表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

~ウソとホントウ~

 横長のクローゼットの端にいた僕から、どんどん彼女が遠くなっていく。避けられたのだろうか。

「何で……すか」

 ちゃんときこえなかった。

「なに――」

 僕が言葉を言い終わる前に彼女はこう言った。

「何でまた来たんですか?」

 クローゼットの中は真っ暗だから、彼女の表情はわからない。でも、声はとても怖かった。ぼくを否定するような、そんな声。

 落ち着け、僕。大丈夫だ。彼女は絶対僕のことを覚えている。『今の出来事』が証明しているじゃないか。

 必死に感情を抑えようとする。しかし、目の奥がどんどん熱くなっていって、瞬きでもすれば涙が出てきてしまうだろう。駄目だ。理由はわからないけれど、ここで泣いたら絶対駄目だ。

「会いたかったから」

「――っ!」

 息を呑むのがはっきりとわかった。でもきっと、彼女は僕にそのことを知られたくないんだろうと思う。

 僕はそのことに気づいていないかのように、

「ねえ。本当に僕のこと忘れちゃった?」

 ときく。その声はまるで、畳みかけるようだった。

「うるさい。……貴方なんて、大嫌いよ」

 声が震えていることなんて、はっきりわかった。僕はゆっくり近づいて、彼女に触れる。真っ暗なことなんて、関係なかった。息遣いが彼女の居場所を教えてくれていたから。

「嘘、つかなくていいよ。もう」

「……嘘じゃっ、ないっ!」

 彼女はもう、誤魔化すことができなくなるだろう。もう、明確にわかってしまう程に、彼女の言葉に感情が出てきてしまっていた。

「もう、いいんだよ」

 僕は両手でしっかり、彼女を抱きしめた。「僕は大丈夫」って、伝えるように。優しく、体温を感じて。

「ごめん、なさいっ……。ごめんね」

 手が背中に回され、すすり泣く声が胸に当たる。僕は彼女の耳元で、囁いた。


「ねえ、海に行こうよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ