特訓
「それじゃあ今から始めたいと思うんだけど、その…ちょっとでいいの、吸わせて?」
「ちょっと金貸してのノリで言うな!あとムカつくからおねだりポーズ止めろ‼︎」
なんだか「ダメ男にたかられる彼女」の男女が入れ替わったような構図となっていたのであった。
それからというもの、蓮は毎日美咲との特訓に励む生活をスタートさせた。
「あーあ、最近構ってもらえなくて寂しいなあ〜。蓮はもう僕なんて眼中にないのかなぁ」
頬杖をついて俊はわざとらしく溜息をつく。この男には効果がないと知りつつも、蓮は俊をねめつけた。
「言っとくがこの前の恨みは忘れてないからな」
「最近は通い婚を始めたみたいだし」
華麗なスルーをきめる俊。怖いもの知らずとはこのことである。
「だから、そんなんじゃねぇって言ってんだろ」
何度目か数えるのも面倒になった質問に、蓮は弁明をするのはもはや諦めていた。ここ最近は、美咲といない時間の方が短い。誤解されても仕方がないというものだ。
まだ何か言っている俊の言葉を右から左に聞き流し、蓮はここ数日の出来事を思い返していた。
「ハァ、ハァ…!」
人間にはなし得ない、霧散をつかった美咲の動きに蓮は完全に翻弄されていた。5分も動いていないが、すでに息を切らしている有り様である。
「休憩にしましょう」
そのままバタ、と倒れ伏す蓮。
「あー死にそう…。てか真後ろから切りかかられた時はマジで死んだと思った」
一度も当たってはならないという緊張を与えるために、美咲は両手の爪を刀の切っ先のように変質させた上で攻撃を繰り出していたのだ。
「あなたの強さを信頼してるから出来たことよ」
「それでも死ぬときは死ぬんだからな…。一つ聞いて置きたいんだが、もし俺が高橋からお前を守りぬいたとしてだ。それって問題の解決にはならないんじゃないのか?あいつには他に大勢の仲間がいるんだろう」
「あの男の性格は見てて充分わかったでしょう?あれはメンツを潰されて、その後も顔を合わせるのを良しとするほど、プライドは低くないわ。あいつがやられた事がこの一帯に知れれば、きっと『高橋』はこの地を去るはず」
「確かに、あいつならそうするだろうな…」
吸血鬼の中でも、高橋博文は輪をかけて強いプライドの持ち主だということはその言動から明らかだ。
「それから、もう一つ」
一度、言葉を区切って蓮は続ける。
「『眷属』は主人である吸血鬼と何が違うんだ?」
「なってくれる気になったの⁉︎」
「ただの興味本位だよ!」
「ちょっと残念…。まぁ、でも聞いたら気が変わるかもしれないから教えといてあげる」
「基本的に、『眷属』は吸血鬼とほぼ同じ能力を持ってる。ただし、両者には決定的な違いがあるの。それは、主人の死がそのまま『眷属』の死を意味すること。それ故に、『眷属』は己の命を賭して主人を守る宿命を背負うのよ」
「『眷属』が死んでも、主人には何も起こらないのか?」
「そうだとしたら、普通作ろうとは思わないでしょ」
「どうやって人間を『眷属』にするんだ」
「…口移しで主人の血液を流し込むのよ」
「それってつまりキ…っ」
ス、と言う前に蓮は危うく言葉を飲み込んだ。これ以上口にすると後に戻れなくなる気がする。
時すでに遅く、しばらくは特訓どころの雰囲気では無くなってしまっていた。




