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~七年後~

――七年後。

 景色が殆ど変わらないまま、二時間が経とうとしていた。車を運転してくれているお父さんには悪いけれど、今すぐ降りて思いっ切り叫びたい。

 去年、高校入学時に「流石にいるだろう」と言われ、買ってもらった薄型携帯端末で音楽をきいていると、緑ばかりだったところから抜けた。窓の外を見ると、家の様々な色の屋根が色々な表情をしている。

「結構良い所ね」

 助手席に座っている女性が感嘆の声を上げた。この女性はお父さんの新しいお嫁さん――つまり、僕の新しいお母さんだ。

「全く変わってないな」

 極めて安全運転であるお父さんが言葉を返す。山道だから、余計そうなのかもしれない。


 僕は再び、新しい家族を迎えて町に帰ってきた。

――彼女がいるこの町に。



「じゃあ、行ってくる」

「夜ご飯には戻って来なさいよ」

 笑顔のお母さんを背に、僕はドアを閉めた。お母さんに「義理」と付けないのは、それで必要以上に距離を感じてしまいそうだからだ。これから一緒に暮らしていくのだから、と考えた結果だった。

 一気に、三段しかない階段を飛び降りて右足で着地。勿論、門を出たら普通のテンションだ。高校二年生がハイテンションで走ったりしたら、ご近所付き合いが僅か一日限りになってしまう。それだけは避けたい。

 住宅街を抜けると僕は走り出した。一直線に五分ほど。そして信号を挟む。なんだか、体が軽い。右へ左へ曲がって行く。

 通るのは実に七年ぶりだと言うのに、足が、目が、頭が、覚えていた。

 夏休みになると、毎日通った道。七年間の間でかなり変わってしまっていたけれど、面影は残っていた。

 前を通ると、必ず吠えられる犬が居た庭。

 ピンク、青などの綺麗な色の朝顔がたくさん咲いていた家。

 他よりも、蝉が鳴いている公園。

 いつも、野球やサッカーやテニスをしていた学校。

 いくつもの場所が、あのときの記憶を蘇らせてくれる。


――おはよう、今日もいい天気ね。


――歌はね、とってもいいものなのよ。何だか、歌っていると嫌なことを忘れることができるの。


――歌が上手くなる方法? うーん。楽しく何回も歌っていたら、いつかは上手くなっていると思うわ。


――ねえ、いつか私と歌ってね? だって、一人で歌うより二人で歌ったほうが楽しいに決まっているもの。


 彼女はいつも楽しそうに、幸せそうに歌っていた。時々、くるくると回ったり、切り株から軽くジャンプしたりしながら歌う姿は、まるで山に住む妖精のようだった。

 彼女は今でも、約束を覚えてくれているのだろうか。

 今でも、楽しそうに歌っているのだろうか。

 僕のことは――覚えているのだろうか。

 そんな気持ちが、今の僕を突き進ませていた。


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