~僕は~
家は流石は『お金持ち』だった。家と言うよりかは城の方が近い。上から見ても真ん前から見ても、印象は変わらなかった。ヨーロッパとか西洋の方で、昔にありそうな感じだ。映画とかででてくる城の小さい版みたいな。多分、白を基調としているのだろうけれど、建ってから年数が経っているのか、ちょっと黄色びていた。
て言うか、入ってどうするんだ。ぼくは仲直りでもするつもりなのか?
彼女はしらを切ってくるのに。彼女にも都合があるのに。
そう思っても足は、体は動くことを止めなかった。
そうか、僕は彼女と仲直りしたいんだ。
今までの行動はその為にあったんだ。だったら、足が止まらないのも、取っ手を掴むこの手が止まらないのにも理解出来る。
ゆっくりと、重い扉を開ける。開けてから気づいたのだけれど、中に人がいる筈なのに何故、堂々と開けているのだろうか。しかし、その疑問を思いつくのには遅過ぎで、通れるだけ開け、中に入ってしまった。どうやら土足でもいいようで、靴箱がなく、その代わりに土を落とす為のマットが敷かれていた。音は鳴ってしまうが、マナーとして(不法侵入をしている時点で、マナーも何もないような気がするけれど)落としておこう。僕はごりごりとスニーカーの裏の土を落として、中を進んで行く。幸いなことに灰色の絨毯が敷いてある為、音の心配は無用だ。
でも、彼女の部屋が何処なのかも知らないしなあ……。
僕が困っていると、
「じゃあ……くわ……」
彼女の声が聞こえた。まずいっ! こっちに来るかも知れない! 咄嗟に近くのタンスの中に隠れた。運が良いことに何も入っていない。そこで、暫く過ごして辺りを見回すと、誰一人いない。僕は彼女がいた廊下とは違う廊下を凄い勢いで駆けて行った。彼女がいた廊下に面する部屋には人がいると考えられるからだ。長い廊下を進むと、ぐるぐると上に伸びる、螺旋階段が見えた。とりあえずはそこに行こうと思い、そのままスピードを落とさないで行くと、何かに当たった。
「ガシャン!」
何か、陶器が割れるような乾いた音が廊下に響く。や、やばい! やばい! 僕は振り返らずに、階段を駆け上がり、登りきったところにある扉を開けて中に入った。すると、
「きゃっ」
という可愛らしい声が横から聞こえてきた。恐る恐る見てみると、そこには座りこんだ『彼女』が驚いたような表情で僕を見上げていた。
「あ、貴方何を――」
僕は無言で、彼女の口を塞いだ。手のひらに柔らかな感触が伝わる。
「ご、ごめん。ちょっと匿ってくれないかな?」
「不審者だー!!」
図太い怒鳴り声が、ここまで響いてきた。誰かが彼女を心配して見に来るのも時間の問題だ。男の声で状況が理解できたのか、彼女は僕の手を強く引っ張って立ち上がり、僕を押してクローゼットのようなところに押し込んだ。その行動にびっくりしながら息を潜めていると、
「御嬢様っ、ここに男が来ませんでしたか?」
と尋ねて来た。女性の声だ。彼女は
「いいえ、誰も?」
と普通に返し、その女性は
「気をつけて下さい」
と一言だけ言ってから、ドアを閉めた。暫くして、クローゼットの中に光が差し込んできた。「出してもらえるのかな」と思ったら、何と――
「え?」
彼女までがクローゼットに入ってきた。