始まり
博文が前進したのに合わせて、蓮も前に躍り出た。
「よぉ、この前は逃げられちまったからな、今度こそ正々堂々やらせてくれよ」
博文のこめかみがピクリと痙攣する。蓮の目論見通り、挑発は成功したようだ。これで、博文をこちらで引きつけておき、美咲は自分の戦いに専念できる。
「気が変わりました。貴方の目障りな頭を吹き飛ばすのが先決です」
対峙する蓮に最大限の恐怖を抱かせるように、ゆっくりと博文がにじり寄る。ゴクリと生唾を飲み下す音が、はっきりと聞こえた。
相手の攻撃を躱し、カウンターを決める。それが今回蓮に許された唯一の戦法だった。そのためには、博文の初手を見切る必要がある。しかし、じりじりと迫る博文は、次に来る動作の予兆を全く感じさせない。
直後。大きく振り上げられた脚が、地面へと叩きつけられる。大地が鳴動し、蓮は大きくバランスを崩した。
「くっ…!」
先程の言葉を現実にせんと、大きく開かれた掌が蓮の頭部に襲いかかる。
体の支えを失った蓮は、後ろに転がる事でその掌底を躱す。受け身を取り、素早く身を起こした。
眼前で既に放たれた蹴りを飛び躱し、態勢を整える。
「私の攻撃を受けるとどうなるのか、それくらいは理解しているようですね」
「こちとらお前の為だけに一週間費やしてんだぜ。一発くらい入れさせてもらわねぇと割りに合わねえ」
激しい息遣いになる蓮をあざ笑うように、博文は涼しげな表情だ。
「ただの人間でありながら、吸血鬼と戦うことの無謀さを教えて差し上げましょう」
「そんなもん、嫌ってほど知ってんだよ。御託はいい、続きといこうぜ」
二人は再び、拳を交えた。




