招待
『もしもし、俊だけど』
「悪い、先帰っといてもらえるか?ちょいと用事ができちゃったわ」
『了解。今度ことの次第は聞かせてね』
俊からの通話は、一方的な約束と共に途切れた。蓮は折り畳み式の携帯をパタンと閉じて、ポケットにしまう。
「お友達から?」
「まぁ、そうだな。今日はもう先に帰ってもらったから、ゆっくり話ながら帰るとしようぜ。家はどの辺りなんだ?」
「駅方面よ。学校前の国道をまっすぐ行けば、20分で着くわ。どうせ長くなるだろうから、私の家で話しましょう」
それから二人は、教室の戸締まりをその後入ってきた吹奏楽部の生徒に任せ、校舎を出た。
「どうぞ上がって」
アパートの共用廊下から眼下の街並みを見下ろしていた蓮に、玄関から出て来た美咲の声がかかった。
「お邪魔します」
「お客さんが来ると分かってたら何かお茶菓子でも用意できたんだけど、ごめんなさいね」
「いいよ、俺なんかにそんな気ぃ遣うなって」
リビングに通され、食卓に二人して腰を下ろす。決して行儀が良いとは言えないが、蓮は部屋の中をぐるりと見回した。
「なんつーか、無駄の無い部屋だよな」
「何度も引越しを繰り返してきたから、最低限の家具しか置かない習慣がついちゃってね」
この年頃の女の子なら、もう少し可愛らしい雰囲気の調度品なんかがあると思っていた。しかし、この部屋には最低限の洋服だんす、ベッド、それから四人用のこの食卓くらいしかない。やはり美咲の外見と生きてきた年月は倍近く違うのだろうか。
「女子にこういう事聞くのはどうかと思うが…お前って何歳なんだ?」
「別にいいわよ。私たちにとって長生きは誇れることだもの。まぁ、あなたの親御さんよりは長く生きてるとだけ言っておくわ」
「マジですか…」
今までの自分の態度が急に申し訳なくなってきた。
(年上に土下座とかさせてたの俺…?)
「敬語使った方がいいんすかね…?」
「今更必要ないわよ。どうせ学校では皆タメ口聞いてるんだから気にしないわ」
「…わかった」
そうは言いつつも蓮は美咲を直視できない。逃れるように視線を彷徨わせるが、ある一点で蓮の視線が固定される。それを訝しんだ美咲がその目線を追うとーーベッドの下に可愛らしいフリフリがついた布が落ちていた。そこからの美咲の反応は神速だった。一瞬で霧となった体をベッドの側に再び生じさせ、レースの下着をその胸に庇う。そして、暴漢に怯える様な眼差しで蓮を見る。
「心配しなくてもお前の下着の匂いを嗅いだりゃしねぇよ‼︎」
まるで変質者のように扱われ、蓮は心外であった。
「いいから、あっちを向きなさい!」
「お、おう」
そう言われては流石に逆らえない。早鐘を刻む心臓を押さえつけて、蓮は何十分にも感じられる時をやり過ごした。
「もう戻っていいわよ」
気丈に振舞っている様に見えるが、美咲の頬は心なし羞恥に火照っていた。
「今あなたは何も見なかった。いいわね」
「もちろんです」
敬礼まで付けて、美咲に誓う蓮であった。




