成功
翌朝。蓮の意識が、すこしづつ覚醒していく。それにつれて、何か違和感を感じる光景が目に飛び込んできた。
まず、この天井。明らかに自分の部屋のものではない。だが見覚えがある。これは比奈の布団に潜り込んだときに見た天井。
(そうか、これは比奈の部屋だ。けど、なんで俺が比奈の布団に寝てるんだ?もしかして無意識の内に潜り込んだのか)
寝ぼけた頭で考えるが、まともな思考に結びつかない。続いて、蓮は後ろから自分の身体に腕がまわされていることを知覚した。抱き枕代わりにされた蓮の背中には、『アレ』の感触がある。
(この大きさ、比奈のじゃない…ってことは…?)
ゆっくり首を後ろに回すと、美咲の艶かしい寝息が首筋にかかった。
(よし、瞬時に理解した。これは抜け出そうとすればするほど状況を悪くする蟻地獄。ここは狸寝入りして東郷が目覚めるのを待つのが最善の方法だ)
命の選択を迫られた蓮の意識が完全に覚醒し、神の一手を導き出した。
(そうと決まれば…………って寝れるわけねぇよ‼︎つーかまずい、これは激しくマズイ)
そろそろ蓮の『アレ』も、目を覚ましそうなのだ。朝ということもあるが、女子に見られれば言い逃れは出来ない。
「ん…れん、のぉ…すっていぃ…?」
(らめぇー‼︎)
血を吸っている夢を見ているらしいが、そんなところを俊や比奈にでも見られた日には全てが終わる。だが、夢の中にいる美咲は蓮の首筋ではなく顔を自分の方へ引き寄せていく。吐息が横顔にあたり、声が出そうになるのを必死に我慢する。
そして。あろうことか、美咲は蓮の耳に吸い付いた。耳元で怪しい音が響き、美咲の舌が蓮をざらりとなで回す。
「は、あぁ、アカーーーーーーーーーーーーーーーーーン‼︎」
その雄叫びと共に、美咲の瞼がパチリと開かれた。美咲の顔は静かな怒りをたたえ、その腕が蓮に振り下ろされる。
「……!」
美咲の刃と化した爪が枕を引き裂き、羽毛を巻き上げる。蓮は頭一つ分ギリギリでその攻撃を回避することに成功していた。
全く意図していなかった所で、修行の成果が生かされてしまった。




