~絶対~
それから三度、夏が過ぎた。彼女には夏休みの間しか会えなかった。僕は「学校があっても、毎日これるから大丈夫」と説得したが、どうしても彼女は譲ってはくれなかった。もしかしたら、彼女の都合が悪かったのかもしれない。
彼女との、五度目の夏。長期休暇の最終日。僕と彼女は例年通りに、朝早くから一緒に過ごしていた。日が傾き、昼間の挑みかかるような暑さは影に潜めている。元気だった蝉たちも少しは勢いが弱まり、静かな夜の山に綺麗な音色を聴かせていた。
彼女の髪が夕日に照らされて、昼間とは違った雰囲気を演出している。僕と彼女は、どちらが先に一番星を見つけられるかという勝負をしている最中だった。
「ねえ」
「何かしら」
いつもの、木の枝と枝の間に板を置いただけの秘密の場所で、僕は彼女に話しかけた。
「僕さあ」
心臓の音が止まらない。これを止めるにはどうしたらいいんだろう。早くしないと、彼女に聞こえてしまう。もしかしたら、もう聞こえているかもしれない。
少しでも落ち着かせようとして、深呼吸をしてみる。肌がふれるくらいだから、彼女にもわかったかもしれない。
「引っ越し、するんだよね」
「……」
彼女は理解できなかったように、口を動かさなかった。しばらくすると、
「引っ越し?」
ときいてくる。彼女は空を見たままだ。僕もそれにならい、一番星を見つけることに集中した。そうしないと、目の奥にある熱いものが出てきてしまいそうだった。
「うん」
「どこか、いっちゃうの?」
彼女の甘ったるい、可愛らしい声に心が揺らいでしまう。でも、親の都合だから僕にはどうしようもない。
結局は僕は、親に生かされてもらっているに過ぎない。
「そうだね」
「遠いの?」
「遠い。すっごく」
「そっか」
沈黙が流れる。今までで一番重い。というか、今まで沈黙なんてなかったかもしれない。あったのは心地良い時間だった。そんな時間とも、しばらくお別れになる。
「いつか、またここにくる?」
「うん……、絶対くるよ」
「あ」「あ」
僕と彼女の視線の先には、まだ暗くなりっきていない空で光り輝く、一番星があった。
その星はこれまで見た中で、一番美しく。
――唯一、揺れていた。
僕の目から、涙が零れた。