~逃亡~
「ああっ、御嬢様!?」
「御嬢様! そんな下劣な奴に近づいてはいけませんわ!!」
「御戻り下さい!」
彼女が教えてくれた、床から繋がる隠し穴から梯子を使って降りて逃亡を図る。外に出ると、不審者(僕)を捕らえる為に駆け回っていた執事やメイドらしき人達が僕らを止めようと立ちはだかるが、誰もかれも突然のこと過ぎて対処しきれていなかった。
一番驚いたのは、彼女――家の次期当主である『御嬢様』が僕に手を握られ、必死に走ってることだろう。普段運動をすることが少ないのか、全く息が上がっていない僕に比べ、かなり息が荒くなっている。やっと門をくぐり、山を降りても、人が追って来ていた。
「早く捕まえろ!!」
かなり年を重ねていそうな、低くて渋い声の主が怒鳴っていた。騒ぎに耐えかねて表に出てきたのだろうか。あの、高い場所にある家からここまで声が聞こえてくる程、癇癪を起こしているらしい。捕まったらと思うとぞっとするけれど、でも、僕は彼女と話がしたい。
――七年経った今はどうなのだろう。
彼女の行動から、今の――七年経った今の気持ちはわかる。きっと、僕と一緒だ。
でも、ききたい。彼女の言葉で、ちゃんと。
伝えたい。僕が抱いているこの感情を、彼女に教えたい。
彼女の話に耳を傾けたい。
それぞれ、思うことは違っても。今、一緒に走っていると言う事実は同じ気持ちという事実を証明している。
「はあっ……んっ、はあっ」
彼女が僕の右肩に頭をのせて、息を整えようとしていた。どうやら、自分の頭を支える力すらも残っていないらしい。
「大丈夫?」
「はあ、はあ」
こっちも体力を消耗してけれど、彼女は比じゃない。肩で息をして、今にでも倒れそうな感じだ。僕は彼女を見るのを止めて、前の窓の向こう側に広がる景色を見ていた。指を絡ませている僕らが映っていて、かなり疲労が見られた。
あれから、追って来た人達を撒いて僕の家に逃げ込んだ。と言っても、僕だけが家の中に入り、必要そうなものを鞄に入れて肩から掛けた。そこからまた見つかってしまい、ぎりぎりでこの列車に乗り込んだ。しかも、かなりの田舎なので、電車は一時間に一本。乗る人も皆無だ。途中で乗り換えたりしたら、追跡はかなり困難を極める。
彼女の重みを感じながら、僕は意識を手放した。