が起こるため、魔法の発動速度に一役買っている。それによって構成段階をギリギリで留めておけるのだ。

 発動するかの判断が付きにくく、警戒を怠れば即座に発動できるという曲者。それに加えてフォース使用時の瞬間速度は発動してからでも離脱が可能な速度。


(これなら間に合うか。ま、それでも食らわないのが少し可哀相だけど)


 アルスは頭上に向かってAWRを放った。後は上空で構築されつつナイフを基軸とした魔法を阻害すればよい。

【オートハイツ】によって指定した座標をナイフが自動で通るように設定し、アルスは無手で腰を屈め、足を踏ん張る。

 直後、誘い込まれたように白銀のAWRが右側面から突かれた。

 ほぼ同時に半歩分身体をずらし、胸の前を雷に覆われたナイフが通過していく。腕を取り、足を掬う。

 流麗にして巧みな体術。ロキは勢いのまま、身体の随所に抵抗を感じ、身体が浮く。空中で全身に回転を加えられたロキは気がついた時には為す術なく宙を舞った。


「こんなもんかな……」


 完全に気を抜くアルス。

 空中で遠心力に逆らわず、上下だけの体勢を確保し、膝を弛めて着地してから一回転。

 一周回って再度アルスの背中が見えた時、ロキは完全に一本取ったと確信して地面を蹴った。


「……ッ! はぶッ!!」


 だが、数歩走った時、ロキの足は重く持ち上がらない。爪先が地面を引っ掛ける。転ばないために一歩、二歩とよろけてアルスに抱きつくような形で掴まった。

 顔を埋め。


「大丈夫か、ここらが連続使用の限界だな」

「…………」


 もう何も言えない。ロキは顔を埋めたまま、羞恥以上の心地よさを抱いていた。

 ましてや今の自分の顔を見られたくない。きっとだらしない顔をしているのだろうから。


 だが、次の瞬間アルスの身体の僅かな反応に一拍遅れてロキも気づく。即座に離れて険しい顔でアルスを見返すが、当人はそれほど神妙ではなく、どちらかというと少し驚いている節が見受けられた。


 遠く、一点の方角に視線を注ぐアルスは「来たか」とだけ呟き、すぐにロキも誰のことかを思い出す。



 

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