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過去編~白狼Ⅵ~

 アルスたちは一塊となってアルファ―防衛ライン――に向かって猛進している。

 すでに20km地点まで差し掛かっているが不吉な光景は状況が悪い方向に傾いていることを物語っていた。

 先ほどから戦闘があったとされる痕跡があるにも関わらず、何人かの魔法師の死体だけが無残に放置されている。生存者がいるとは思えない惨状だった。


 ここにきてすでに特隊0の隊員たちは数えきれないほどの魔物を倒して来ている。だが、未だ前線が見えないことに焦燥感が項の辺りをチリチリと焦がしつつある。強張った表情は状況の悪さを表す。


 状況からリンデルフが戦況の進行を予測した。


「この辺りが最初の前線だな。とすると今はかなり後退していることになる。急ごう」


 耳だけを傾けた隊員は顎を引いて一層足を素早く動かす。

 これまでに倒して来た魔物が蜘蛛型だけでないこと、それが何を意味するのか。わからない者はいないだろう。

 蜘蛛型の魔物――アラクネの半身――に触発された他の魔物が一斉に進行を開始したのは確かだった。ただ大規模に進行するにはそれを牽引する高レートの存在があって然るべき。


 寒気を感じた直後、呼応するようにニケが逸早く脅威を知らせる遠吠えを響かせた。危険が近いことに隊員は警戒態勢で注視するように視線を振る。すでにニケの吠え方では数多いる魔物を判別することは不可能に近い。だから接近した魔物だけを知らせていた。

 戦火が激しい箇所に方向を変えた隊はそこでゾッと身体を強張らせる。真っ赤に焼き尽くされた木々に魔法師から吐き出された大量の血がオレンジに熱を反射していた。


 炎を恐れない魔物が魔法師を貪り喰う地獄絵図。

 捕食はすでにこの辺りに生存者がいないことを示していた。そこに降り立ったのがアルスたちだ。

 状況は最悪だった。いいや、40体近い低レートの魔物だけならば切り抜けることができるはずだ。


 しかし、中心でけたたましい鳴き声を上げる巨大な魔物を見た隊員はAWRを引き抜くと同時にほぞを固める。


 先頭でエリーナが愕然と溢した。


「オーガ種【ロゾカルグ】がなんでこんなところに……」


 眼窩に窪んだ紅点が炎の揺らめきを反射している。鬣のようなくすんだ毛が背中まで走り、膨れ上がった肢体には筋が浮き上がっていた。更に指先から黒い尖爪が突き出している。

 Aレートの【ロゾカルグ】は特に遭遇頻度の高い魔物だ。そしてこの場に姿を現しているということは吸収の果てに進化したのか、それとも蜘蛛の進行に乗じて攻め込んできたのか。

 魔物の血や雄叫びは魔物を呼び寄せる作用があるため、恐らくこの大規模進行を牽引していることは確かだろうと推測する。


 時が止まったように凄惨な惨状に足を地に張り付けていると。


「標的【ロゾカルグ】これより討伐に打って出る!!」

「「――――!!」」


 声を張り上げるリンデルフに我に返った隊員が引き締めた表情で視線を逸らさずに頷いた。ここで高レートを討伐すれば魔物は少なからず錯乱するはずだ。この場で上位に存在する【ロゾカルグ】に引き連れられているだけとすればバベルの防護壁を突破しようとは思わないはず。

 しかし、それはすぐに驚愕を以て塗り替えられた。

 全隊員の視界にアルスが入ったからだ。一直線に、何の躊躇いもなくロゾカルグへと剣を引きながら駆ける。


「アルス! 待て、連携を……」と発しかけた隊員を手で制したリンデルフはエリーナに目配せした後「ロゾカルグは二人に任せ、他は周囲の掃討だ」と発した。


 炎に包まれる中で隊員たちは善戦していたはずだった。確実に魔物の数を減らしている……だが、どこから湧き出したのか地中から、空から溢れるように襲い掛かって来たのだ。

 さすがの隊員たちも疲労が見て取れるまで疲弊し、青褪めた顔は魔力の枯渇を訴えていた。


 ニケはリンデルフの指示で変異直前の魔物を確実に噛み殺している。すぐに吸収した魔力を置換することはできないがやはり個体差によって違いが出るため、身体が変形し始めたりと変異の兆候が現れた魔物は一段階以上レートを上げる可能性がある。ニケはその一瞬の無防備な硬直を確実に屠って行った。


 そしてアルスはというとエリーナと共に接近戦を繰り広げている。燃え盛る炎を腕に纏ったロゾカルグの攻撃をかわしては硬質な外殻に傷を付けていく。それは二桁魔法師のエリーナでもやっと追い付けるほど熾烈を極めていた。

 剣戟を交わらせる度に火の粉が頬を焼くがアルスは瞬きすらせず魔物の一挙手一投足に注力している。

 魔物の足にも炎塵が纏わりついた刹那、横に薙ぎ払われた。

 それを屈んで回避するが、魔物の凶悪なまでの足は膨大な炎を撒き散らせ、あわや隊員たちを背後から焼き殺しそうになる。


 一撃が即死に繋がるのだ。それをわかっているのかアルスの動きは速度を増し、応戦するロゾカルグを圧倒し始めていた。エリーナも隙を見て攻撃を加えているが対応できなくなってきていることに歯噛みする。

 そんな時だった、アルスの一撃に怯んだロゾカルグの側面を目掛けて跳躍しながら最大魔力を込めた足で踏み出した。空中で縦に数回転、遠心力を乗せて踵を落とす。


 瞬間、気配でエリーナが何をしようとしたのか察知したアルスは。


「えっ!!」


 踵を落とす直前アルスが横から腕を突き出してエリーナを突き飛ばした。

 真横に飛ばされるように転がり、地に手を付いてすぐに視線を上げたエリーナは唇を噛む。ロゾカルグは口を開いて射線上に飛び込んできたアルスに魔法を放とうとしていたのだ。あのまま魔法を繰り出していた場合、どれだけのダメージを与えられたかは不明だったが、一撃で倒せるとは思えなかった。だとするならば空中で移動できないエリーナは確実に今放とうとしているロゾカルグの魔法によって死んでいただろう。


 それは身代わりとなったアルスにも同じように思われた。しかし、直後剣が真下から振り上げられロゾカルグの首が跳ね上がり上空に火柱が昇った。

 が、その代償はあまりにも大きい。アルスは刃では切り傷を付けるだけで打撃的な効果は見込めないために剣を水平に握り変えて背の部分で叩き上げたのだ。それによって破砕音と共にAWRが中腹から砕け散った。

 これはAWRの脆さが原因ではなく跳ね上げるだけの威力を魔法として凝縮させたために出力を耐えられなかったのだ。ロゾカルグの顎部分が罅割れたように砕けドス黒い体液を滴らせている。


 折れたAWRを放り捨てるアルスを見て、エリーナは足手纏いになったことを悔いた。他人から見れば責められるような失態ではないが、結果は如実に彼女を責め立てる。武器を失うということは外界では命取りなのだから。


「アルス!」


 そう声を上げて宙を飛んできた剣をアルスはしっかりと掴み取った。新たにAWRを手にしても焦燥感は尽きないどころか募る一方だ。最初は最上位級魔法で一掃すれば楽だと彼は考えていたが、こんな至近距離では巻き込む可能性を視野に入れれば使えるはずもなく、必然的に接近戦へ持ち込むしかなかったのだ。


 攻防を見届けていたリンデルフが下げていたAWRを投げ渡したが、本来ならば系統に適性を持たなければ使い物にならないはず。

 だが、リンデルフの水系統のAWRを意図も容易く扱いだすアルスにエリーナは呆然としながらも胸を撫で下ろした。

 ふと。


(でも、アルス君は火系統だったはず)


 と感じるのも普段から火系統しかアルスが使って来なかったからだが。

 一方のリンデルフは薄々感付いていた。無論、何もないよりかマシだろうということもあったが。


 アルスは礼もなくロゾカルグの猛攻を凌ぎながら剣戟が再度繰り広げられる。一撃でも貰えば尽きる脆い身体だというのに見切っているのか回避して見せた。リンデルフは魔法師として3流以下ということもあり、彼の順位のほとんどはその巧みな戦術の功績だ――それもこの部隊に入ってからのもの。元をたどれば哨戒任務が適任の実力しかなかった。それがわかっているからこそ、AWRは緊急時用にしか考えていなかったのだ。そもそも身を守るためだけに持っているようなもの。


 その証拠にロゾカルグの外皮には薄く走った傷に反して刀身が悲鳴を上げるように軋み始める。いくら魔力で覆っているとはいえ材質的な差は大きい。


 エリーナは見ていることしかできないもどかしさはあったが、実際に何もしないというわけにもいかなかった。二桁魔法師としての矜持よりも何かあった時にアルスを強引にでも連れて帰るために、無論それは最後の手段だ。優先すべきはアルスの命だ。


 だが、監視するように凝視していると次第にゾッと背中が粟立つ。視線はロゾカルグではなくアルスへと向けられていた。更に言えば口元に。


「笑ってる……」


 年齢を考えれば不相応な嗜虐的な笑みだった。まるで周りが見えていないような、そんな危機感を抱かせる。外界では魔物を前にして精神が錯乱した時に見られる症状だが、この場合は戦闘を楽しんでいるように見えた。


「リンデルフッ!!」


 声が悲鳴のように上ったのは周囲で低レートと対峙していた隊員の物。続く声は断末魔だった。


 リンデルフは弾かれたように首を振ったが、その時にはゴボッと吐血した隊員の身体には修復できないほどの深い裂き傷が走り軍服を真っ赤に染めていた。サァッと青褪める顔色は最悪の結果を弾き出す。


「エリーナ!!」と声を上げてすぐにでも撤退する旨を伝えるが、彼女が我に返ったのは三回目に呼びかけた時だった。

 熱気が立ち込める中だと言うのに彼女の頬と額には薄ら寒さを感じさせる汗が張り付いている。


「ア、アルス君、撤退です…………アルス君?」


 張りの無い声だったが聞こえないというほど小さくもない。反応がないことにやはりという予感と危殆が込み上げてくる。

 判断に迷ったエリーナは動揺に導かれるようにリンデルフへと指示を仰いだ。


「仕方ない。強引に引き剥がす。俺が割って入るから、その隙にお前はアルスを抱えて離脱しろ。気絶させても構わない」

「――!! それじゃリンデルフさんが……」


 後に続く言葉は遂行すべき役目の重要性を理解したからだ。同時に頷きが入るが、踏み出したのはエリーナだった。


「リンデルフさんじゃ隙は作れないですよ」


 そう言って機を窺うように構えたエリーナの機先を制するように力強く肩を掴む。


「……!」

「隊長命令だ。絶対に隙を作って見せる。魔法師として役に立てなかったんだ、最後ぐらい隊長らしいことをさせてくれ」


 力が入る手は小刻みに震えていた。しかしその表情はエリーナに拒否を許さない。周りを見れば特隊0の隊員は誰一人立っていなかった。声すら、助けすら呼ぶ声がなかったのだ。

 最後にリンデルフに進言するように名前を呼んだきりだった。彼はその意図を確かに汲み取ったはず。

 ヴィザイストから指示を受けていたのは二人だけのはずだったが全員が共通していた願いだったのだろう。


 リンデルフは離れた場所で炎が舞い踊る中へと入って行かなければいかないというのに揺るがない決意を宿していた。意に反した身体の震えを意識の力だけでねじ伏せる。


「リンデルフさんも男だったんですね」とさも当然のことを噛み締めるように紡いだエリーナは僅かに綻んだ後、視線を戻す。


「当然だ。もしもだ、もしも三人生きて帰れたら……」


 頬を掻いたリンデルフに。


「嫌ですよ」と笑って応えたエリーナは「誰にでも尻尾を振る人に興味はありませんから、ね」と小さく呟く。

 頬を持ち上げたリンデルフは愚直に走り出していった。


「ウオオオォォォォオオオ!!」


 熱さなど少しも感じないように炎の中を猛進する。だが、隊員たちが命を賭しても全滅させたと思っていた魔物が傷だらけになりながらアルスの背後、炎の中から裂けるほど口を開けて襲い掛かっていた。


「くそっ!」


 間に合わないと思った直後、横から白銀の体毛を持つニケが唸りながら魔物に対して爪を振り降ろして魔核を捉える。

 アルスが振り返ったのは直後のことだった。

 視界を覆う雄大な体躯がキラキラと毛を靡かせながら宙から着地する……が。四足が地面に着く前に白銀の身体が数カ所押し上げるように盛り上がると、腕ほどもある触手がアルスの眼前で身体を突き破って血液を浴びせた。


 空中で釘付けにされて停滞していたニケは膨大な量の血液を滴らせて触手が戻っていくと同時にドンッと音を立てて地面に倒れた。


「ニ、ニケ……」


 力無くアルスの口から吐き出された言葉は、完全にロゾカルグの存在を無視してニケの前で膝を折っている。


 ギリッと歯を鳴らしたリンデルフが速度を落とさずに突っ込んだ。ロゾカルグはニケに気を取られずに炎に包まれた巨大な腕を振り上げていたからだ。

間に合うかという刹那でリンデルフはアルスの頭を抱え込みながら背中を向けて覆い被さった。


 ギュッと瞼を力強く閉じて待つがその時は訪れない。瞬間、耳を疑う声を聞いてしまった……反射で見開いた目で振り返った光景にリンデルフは唇を嚙み千切った。


「やっぱり間に合いませんよリンデルフさん……」


 ロゾカルグとの間にはエリーナが直立している。わかっていたことだ。彼女の魔法では炎を纏った攻撃を迎撃できないことは……リンデルフの眼前では腹部を爪に串刺しにされた彼女が微笑んでいた。

 腹部から熱せられた爪によって煙が昇っている。


「な、何をしているエリーナ……」

「適材適所です」


 ふーふーと血と一緒に吐かれる呼吸の直後、エリーナの身体が僅かに浮くとロゾカルグは爪を引き抜く為に振り抜いた。軽々と投げ飛ばされた身体は血を撒き散らしながら炎の少し手前まで転がった。

 顔を横に向けたエリーナの髪は解けて蜘蛛の巣のように散っている。


 ガチガチとリンデルフの歯が鳴り唇を何度も繰り返し噛み千切る。


「畜生がぁぁあ――――!!!」


 激情に駆られて素手で殴り掛かろうしたリンデルフは本能的な恐怖に気勢を削がれて動きを止めた。眼前の魔物以上の恐怖が背後から彼の心を浸食したからだ。敵は、カタキは目の前にいるのに、それを凌ぐ脅威がすぐ真後ろで感じられた。

 ロゾカルグもリンデルフを見ず、視線を背後に固定して後ずさる。


 振り返ったリンデルフはアルスを逃がすという任務を忘れて……いや、この場において言葉そのものを忘れてしまったはずだ。


「…………!!」


 投げ捨てられたようにエリーナを呆然と見たアルスの横顔、流した涙が炎を映したのかリンデルフには血の涙を流しているように見えた。


「最初から一人でやればよかった……」


 糸が張ったようにその言葉だけがこの空間で音を発していた。いや逆に周囲の音が消失していたのにリンデルフが気付いたのは「アルス!!」と声を上げたはずだったのに音として口から発せられず自分の耳で聞き取れなかったからだ。

 喉に手を当てるが、検討違いなことに気が付く。燃え盛る炎やその他の音という音が一切聞こえなかった。だというのにアルスの言葉だけは良く通る。

 それでもリンデルフは出ない声で口を動かし続けた。


 その時だった。背後の揺らめく影が遠ざかるように動いたのだ。ロゾカルグは本能的な危機感でも抱いたのだろうか。


「――――!! アルス!」


 声にならない驚愕は振り向いたアルスの眼を見たからだった。両目の眼球に亀裂が入り、その隙間から黒く濁った液体のようなものが眼球を覆って行く。

 続いて地面を揺るがした振動に振り返ると、ロゾカルグは膝を折っていた。

 丸太のような膨れ上がった足は破裂したようにドス黒い血が噴き出ている。


 再度振り返ったリンデルフはアルスの両目が眼窩のように黒く染まっていることに戦慄した。それでも一度冷静さを取り戻した彼はアルスに近づこうと一歩踏み出した時――。

 自分に向けられたアルスの腕を見て、次第に視界が歪む感覚、現に視界は捻じれるように歪んでいた。微かに見えるアルスへと差し伸ばされた手は中空で何も掴み取ることができずに終わった。



 蹈鞴たたらを踏んだリンデルフが見た光景……歪んだ景色が戻った時、周囲の慌しい喧騒に思考が追い付かず、アルスを探すように首を振る。

 業火のただ中にいたはずなのに、何故こんな場所にいるのか……頭がおかしくなってしまったのかと疑ってしまうほどだ。


「おい、どこの隊から知らんがあんたこんな所で何をしている。早く下がれ、防衛ラインでシスティ様が準備を整えている」

「ここはどこだ! どの辺りなんだ」


 駆け寄って来た魔法師の襟を掴み、引き寄せたリンデルフは有無を言わせぬ勢いで捲し立てた。


「何を言っているお前、どこの……」

「いいから、答えろ! ここは防護壁からどれくらいの距離なんだ」

「3km地点だが……そんなことはいい、お前も早く撤退を開始しろ。通達は行っているはずだが前線を下げると判断が下ってから時間も経つし他に生存者は誰も残っていないだろ?」

「い、いや、待て、待ってくれ……まだ負傷者も……」


 そう発したリンデルフの言に対して男は悲痛な顔で肩を掴んできた。


「諦めろ、もう今からじゃどうすることも出来ない……それに、いや分かっているんだろう。ここはそういう場所だ」

「クッソ! 話にならない、上の者に話を付ける」


 突き離すように襟を離した直後、リンデルフはノイズ混じりの通信を傍受して、慌てて耳に手を添えた。


『き、きこ……聞こえるか……応答しろ……』

「はい、隊長……それよりもアルスたちがまだ……」


 急を要するため要件だけを伝えようとした直後のことだ。


「ひっ、なんだよあれ……冗談じゃねぇぞ。おい! ここも不味いぞ!!」


 男が指差した先を見たリンデルフは目を限界まで開いてヴィザイストを置き去りに呆然と見ることしかできなかった。

 漆黒の大蛇が無数に外界を飛び回っている光景、あれが蛇であるかは不明だったが、リンデルフの知識ではそう表現する以外に言葉がない。


『リンデルフ!!』


 叱責のような声に我に返って脈打つように返事を返した。


『お前も見ているな?』

「はい、おそらくアルスだと思われます。それよりもすぐに医療班を向かわせてください」

『わかった。詳細はのちに聞く。お前はアルスと一緒じゃないのか……』 

「それが……」



 掻い摘んで現状の報告を済ませたリンデルフは医療班と共にギリギリまで接近している。だが、未だ正体不明の黒い蛇に近づくことができずに焦燥感だけが不完全燃焼を起こしていた。

 もう一秒たりとも待つことが出来ない。アルスを一人・・残してしまっていることもあったが、あの場にはエリーナやニケ、隊員たちが残されたままなのだ。


 奇しくも蛇が消えたのはリンデルフが耐え切れず走り出したのと同時だった。



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